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ポップでスタイリッシュな6篇の怪談ドラマ。韓国映画シーンの若手気鋭が大活躍する『怪談晩餐』
日本のオムニバステレビドラマ「世にも奇妙な物語」を思い出す人も多いかもしれない。この『怪談晩餐』には、6種の怖い話が収められている。高校生の“踊ってみた”がとんでもない惨禍を引き起こす「ディンドンチャレンジ」はぜひアイドルファンに見てほしいところだし、姉と母からのプレッシャーの中で生きる女子高生を描く「四足獣」も秀逸。高級スポーツジムが恐怖の場に変わる「入居者専用ジム」も見どころだった。
ホラーの醍醐味は、「筋書きの怖さ」、「色彩感覚も含めた描写の細かさ」、「音響の迫力」の融合にあると私は思っている。その点、この作品は見ごたえがあり、そこに、なんというのだろう、現代韓国のファッショナブル...
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時価数億円のアナログ・レコードを探しだせ! カーアクション@下北沢もたっぷりの一作『シモキタブレイザー』
犬、ヒップホップ、カーチェイス、「裏稼業」。こうしたファクターに触手を動かされる方にとっては、とくにドーパミンが湧き出るであろう一作。それがこの映画『シモキタブレイザー』といえるはずだ。2月16日からヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて劇場公開される。
監督・原案・プロデューサーは、元暴走族による復讐劇を描いた『灰色の壁大宮ノトーリアス』で評判を集めた安藤光造。今回は、その日暮しのタトゥーアーティストであるKEN(佐藤嘉寿人)+ガンジャ売りのSMOKY(赤名竜乃介)のコンビに、BUZZ(青木謙)とSNOW(倉冨なおと)が合流、いささか急造のチームで、閉店中の宝石店に押し入って強盗をはたら...
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不滅のヒーロー、ボブ・マーリーのライヴ映像を含む、これぞルーツ・レゲエの決定的映画
レイナルド・マーカス・グリーン監督の伝記ドラマ映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』も日本公開が予定されているとのことだが、その前に“実物”の姿をぜひ体験しておこうではないか。『ボブ・マーリー ラスト・ライブ・イン・ジャマイカ レゲエ・サンスプラッシュ』は1979年7月、ジャマイカで開催された一大フェスティバル「第2回レゲエ・サンスプラッシュ」の模様を中心に構成された貴重このうえない映像であり、81年に早すぎる病死をとげたレゲエの神格、ボブ・マーリーが母国で繰り広げたラスト・パフォーマンスの記録でもある。
「ノー・ウーマン、ノー・クライ」を始めとする代表曲を次々と歌いまくるマーリーの雄...
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愛する人をテロで失い、日常が一転。8年前の実話を基にした話題作『ぼくは君たちを憎まないことにした』
自分の家族やパートナーがテロの犠牲になってしまったら? 考えるだけでも気分が落ち込んでいくけれど、世の中の何割かの人々は、これを経験している。この映画は、妻が2015年のパリ同時多発テロの犠牲になったジャーナリスト、アントワーヌ・レリスの実話をもとにしている。
自分、妻、息子の3人で穏やかな日々を過ごしていたアントワーヌだが、ある夜、人気イベントに行く妻を送り出す。妻は友人と一緒に満面の笑顔で道路を渡った。数時間後には笑顔で戻ってきて、そのイベントの話をしてくれるだろうとアントワーヌは思ったはずだが、次に彼の耳に入ってきたのは、そのイベント会場でテロが行われたという情報だった。妻の携帯は...
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ビデオテープに映り込んだ謎の姿は誰なんだ? フェイク・ドキュメンタリーの新傑作が上陸『トンソン荘事件の記録』
現実と虚構の間をゆらめくような描写に惹かれる。ざらざらした質感を持つビデオテープ映像の挿入、取材パートにおけるいささかぎこちない画面編集のつぎはぎやインタビュイーの口調や目線の硬さも印象に残る。が、これらは「現在を生きる映画のプロたち」が、「90年代に起きた事件の核に迫るドキュメンタリー映像を制作するというテイの作品」を作り込むにあたって、確信犯的に取り組んだパーツの数々なのである。
大きなテーマとなるのは、1992年に釜山の旅館「トンソン荘」で起きたむごたらしい殺人。アルバイトの男が部屋に恋人を連れ込んで殺害、しかもその一部始終を映像に記録するという展開は、いかにも、ビデオ収録が俄然、...
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教育の尊さを知らしめる、ブルキナファソ、バングラデシュ、シベリアの女性教師たちの物語。『世界のはしっこ、ちいさな教室』
日本でもヒットした『世界の果ての通学路』公開から約10年。同作の制作チームが、新たな作品を放った。
舞台/中心人物となるのは、「ブルキナファソのサンドリーヌ」、「バングラデシュのタスリマ」、「シベリアのスヴェトラーナ」。3人とも女性教師であり、教え子たちにもっと広い世界を知ってほしいと、毎日、張りのある日々を過ごしている。サンドリーヌはとにかく子供たちに文字の読み書きができるようになってほしいと熱を込め、フェミニストでもあるタスリマは子供や女性にもしかるべき権利が与えられるべきだと語る。スヴェトラーナは極寒の中、遊牧民“エヴェンキ族”の伝統が消えていくのではないかと危惧している。
おそら...
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あのSXSWイベントでも反響を呼んだ一作。ある種の「リアル」をつきつけてくる体感型クライム・スリラー『ソフト/クワイエット』
自分がどの人種に生まれたか、さらにいえば手の甲と手のひらが同じ色に生まれついたか否かで、感じ方は大きく変わるかもしれない。観ていて私はおじけづいた。だがこれがアジアの一国である日本で公開されることは、意義のあることではあると思うし、このようなむごい事柄も世界のどこかに現実として存在する。
ブラジルと米国の2つの国籍を有するベス・デ・アラウージョ監督・脚本の体感型クライム・スリラー『ソフト/クワイエット』が5月19日からヒューマントラスト渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開される。
主人公は、とある田舎町の幼稚園教師のエミリー。白人たちにとっては「やさしい先生」なのだろうが、簡単に言えば有色...
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料理で結びついた魂の交流。フランス発、社会派クッキング・コメディの傑作『ウィ、シェフ!』
「努力、友情、勝利」という言葉が浮かぶ明快な一作だ。主人公のカティは、一流レストランに勤める辣腕シェフ。自分の作る料理に誇りを持っているが、なあなあで世渡りできる性分ではなく、結果として上司とまともにぶつかってレストランを飛び出すことになってしまった。
そんな彼女がどうにか見つけたのは、主にアフリカやアジアからの、強制送還もまぬがれないかもしれない移民少年たちが暮らす自立支援施設での仕事。とてもじゃないが厨房も食材も衛生面も、一流レストランのそれとは雲泥の差だ。カティも当初は性格のきつさをダイレクトに出していたが、「少年たちをアシスタントにしてはどうか」という施設長のアイデアを受け入れた...