執筆陣
「父の死」「先生の死」を経て、全身全霊で毎日を生き抜くふたりの女性を暖かなタッチで描く『消えない灯り』
「これは、ひとごとではないぞ」と思う。過疎化が進む地方都市。その地方都市で亡くなっていく親。都会で働く子供。残された実家。まさに「現代日本の問題」が横たわっている。
が、この映画は、それを観るものに厳しく突き付けてゆくのではなく、実に温かく、まろやかに描いている。現実の切なさ、鋭さを映し出しながらも、まっとうな人間ならば共感できるに違いない「心情の核」のようなものを描いている。だから観終えた後、さわやかな気分になる。
主人公の花村茉莉を演じる織田美織は、本作が初主演作品とのこと。この映画のムードは、平田満が演じる亡き「父親」によって設定されている。教師をしていた、誠実な人物。父と母は別れ...
執筆陣
生誕125年を迎える伝説的建築家/デザイナーの、愛と創造の根底に迫るドキュメンタリー『アアルト』
いきなり自らの不明を告白してしまうが、アルヴァ・アアルトの名をここで初めて知った。映画鑑賞イコール「知を得ること」だと思っている私には、もう、これだけでも大きな収穫なのだが、彼の建築やデザインがまた、なんともクールでかっこいい。落ち着いた色合い、思いっきり背伸びしたくなるほど高い天井、いっぱいに広げられた窓枠。我々が住んでいる惑星の空が持っている広さと奥行きに深いリスペクトを捧げながらの名建築群であったのだろうなと、なんだかしみじみしてしまった。そして頭の中に、やはりフィンランド出身のドラム奏者エドワード・ヴェサラや、サックス奏者ユハニ・アールトネンの音楽が湧き出したのだった。
監督を務...
執筆陣
「まるで1本の映画を観ているようだ」と高く評価された漫画が、豪華ラインナップで実写映画化。『アンダーカレント』公開
「漫画界におけるカンヌ映画祭」ことフランス・アングレーム国際漫画祭(来年で50周年を迎える)のオフィシャルセレクションに選出された作品が、満を持して実写映画化された。豊田徹也・原作の長編漫画『アンダーカレント』の世界が、果たしてどのように、生身の人間によって浮かび上がるのか。これは身を乗り出さずにはいられない。
家業の銭湯を継ぐ主婦・かなえ(真木よう子)が主人公。平和な毎日を過ごしていたはずなのに、突如、夫の悟(永山瑛太)が失踪する。だが、かなえは銭湯を続行する。数日後、堀と名乗る男(井浦新)が、自分を雇ってくれないかと銭湯に訪ねてくる。資格も持っていて、湯沸かしのノウハウも知っている。...