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修羅場のあとにやってくる「ほんわか感」。母の誕生日に、三姉妹が繰り広げる物語。『お母さんが一緒』
江口のりこ、内田慈、古川琴音を三姉妹にキャスティングするという発想に唸り、どこがどうなっていくのか先の読めない展開にハラハラさせられ、物語の“白一点”とばかりに強い存在感を放つ三女の恋人に「この男はなんなんだ?」と疑問が湧いてきて……。予想を超えたアクション・シーン(といっていいだろう)も含みながら、なぜか、観終わったあとはほんわかした気分にも包まれてしまうという、なんともユニークな作品だ。
原作は、ペヤンヌマキが2015年に発表した同名の舞台であるという。それを橋口亮輔監督(キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位など数多くの栄誉に輝く『恋人たち』から、9年ぶりの長編作品)が脚色した。長女...
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いまおかしんじ監督の『愛のぬくもり』が公開。主演「小出恵介」は「新鮮な経験となった」、共演の「風吹ケイ」は「監督にかけてもらった言葉がすごく心強かった」
映画『愛のぬくもり』の初日舞台挨拶が7月6日(土)に都内で開催され、監督のいまおかしんじ、主演の小出恵介、風吹ケイが登壇した。この映画はある日突然、街中でぶつかって階段から転げ落ち体が入れ替わってしまった既婚の男性小説家と、独身女性美容師の物語。90分少々の中に、濃厚な人間模様が注ぎ込まれている。ここでは会見の模様をお伝えしたい。
――過去にも男女が入れ替わる作品はいっぱいあったかと思いますが、演じていてどういった感想を持ちましたか?
小出 男女入れ替わり物の作品には初めて挑戦しましたが、ファンタジーと言いますか、超越した内容でしたので、自分としても新鮮な経験となりました。
――小出さん...
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あの男にもスランプの時期があった。「転機」の1957年を描くドラマティックな力作『フェラーリ』
ジェームズ・マンゴールド監督『フォードvsフェラーリ』は1966年の物語だったが、こちらのマイケル・マン監督作品は1957年に的を絞っている。この57年、自動車メーカー「フェラーリ」も創立者エンツォ・フェラーリもスランプにあった。経営は悪化し、息子の死もあってかエンツォと妻の関係は冷え冷えとしたものになり、愛人との関係は悪くなかったものの、彼女との間に生まれた男児の認知はかなわない。そのなかでイタリア1000マイルを走るロードレース“ミッレミリア”(この年の開催が最後となった)に取り組んでいく、エンツォの姿が描かれる。
私の強い関心は「1957年当時のロードレースとは、どんなものか」にあ...
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アンソニー・ホプキンス主演。チェコの子供たちをナチスから救った「愛と勇気の男」を描く『ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命』
「君は人のために死ねるか」という歌があったが、この映画で描かれているのはさしずめ「命がけで人の命を救った人物の一生」だ。主人公は、ドイツ系ユダヤ人二世として英国に生まれたニコラス・ウィントン。第二次世界大戦直前、ナチズムから逃れるためにチェコ・プラハにやってきた大量のユダヤ人難民が、悲惨そのものの毎日を送っているところを彼は見た。そこで考えたのは、子供を列車に乗せて、イギリスに避難させること。なぜポーランドに赴いたのか、活動家とどんなコネクションを持っていたのかも映画本編に描かれているが、とにかく、彼とその仲間たちは、一大プロジェクトを遂行した。イギリスの偉い人への説得、パスポートの発給...
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女優の「森川葵」が初の著書『じんせいに諦めがつかない』を刊行
女優の森川葵が、誕生日である6月17日に初めての著書『じんせいに諦めがつかない』(講談社)を刊行。その記念会見を都内で行なった。
同著は、月刊誌「小説現代」に2年間連載されていたエッセイに加筆修正、書きおろしを加えたもの。文章を書くことについて、女優としての思い、愛猫のことなどが、手描きのイラストと共に綴られている。装画を担当したのは、King Gnuのアートワークを手掛けるクリエイティブチーム「PERIMETRON」の荒居誠。メインビジュアルには森川の飼い猫、黒猫の吉と白猫のヤンがイラストで出演している。
会見ではサプライズでバースデーケーキが登場、「最近、仕事場に年下の方が多くなって...
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人生の選択肢を知って成長していく少年と、彼を優しく見守る父の姿。シャオチェン=ヤーチュエン・コンビの到達点か。『オールド・フォックス 11歳の選択』
門脇麦の出演でも話題を集めること間違いなしの一作。内容もまた、実に丁寧に、ひとつひとつの物事をそっとひもとくような感じで進み、つまり、注意深く物語の推移を追うことのできる者に大変な充足感を与える作品であると断言していいだろう。プロデューサーはホウ・シャオシェン、監督はシャオ・ヤーチュエン。すなわち名コンビが作品づくりに全面的に関わっている。ヤーチュエン監督のこれまでの映画は、シャオシェンがプロデュースしてきたが、どうやら今回の『オールド・フォックス 11歳の選択』が最後になるかもしれない。というのも、シャオシェンがこれを最後のプロデュース作品にすると発表しているからだ。
物語は1989年...
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なんと壮絶な人生――――「河合優実」主演の、実話を基にした重厚な一作『あんのこと』
2020年の日本で起きた実話をもとにした作品であるという。「男性関係にだらしなく、働かず、酒浸りで、日常的に怒鳴りつけ、暴力をふるう母親」の許で「体を売って家計を助けること」を命ぜられ、「あげくのはてに薬物依存にもなってしまった」杏という少女の、それでも捨てられなかった一条の希望の光と、諦念の末に訪れてしまった「吹っ切れ」を、観る者が深く感じるための一作といえようか。が、母は決して「将来、この子に売春をさせよう」と思って杏を産んだわけではないだろうし、杏も小さい頃はそれなりに愛されて育ったに違いないのだ。というのは、彼女にはなんともいえない品の良さ、他者を思いやる気持ちがあるからで、生ま...
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「気候変動」と「種の絶滅」の核心に迫ろうとする少年少女の視点が、見る者に示唆を与える『アニマル ぼくたちと動物のこと』
ドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して』(フランスで110万人が観たという)のシリル・ディオン監督の最新作が、この『アニマル ぼくたちと動物のこと』である。事実上の案内役となるのは、10代のベラとヴィプラン。彼らは地球の環境、地球の未来に大きな不安を覚えている。そこでディオン監督の協力を得て、絶滅を食い止めるための答えを探るべく、環境問題に取り組んでいるさまざまな「先達」に取材する。
この瞬間、我々の――――というと主語がデカすぎてしまうので、私の――――と訂正するが、とにかく、視点がベラとヴィプランと同じになる。彼らは実にわかりやすく質問し、質問された側も、ひじ...
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全米および14の国と地域で初登場No.1を記録。音楽界のヒーロー、ボブ・マーリー奇跡の生涯を描く『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
20世紀に現れた、最大の影響力を持つ音楽アイコンのひとりといっていいだろう。レゲエ・ミュージックの魅力を世界に広め、愛と平和と団結を音にこめたカリスマ、ボブ・マーリーの生涯を描いた物語『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が5月17日より全国上映される。リタ夫人や子供たちが製作に深く関わり、ジャマイカの首相や文化省もサポートしているという、超オフィシャルなドラマだ。監督はレイナルド・マーカス・グリーン、英国の俳優であるキングズリー・ベン=アディルがボブを演じる。
主に描かれているのは1976年に銃撃を受けてから、悪性腫瘍の転移で亡くなるまでの約5年間。ライヴ・パフォーマンスは「当時を体験し...
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俺に殺意を抱くな! 第76回カンヌ国際映画祭・批評家週間選出の不条理サバイバル・スリラー『またヴィンセントは襲われる』
第76回カンヌ国際映画祭・批評家週間選出の不条理サバイバル・スリラー『またヴィンセントは襲われる』が5月10日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開される。
ヴィンセント(フランス読みではヴァンサン)は、どこにでもいそうな大人の男性。なのだが、ある時から、不意に襲われたり殴られたりするようになった。相手が不快感をむき出しにして、殺意を抱いて襲ってくるのだ。一日に何度も、怪我をして、生命の危険も感じる。そのうち、彼は「自分と目が合った者が襲ってくる」ということに気づいた。生活をしている以上、他者とのコミュニケーションは避けられないので、一時は途方に暮れるのだが、と...
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トニー・レオンとワン・イーボーが競演。戦時中の上海を舞台にしたスパイたちの攻防戦『無名』
トニー・レオンとワン・イーボーの競演。これは心が躍る。中国国内での収益は約181億円を上回り、中国映画界最高の賞とされる「第36回金鶏賞」では主演俳優賞(トニー・レオン)、監督賞、作品賞の3冠を受賞。話題沸騰の『無名』が、5月3日から遂に全国順次公開される。
トニーはフー、ワンはイエという名のスパイに扮する。物語の舞台は、第2次世界大戦下の中国上海。中国共産党、国民党、日本軍たちのスリリングな腹の探り合い、心理戦、攻防劇がたっぷりと時間をかけて描かれる。表面上はにっこり、しかし実のところは虎視眈々。同時にスパイの哀感というべきものもしっかり描かれている。淡々とした(だがしっかり見ると実に...
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マエストロ=エンニオ・モリコーネのサウンド・マジックを堪能できる名作映画を特選上映!
2020年に亡くなってから、もう5年目。イタリアが世界に誇る音楽家、エンニオ・モリコーネがサウンドトラックを担当した2作品が、4月19日より新宿武蔵野館ほかで行われる『エンニオ・モリコーネ特選上映 Morricone Special Screening×2』で上演される。
今回、選ばれたのは『死刑台のメロディ 4Kリマスター・英語版』(1971年)と『ラ・カリファ』(1970年)の2点。『死刑台~』は1920年のアメリカで実際に起こった、アメリカの恥との声ともある冤罪“サッコ=ヴァンゼッティ事件”に迫った作品だ。5人組が起こしたとされる殺人事件の犯人として、身に覚えのない男性二人が逮捕さ...