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観る者を1944年の空中戦へと案内! ヴィンテージ機種満載、ド迫力の一作『KG200 ナチス爆撃航空団』
画面から迫力が飛び出してくる、そういうしかない作品だ。1944年当時の戦いを、資料によると「戦闘機の爆破や破壊シーンにおいてすら機体のCG合成はせず、精密なスケールモデルを使用。VFXでその効果を高めはしつつも、極限までCGには依存しない制作スタイルを貫いて」表現したというのだから、こだわりぶりに驚かされる。使われるのは無論、1944年当時の戦闘機。クラシック音楽でいうなら「ショパン国際ピリオド楽器コンクール」みたいなことをしているわけだ。
舞台はナチス占領下のフランス。戦うのはひとりのアメリカ空軍パイロットと、ドイツ空軍秘密部隊。ちなみにナチス・ドイツによるフランス占領は1940年6月...
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知的なアクション・シーンも見もの。リーアム・ニーソンの話題作『ブラックライト』が全国公開
190センチ以上の長身と華麗な身のこなしで、さまざまな役どころを繰り広げてきた重鎮リーアム・ニーソンの最近作のひとつが3月3日から全国上映される。監督・脚本・制作マーク・ウィリアムズ。
今回、ニーソンが扮するのはFBI長官直々に雇われた、通称“フィクサー”と呼ばれる役。潜入捜査をしている秘密捜査官に危険が迫った際、身を挺して救出するという役割を担っている。ある秘密捜査官から聞いた話は、彼を驚かせるに十分なものだった。FBIが一般人の殺人に関わっているというのだ。その捜査官は記者にも情報を伝えようとするが、途中で銃殺されてしまう。やがて“フィクサー”と記者は、極秘プロジェクト“オペレーショ...
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「日の出までに10万人以上の死者を出し、東京の4分の1が焼失した史上最大の空襲」に今、あらためて迫る『ペーパーシティ 東京大空襲の記憶』
「オレンジ計画」の時点でもう日米戦争が相手側のなかで一方的にプログラミング済みだったとしても、それでもミッドウェイぐらいで引き返していたら、少なくとも1945年の惨事はなかった。
自分が生まれる何十年前の同じ日に東京が火の海だった、そう知ったのはおそらく中学生ぐらいの頃だ。東京都江東区の「東京大空襲・戦災資料センター」にも足を運んだことがある。写真もすさまじかったが、文章やイラストの生々しさにも想像力が増幅させられて、見終わったあとに気分が落ち込んだ。だが知っておくべきことがここにあるのだ、という知見も蓄積された。
今回、この空襲をテーマに作品を監督したのは、オーストラリア出身の映画監督...
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自分が「どの側」にいるかで捉え方が逆転するに違いない、147分のリアリズム『逆転のトライアングル』
第80回ゴールデングローブ賞で2部門にノミネート(ミュージカル・コメディ部門の作品賞、およびトイレの清掃婦を演じたドリー・デ・レオンの助演女優賞)。人間の見栄と欲をむき出しにした147分のリアリズム、『逆転のトライアングル』が2023年2月23日よりTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開される。
映画に接する時、あらかじめ、誰(どのキャラクター)が主役かを頭に叩き込んで作品を観るファンも少なくないときく。そうなるとこの作品、どうなるのだろう。見ようによっては主役だらけになるからだ。大きな舞台となるのは、豪華客船。選ばれしお金持ちしか乗船が許されないであろうことは疑いようがないけれど、その...
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女性容疑者と男性刑事が惹かれ合う、背徳の甘い香りに溢れる一作『別れる決心』
甘く切ない138分、そう呼ぶ以外にない力作だ。「背徳」はこんなにも人を生き生きと、危険なほど輝かせるものなのか。本年度のアカデミー賞 国際長編映画賞部門の韓国代表に選出、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で監督賞を受賞したのもうなずける。
舞台は韓国。本当にシンプルに言うと容疑者の中国人女性(夫を崖から突き落としたという容疑)と韓国人男性刑事が惹かれ合う物語だ。先にどんどんのめりこんでいくのは刑事のほうなので、見方によっては女性が彼を色じかけにかけた-----という解釈も成り立つはずだがなあ、と見ていったのだが、「そんな単純なものではないな」と思うまでにさほど時間はかからない。結果とし...
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砂漠の中にある600メートルのテレビ塔の頂上に取り残された友人ふたり。極限状態で考えたこととは? 『FALL/フォール』公開
良いことなのか悪いことなのかはさておくとして、SNSによって愚か者を可視化することが容易になったのは事実だろう。
ダンとベッキーはラブラブの若夫婦。ふたりには共通の親友・ハンターもいる。だがダンは落下事故で帰らぬ人に。ベッキーはそれから1年もの間、涙と酒と自暴自棄の中にいる。もうそろそろ次に進もうじゃないかと、父親もアドバイスを送るが、それもベッキーには逆効果だ。そうしたなか、ハンターがベッキーに「地上600メートルのテレビ塔がある。そこの頂上からダンの遺灰をまいて、新たな一歩に踏み出そうよ」的に誘いかける。
ちなみにハンターはまた、危険で目立つ行為をSNSで動画配信して数万のフォロワー...
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「私の人生を終わらせてくれないか」と、親に頼まれたら? 「安楽死(尊厳死)」をテーマにした一作『すべてうまくいきますように』
1980年代、日本でもアイドル的に親しまれた女優といえばソフィー・マルソー、ブルック・シールズ、フィービー・ケイツあたりだろうか。「そういえば、どうしているのだろう?」と思った方は、ぜひ『すべてうまくいきますように』を観てほしい。往時の面影を残しつつ、すっかり歳月を重ねて、渋みのある女性になったソフィー・マルソーに出会うことができる。監督・脚本は名匠フランソワ・オゾン、2021年度のカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品でもある。
テーマは「安楽死(尊厳死)」だから、相当に重厚な物語展開になるし、こちらの倫理観が問われているような気分にもなる。ソフィーが扮するエマニュエルは小説...
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中国発・いわくつきのクライムサスペンス作『シャドウプレイ』が、完全版として遂に日本上陸
息をのむほど生々しい描写に溢れた、いわくつきの一作が「完全版」として日本公開される。2016年にクランクインし、翌年春に完成したものの、当局から繰り返し修正を迫られ、中国本土で公開されたのは2019年4月のことであるという。3日間で約6.5億円の興行収入を記録するという大ヒット作品となり、日本では2019年の「第20回東京フィルメックス」で初上映されたが、今回は従来カットを余儀なくされていた部分を含む、計129分の「完全版」劇場公開となる。第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品された一作でもある。
とある情事のシーンを経て、舞台は2013年へと移り行く。より洗練された街並みにす...
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突然、愛娘が消えた――巨大化された誘拐ビジネスに、母はひとり立ち上がる。『母の聖戦』公開へ
つい先ほどまで自分のそばにいたひとが、突然消えてしまった。それが血を分けた自分の子どもだった場合、悲哀はどれほどのものか。
身代金目的の誘拐が、メキシコの一部ではビジネスになっているという。犯罪組織が巧妙かつ、ずるがしこく、事を遂行し、警察に助けを求めたところでどうにもならない。裏でガッチリ手を結んでいるからだ。日本で身代金誘拐といえば、昭和の時代はさておき今では少なくとも銀行強盗と並ぶ「すたれた犯罪」である。が、メキシコの一部ではいまだにヴィヴィッドなのだという。2020年に826件の誘拐事件が報告されたそうだが、これは氷山の一角に違いない。
監督のテオドラ・アナ・ミハイは、ルーマニア...
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男気みなぎる怒涛のアクション作『BADCITY』。小沢仁志の”還暦記念映画”が、福岡上映を経て、ついに全国ロードショー
顔・声・アクション、すべて桁違いの迫力(怖さ)。長年にわたり、画面を通じて多くの視聴者を圧倒してきた小沢仁志の還暦記念映画『BAD CITY』が1月20日(金)から東京・新宿ピカデリーほかにて公開される。昨年の12月9日からロケ地の福岡県で先行上映され、評判をとってからの全国順次ロードショーである。
小沢仁志は今回、主演を務めたことに加え、映画の企画段階から撮影のコーディネートまで、文字通りの製作総指揮をとった。さらにオリジナル脚本(製作総指揮・脚本はOZAWA名義)も書いたが、この筋書きがなんともすごい。他の脚本家なら「大御所に、ここまで要求しては申し訳ないのではないか」と尻込みしてし...
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都心からわずか60㎞の場所にある「山間」で生まれるクリエイティヴな交流。『若者は山里をめざす』公開へ
いわゆる「山村」を舞台にしたドキュメンタリー映画だ。個人的には自分の親戚が住んでいる北海道の音威子府村を思い出して親しみも感じたが、この風景が、都心からわずか60㎞、バスや電車を使えば80分でたどりつく場所にあると知った時点で、驚きは一気に増幅される。そう、これは「埼玉県」の話なのだ。大宮とか浦和とかがある県での話なのだ。
東秩父村は、標高600メートルの山が連なる山間にあり、コンビニもないという。いまでは「埼玉県の消滅可能性都市No.1」にも挙げられているという。だがここに、何人ものひとたちが、舞い戻ってきている。ある女性は東京で就職口をみつけたが、故郷を消滅させたくないと戻って来た。...
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現代によみがえる地獄巡り幻想奇譚へようこそ! 映画『餓鬼が笑う』12月24日公開
日常のひとこまを描いた部分と、ありきたりの理解を超えた別世界に連れ出してくれる部分が、入れ子状態になっている作品という印象を受けた。つまり一つ一つの展開が見逃せないし、ある展開と別の展開が実は予想外につながっていたりして、なんというのだろう、横八の字に結ばれたとてつもなく大きな糸の絡み合いを任意にピックアップした105分がこの映画なのだという感じもする。
主人公の大貫大は今にも壊れそうな古いアパートの四畳半に住んでいて、路上で古物を売って暮らしている。通常ならこうした登場人物がヒロインと出会い、恋をしていくのは、物語経過から数十分ほど経った頃ではないかと思うのだが、この映画にとってそれは...