ソニーはCES2022で、同社製テレビ「BRAVIA XR」の新製品を一挙発表した。液晶テレビ3シリーズ、有機ELテレビ3シリーズという構成で、ミニLEDバックライトや新型有機ELパネルといった新しいデバイスを採用している点も注目される。そしてこれらの様々なデバイスの使いこなしの肝になるのが、映像エンジン・認知特性プロセッサー「XR」だ。

 今回は新BRAVIA XRの詳細と、認知特性プロセッサー「XR」の特徴について、ソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部の皆さんにリモートインタビューをお願いした。対応いただいたのは、HES技術戦略室 Distinguished Engineerの小倉敏之さん、商品企画部門 副部門長 鈴木敏之さん、商品企画部門 Display商品企画1部 統括部長 野村泰晴さん。(編集部)

麻倉 今年もインタビューにご対応いただきありがとうございます。今日はCES2022で発表された、ソニー「BRAVIA XR」新製品についてじっくりうかがいたいと思っております。

野村 テレビの商品企画を担当している野村です。BRAVIA XR関連について私からご説明いたします。

 今回のCESでは、現地時間1月4日に6つのBRAVIA XR新シリーズを発表しました。これまでも色々なデバイスを使いこなしてきたソニーだからできることとして、有機EL(OLED)、液晶、ミニLEDバックライト液晶、そして後ほど紹介しますが、新方式の有機ELパネル搭載機を揃えています。

麻倉 まずは、各シリーズの型番と特徴を教えてください。

野村 液晶テレビとして、ミニLEDバックライト搭載機が2シリーズあります。8K解像度が「Z9K」で、4K解像度が「X95K」になります。この他に通常のバックライトを搭載した4Kモデルの「X90K」シリーズがあります。

 有機ELテレビはすべて4K解像度で、新型有機ELパネルを搭載した「A95K」と、従来同様の白色パネルを使った「A90K」と「A80K」シリーズになります。

 これらのデバイスを使いこなして、お客様に没入体験をきちんとお届けするというところを、認知特性プロセッサー「XR」との組み合わせで実現していきます。

画像: CES2022で発表されたBRAVIA XRのラインナップ

CES2022で発表されたBRAVIA XRのラインナップ

麻倉 このラインナップはとても面白いですね。有機ELテレビが3シリーズあって、液晶テレビもバックライトと解像度の違いで3シリーズ準備されている。こんなにバラエティに富むメーカーは他にありません。

野村 これだけの種類のデバイスを使いこなすことができるのは、認知特性プロセッサー「XR」の恩恵です。これは“認知できる”プロセッサーとして、現行モデルでも画質改善に使っていましたが、今回はさらに進歩しました。

 画質面はもちろんですが、その他にも同梱・オプションで発売予定のBRAVIACAMを組み合わせることで、ユーザーが見ている環境、座っている位置まで分かるようになります。そういった情報を踏まえて、お客様に最適なコンテンツ体験を届けることができるのです。

麻倉 なるほど、去年までは表示する信号の内容を見ていたけれど、今年からはユーザーの視聴環境、どんな風にテレビを見ているかまで認知できるのですね。

野村 「Ambient Optimization Pro」という機能でユーザーの位置に合わせて音場を作っていく、またユーザーのジェスチャーを認識してインターフェイスとして使うといったことも、今後のソフトアップデートでの追加を予定しています。

 認知するインプットの中に、画面の映像だけでなく、ユーザーの状態も含まれるというのが、今回の大きな進化点だといえます。

麻倉 部屋の中に数名のユーザーがいる場合は、音場は平均化されるのですか?

野村 従来は画面の正面にいる人に向けて音場を作っていましたが、今回のAmbientOptimization Proでは、2人座っていたら、なるべく均等に音が届くようにするという考え方を採用しました。

麻倉 一歩進めて、液晶テレビの視野角改善にも応用して欲しいですね。ユーザーが斜めの位置に座っていたら、パネル側でコントラストをそこに向けて最適化するといった機能が欲しい。

野村 現在アイデアを絶賛募集中ですので、参考にさせていただきます。そういった機能を通して、テレビ側でユーザーの状況に即した、最適なコンテンツを提供していきたいと考えています。

 また、テレビとオーディオ商品の連携も始まっています。先日発表した4.0chシステムの「HT-A9」やサウンドバーの「HT-A7000」、日本未発表の「HT-A5000」などには、独自の「360 Spatial Sound Mapping」技術を搭載しました。

 これはファントムスピーカーを創り出すことで豊かなサラウンド空間を再現するもので、HT-A9では4台のスピーカーで最大12個のファントムスピーカーによる音場をお楽しみいただけます。

 今回のBRAVIA XR新シリーズでは「AcousticCenter Sync」機能にて、テレビのスピーカーをそれらのシステムのセンタースピーカーとして使えますので、セリフを画面に定位させながら、同時に立体音響をリビングの中に創ることができます。

 この「Acoustic Center Sync」と360 Spatial Sound Mappingを連携させることで、さらにー体感のある音場再現を目指しているのです。これができるのも認知特性プロセッサー「XR」の力です。

画像: 新製品に搭載された新機能たち

新製品に搭載された新機能たち

小倉 HES技術戦略室の小倉です。ここからは私が、認知特性プロセッサー「XR」についてご説明したいと思います。

 その前に、2022年新製品の各モデルについて少し補足します。今回は、4種類のディスプレイパネルを採用しました。どれもまったく違うデバイスなので、それぞれの特徴をきちんと理解して使いこなすことができないと、いい絵をだすことは難しいのです。

 たとえば現在の有機ELパネルには、RGB方式と白色方式、新型有機ELの3種類があります。RGB方式は3色それぞれの画素が発光するもので、白色方式は発光層が白色で、そこにカラーフィルターを組み合わせます。新型有機ELパネルは、発光層はB(青)で、R(赤)とG(緑)はQD(量子ドット)フィルターで偏光して3原色を取り出しています。この3つのパネルは有機ELという意味では同じですが、色を再現する仕組はまったく違っています。

 液晶には、バックライトを全面発光させるタイプと、分割駆動型がありました。このふたつは、バックライトを分割駆動しているかどうかの違いでした。今回のミニLEDバックライトは、その名の通り小さなLEDをバックライトに使って、分割数を増やしています。液晶パネルの構造という意味では3つとも同じだけど、バックライトの仕組が違っているということになります。

麻倉 ひとつ確認したいのですが、他社の新製品ではミニLEDとQDフィルターはセットとして扱われています。今回のBRAVIA XRでは、ミニLEDモデルにもQDフィルターは使っているのですか?

小倉 そもそもミニLEDバックライトとQDフィルターは別の技術です。液晶ではカラーフィルターで色を再現していますので、そこにQDフィルターを使うかどうかは商品の企画に応じて選べばいいと思っています。

 これらのパネルデバイスはそれぞれ違う特性を持っていますから、構造的な問題だけではなく、駆動するアルゴリズムや信号処理が重要であるということをご理解いただければと思います。

麻倉 とはいえ、すべてのパネルの使いこなしをゼロから開発していたらたいへんですよね。どうしても合理的な設計手法、共通化技術といったものが求められると思います。

小倉 一番重要なのは評価技術です。そもそも画質評価をどのような映像で行うかや、それをきちんと評価する目を持った技術者が揃ってないといけません。これは一朝一夕でできるものではありませんが、弊社にはそれを何十年もやってきたスタッフがいますし、プロフェッショナルな領域の方々と協業しているという点も大きいと思います。

 ディスプレイデバイスの使いこなしという点でも、社内にはブラウン管時代、あるいは液晶やプラズマの初期からテレビを手がけているスタッフがおります。彼らが評価をした結果から、デバイスをどのように使い込めばいいかを引き出して、それを組み合わせて最高の使いこなしを実現するというアプローチで進めています。

麻倉 確かに御社には、デバイス評価や使いこなしのノウハウについての膨大な経験がありますからね。

小倉 ひとつの例として、2016 年に発売した「Z9D」シリーズで「Backlight Master Drive」という技術を開発しました。これは直下型LEDのひとつひとつを独立してコントロールすることで高コントラストと高輝度を実現したものです。

 ただし、この頃は光源が通常サイズのLED だったので、そのままでは光が拡散してしまいます。そこでディンプル構造を作ってLEDバックライトの照射範囲をあえて絞り、光の方向を制御しました。

 今回のミニLEDバックライトでも同様のことを実現しています。ミニLEDは液晶層との距離を近づけることができるので、光の拡散を防止できました。これにより光の方向をきちんと制御し、ディンプル構造と同じような効果を得ています。

 弊社としてはこういった光の制御と、多分割した時のLEDバックライトの使い方についてのノウハウの蓄積がありますので、ミニLEDモデルに関しても、それらを活かしています。

麻倉 8KモデルのミニLEDバックライトの分割数はどれくらいになるのでしょう? これまで各社を取材した印象では数千はありそうですが。

小倉 すみません、バックライトの数値は公表していないのです。でも、いっぱいあります(笑)。

麻倉 そうですか(笑)。では、他にミニLEDにはどんなメリットがあるとお考えですか。

画像: 今回追加された新型有機ELパネルを含め、ソニーでは様々なテレビデバイスを採用してきた。上はそれぞれのパネルの特徴をわかりやすく整理したもの。2022年のBRAVIA XRでは右端の新型有機ELパネルとミニLEDバックライト液晶パネルが追加される

今回追加された新型有機ELパネルを含め、ソニーでは様々なテレビデバイスを採用してきた。上はそれぞれのパネルの特徴をわかりやすく整理したもの。2022年のBRAVIA XRでは右端の新型有機ELパネルとミニLEDバックライト液晶パネルが追加される

小倉 パネルを薄くできるのも、ひとつの特徴です。これを活かしてセットを薄く仕上げるというのもいいアプローチですが、今回は画質にこだわって、光の制御を徹底して、ブルーミングが起きないように、かつ明るくするという方向を目指しました。

 従来のバックライト制御では、明るくするとどうしてもブルーミングが出てしまいます。われわれはBacklight Master Driveの開発の際に、このバランスがひじょうに難しいということを経験していました。そのための対策もいろいろ検証してきましたので、今回はそれを採用しています。

 また認知特性プロセッサー「XR」なら緻密なバックライト制御が可能ですので、それを活かしてミニLEDバックライトで、明るくてブルーミングの起きない製品に仕上げることができました。

麻倉 エッジの部分を検出して、そこは光らせないといった制御をしているのですか?

小倉 エッジの光り方をうまく加減するというやり方です。エッジを光らせないようにすると、隣の光が漏れ込んでブルーミングを起こします。そこをどのように見せるといいのか、絵柄によってバックライトをコントロールする方法を細かく変えています。

麻倉 素晴らしい! Z9Kシリーズの絵を早く見てみたいですね。

小倉 続いて新型有機ELですが、先ほど申し上げた通り発光層は青色です。青い光はそのまま透過し、緑と赤に関してはQDフィルターで色を変換して出すという構造です。

 QDは大きさでどんな波長に偏光するかがきちっと決まりますから、急峻な波長特性を持たせることができます。それがQDフィルターの特長で、広色域を実現できる大きなポイントになっています。

 また、視野角の改善にもつながりました。カラーフィルターを通すと拡散の問題で横方向の視野角が制限されてしまうのですが、QDフィルターの場合には自発光のようにふるまうので、視野角を広くできます。これまでの有機ELもそれほど特性は悪くなかったのですが、新型有機ELパネルならさらに良好な視野角を実現できます。

麻倉 色特性も改善されると思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

小倉 色域としては、BT.2020の80〜90%をカバーできると思います。

麻倉 明るさも向上しますか?

小倉 普通のカラーフィルターは波長の中のある部分しか取り出さないので、光の利用効率が悪くなります。しかしQDフィルターは基本的には波長変換なので、効率がひじょうにいい。ですので、明るさにも有効です。

 また新型有機ELパネルでは最大輝度を再現する際にRGBで白を再現します。つまり単色も最大輝度で光らせることができるので、ひじょうに明るくなります。

麻倉 今回のラインナップでは、トップモデルの「A95K」が新パネルで、他は白色発光パネルです。ラインナップごとにパネルを使い分けるという方法を今後も踏襲していくのでしょうか?

小倉 商品企画に関わることなので私が断言はできませんが、白色発光パネルも最近は輝度がかなり明るくなってきています。その意味では新パネルと白色発光パネルにそれぞれいいところがありますので、使い分けていくことになると思います。

麻倉 以前、あるパネルメーカーを取材した時に、彼らはぜひソニーに自分たちのパネルを使ってもらいたいといっていました。というのもソニーほど度量深くパネルを使いこなして、いい商品に仕上げてくれるメーカーはないというのです。今回のパネルの製造元も喜んでいることでしょう。

小倉 今回の新型有機ELテレビパネルに関しては、開発段階から供給メーカーさんとタッグを組んで進めてきました。デバイスで気になった部分は改善していただき、使いこなしについては弊社でしっかり検証するという形で物作りを進めていきます。

 パネル開発に関わった人間によると、毎週ミーティングをやって、先方の工場に何度行ったか分からないほどだそうです。それがあったからこそ、今回の使い込みが実現できていると思います。

※後編に続く。

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