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令和に蘇る昭和な雰囲気満載の探偵映画『LONESOME VACATION』で、印象的な人物を演じた「さかたりさ」にインタビュー。「初めての役柄を演じて自信がつきました!」
リーゼントでキメた私立探偵・古谷栄一の元に現れたのは、元カノの今日子。今日子は、急逝した父親の遺品から出てきた古いフィルムに映る、若かりし父親の隣で微笑む見知らぬ女性を探したいという。フィルムの残像を手がかりに、城ヶ島を訪れた二人の、奇妙で短い調査(バカンス)が今、幕を開ける……。
10月7日(金)から新宿K's cinemaで上映される『LONESOME VACATION』(プロデューサー;森岡龍/監督;下社敦郎)には、このような惹句が躍る。
さかたりさは、本作で「若かりし父親の隣で微笑む見知らぬ女性」と、「その娘である美優」の二役を好演している。すでにドラマ「この初恋はフィクションで...
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監督デビュー100周年記念上映。あの映画の、あの場面の「魔法」が解き明かされてゆく。『ヒッチコックの映画術』
いまなお観る者をスリルに引き込む名匠、アルフレッド・ヒッチコック監督の頭の中にスポットを当てた、実に興味深い一作だ。私は「映画は可能な限り劇場で」派だが、ヒッチコックとスタンリー・キューブリックに関してはDVDのボックス・セットを持っている。どんな伏線がひそんでいるかわからないし、戻したり静止して確認したくなる事項もたっぷりあり、しかも発想がずばぬけているから、自分もこれをどうにかして文章上に影響させることができないかと、目を皿のようにして見てしまうのだ。
ヒッチコック作品における様々な演出法を、「ヒッチコック自ら解説する」というテイなのが、本作『ヒッチコックの映画術』である。イギリス風...
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1970年のロンドンに、アメリカン・ロックの嵐が吹き荒れた。伝説の公演を4Kで完全に復元!
泥臭く、力強く、筋が通っている。根底にブルースへの深い愛情がある。だから私はクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルが好きだ。存続期間は1968年から72年まで。再結成は一度もしていない。はっきりいって過小評価気味だと思うが、その風潮が是正される大きなきっかけになるであろう映画『クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド』が、9月22日から角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開される。
1950年代後半に主要メンバーが出会った頃の話や、前身グループ“ゴリウォグス”について触れられているのも親切だし、そこからクリーデンス(欧米での略称...
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「権力欲と根深い腐敗を巧妙に描いた悲痛な物語」と評された、気鋭監督の長編デビュー作『沈黙の自叙伝』が日本上陸
インドネシアにおける、外面のいい初老の将軍「プルナ」と、使用人「ラキブ」の物語だ。ラキブの父は服役中で、兄は海外に出稼ぎに出ている。そしてラキブはプルナが所有する空き屋敷で、唯一の使用人として働いている。庶民である彼にしてみれば大抜擢だろう。しかもプルナは彼に優しく接する。
が、プルナにはしっかり裏の面があった。冷酷で、無残で、さらなる権力を得るためには手段を選ばないところがあった。それを知って葛藤してゆくラキブの姿が、細かに描き出される。それに、いくらプルナと親しさを深めたところで、ラキブが庶民であり、使用人であることには変わりない。自分たちが住む地域のライフラインを整備してほしいと訴...
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田辺・弁慶映画祭で注目の作品『はこぶね』が、9月9日よりポレポレ東中野で上映。大西諒監督、寺西涼、愛田天麻にインタビューした
気鋭監督の登竜門といわれる第16回田辺・弁慶映画祭で、弁慶グランプリほか3冠を受賞。第23回TAMA NEW WAVEでもグランプリとベスト男優賞(木村知貴)に輝いた一作が、大西諒監督の長編第一作『はこぶね』だ。
すでにテアトル新宿で上映され、話題を集めているが、来る9月9日(土)からはポレポレ東中野で上映されることが決定。それに先立ち、大西諒監督、音楽とカメラ担当の寺西涼、劇中でムードメーカー的な役柄・大友千沙を演じる愛田天麻の三名に話を聞いた。
――この作品に取り組んだきっかけを教えていただけますか。
大西諒(監督 以下 大西) 映画を作る前に10年ほど会社勤めをしていたのですが、そ...
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戦友の怪死の真相を暴くべく、帰還兵が動き出す。彼につきつけられた現実とは……
『ヒトラーの贋札』から15年余り。ステファン・ルツォヴィツキー監督の最新作『ヒンターラント』が9月8日から新宿武蔵野館ほかで全国公開される。
主人公のペーターは元刑事。第一次世界大戦の兵士でもあったが、敗戦により、戦後はロシアの捕虜収容所に閉じ込められてきた。それを終えてようやく故郷に戻ることができたのはいいが、「勝てば官軍」なんとやらで、敗残は敗残だ。家に戻っても、いるはずの家族もなく、「戦後の世の中の流れ」にもついていけない。酒場で飲んでいると、管楽器やドラムの入ったバンドがリズミカルな音楽を演奏していた。「これは何だ?」「ジャズよ」「なんだその音楽は。戦前にはワルツとオペレッタしか...
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天才芸術家の世界にようこそ! 「ダリの世界」に足を踏み入れた美術青年が見たものとは? 『ウェルカム トゥ ダリ』公開
興味の尽きない芸術家、サルバドール・ダリを、おそらくかつてない角度から描いたドラマ映画が公開される。主な舞台は1974年のニューヨーク。ダリと妻のガラに気に入られた青年ジェームスの視点を中心に、物語が繰り広げられてゆく。
ジェームスがいかにしてダリ夫妻と知り合ったかは本編にガッチリ描かれているので割愛するが、なにしろダリとガラのキャラクターが超強烈なので、見ているうちに「ジェームス、大変だったろうな」と感情移入してしまうのは私だけではないはずだ。ダリはもう“晩年”、すでにエスタブリッシュメントの域になって久しく、年上妻のガラも老いが目立ち始めた。なのだがガラは、たいして才能があるとも思わ...
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『トレインスポッティング』やポン・ジュノを愛する中国の才人が放つ、超スリリングな初監督作『兎たちの暴走』
「次はどうなるのか?」と、ハラハラしながら見入った。2020年の第33回東京国際映画祭のワールドプレミアとして上映されて話題を呼んだ作品が、ついに全国公開されることになったのは大きな喜びだ。監督のシェン・ユーは、中国で最も注目されている気鋭であるときく。彼女が初監督作品の題材としたのは、2011年に起きた事件。母と娘が、娘の同級生を誘拐・殺害するという、「事実は小説より奇なり」を地で行くような事柄をベースとして、ときに冷酷に、ときに物語性豊かに描く。
映画の冒頭は、いわば「現在」。事件の後である。そこから一気に時が戻る。舞台は、重工業が盛んな四川省の攀枝花市。父親、継母、弟と決して豊かと...
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アリ・アスター監督が「ヤン・シュヴァンクマイエルとクエイ兄弟の後継者」と称賛するチリ産コンビの、超絶力作『オオカミの家』
要注目のストップモーション・アニメ作品が8月19日から渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショーされる。クリストバル・レオンとホアキン・コシーニャのコンビによる初の長編映画『オオカミの家』だ。
“レオン&コシーニャ”は、ここで監督のほかに脚本、美術、撮影、編集も務め、作品の大部分を二人で完成させたという。ピノチェト軍事政権下のチリに実在したコミューン“コロニア・ディグニダ”(ドイツ系移民を中心とした入植地で、元ナチス党員らが設立)にインスパイアされた作品――それだけで一筋縄ではいかなさが漂ってくるではないか。
わけあって集落から脱走した少女“マリア”が主人公だが、彼女がいか...
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「藤竜也」のスクリーンデビュー60周年第2弾。尾道を舞台に、味わい深い親子の姿を描く『高野豆腐店の春』
スクリーンデビューから60周年を迎えた藤竜也の、今年2本目となる主演作だ。麻生久美子との共演は『猫の息子』以来、26年ぶりであるという。監督・脚本は三原光尋。
舞台は、広島県の尾道。そこにある老舗の「高野(たかの)豆腐店」で夜明け前から豆腐づくりにいそしむ高野辰雄(藤竜也)と、娘の春(麻生久美子)が物語の中心だ。辰雄は物事の好き嫌いが激しく、ときにカッとなる性格だが、それは逆に言えば率直ということでもある。残念ながら妻には先立たれてしまったものの、友人には恵まれている。春はそんな父を堅実にサポートしているが、彼女は、いわば“出戻り”であり、辰雄としては今度こそ幸せな結婚をしてほしいと考え...
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男女が出会い、恋をし、別れ、そして他人に。「別れ」を経験したひとを共感させるに違いない一作『もしかしたら私たちは別れたかもしれない』
英語タイトルは「SOMEONE YOU LOVED」。あなたが愛した誰か、という意味だろう。主人公はジュノ(イ・ドンフィ)とアヨン(チョン・ウンチェ)のふたり。美大で出会い、すぐに意気投合をする。芸術に関するセンスも、性格も、何もかも一致していたのだろうし、毎日が楽しくてしようがなかったに違いない。親友から恋人になるには時間がかからなかった。スクリーンから青春の輝きがあふれ出るのが、この時代の二人を描くシーンだ。
が、これ以降の時代が、この映画のほろ苦さだ。美大を出たからといって美術の第一人者になれるとも、そもそもそれで生活できるとも限らない。30代を迎えたジュノは公務員を目指して浪人生...
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教育の尊さを知らしめる、ブルキナファソ、バングラデシュ、シベリアの女性教師たちの物語。『世界のはしっこ、ちいさな教室』
日本でもヒットした『世界の果ての通学路』公開から約10年。同作の制作チームが、新たな作品を放った。
舞台/中心人物となるのは、「ブルキナファソのサンドリーヌ」、「バングラデシュのタスリマ」、「シベリアのスヴェトラーナ」。3人とも女性教師であり、教え子たちにもっと広い世界を知ってほしいと、毎日、張りのある日々を過ごしている。サンドリーヌはとにかく子供たちに文字の読み書きができるようになってほしいと熱を込め、フェミニストでもあるタスリマは子供や女性にもしかるべき権利が与えられるべきだと語る。スヴェトラーナは極寒の中、遊牧民“エヴェンキ族”の伝統が消えていくのではないかと危惧している。
おそら...