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映画『ストレージマン』が待望の公開。一人二役に初挑戦した「瀬戸かほ」は、「悩んでいる人の元に届いてほしい」
映画『ストレージマン』が5月20日(土)より池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開される。監督は経済済情報メディア「NewsPicks」やNHKワールドの経済番組で演出を担当した萬野達郎。主役の自動車工場の派遣社員・森下には連下浩隆が扮し(プロデューサーも兼任)、瀬戸かほはその妻・晶子と、彼女と瓜二つの由美子の“一人二役”に取り組んだ。ここでは、新境地を開き続ける瀬戸かほに話を聞いた。
――一人二役を演じたのは今回が初めてですか?
はい、初めてです。萬野監督とは以前映画祭でお会いしたのですが、今回二役出演のご連絡をいただいた時は、驚きと不安を感じながらも挑戦してみたい気持ちもあって色々な感...
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料理で結びついた魂の交流。フランス発、社会派クッキング・コメディの傑作『ウィ、シェフ!』
「努力、友情、勝利」という言葉が浮かぶ明快な一作だ。主人公のカティは、一流レストランに勤める辣腕シェフ。自分の作る料理に誇りを持っているが、なあなあで世渡りできる性分ではなく、結果として上司とまともにぶつかってレストランを飛び出すことになってしまった。
そんな彼女がどうにか見つけたのは、主にアフリカやアジアからの、強制送還もまぬがれないかもしれない移民少年たちが暮らす自立支援施設での仕事。とてもじゃないが厨房も食材も衛生面も、一流レストランのそれとは雲泥の差だ。カティも当初は性格のきつさをダイレクトに出していたが、「少年たちをアシスタントにしてはどうか」という施設長のアイデアを受け入れた...
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宮沢賢治には、こんな父親がいた。直木賞受賞の人気小説を、豪華メンバーで映画化。『銀河鉄道の父』公開へ
天才とて親がいなければ生まれてこない、とはわかっていても、宮沢賢治の軌跡を本人からではなく、その父の側から描くという発想はやはり相当に斬新であり、まず私は着眼点に引きつけられた。そして見る前に――普段はまず、しないのだが――下調べしてしまった。宮沢賢治の父親はかなり裕福な家の育ちで(質屋を継いでいる)、息子が病没してからも40年以上長生きし、宗教活動にも熱心で、政治家にもなった。「あの宮沢賢治の父親」として、相当なヴァリューを誇っていたに違いない。
原作は門井慶喜の第158回直木賞受賞小説。父親・政次郎には、役所広司が扮する。この映画で描かれている賢治は、伝説化されたヒーローではない。不...
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フィリピンの再貧困エリアで暮らす子供たちを捉えた、約8年間の記録。『子どもの瞳をみつめて』公開へ
初版『YIELD(英題)』は、2018年のフィリピン映画芸術科学アカデミー賞で最優秀ドキュメンタリー賞と最優秀編集賞、フィリピン映画批評家協会賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。4月29日から新宿 K’s cinemaにてロードショーされる『子どもの瞳をみつめて』は、そこに編集を加えた最終版となる。小川プロにも所属した監督の瓜生敏彦、彼の右腕であり本作が(共同)監督デビューとなるビクター・タガロが撮影してきた8年以上もの映像が注ぎ込まれた一作だ。
クローズアップされるのは、フィリピンの最貧困エリアでゴミ集積所のパヤタス地区に暮らす9人の子供たち。子供と言えばキャッキャキャッキャと飛び回り...
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学問の道にゴールなし。世代・立場を超えて育まれた心の交流を描く、必見の力作『不思議の国の数学者』
春風のように気持ちよく、心あたたまる作品に出会った。学びには限りがないこと、そしてその面白さに取りつかれたら人生に光がさすことを改めて教わったような気分だ。
お金持ちのエリート子息が通う名門校になんとか入学できたものの、他の生徒とは家柄も違うし、成績も冴えない。そんな男子高校生が、とあることをきっかけに、ニコリともしない夜間警備員と親しくなっていく。そして、いろんな過程を経て、数学を教わるようになる。警備員の数学の講座は、学校の先生のそれとはまったく違っていた。公式をただ暗記のために覚えさせるのではなく、より根本的な、私の解釈したところでは「数学の中にひそむ人間性をとことんまで提示する」...
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光がまぶしいほど、闇もまた深くなる。手に汗握るヒューマンサスペンス『ヴィレッジ』
「更生」はどのレベルに達した時に、世間からそう認定されるのだろう。犯罪者の親族は、その犯罪がいかなる理由によって起きたかどうかも考慮されぬまま、いつまで不名誉なレッテルを貼られ続けるのだろう。ひょっとしたらそれは一生どころか、末代まで続くのではなかろうか。そんなジメッとしたいやらしさを、真正面から表現しようという気概が伝わってくる。主人公の片山優に扮する横浜流星をはじめ、幼なじみの美咲役を演じる黒木華にとっても新境地と言える一作なのではないか。
監督・脚本は『新聞記者』や『余命10年』等でも知られる藤井道人。昨年6月に他界した河村光庸プロデューサーにとっては、遺作となってしまった。物語の...
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行方不明になった母を探して……今までにない「ひねり」を加えた、伏線だらけのサスペンス作品『search/#サーチ2』
物語の100%がPC画面上で展開されるという斬新きわまりない手法と、観る者を探偵気分にさせるに違いない物語展開を兼ね備え、全世界で7500万ドル以上の興行収入をあげた『search/サーチ』から約5年。その続編、『search/#サーチ2』が4月14日から全国の映画館で公開される。原案・製作を務めるウィル・メリックとニック・ジョンソンのコンビを軸に、前回同様のスタッフが集まり(ただし役割は微妙に異なっている)、いっそうスリリングかつ国際色豊かになったストーリーへと観る者を誘い込む。
主人公は、ロサンゼルスに住む18歳の少女ジューン。幼い頃に父親を亡くし、母親と二人で暮らしている。母にはか...
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限りなくロマンティックでスリリングな150分。呪いにかかった二人は再会できるのか?
第22回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した仮邦題『見上げた空に何が見える?』が、『ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう』という正式邦題で4月7日から全国公開される。
とてもロマンティックな、胸の奥がせつなくもなりくすぐったくもなり、という作品だが、描き方(画面、セリフともに)は決してストレートではなく、むしろ「ベタ的描写を遠ざけること」を強く意識しているようにも感じられ、つまり、目をしっかり開いて一つ一つの場面を見て、脳裏に刻みこみ、同時に想像を働かすことが求められる。そうしてゆくと、あの場面とあの場面が実は結びついていたとか、伏線がここで回収されたとか、いろんな発見で胸をふく...
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貨物船が、暴力と殺人と鮮血に彩られる――人気者ソン・イングクが極悪犯罪者に扮して話題の『オオカミ狩り』が公開へ
観ていて酔いが回ってきそうなほど多量な血液噴射、刃物で物を刺すときの切れ味が鋭すぎる音、殴り合いの時に起きるごつごつした響き、わんこそばのように絶え間ない暴力。これほど凄惨な映画は、久しく観ていなかった。
第47回トロント国際映画祭ミッドナイトマッドネス部門に正式出品された『オオカミ狩り』が4月7日より東京・新宿バルト9ほかで全国公開される。主な舞台は、フィリピンに逃亡した極悪犯罪者たちと護送官の刑事を乗せた貨物船「フロンティア・タイタン号」。 それぞれの思惑がこの船の中で交錯し、とてつもない密室サスペンスとなっていく。白目たっぷりの射るような視線で睨みつける全身タトゥーの男、国際手配犯...
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“最も力強いミュージカル”に数えられる名作の背後に迫る、意欲的なドキュメンタリー『屋根の上のバイオリン弾き物語』
日本では昭和期に森繁久彌の主演舞台で一躍広まった『屋根の上のバイオリン弾き』(脚本;ジョゼフ・スタイン)。帝政ロシア下のユダヤ人の生活に迫った古典だ。個人的には哀感のこもった楽曲の数々も強く印象に残っている。「サンライズ・サンセット」を耳にして、八代亜紀の「雨の慕情」を思い出す(あるいはその逆も)という人も多かろう。
この映画は、『屋根の上のバイオリン弾き』そのものの背景に迫るドキュメンタリー。2022年アトランタ・ジューイッシュ映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞など、いくつもの栄誉に輝いた力作だ。全編、味わい深いフッテージの連続だが、1971年に映画化された時の撮影映像も相当良い状態で...
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1953年のパリ・モンマルトルで何が起こったか? 重鎮ドパルデューが、「メグレ警視」を快演した『メグレと若い女の死』
1953年のパリ・モンマルトルが舞台。抑えに抑えた色彩は、「これは本当に新作映画なのか?」と不思議になってしまうほどだ。登場する自動車、街並み、ファッションからも、その時代のそれを徹底的に追求した印象を受ける。登場人物のセリフ回しはゆるやか、タメが利いていて、動きのひとつひとつに余剰が感じられない。何十年前のどこかからすっかり消え去ってしまっていた“レス・イズ・モア”という概念をこの作品に思う。
「メグレ」という名前をきくだけでニヤリとするミステリー・ファンは、世界中にいることだろう。1929年から1972年にかけてジョルジュ・シムノンのミステリー小説で大活躍した男こそ「メグレ」警視だ。...
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ひとりの頑固老人を通じて、戦後アメリカの姿が見えてくる。名優トム・ハンクスがベストセラーの映画化に臨む『オットーという男』
主人公の老人、オットーはとにかく頑固で堅物。眉間にシワを寄せてムスっとしていて、誰かと接せざるを得ないときは、その人物が去ると“idiot”(この愚か者め、というような意味だろうか)と言い放つ。妻に先立たれてから厭世観が増し、いついかにして死のうかと考えている。
この老人を演じるのは、名優トム・ハンクス。いっぽう、息子のトルーマン・ハンクスが演じる若き日のオットーは、ほがらかで、シャイで、頭脳明晰な好青年だ。なにが彼をこんなふうにしたのか? 年老いたオットーの心からは“かつてのオープン・マインドな姿”は完全に消え去ってしまったのか? 原作は、スウェーデンの作家フレドリック・バックマンの小...