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クリストファー・ノーラン最新作『TENET テネット』はトンデモ映画!? 恐ろしいほどの発色と見晴らしは絶対にIMAXで“体験”すべし【先取りシネマ 第11回】
新型コロナで世界中が揺れるなか、勝負に出たクリストファー・ノーラン
『ダークナイト』『インセプション』『インターステラー』『ダンケルク』などでこの10数年の映画界を牽引してきたクリストファー・ノーラン監督の最新作『TENET テネット』が9月の18日、いよいよ日本公開される。
世界の映画界を停滞させる新型コロナ・パンデミックのなかで、米国での公開日も再々延期され、欧州、中東、東南アジアから一週間ほど遅れる9月3日になった。
リスクを回避し、さらに公開時期を延ばす考えもあっただろう。『インセプション』の1億6,000万ドル、『インターステラー』の1億6,500万ドルをしのぐ2億500万ドル...
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『イップ・マン 完結』で“最高のドニ―・イェン”もついに見納め。ブルース・リーの怪鳥音も轟くファン必見の1本!【先取りシネマ 第10回】
香港映画界を生き抜いてきた伝説のスタッフが揃う
最後に「劇終」の文字が出たときに、心のなかで終わらないでくれー! と叫んだよ。いまでは数少ないものになってしまった広東語で語られる、香港映画らしい香港映画。
いいシリーズだったなあ。ドニー・イェン最高の当たり役だったともいえる。『イップ・マン 序章』(2008年)でスタートしたイップ・マン・シリーズの最終第4作。ファンはシリーズを順番に観てきているだろうけど、簡単に振り返ると実在の中国武術家・葉問(1893年~1972年)の半生を描く過去の3本はこんな感じで進んできた。
『イップ・マン 序章』(2008年/日本公開2011年2月)
1938...
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若き天才グザヴィエ・ドラン、錚々たる演者を揃えて初の英語作品『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』に挑む【先取りシネマ 第9回】
「恐るべき子ども」と呼ばれた彼が追い続けるテーマとは
2009年、20歳になったばかりのときに、母の愛への渇望と拒絶を描いた第1作『マイ・マザー』を演出、脚本、主演、製作で発表。カンヌ映画祭で評判を呼び、その後も創意に富んだ意欲作を放ってアンファン・テリブル(恐るべき子ども)と呼ばれたグザヴィエ・ドラン7本目の監督作品『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』が公開される。
1989年3月20日、フランス語文化圏であるカナダのモントリオール生まれ。今年31歳になるドランのキャリアは、1.演出と主演を兼ねたもの(『マイ・マザー』『胸騒ぎの恋人』『トム・アット・ザ・ファーム』)、2.演出のみのもの(...
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アカデミー賞も視野に入る『ジョジョ・ラビット』、“ナチスシンパ”の10歳の少年の目を通してユーモアたっぷりに戦争を描く【先取りシネマ 第8回】
トロント国際映画祭で大賞を受賞!
毎年9月にカナダで開催されるトロント国際映画祭。特徴は大賞のピープルズ・チョイス・アワードが来場者の投票によって選ばれる観客賞であることだ。
この10年間の受賞作には『英国王のスピーチ』『それでも夜は明ける』『ルーム』『ラ・ラ・ランド』『スリー・ビルボード』『グリーンブック』と、翌年のアカデミー賞を席巻した話題作がズラリ。そのためオスカーに最も近い映画祭といわれている。
ノア・バームバック監督のNetflix配信作品『マリッジ・ストーリー』やポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』と競い、2019年の同賞に輝いたのが、タイカ・ワイティティ監督による...
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殺人ピエロと“負け犬クラブ”、27年越しの死闘のゆくえは──『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』【先取りシネマ 第7回】
故郷を離れ、別々の時間を生きていたメンバーだったが……
前作『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でも、この続篇『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』でも、観たひとは“IT”(それ、ヤツ)とは何だったのかと考えるだろう。
1989年の夏から、27年後の2016年に。“ルーザーズクラブ(負け犬クラブ)”の7人は40代になり、それぞれの人生を送っている。
殺人ピエロ、ペニーワイズに弟をさらわれたビルは、ホラー小説家&映画脚本家として(ジェームズ・マカヴォイ)。父親から性的虐待を受けていたベヴァリーは、服飾デザイナーとして(ジェシカ・チャステイン)。おしゃべりな...
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実話ベースの必見サスペンス『ホテル・ムンバイ』&『エンテベ空港の7日間』―憎しみと暴力の果てに血を流すのは誰なのか?【先取りシネマ 第6回】
歴史は強者によって作られてきた。いやいや国家も生物も、強者はいつしか滅び去る。強者と弱者、知恵は何をもたらすのか。憎しみの連鎖の果てにあるものは?
いろいろなことを考えさせられ、かつ映画としてたいへん面白い快作2本を観た。共に実際に起きた事件を下敷きにした作品だ。秋口にぴったり。損はないので、強力にオススメしたい。
世界に衝撃を与えたインド・ムンバイの同時多発テロ
『ホテル・ムンバイ』は、2008年の11月26日、インド西海岸の大都市ムンバイ(昔のボンベイ)で起きた同時多発テロ事件を扱った力作だ。
1947年からたびたび武力衝突が起きている隣国パキスタンから潜入した10人の若者たち(イス...
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新生『チャイルド・プレイ』は'88年版の心酔者たちが作り上げたホラー愛あふれるリブート作【先取りシネマ 第6回】
『IT/イット』の製作陣&彗星のごとく現れた新鋭監督がタッグを組んだ!
米国では1988年の11月に、日本では翌年5月に公開された『チャイルド・プレイ』。やっと買ってもらえたおしゃべり人形が、ナイフをふりかざし襲いかかってくる! 10歳くらいでTVの洋画劇場でコレに出会い、トラウマになったひとも少なくないのではなかろうか。
そんなヒット作が同じタイトルでリブートされた。ホラー映画のいいところは作り手もお客もこのジャンルが大好きだー! ということだけれど、この新作も同様だ。
プロデューサーのデヴィッド・カッツェンバーグ(1983年生まれ)とセス・グレアム・スミス(1976年生まれ)は、製作...
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『ジョーカー』も期待のホアキン・フェニックスが、『ドント・ウォーリー』で演じた“パンクなアル中漫画家”の格好良さは必見!【先取りシネマ 第5回】
“○○依存症”はいつ誰がなっても不思議ではない
もともとそれほどバカ飲みをするほうではないし、まずは自分から調べてみよう。
アサヒビールのHPの隅っこのほうに「人とお酒のイイ関係」というコーナーがあり、そこに掲載されているふたつの「アルコール依存症自己診断テスト」をやってみた。
これなら軽いもん。出てきた答えは、ホントかよ! 「危険性の高い飲酒者群」と「要注意群」。まあ、依存症というのは脳内に快楽ホルモンであるドーパミンが出て、やがてそれを目的に自己コントロールができなくなる病だから、まだ大丈夫だろう、たぶん。
お酒だけではない。タバコや薬物、ギャンブル。恋愛やセックス。買い物やインター...
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アカデミー賞はこれしかない!『グリーンブック』が灯す希望の火と名優たちが織り成す最高のアンサンブル【先取りシネマ 第4回】
久保田流・アカデミー賞主要部門を完全予想
今年のアカデミー賞(日本時間2月25日発表)の行方はどうなるのだろう。予想を難しくしているのは、作品賞ほか計10部門にノミネートされているアルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA/ローマ』の存在だ。
出来映えはすばらしいのだけれど、興行と関係のないNetflixオリジナルの配信作品がハリウッド村でどのくらい支持されるのかが分からない。昨年の第90回開催で、ロシアのスポーツ・ドーピング問題を追った『イカロス』がドキュメンタリー長編賞を受賞したりと、風穴が開きつつあるのは確かなのだが。
よし、とにかく主要部門を無理くり予想してみよう。
監督賞と外国語...
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ISに家族を奪われ性的奴隷にされた女たちが反撃の狼煙を上げる!『バハールの涙』が描く過酷な戦い【先取りシネマ 第3回】
戦場ジャーナリストとともに紡ぎ上げた脚本
冒頭、黒味の画面に轟々(ごうごう)とした風の音が響く。画面が明るくなると、眠っているのか、気を失っているのか、埃まみれの女の顔が映し出される。これが本作の主人公のバハールだ。
2014年の8月。イラク北部で、IS(イスラミック・ステート)の襲撃を受けたヤズディ教徒5000人以上が殺害され、少女を含む約6000人の女性が性的奴隷として拉致、虐待される事件が起きた(ISが衰退した現在でも、半数近い女性の安否はわかっていない)。
この『バハールの涙』は、同事件のあとISの占領地から命からがら逃げ出し、銃を手に戦うことになった女性戦闘部隊の3日間を描いた...
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この秋イチ押しの『ア・ゴースト・ストーリー』は、これまで観たこともない風変りで切ない異色作!【先取りシネマ 第2回】
愛する者と別れる苦しみを独自の視点で切り取る
仏教用語に「哀別離苦」という言葉がある。愛する者と別れる苦しみや悲しみのことだ。
家族や友人、同僚、恩師。生活を共にしたペット。縁の多くはいつしか途絶え、命あるものは必ず息絶える。分かれ道はいくつかあったけれども、人生は一度きり。そこでひとは出会いと別れをくり返してきた。
この秋、指折りの一本といえるんじゃないかな。『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』は、テキサスの空の下で哀別離苦を考えたたいへん面白く、風変わりで、切ない作品だ。
ケイシー・アフレック&ルーニー・マーラの演技が光る
演出と脚本、編集は、米国で新作の『ザ・オ...
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音を立てたら、即死―『クワイエット・プレイス』は全米特大ヒットの戦慄ホラー【先取りシネマ 第1回】
深い考察で読者を唸らせてきた映画評論家・久保田明さんの人気連載「映画の交叉点」を、今回より「先取りシネマ」に変更。厳選した新作映画を、独自の視点で深堀りします。(Stereo Sound ONLINE 編集部)
会話さえも許されない世界。一体何が起きているのか?
秋。落ち葉が舞い積もる田舎町のスーパーマーケット。ひとけのない店内で、3人の子どもを連れた母親が数少ない商品から日用品や薬を選んでいる。あたりを警戒する父親もいる。
手話で会話をする彼ら5人は、店から出ると一列になり注意深く歩き始める。全員が裸足だ。とにかく音を出さぬよう、目配せをしながら森の小道を進んでゆくのだが……。
一家は...