執筆陣
年齢を重ねなければ到達できない場所というものがある。「記憶」という現象の罪深さに思いをはせる一作『あの歌を憶えている』
ある程度の年齢に達して、期待しすぎることのむなしさ、悲しみに暮れてばかりいることの無益さも知った。尊厳を侮辱されたりしないのであれば、多少いやなことがあろうとも、つとめておだやかでありたい。そんな私やあなたには、特に重みのある一作として響くはずだ。
基本的には同い年のふたりによる物語である。舞台はニューヨークのブルックリン。シルヴィアはソーシャルワーカーとして働きながら娘と暮らしている。もう一人の主人公であるシールは、若年性認知症による記憶障害を抱えている。ふたりはたまたまハイスクールの同窓会で出会ったのだが、学生時代には「かすりもしなかった」。かつて同じ場所にいたものの接点のなかったふ...
執筆陣
90分間ワンショット。ロンドンの人気レストランで繰り広げられる多彩な人間模様を描く『ボイリング・ポイント/沸騰』
90分間の全編ワンショット、編集もCGの使用も一切なし。実にスリリングな一作が7月15日から東京・ヒューマントラスト有楽町、新宿武蔵野館ほかで公開される『ボイリング・ポイント/沸騰』だ。
「いちど始まったら止まらない」という点では、いわゆる舞台でのパフォーマンスに通じるものがあるが、舞台の場合、自分の目で見るところを変えることができるのに対し、この映画はカメラが、演者との距離も含めたうえでの「目がわり」となる。
撮影はロンドンに実在するレストランで行なわれたという。スティーヴン・グレアムが演じる主人公アンディは、さえない毎日を送るオーナーシェフ。妻子とも別居中、店に対する衛生管理検査の評...