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食事会で見たヴェンダースの素顔は“無邪気で聡明”。役所広司の『PERFECT DAYS』には小津安二郎へのオマージュを込める【映画スターに恋して:第33回】
平山のように生きていけたなら
「平山という人は、瞬間瞬間を大切にして、自分でできることをやって、1日の終りには好きな本を読みながら、質素でありながらも、満ち足りた気持ちで眠りにつく。あれだけ毎日毎日を、満足しながら眠りにつける人って、羨ましいなと思います」
これは『PEARFECT DAYS』(23年)で、主人公・平山を演じ、第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いた役所広司の言葉だ。平山は、東京・渋谷区内に点在する公衆トイレの清掃員。カメラは、その規則正しい彼の毎日を淡々と追い続ける。
監督のヴィム・ヴェンダースにとっては、1983年4月に撮影を行った『東京画』(85年製作)から約4...
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『屋根裏のラジャー』をドルビーシネマで見ると、作品の深みがきっと違います! スタジオポノック最新作に込められた、制作陣の思いの丈を聞いた
12月15日にロードショー公開されたスタジオポノック最新作『屋根裏のラジャー』。愛をなくした少女アマンダと、彼女にしか見えないイマジナリの少年ラジャーを中心に、美しさや怖さ、優しさに溢れた冒険が繰り広げられる。そんな本作は通常上映に加え、ドルビーシネマ、IMAX、DTS:Xといった多様な劇場フォーマットでも公開されるという。そして先日、『屋根裏のラジャー』のドルビーシネマ試写会が開催された。今回は鳥居一豊さんと一緒に試写を拝見し、さらに制作を担当した方々に、作品づくりの裏側についてお話をうかがっている。(StereoSound ONLINE編集部)
ーー今日はよろしくお願いいたします。ま...
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多民族の街、ロンドンを舞台にした現代感覚あふれるラブストーリー『きっと、それは愛じゃない』
原題は『What's Love Got to Do with It?』。この文字列を見ただけで私の頭の中には、今年亡くなった歌手ティナ・ターナーの大ヒット曲で、マイルス・デイヴィスも演奏した「What's Love Got to Do with It」が鳴り始めてしまう。What'sはWhatとhasを一緒にした言葉であろうが、無理に日本語化すると「愛とそれとは何の関係があるの(=愛とそれとは関係ないだろう)」という感じか。が、もっとすっきりする日本語が、この映画にあった。『きっと、それは愛じゃない』(原題: What's Love Got to Do with It?)である。
12月...
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HiVi最新号は12/15発売!「創刊40周年記念企画」「第39回HiViグランプリ」「冬のベストバイ」の3大特集掲載の40周年記念特大号
「新しいホームエンターテインメントのための新雑誌」として歩みを続けてHiViはおかげさまで40周年となりました。第一特集では、AVとともに歩んだHiViの40年を多角的に振り返ります。さらに2023年のオーディオビジュアルを総括する「HiViグランプリ」に加えて、コストパフォーマンスに優れた製品選びを念頭に置いた恒例企画「冬のベストバイ」の3本柱でお届けいたします。
巻頭特集「HiVi創刊40周年特別企画」
春号より3回に渡って展開して来た40周年記念企画を総括する「HiVi創刊40周年特別企画」をお届けします。本誌筆者による特別寄稿や2014〜2023年のAV史など5つのパートに分けつ...
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妻が「連続殺人鬼の属性を持つ哲学ゾンビ」になってしまった。それでも夫は愛を貫けるのか? 『物体 -妻が哲学ゾンビになった-』
人を不安な気分にさせ、襲い、食い殺してしまうのが、ゾンビというものであろう。が、「哲学ゾンビ」は違う。共同生活もできる。だが、内面がすっかり失われてしまう。脳を失ってしまうので、自分で考えたり行動することができなくなり、そこにいる人間をまるまるコピーしたような口調で、オウム返しにしゃべる。どの人生の「属性」を継承するかが大切で、おだやかな、いい人間の「属性」を継承すれば、まあ、どうにかなりそうなのだとしても……。
そこでこの映画なのだが、「哲学ゾンビ」になってしまった妻を持つ男の物語だ。しかもその属性が、よりにもよって「連続殺人鬼」のそれなのだ。つまりこの男は「連続殺人鬼」の魂を持ってし...
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こんなに不気味な「食事風景」があっただろうか! ひたひたと恐怖がやってくる話題のホラー作品『ファミリー・ディナー』
光量を落としたような画面作り、妙にガランとした部屋の風景、きわめて言葉数を抑えているであろうセリフ。観始めの頃は「シンプルだなあ」と、きわめて淡々とした気持ちであったが、物語が進むにつれて、それらがすべて「恐怖」のファクターだった、ということに、少なくとも私には感じられてきた。レス・イズ・モアを実践した、アコースティックでオーガニックなホラー作品という印象である。
主人公となるのは、かなりふくよかな体形をしている少女・シミー。体重を減らしたい彼女は、料理研究家で栄養士の叔母のもとを訪れる。ひょっとしたら「野菜を多めの規則正しい食生活にして、運動して……」ぐらいのことを言われるのだろうとシ...
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『オッペンハイマー』の日本での公開が2024年に決定! 映画ファンが待ち続けた本作を、劇場のスクリーンで楽しめる
クリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』の日本での公開が2024年に決定した。本作は、アメリカの物理学者で、第二次大戦中にマンハッタン計画を主導、原子爆弾開発の主導的役割を果たしたロバート・オッペンハイマーを描いた作品だ。
北米では2023年7月21日に公開され、現在世界興行収入9億5千万ドル(1425億円)を超える世界的大ヒットを記録。実在の人物を描いた伝記映画作品として歴代NO.1を獲得している。日本では公開が見送られ、映画ファンをやきもきさせていたが、今回やっとその目処が立ったということになる。
世界の運命を握ると同時に、世界を破滅する危機に直面するという矛盾を抱えた...
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欲望、摩擦、齟齬、その先にあるものとは……。劇作家、八木橋努が「人間の業」のようなものを描く『他人と一緒に住むという事』
ペーソスのかたまりと呼びたくなる一作だ。監督・脚本・編集は団体「俺は見た」の八木橋努が務める。演劇として評判を集めていた作品の、待望の映画化。「さまざまな人々が共生する日本での公開にあたって、英語字幕付きで上映する」という対応も、ひじょうに良心的だ。
登場人物は、とにかく人間臭い。「きついなあ」「ずるいなあ」「欲深すぎじゃないの」というような態度や口調をするキャラクターもいる。が、ふりかえって自分はどうか?と 考えたときに、あながち1パーセントも彼らと相反するところがないとはいえないから、必然的に内省して、むずがゆくなる。そして「俺だって、きつくあたるところはあるし、ずるいところし、慾の...
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色合いや音楽も魅力。ブラジルの鬼才アニメ監督がおくる、渾身の力作『ペルリンプスと秘密の森』
鮮やかな色合い、比喩に富む言葉遣い、ここぞというところで飛び出す印象的な音楽。第88回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされた『父を探して』の監督であるブラジルの才人アレ・アブレウの最新作、『ペルリンプスと秘密の森』が12月1日からYEBISU GARDEN CINEMAで公開される。
主人公の名はクラエとプルーオ。敵対する「太陽」と「月」の王国の、それぞれ秘密エージェントだ。これが、いうなればA)。ではB)が何に相当するのかというと、巨人に存在を脅かされている「魔法の森」である。敵対するA)二者に課せられた仕事は、偶然にもB)を救うこと。そのためにはC)「ペルリンプス」を探さ...