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メル・ギブソン製作総指揮! 全米公開初日興行 収入第1位を記録した社会派話題作がついに公開。『サウンド・オブ・フリーダム』
重鎮メル・ギブソンが製作総指揮を務めた社会派作品。実話に基づいたストーリーであるということだが、描かれる「現実のむごさ」には驚かされるばかりだ。心もアイデンティティもあるのは児童も大人も同様、だが、この映画に登場する「犯罪組織」やそこに属している者には、そんなことなど関係ない。国際的スケールで児童の誘拐、児童の人身売買、児童への性的虐待を繰り返し、儲けを得る。誘拐や拉致といった言葉も浮かんでくるが、親や親せきの立場から言えば、ある日突然、かけがえのない子供が目の前から消えてしまうことになり、子供の立場から言えば、ある日突然見知らぬ人に連れ去られて、船に乗せられ、知らない国の知らない宿に連...
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台湾の町はずれの老舗理髪店とその主人を中心にした、心温まる物語『本日公休』
「こういう店、昔あったなあ。町内の集会場みたいになっていて、みんなが何とはなしに近況を交換して……」。
昭和に生まれ育った私には、なんだか親しみ深い世界がこの映画にはあった。しかも、物語に登場する理髪店には、それに加えて「猫」がいて、客を招いているのだ。猫映画として捉えることも可能だろう。
舞台となっているのは、台中にある老舗理髪店。店主のアールイは40年にわたって切り盛りしている文字通りのベテランで、店を訪れる老若男女に対応し、小気味よいハサミさばきをみせる。もっとファッショナブルでトレンディなバーバーショップはほかにもあろうが、アールイの名人芸を求めてやってくる顧客のあとはたたない。...
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森と巨象のウェスタン! ファンキーな音楽も異彩を放つ、南インド映画の新潮流。『ジガルタンダ・ダブルX』
約3時間という長さはインド映画の常なのかもしれないが、音楽にはいささか驚いた。ファンク、ソウル・ミュージック、ディスコといった1970年代に大流行したアフリカ系アメリカ人大衆音楽の数々を意識して作られたであろうサウンドトラックが大きくフィーチャーされているのだ。ヴォーカリストのシャウトは時に、まるでジェイムズ・ブラウンである。
そして内容も、「クリント・イーストウッドとサタジット・レイの出会い」という前評判を裏切らない。この場合の“イーストウッド”とは、「夕陽のガンマン」か「ダーティハリー」か。クリント・イーストウッドとサタジット・レイの両者を好む粋な映画ファンの、その中の何パーセントか...
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「秋葉美希」の初監督作品『ラストホール』。亡き父の足跡を追うロードムービーだが、ひねりもたっぷり
『退屈な日々にさようならを』(17年公開)、『少女邂逅』(同)などに出演した秋葉美希が主演・監督・脚本を兼ねた一作で、これが彼女にとっての初めての長編監督作品となる。若手監督の登竜門である「第17回田辺・弁慶映画祭」でキネマイスター賞を受賞し、このたび9月6日から12日にかけてテアトル新宿、22日と23日にテアトル梅田にて劇場公開される。
秋葉美希が演じる暖は、元ダンサー。亡くなった父親との関係は決してスムーズなものではなかったことが、冒頭の数分で、もう浮かび上がってくる。だから、ある意味、「ほうっておいた」。が、それでも父は父だ。死から6年が経ったころ、彼女は、故郷からやってきた幼なじ...
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台湾の手描き看板絵師・顔さんの肖像。「職人」の深淵に触れる一作『顔さんの仕事』
「職人の姿」に接して、こちらの気持ちも引き締まる。幼い頃から絵を描くのが大好きで、映画も大好き。1970年代から手描きの映画看板で、台南の映画館「全美戯院」に数多くの映画ファンを呼び込んできた顔振発(イェン・ヂェンファ)氏にスポットを当てた一作だ。
キャリアは50年以上、しかも台北映画祭(台北電影節)では貢献賞に輝いている。だが、少しも偉ぶらず、淡々としゃべり、黙々と描き続ける。新しい看板(キャンバス)を使っているわけでもないので、前の絵の上に書き足したりもするのだが、その「前の絵が、これから完成するであろう絵に変容していく過程」も実にスリリングだ。ただ、この仕事は視力に大きな負担をかけ...
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KARAのハン・スンヨンも快演。隣の部屋の騒音から始まるラブ・コメディ『壁越しの彼女』
少女漫画のような展開に、なんだかとてもまぶしい「青春」を見たような、爽快な気持ちになった。内容はまさしく邦題通り。オーディションを控えている歌手志望の男性スンジンと、その隣の部屋に住む女性ラニの物語だ。ふたりの住んでいるアパートは見た感じ、天井も高く、光の入り方も良いのだが、壁が相当に薄いようで、隣の声がまる聞こえ。だからスンジンの歌の練習や友達との会話も、ラニの鳴き声も聞こえてくるし、そうなると互いのことがどうしても気になってくる。
初めの頃こそ壁越しに「静かにしてくれないか」的なけんか腰の言い合いを繰り広げたふたりだが、スンジンの部屋に遊びに来る友達の雰囲気やラニの部屋に来る姉の話な...
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リゾート、飛行機、サヴァイヴァル、サメ! “詰み系”スリラーの最新作『エア・ロック 海底緊急避難所』
7月開催の『第一回東京国際サメ映画祭』オープニング作品として上映され、観客を大いに驚かせたという一作。これほどの情報量を、よく90数分に収めたものだと思う。
大型旅客機の行先はメキシコのリゾート地。中心人物は州知事の娘で卒業旅行のために機上の人となったエヴァ、祖父母と一緒に旅する10歳の少女・ローザ、同性婚を夢見るCAのダニーロ。彼らに限らず、誰もが目的地に到着後の楽しい計画を頭に描いていたはずだ。が、鳥が激突したことによって、旅客機は2万フィートから一気に海の中へ。いかにも恵まれたひとたちの、幸せになること間違いなしだった旅物語が一転、阿鼻叫喚となる。
物語の焦点はそこから、奇跡的に命...
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これを観れば作曲家・ラヴェルがわかる。世紀の問題作にして名曲「ボレロ」誕生に迫る『ボレロ 永遠の旋律』
一度聴いたら忘れられないリズム・パターンとメロディ、反復の面白さ……。モーリス・ラヴェルの名や「ボレロ」という表題を知らなくても、この曲を聞いたことがある人は世界中にあふれているはずだ。個人的には、ジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」と共に、クラシック音楽とジャズの間に橋を架けた楽曲という印象も持つ。この映画は、作曲家ラヴェル(発音は、「ヴェ」にアクセントがつく)が「ボレロ」を制作していく過程と、当時の評判、そして晩年の姿にスポットを当てた劇映画である。
ラヴェルは1875年生まれ、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「水の戯れ」、「マ・メール・ロワ」、「夜のガスパール」な...
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果たして人類は進化したのだろうか? イギリス製アニメーション『風が吹くとき』が日本語版にてリバイバル上映
すさまじい作品だ。1986年に英国で制作されたアニメーションで、作者は「スノーマン」や「さむがりやのサンタ」でも知られるレイモンド・ブリッグズ。これだけなら別に「すさまじい」という気持ちは湧いてこないと思うが、これが「核爆弾が落ちてくる」ストーリーであり、しかも監督のジミー・T・ムラカミが長崎に住む親戚を原爆で亡くしているとなると(しかも彼は日系アメリカ人である)、被爆国に生まれたこちらにとっては、話が違う。作品がぐっと多層的に、巨大化して目前に迫ってくる感じだ。
主人公は自然たっぷりの、イギリスの片田舎に住む老夫婦。夫には従軍経験があるものの、勝ってきたのでどこかで「戦争はかっこいいも...
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ハーバート原作の大作SF小説と、リンチ監督の出会い。いわくつきの一作が4Kリマスターで上映。『テアトル・クラシックス ACT.4』
歴史的な作品が4Kリマスターで、劇場で楽しめるのは実にうれしいものだ。「映画化不能」ともいわれていたというフランク・ハーバート原作の超大作を、アナログの時代に、コスチュームにしろメイクにしろアングルにしろ、これほどまでに凝りまくって撮っている。膨大なキャストとスタッフのチームワークによるたまものであろう。
私は『砂の惑星』とうもの存在を、小説や映画よりも先に、デヴィッド・マシューズというアレンジャーのアルバム『Dune』で知った。1977年発表の作品で、国内盤にも翌年には出ていたと思う。後年、ヒップホップのサンプリング・ソースとしても愛されるようになった一枚だ。この映画『砂の惑星』の制作...
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90歳の造形作家、村瀬継蔵が総監督を務めた圧巻のファンタジー作品『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』
『マタンゴ』、『大怪獣ガメラ』、『仮面ライダー』、岡本太郎「太陽の塔」内部の「生命の樹」などに携わった現在90歳の造形作家、村瀬継蔵が総監督を務めた一作。1970年代に香港・ショウブラザーズ(中平康の名前を思い出す方もいらっしゃるだろう)のプロデューサーに依頼され、書き留めたプロットを基に、いま現在の息吹を加えたファンタジー作品だ。
ストーリーの軸となるのは、「今は亡き特殊美術造形家の時宮健三」、「その孫娘だが、健三の仕事の尊さをよくわかっていない朱莉」、「朱莉の同級生で、大の特撮ファン。もちろん健三のことを大リスペクトしている卓也」の存在か。やがて朱莉と卓也は、「健三が映画を作ろうとし...
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ホロコーストを生き延びたポーランド人の隣に越してきたドイツ人は、ひょっとして……? 『お隣さんはヒトラー?』
原題は「My Neighbor Adolf」。隣人アドルフ、というニュアンスか。舞台は1960年の南米コロンビア、ちょうどアイヒマンがイスラエルの諜報機関に発見された頃の話だ。主人公のポルスキーはホロコーストで家族を失ったポーランド人。ある日、その隣にドイツ人がやってきた。ちょび髭ではないし、あの髪型もしていなかったし、あの口調でもなかったが、あの冷たいまなざしは、彼の知っている「あの男」そのものだった。というのは、「あの男」とポルスキーは一度、面識があったからだ。しかも隣人と「あの男」は、やけに多くの特徴が共通しているのだった。
定説が「妻との自殺」だとしても、実は逃げながら歳を重ねて...