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三船敏郎、チャールズ・ブロンソン、そしてアラン・ドロン。3大スターが荒野に揃う『レッド・サン 4Kデジタルリマスター版』
三船敏郎、チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロンが顔を揃えた1971年の、まさに奇跡と呼ぶべき映画が4Kデジタルリマスター版として公開される(言語はほぼ英語)。豪快でりりしい三船、男くささ満開のブロンソン、世紀の美男子ドロンを、よりクリアーな画質と音質で楽しめるのがいい。とはいっても、この3人の「すさまじいヴァリュー」を実感できているのは、ある程度、昭和の空気を吸った者なのかもしれない。という意味では、この3人にあまりなじみのない世代にこそ見てほしい、とも思うし、次世代が親や祖父母を誘って見に行くと、観終わった後に一家で話が弾むことだろう。先住民の描写など、今見ると(少なくとも私には)胸...
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あの4人組バンドが返ってきた! 愛すべきメタルコメディ映画、その続編が登場!! 『ヘヴィ・トリップII/俺たち北欧メタル危機一発!』
前作『ヘヴィ・トリップ/俺たち 崖っぷち北欧メタル!』の日本公開から5年、ついに続編にありつくことができた! “俺たち北欧メタル危機一発!”という邦題も、往年の『007/危機一発』を思わせて嬉しくなる。主人公はもちろん、フィンランド生まれの“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”4人組バンド=インペイルド・レクタム(直腸陥没)。今回も命がけの毎日である。
前作は彼らが収監されるところで終わっていたはずだが、獄中でも彼らのメタル愛は変わらない。ドイツで開催予定のメタルフェスへの出演オファーも舞い込んできたものの、なにしろこちらは塀の中、充分な演奏活動もできていないの...
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シングルマザーが極悪詐欺集団に立ち向かう! 実話をもとにしたスリリングな一作、『市民捜査官ドッキ』
2016年に起きた振り込め詐欺事件をモチーフにした一作。「これが実際に起きたことなのか!」との驚きが、観終えた後にも、じわりと残った。といっても「市民が、命知らずにも犯人を捕まえようとする」という筋書きに驚いたわけではない。犯罪詐欺集団の水も漏らさぬ連携、絶対的ボス(直接悪事に手を染めることはない)とその下で働く者たち(その間にもカースト的ピラミッドが形成される)の位置関係、などなど。つまり容易に「トカゲのしっぽ切り」ができるシステムになっていて、風上の者にはなんの損害もないはずの、鉄壁の、構築された狡猾さに驚かされたのだ。そこに「おばちゃん市民」が立ち向かうのだから、痛快ではないか。
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ポスト・コロナの傘の下であぶりだされる「食の問題」。話題のドキュメンタリーの続編が登場、『フード・インク ポスト・コロナ』
2011年に日本公開された話題作『フード・インク』の続編。『フード・インク ポスト・コロナ』という邦題通り、パンデミック以降の「食」とそれをとりまく事象が大きなテーマとなっている。
内容は非常に重厚で、人生で一度でも何かを嚥下した経験のある者なら、知らず知らずのうちに姿勢を正して見てしまうことだろう。とりあげられている国は基本的に「アメリカ」だが、けっして「よそ」の話で片づけきれないのはいうまでもない。とどまることを知らない巨大企業のはびこり(その背後には超格安で雇われた移民たちの過酷な労働がある)、児童糖尿病の増加、脳に「おいしい」と感じさせるであろうさまざまなエフェクトが加えられた菓...
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「僕らはリヴァプールで生まれ、ハンブルクで育った」というジョン・レノンの発言が、ドキュメンタリーで実感できる『NO ハンブルク NO ビートルズ』
英国リヴァプール出身のロックバンド、ザ・ビートルズの“ハンブルク・デイズ”を追った一作。彼らは60年8月に初めてこの地にやってきて、相当に狭く薄汚いクラブのステージでロックンロールを響かせ、以降、来るたびに会場を大きくしていって、女性のファンも増やした。時には12時間続けて歌い演奏したこともあった、ともきく。バンドの基礎体力が思いっきりついた時期であったはずだ。なぜ彼らがハンブルクに行ったのか、どんな人や物と出会って刺激を受けたのか、歌手トニー・シェリダンの伴奏バンドとしてのレコーディングに至る経緯などが、当時のハンブルクの風俗や音楽シーンの描写も交えながらテンポよく描かれる。ドラマ映画...
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Netflix映画「バレエ:未来への扉」のモデルとなったインド人ダンサー、マニーシュを追い続けた力作『コール・ミー・ダンサー』
現在、ニューヨークを拠点に活動しているダンサーのマニーシュ・チャウハンを中心とするドキュメンタリー映画。彼はインドのムンバイに生まれ育ち、テレビのダンス番組で称賛を浴びた後、ムンバイのダンススクールでイェフダ・マオール(イスラエル系アメリカ人)からバレエを学んだ。強いバレエ愛と人間的信頼がうかがえるマニーシュとイェフダのやりとり、どんなレベルの生徒であっても妥協を許さないスクールでの風景、ケガの克服やスランプからの脱出、“ブラウン”の肌を持つ人間としてのバレエとの向き合い方などが、作品内で事細かく描かれていく。そして、英語を話せる、芸術に理解のある、お金を持つ後援者の存在がいかに重要であ...
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レディー・ガガにも影響を与えた「21世紀を代表するアーティストのひとり」の光と影を描く『Back to Black エイミーのすべて』
エイミー・ワインハウスの不在からもう13年が経つ。彗星のごとく母国イギリスでデビューして、地歩を固めて世界に進出、グラミー賞で5部門に輝いたのに(諸事情によりセレモニーにはイギリスからの中継で登場)、まもなく(何度目かの)ブランクに入り、結果、傑作と呼ぶにふさわしい2枚のオリジナル・アルバムを残して他界。「日本で歌うとしたら、武道館か、それともサマソニのヘッドライナーか何かかな?」という自分の予想は「本人の早すぎる死」という形で裏切られた。
エイミーの関連映画にはすでにドキュメンタリーの『AMY エイミー』があるけれど、この『Back to Black エイミーのすべて』は俳優のマリサ・...
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極秘文書を一刻も早く奪うのだ! 人間模様うずまくサスペンス『対外秘』
1992年の釜山を舞台にした物語。よってアイフォンなどは出てこないし、テレビはブラウン管。だが描かれている物事は今もどこかの国において現在形で行われているのではないか、そんな生々しい濁りがある。
主人公のヘウンは“クリーンな政治家”として地元でも人気があり、党の公認候補も約束されている。そこで、国会議員選挙への出馬を画策するのだが、そこに横やりを入れてきたのがスンテという年上の男だ。スンテは国を動かすこともできる黒幕であり、そのパワーを知っているヘウンは自分より遥かに年上である彼に礼は欠かさなかったつもりだ。それなのに、なんだというのだ。どうして公認候補を俺から、急に、どこの馬の骨かわか...
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ホラー映画をアートへと昇華させた巨匠監督の初期3作品を一挙上映。『ダリオ・アルジェント 動物3部作』
『サスペリア』『ゾンビ』『フェノミナ』等に携わり、現在もなお活動する“ホラー映画のマエストロ”、ダリオ・アルジェントの初期作品、通称「動物3部作」が11月8日より新宿シネマカリテ、菊川Stranger ほかにて公開される。「動物3部作」(アニマル・トリロジー)の由来は、いずれも英語タイトルに動物の名前が含まれているから。
1969年製作の監督1作目『歓びの毒牙』(英題:The Bird With The Crystal Plumage)は、イタリアを旅行しているアメリカ人作家が主人公。事件を目撃した彼の回想が克明に描かれ、見ているこちらもまるで彼の行動を追体験しているような気持になる。ど...
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フランスで大ヒットした"突然変異"のアニマライズ・スリラーが日本上陸。『動物界』
2023年、フランスのアカデミー賞と呼ばれるセザール賞で12部門にノミネート。観客動員100万人越えの大ヒットとなったという一作が11月8日より全国公開される。
舞台は近未来の地球。人間の世界で、徐々に身体が動物と化していく病が蔓延していた。「猫になって一日中ひなたぼっこしていたいニャー」とか「空を飛ぶ小鳥のように自由に生きたいピヨー」というようなお気楽なものでは全くない。自分の体が日に日に動物化していくのだ、発する言葉も徐々に「言葉」から「鳴き声」になっていくのだ。そしてその対象となる“動物”を、おそらく自分の意志では選ぶことができない。原因不明の突然変異である。動物化したからといって...
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「恐ろしくスリリングな人物描写」と海外マスコミも称賛。『セッション』のサウンド・クリエイターが実体験をもとに放つ重厚な一作『ノーヴィス』
音(foley)の迫力がすごい。音楽(music)の選択にも耳を奪われる。かなり前衛的なストリングスの音楽と、ブレンダ・リーやコニー・フランシスら“ケネディ大統領暗殺前/ビートルズのアメリカ侵略前”に大人気を集めたシンガーの歌う甘美なアメリカン・ポップ・ソングがほぼ交互に現れてはストーリーにひんやりした感触を加える。主人公の顔は苦痛に歪み、自分も他人もどちらも責める。しかも、すさまじく過酷な練習ぶりでもある。ケガをしたら血が出ることもあるし、怒りがこみあげれば顔に赤みを増すのは人間として当たり前かもしれない。が、この映画の色合いは、しいていえば「薄い蒼」である。
主人公のアレックスは、「...
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気鋭監督・気鋭俳優による、新時代の会話劇『お祭りの日』。お祭りの日に、お祭りに行かない人たちの5つの物語
ふと、英国のロックバンド“レッド・ツェッペリン”のアルバム『イン・スルー・ジ・アウト・ドア』を思い出した。この作品には6種類のジャケットがあって、それらはつまり「ひとつの風景」を同時に6つのアングルから撮ったものとなっている。6つの断面を合わせることで、「ほぼ360度となった一瞬」が立ち上がるというわけだ。
この映画で繰り広げられているのは、夏の終わりの一日における、5つの物語。自主映画のヒロインをオリジナリティあふれる表現で説得する監督(あの有名映画『シザーハンズ』をこんな風に口説き文句に使うとは!)、バスを待つ男たち、盗んだ打ち上げ花火を高台で打ち上げようとするヘビースモーカーの青年...