執筆陣
砂漠の中にある600メートルのテレビ塔の頂上に取り残された友人ふたり。極限状態で考えたこととは? 『FALL/フォール』公開
良いことなのか悪いことなのかはさておくとして、SNSによって愚か者を可視化することが容易になったのは事実だろう。
ダンとベッキーはラブラブの若夫婦。ふたりには共通の親友・ハンターもいる。だがダンは落下事故で帰らぬ人に。ベッキーはそれから1年もの間、涙と酒と自暴自棄の中にいる。もうそろそろ次に進もうじゃないかと、父親もアドバイスを送るが、それもベッキーには逆効果だ。そうしたなか、ハンターがベッキーに「地上600メートルのテレビ塔がある。そこの頂上からダンの遺灰をまいて、新たな一歩に踏み出そうよ」的に誘いかける。
ちなみにハンターはまた、危険で目立つ行為をSNSで動画配信して数万のフォロワー...
執筆陣
「私の人生を終わらせてくれないか」と、親に頼まれたら? 「安楽死(尊厳死)」をテーマにした一作『すべてうまくいきますように』
1980年代、日本でもアイドル的に親しまれた女優といえばソフィー・マルソー、ブルック・シールズ、フィービー・ケイツあたりだろうか。「そういえば、どうしているのだろう?」と思った方は、ぜひ『すべてうまくいきますように』を観てほしい。往時の面影を残しつつ、すっかり歳月を重ねて、渋みのある女性になったソフィー・マルソーに出会うことができる。監督・脚本は名匠フランソワ・オゾン、2021年度のカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品でもある。
テーマは「安楽死(尊厳死)」だから、相当に重厚な物語展開になるし、こちらの倫理観が問われているような気分にもなる。ソフィーが扮するエマニュエルは小説...
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アシュレイ・ジャッドの勇気ある証言、そして#MeToo運動へ。ハリウッドの性的暴行事件を暴く『SHE SAID』に本人役で出演【映画スターに恋して:第27回】
2人の女性記者が挑んだハリウッドの大スキャンダル報道を、女性監督が映画化
『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』は、大物映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年隠蔽されてきた性的暴行事件を暴き、後の「#MeToo運動」の起爆剤にもなった、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道を描いた実話映画だ。
ハリウッドに君臨する“巨大な権力者”の悪行を暴くのは至難の業。ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターの女性記者2人は、ワインスタイン側からの脅迫とも思える圧力や妨害に耐えながら、事実を裏付ける証拠の数々を集め続けるが、その努力も実際の被害者たちが証言してくれなければ水の泡だ。...
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中国発・いわくつきのクライムサスペンス作『シャドウプレイ』が、完全版として遂に日本上陸
息をのむほど生々しい描写に溢れた、いわくつきの一作が「完全版」として日本公開される。2016年にクランクインし、翌年春に完成したものの、当局から繰り返し修正を迫られ、中国本土で公開されたのは2019年4月のことであるという。3日間で約6.5億円の興行収入を記録するという大ヒット作品となり、日本では2019年の「第20回東京フィルメックス」で初上映されたが、今回は従来カットを余儀なくされていた部分を含む、計129分の「完全版」劇場公開となる。第69回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に正式出品された一作でもある。
とある情事のシーンを経て、舞台は2013年へと移り行く。より洗練された街並みにす...
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突然、愛娘が消えた――巨大化された誘拐ビジネスに、母はひとり立ち上がる。『母の聖戦』公開へ
つい先ほどまで自分のそばにいたひとが、突然消えてしまった。それが血を分けた自分の子どもだった場合、悲哀はどれほどのものか。
身代金目的の誘拐が、メキシコの一部ではビジネスになっているという。犯罪組織が巧妙かつ、ずるがしこく、事を遂行し、警察に助けを求めたところでどうにもならない。裏でガッチリ手を結んでいるからだ。日本で身代金誘拐といえば、昭和の時代はさておき今では少なくとも銀行強盗と並ぶ「すたれた犯罪」である。が、メキシコの一部ではいまだにヴィヴィッドなのだという。2020年に826件の誘拐事件が報告されたそうだが、これは氷山の一角に違いない。
監督のテオドラ・アナ・ミハイは、ルーマニア...
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男気みなぎる怒涛のアクション作『BADCITY』。小沢仁志の”還暦記念映画”が、福岡上映を経て、ついに全国ロードショー
顔・声・アクション、すべて桁違いの迫力(怖さ)。長年にわたり、画面を通じて多くの視聴者を圧倒してきた小沢仁志の還暦記念映画『BAD CITY』が1月20日(金)から東京・新宿ピカデリーほかにて公開される。昨年の12月9日からロケ地の福岡県で先行上映され、評判をとってからの全国順次ロードショーである。
小沢仁志は今回、主演を務めたことに加え、映画の企画段階から撮影のコーディネートまで、文字通りの製作総指揮をとった。さらにオリジナル脚本(製作総指揮・脚本はOZAWA名義)も書いたが、この筋書きがなんともすごい。他の脚本家なら「大御所に、ここまで要求しては申し訳ないのではないか」と尻込みしてし...
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都心からわずか60㎞の場所にある「山間」で生まれるクリエイティヴな交流。『若者は山里をめざす』公開へ
いわゆる「山村」を舞台にしたドキュメンタリー映画だ。個人的には自分の親戚が住んでいる北海道の音威子府村を思い出して親しみも感じたが、この風景が、都心からわずか60㎞、バスや電車を使えば80分でたどりつく場所にあると知った時点で、驚きは一気に増幅される。そう、これは「埼玉県」の話なのだ。大宮とか浦和とかがある県での話なのだ。
東秩父村は、標高600メートルの山が連なる山間にあり、コンビニもないという。いまでは「埼玉県の消滅可能性都市No.1」にも挙げられているという。だがここに、何人ものひとたちが、舞い戻ってきている。ある女性は東京で就職口をみつけたが、故郷を消滅させたくないと戻って来た。...
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『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、天才マエストロの苦悩と創造性に迫った力作だ。本作を観終えて、もう一度エンリオ・モリコーネが携わってきた映画を観(聴き)直したくなった
今週末(1月13日、金)に公開される『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、数々の名曲を生み出した映画音楽のマエストロ、エンリオ・モリコーネのドキュメンタリーだ。これまでほとんど語られることのなかった彼の生い立ちから、名曲誕生のいきさつ、さらには多くの映画関係者のコメントがちりばめられ、ジュゼッペ・トルナトーレが監督を務めたことも話題となっている。今回は、モリコーネの楽曲を愛する潮 晴男さんに本作をご紹介いただく。(StereoSound ONLINE編集部)
エンニオ・モリコーネの半生を描いたドキュメンタリー映画である。この作品は二人のプロデューサーが企画し、『ニュー・シネマ・パラダイス...
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“一暴れ”後のショーン・ペンにインタビュー、果たしてその結果は? 実の娘が出演する『フラッグ・デイ』では複雑な父娘関係も【映画スターに恋して:第26回】
監督最新作は“インディペンデント映画の申し子”だと改めて感じる出来栄え
ショーン・ペンが、久しぶりに才能を余すところなく発揮した『フラッグ・デイ 父を想う日』。原作は、ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であった父親ジョン・ヴォーゲルとの“関係”を見つめ直した回顧録。ショーンにとっては7作目の監督作であり、初めて出演も兼ねている。この初挑戦については「プロデューサーの強い説得に根負けして、仕方なく引き受けた。予想通り、ずっとエネルギーを吸い取られる感じがしていた」と、あるインタビューで語っている。
なるほど、原作と出会ってから構想15年。娘ジェニファ...