執筆陣
台湾の手描き看板絵師・顔さんの肖像。「職人」の深淵に触れる一作『顔さんの仕事』
「職人の姿」に接して、こちらの気持ちも引き締まる。幼い頃から絵を描くのが大好きで、映画も大好き。1970年代から手描きの映画看板で、台南の映画館「全美戯院」に数多くの映画ファンを呼び込んできた顔振発(イェン・ヂェンファ)氏にスポットを当てた一作だ。
キャリアは50年以上、しかも台北映画祭(台北電影節)では貢献賞に輝いている。だが、少しも偉ぶらず、淡々としゃべり、黙々と描き続ける。新しい看板(キャンバス)を使っているわけでもないので、前の絵の上に書き足したりもするのだが、その「前の絵が、これから完成するであろう絵に変容していく過程」も実にスリリングだ。ただ、この仕事は視力に大きな負担をかけ...
執筆陣
「父の死」「先生の死」を経て、全身全霊で毎日を生き抜くふたりの女性を暖かなタッチで描く『消えない灯り』
「これは、ひとごとではないぞ」と思う。過疎化が進む地方都市。その地方都市で亡くなっていく親。都会で働く子供。残された実家。まさに「現代日本の問題」が横たわっている。
が、この映画は、それを観るものに厳しく突き付けてゆくのではなく、実に温かく、まろやかに描いている。現実の切なさ、鋭さを映し出しながらも、まっとうな人間ならば共感できるに違いない「心情の核」のようなものを描いている。だから観終えた後、さわやかな気分になる。
主人公の花村茉莉を演じる織田美織は、本作が初主演作品とのこと。この映画のムードは、平田満が演じる亡き「父親」によって設定されている。教師をしていた、誠実な人物。父と母は別れ...
執筆陣
「愛ってなに?」「好きってなに?」。東京から遠く離れた小さな町を舞台に描かれる、痛くて、儚くて、もどかしい、彼らの青春の最終章『きみは愛せ』
葉名恒星監督の映画『きみは愛せ』が、1月28日(金)からアップリンク吉祥寺ほかにて公開される。リサイクルショップで働く無欲な男・慎一(海上学彦)、スナックで働きながら好きな人を待つ毎日を過ごしている慎一の片想い相手・凛(兎丸愛美)、雀荘で働く凛の兄で慎一の同居人の朋希(細川岳)という若者を中心に、兄妹の親代わりをしつつ凛と不倫関係にもある弘志(髙野春樹)なども登場する濃厚な群像劇で、カナザワ映画祭と金沢市竪町商店街が2019年から発足させた「期待の新人監督スカラシップ」第1回作品に選出され、企画製作された話題作だ。
凛を演じる兎丸愛美は、『シスターフッド』『COME & GO カム・アン...