CESのテレビ動向を読むと、絵づくりに新しい傾向が表れてきたことが分かる。「奥行」指向だ。

 TVS REGZA(東芝)は、映像処理エンジン「レグザエンジンZR α」を引っ提げて久しぶりにCESに出展。この新エンジンの特徴が「奥行」表現だ。ソニーは昨年のXRプロセッサーの改良版をCESで発表し、ここでも「奥行」表現をセールスポイントにした。韓国勢もサムスン、LG揃って「Object Depth Enhancer」という画質技術を採用している。ここにきて、テレビ大手は、足並みを揃えて「奥行」に絵づくりのターゲットを当ててきた。

画像: TVS REGZAがCESで発表した、新映像処理エンジン「レグザエンジンZR α」

TVS REGZAがCESで発表した、新映像処理エンジン「レグザエンジンZR α」

 その理由はいくつかある。解像度が2K、4K、8Kと向上し、画像情報量が充足され、さらにハイ・ダイナミックレンジで、暗部から明部まで光の再現性も向上した。これらは2D画面としての改善の話だが、ここまで画質が上がると、奥行方向が認識できるシーンも散見されてくる。例えば手前に人物が、背景に遠くの山という映像では、解像度が上がり、光のダイナミックレンジが拡大してくると、自然に2D画面であっても、なにがしかの奥行感が得られる。

 小さな画面では認知はなかなか難しいが、大画面になればなるほど、没入感が強まり、2Dでも、奥行を感じる方向なのだ。これまで述べてきたのは、ナチュラルな奥行再現だが、CESでの話題は、画質エンジンが明確な意図を持って、「奥行描写」を行うことだ。正確に言うと、これまでプロセッサーが、奥行再現を阻害していたのだが、今回はそれを是正する方向に動いたということだ。

 TVS REGZAの新エンジン、レグザエンジンZR αの「立体感復元超解像」については、ニュースリリースでは「映像のエリアごとにニューラルネットワークによる分析を行い、被写体と遠景を識別して、それぞれの部分に適した超解像処理を実施します。被写体を高精細に描き出しつつ、遠景の超解像処理を抑制することで、奥行感、立体感のある映像を実現します」という。

画像: 麻倉さんはレグザエンジンZR αについて詳しいインタビュー取材を行っている。その詳細は近日公開します

麻倉さんはレグザエンジンZR αについて詳しいインタビュー取材を行っている。その詳細は近日公開します

 近日公開の別記事でインタビューしているが、その中で山内日美生氏(TVS REGZA・半導体ラボ長)は、「手前に被写体が、その奥に背景が広がるといったような画像では、背景に超解像処理がかかりすぎると奥までくっきりしてしまうことがありました。今回は、遠くにある物は遠くまで広がるようにしたい」としていた。

 そこで、ニューラルネットワークを使い、エリアごとにフォーカスが合っている部分と、アウトフォーカスの部分を検出し、合焦部分は超解像を掛け、ボケている部分は掛けずに、そのままにするというメリハリを付ける。東芝は特に超解像に力をいれ、これまでは合焦部分もアウトフォーカスも一様に超解像していたが、今回は画面を細かいエリアに分け、それぞれ処理を分けたのである。

 「これによって自然な空気の層、光が拡散しながら伝わってくる感じを表現できるようにしました。手前の被写体はしっかりと見えますし、背景は自然にアウトフォーカスになることで奥行感が表現できるようになりました」

 取材ではデモ映像を見せてもらった。立体感復元超解像をオン/オフすると、オンでは手前の人物はよりくっきりして、奥の山肌、木の枝などはほどよくボケた。

画像: ソニーもCESで「認知特性プロセッサーXR」を搭載した新製品ラインナップを発表した。新しい構造の有機ELパネルや、ミニLEDバックライト搭載液晶など、バリエーションも豊か

ソニーもCESで「認知特性プロセッサーXR」を搭載した新製品ラインナップを発表した。新しい構造の有機ELパネルや、ミニLEDバックライト搭載液晶など、バリエーションも豊か

 ソニーも方向は同じだ。ソニーは昨年、脳内認識をテーマにした「認知特性プロセッサーXR」(XRプロセッサー)を搭載。今年はその改良版をCESで発表した。そのポイントが、「奥行再現だ」。ソニーでの画質の伝道師、小倉敏之氏(ソニー株式会社ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部HES技術戦略室 Distinguished Engineer)に聞いた。

 「XRプロセッサー には人物や空、 木々などのオブジェクトを認識し、それぞれに最適な超解像やノイズリダクションを与える機能があります。これまでは、個個のオブジェクトだけを見ていたのですが、2022年版は画面全体と個別のオブジェクトの関係を重視し、オブジェクトに対する超解像のかけ方を変えました」

 ソニーはオブジェクト単位で画像を認識するという、ひじょうに知的な分析が自慢だが、これまでは個個のオブジェクトは見ていたが、全体との関係は考慮されていなかった。そのため個個のオブジェクトへの超解像は実際には、少し手加減しなければならなかった。全体とのバランスを考えると、突出しすぎてもいけないからだ。それが今回はきちんと全体の情報量と個個のオブジェクトの関係を考慮することで、よりフューチャーした表現が可能になったという。

画像: 「認知特性プロセッサーXR」は昨年発表された映像エンジンの進化版となる。写真は昨年のリリース資料より

「認知特性プロセッサーXR」は昨年発表された映像エンジンの進化版となる。写真は昨年のリリース資料より

 「映像全体を見ながら、全体の構造がどうなっているのかを把握する中において、このオブジェクトがどのような位置付けになるのかを考え、さらにクリエイターズインテントとしての全体像を崩すことなく、より、メインのオブジェクトを際立つせることができるようになりました」

 超解像だけでなく、色とコントラストの付与にも、この分析を使う。これまでは、本来はここは、彩度や色相がこうあるはずという場面でも、そこだけ突出してはならないという観点から、適度なところでリミッターを掛けていたが、「これからは、全体の中におけるオブジェクトが分かるので、色彩もコントロールします。信号はどういう色合いになっているのか、何を表そうとしているのかの意図をテレビが理解しますので、この場面はさらに赤を赤らしく見せる、グリーンはグリーンらしく見せるということができるようになりました」。

 これからのテレビは液晶、有機ELを問わず奥行がリッチに感じられる。実際の画質チェックがたいへん楽しみだ。

This article is a sponsored article by
''.