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人生の選択肢を知って成長していく少年と、彼を優しく見守る父の姿。シャオチェン=ヤーチュエン・コンビの到達点か。『オールド・フォックス 11歳の選択』
門脇麦の出演でも話題を集めること間違いなしの一作。内容もまた、実に丁寧に、ひとつひとつの物事をそっとひもとくような感じで進み、つまり、注意深く物語の推移を追うことのできる者に大変な充足感を与える作品であると断言していいだろう。プロデューサーはホウ・シャオシェン、監督はシャオ・ヤーチュエン。すなわち名コンビが作品づくりに全面的に関わっている。ヤーチュエン監督のこれまでの映画は、シャオシェンがプロデュースしてきたが、どうやら今回の『オールド・フォックス 11歳の選択』が最後になるかもしれない。というのも、シャオシェンがこれを最後のプロデュース作品にすると発表しているからだ。
物語は1989年...
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なんと壮絶な人生――――「河合優実」主演の、実話を基にした重厚な一作『あんのこと』
2020年の日本で起きた実話をもとにした作品であるという。「男性関係にだらしなく、働かず、酒浸りで、日常的に怒鳴りつけ、暴力をふるう母親」の許で「体を売って家計を助けること」を命ぜられ、「あげくのはてに薬物依存にもなってしまった」杏という少女の、それでも捨てられなかった一条の希望の光と、諦念の末に訪れてしまった「吹っ切れ」を、観る者が深く感じるための一作といえようか。が、母は決して「将来、この子に売春をさせよう」と思って杏を産んだわけではないだろうし、杏も小さい頃はそれなりに愛されて育ったに違いないのだ。というのは、彼女にはなんともいえない品の良さ、他者を思いやる気持ちがあるからで、生ま...
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「気候変動」と「種の絶滅」の核心に迫ろうとする少年少女の視点が、見る者に示唆を与える『アニマル ぼくたちと動物のこと』
ドキュメンタリー『TOMORROW パーマネントライフを探して』(フランスで110万人が観たという)のシリル・ディオン監督の最新作が、この『アニマル ぼくたちと動物のこと』である。事実上の案内役となるのは、10代のベラとヴィプラン。彼らは地球の環境、地球の未来に大きな不安を覚えている。そこでディオン監督の協力を得て、絶滅を食い止めるための答えを探るべく、環境問題に取り組んでいるさまざまな「先達」に取材する。
この瞬間、我々の――――というと主語がデカすぎてしまうので、私の――――と訂正するが、とにかく、視点がベラとヴィプランと同じになる。彼らは実にわかりやすく質問し、質問された側も、ひじ...
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全米および14の国と地域で初登場No.1を記録。音楽界のヒーロー、ボブ・マーリー奇跡の生涯を描く『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
20世紀に現れた、最大の影響力を持つ音楽アイコンのひとりといっていいだろう。レゲエ・ミュージックの魅力を世界に広め、愛と平和と団結を音にこめたカリスマ、ボブ・マーリーの生涯を描いた物語『ボブ・マーリー:ONE LOVE』が5月17日より全国上映される。リタ夫人や子供たちが製作に深く関わり、ジャマイカの首相や文化省もサポートしているという、超オフィシャルなドラマだ。監督はレイナルド・マーカス・グリーン、英国の俳優であるキングズリー・ベン=アディルがボブを演じる。
主に描かれているのは1976年に銃撃を受けてから、悪性腫瘍の転移で亡くなるまでの約5年間。ライヴ・パフォーマンスは「当時を体験し...
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俺に殺意を抱くな! 第76回カンヌ国際映画祭・批評家週間選出の不条理サバイバル・スリラー『またヴィンセントは襲われる』
第76回カンヌ国際映画祭・批評家週間選出の不条理サバイバル・スリラー『またヴィンセントは襲われる』が5月10日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開される。
ヴィンセント(フランス読みではヴァンサン)は、どこにでもいそうな大人の男性。なのだが、ある時から、不意に襲われたり殴られたりするようになった。相手が不快感をむき出しにして、殺意を抱いて襲ってくるのだ。一日に何度も、怪我をして、生命の危険も感じる。そのうち、彼は「自分と目が合った者が襲ってくる」ということに気づいた。生活をしている以上、他者とのコミュニケーションは避けられないので、一時は途方に暮れるのだが、と...
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トニー・レオンとワン・イーボーが競演。戦時中の上海を舞台にしたスパイたちの攻防戦『無名』
トニー・レオンとワン・イーボーの競演。これは心が躍る。中国国内での収益は約181億円を上回り、中国映画界最高の賞とされる「第36回金鶏賞」では主演俳優賞(トニー・レオン)、監督賞、作品賞の3冠を受賞。話題沸騰の『無名』が、5月3日から遂に全国順次公開される。
トニーはフー、ワンはイエという名のスパイに扮する。物語の舞台は、第2次世界大戦下の中国上海。中国共産党、国民党、日本軍たちのスリリングな腹の探り合い、心理戦、攻防劇がたっぷりと時間をかけて描かれる。表面上はにっこり、しかし実のところは虎視眈々。同時にスパイの哀感というべきものもしっかり描かれている。淡々とした(だがしっかり見ると実に...
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マエストロ=エンニオ・モリコーネのサウンド・マジックを堪能できる名作映画を特選上映!
2020年に亡くなってから、もう5年目。イタリアが世界に誇る音楽家、エンニオ・モリコーネがサウンドトラックを担当した2作品が、4月19日より新宿武蔵野館ほかで行われる『エンニオ・モリコーネ特選上映 Morricone Special Screening×2』で上演される。
今回、選ばれたのは『死刑台のメロディ 4Kリマスター・英語版』(1971年)と『ラ・カリファ』(1970年)の2点。『死刑台~』は1920年のアメリカで実際に起こった、アメリカの恥との声ともある冤罪“サッコ=ヴァンゼッティ事件”に迫った作品だ。5人組が起こしたとされる殺人事件の犯人として、身に覚えのない男性二人が逮捕さ...
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ミア・ゴスも登場。美しいリゾート地に拡がるダークネス『インフィニティ・プール』
「無限のプール」とは何ぞや? と調べてみたら、けっこうメジャーな言葉であることがわかった。「外縁が海などのより大規模な水や空と混じり合い境目がわからないように見えるよう設計され~」とか「プールの縁を作らずに無限に続くような水の絶景などなど。いくつかの写真もウェブで見たが、まさに絶景であるとともに、こういう風景が出てくる生活を自分が送るにはあと何回生まれ変わらなければいけないのかとも思った。
そこでこの映画だが、舞台は美しいリゾート地“リ・トルカ島”。セレブでハイソなひとたちがずらりと集まり、ぜいたくなパーティを繰り広げる。そこにやってきたのが作家のジェームズという男(アレクサンダー・スカ...
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人生をかけて戦え! プロレス一家「エリック・ファミリー」の日々を、次男ケビンの視点で映画化した『アイアンクロー』
プロレスが絡む映画というだけで嬉しくなってくるが、しかも内容が「エリック一家」の実話に基づくドラマなのだから、興奮が倍増する。父親は、ジャイアント馬場などと死闘を演じた“鉄の爪”フリッツ・フォン・エリック。相手のこめかみを巨大な握力で掴んで脳波を狂わせるという技「アイアンクロー」で歴史に名を残す人物だ。対エリック戦の決まった馬場が、エリックにアイアンクローをかけられても耐えられるように、どこかの砂漠に埋まって横になり、顔の上をジープで轢かせながら頭蓋骨を鍛える――という描写が確か「ジャイアント台風」というマンガに出てきた。
そのエリックには子供たちがいて、次男のケビン、三男のデビッド、四...
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ジミ、ジャニス、オーティス。「大型ロック・イベントの原点」を記録した歴史的な映画がレストアで蘇った! 『MONTEREY POP モンタレー・ポップ』
1967年6月にアメリカ西海岸で行なわれた歴史的な「Monterey International Pop Festival」(3日間、5セット)を素材にした記録映画が、この『MONTEREY POP モンタレー・ポップ』である。意外にもこれまで日本で正式に公開されたことはなかったらしく、今回、レストアされた4K・5.1ch版でお目見えすることになった。出演者のうち、同年末にはオーティス・レディング、70年にはジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリンがそれぞれ20代の若さで他界し、サイモン&ガーファンクルが活動を停止。アニマルズも68年に解散している。ちらっと画面に映るブライアン・ジョー...
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UKロンドンの最前線で、インド~パキスタン系のトップダンサーが超絶ダンスバトルを繰り広げる147分。『ストリートダンサー』
インド映画について、ある特定のイメージを持っている方は快い裏切りにあうことだろう。尺は2時間半ほどあり、歌が流れるシーンも、ダンス・シーンもたっぷりだが、舞台は英国ロンドン。そこに住む、ある意味とても恵まれたインド系の青年たちと、パキスタン系の青年たちの物語なのである。皆、かっこよくておしゃれだ。
両者は一種のライバル関係にあり、ダンスバトルを繰り広げている。セリフもあるにはあるが、それ以上に雄弁に彼らの気持ちを伝えるのが、各楽曲の歌詞。もちろんここにもしっかり字幕はつけられていて、ヒップホップを基調とした楽曲の数々が、切れ味いっぱいのダンスと共に繰り広げられる。一部アメリカの古典的映画...
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彼はなぜ死んだ? 誰が殺した? 大迫力の裁判シーンを含む大作ミステリー
フランスでは、あっという間に動員130万人超えの大ヒット。カンヌ国際映画祭では最高賞パルムドールを受賞、ゴールデン・グローブ賞2部門受賞を果たし、アカデミー賞5部門ノミネート中の大作ミステリー『落下の解剖学』が2月23日より全国公開される。
「冬の山荘で、作家の男が転落死した状態で発見された」、「疑いがかかったのは、やはり作家である妻」、「事件に関する唯一の証人と言えるのは、視力に障害を持つ11歳の息子」。この3つをメインテーマとして、実に丁寧に、地に足をしっかり付けた形で物語が描かれてゆく。「妻は作家だから、トリックのやり方もいろいろ知っているのではないか?」とか、「息子はどこまで目が...