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人生をかけて戦え! プロレス一家「エリック・ファミリー」の日々を、次男ケビンの視点で映画化した『アイアンクロー』
プロレスが絡む映画というだけで嬉しくなってくるが、しかも内容が「エリック一家」の実話に基づくドラマなのだから、興奮が倍増する。父親は、ジャイアント馬場などと死闘を演じた“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック。相手のこめかみを巨大な握力で掴んで脳波を狂わせるという技「アイアンクロー」で歴史に名を残す人物だ。対エリック戦の決まった馬場が、エリックにアイアンクローをかけられても耐えられるように、どこかの砂漠に埋まって横になり、顔の上をジープで轢かせながら頭蓋骨を鍛える――という描写が確か「ジャイアント台風」というマンガに出てきた。
そのエリックには子供たちがいて、次男のケビン、三男のデビッド、四...
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投資になじみのない方でも心配無用。すこぶる痛快なアメリカン・エンタテインメント作品『ダム・マネー ウォール街を狙え!』
何度も「へえー」と心の声をあげながら見た。
コロナ禍真っ只中の2021年初頭に、アメリカの金融マーケットで実際に発生した”ゲームストップ株騒動”(ゲームソフトの小売り企業である同社の株を集中的に買い、空売りしていたヘッジファンドに損害を与えた)を脚色した映画であるという。主役はアメリカの、主に地方都市に住む若手の投資家たちだ。彼らが、遠くニューヨーク・マンハッタンにあるウォール街を跋扈するエリートたちに一矢を報いる、そんな気持ちよさがある。
SNSを駆使しながら、その場所にいながらにして、投資していく。その姿はまるで呼吸するかのようにナチュラルだが、いっぽうで、興じているスポーツが勢いづ...
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多民族の街、ロンドンを舞台にした現代感覚あふれるラブストーリー『きっと、それは愛じゃない』
原題は『What's Love Got to Do with It?』。この文字列を見ただけで私の頭の中には、今年亡くなった歌手ティナ・ターナーの大ヒット曲で、マイルス・デイヴィスも演奏した「What's Love Got to Do with It」が鳴り始めてしまう。What'sはWhatとhasを一緒にした言葉であろうが、無理に日本語化すると「愛とそれとは何の関係があるの(=愛とそれとは関係ないだろう)」という感じか。が、もっとすっきりする日本語が、この映画にあった。『きっと、それは愛じゃない』(原題: What's Love Got to Do with It?)である。
12月...
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南部ニューオリンズを舞台にした、あまりにも幻想的でデカダンな物語。謎の女性<モナ・リザ>の行く末は?
奇想天外と断言したくなる物語なのに、妙なリアリティがある。スケールの大きな物語だが、人間の持つバイタリティが通奏低音の役割を果たしているように思えた。
主人公となるアジア系女性、その名も〈モナ・リザ〉は、12年もの間、精神病院で毎日を過ごしていた。が、赤い満月に照らされた夜、突如として特殊能力に目覚め、ニューオリンズにたどり着く。アメリカ南部の港町、アフリカ系文化とフランス系文化の「るつぼ」のような土地で、彼女は文字通りの「魔女」となって、ときに新しい仲間と連れ立ちながら、異様なパワーを発揮する。警官とのやりとりには「エクストリームな追いかけっこ」的な趣があり、少年となんとも味わい深い愛...
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天才芸術家の世界にようこそ! 「ダリの世界」に足を踏み入れた美術青年が見たものとは? 『ウェルカム トゥ ダリ』公開
興味の尽きない芸術家、サルバドール・ダリを、おそらくかつてない角度から描いたドラマ映画が公開される。主な舞台は1974年のニューヨーク。ダリと妻のガラに気に入られた青年ジェームスの視点を中心に、物語が繰り広げられてゆく。
ジェームスがいかにしてダリ夫妻と知り合ったかは本編にガッチリ描かれているので割愛するが、なにしろダリとガラのキャラクターが超強烈なので、見ているうちに「ジェームス、大変だったろうな」と感情移入してしまうのは私だけではないはずだ。ダリはもう“晩年”、すでにエスタブリッシュメントの域になって久しく、年上妻のガラも老いが目立ち始めた。なのだがガラは、たいして才能があるとも思わ...
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宮沢賢治には、こんな父親がいた。直木賞受賞の人気小説を、豪華メンバーで映画化。『銀河鉄道の父』公開へ
天才とて親がいなければ生まれてこない、とはわかっていても、宮沢賢治の軌跡を本人からではなく、その父の側から描くという発想はやはり相当に斬新であり、まず私は着眼点に引きつけられた。そして見る前に――普段はまず、しないのだが――下調べしてしまった。宮沢賢治の父親はかなり裕福な家の育ちで(質屋を継いでいる)、息子が病没してからも40年以上長生きし、宗教活動にも熱心で、政治家にもなった。「あの宮沢賢治の父親」として、相当なヴァリューを誇っていたに違いない。
原作は門井慶喜の第158回直木賞受賞小説。父親・政次郎には、役所広司が扮する。この映画で描かれている賢治は、伝説化されたヒーローではない。不...