新日本フィルハーモニー交響楽団では、2月14日のバレンタインデーに「愛と戦闘のバレンタイン〜ふたりに贈るシンフォニー〜」と題した演奏会を開催、同時にリアルタイムでの配信も実施した。今回は文化庁の「文化芸術収益力強化事業」の一貫として開催されたもので、すみだトリフォニーホールでの演奏を4K映像と192kHz/24ビットのハイレゾで配信している。

 前編では演奏会の舞台裏にお邪魔して、実際にどのようなシステムで収録やエンコードを行ったのかについて関係各位にインタビューをお願いした。そして後日、麻倉さんのホームシアターで演奏会のアーカイブ配信を視聴し、会場の雰囲気がどこまで再現できるかも検証している。後篇では、アーカイブ配信をチェックした麻倉さんのインプレッションを紹介したい。(編集部)

画像: すみだトリフォニーホールにて。今回の配信では、写真左のシャープ製8Kカメラで捉えた映像から4つの画角の2K映像を切り出して送りだしている

すみだトリフォニーホールにて。今回の配信では、写真左のシャープ製8Kカメラで捉えた映像から4つの画角の2K映像を切り出して送りだしている

 今回は、新日本フィルの「愛と戦闘のバレンタイン」演奏会を、会場と配信の2種類で体験しました。演奏会自体はタイトルからも分かるように通常のクラシックではなく、NHK大河ドラマや『宇宙戦艦ヤマト』『スター・ウォーズ』のテーマ曲を演奏するというものでした。

 この取り組みは、同社によるコルグのLive Extremeシステムを使ったハイレゾ配信の第二弾になります。前回は収録素材を使った96kHz/24ビット/2chという内容でしたが、今回は192kHz/24ビット/2chで、しかも現場でミックスダウンした音を配信するものでした。

 また8Kカメラで撮影した映像から2Kの画角を切り出し、それを4つ合成して4K映像として配信、ユーザーが好きな画面を選んで見ることが出来るというアプローチも行われています。オーケストラのライブ配信で、4K映像とハイレゾ音声が使われるというのは世界初だそうです。

 最近は音楽配信がトレンドになっていますが、今回の試みはその最先端というか、一歩先を行くものです。というのも、これまでの音楽配信は配信をすることがひとつの目的でした。例えば昨年3月に、ニコニコ動画がミューザ川崎から東京交響楽団の演奏を配信し、10万人が観たということで話題になりました。そういった話題性としてオーケストラ配信があったわけです。

画像: 現場で、アストロデザインのYouTubeスタッフから逆取材を受ける麻倉さん。配信初心者という担当者ふたりに、懇切ていねいに解説してくれました

現場で、アストロデザインのYouTubeスタッフから逆取材を受ける麻倉さん。配信初心者という担当者ふたりに、懇切ていねいに解説してくれました

 これに対し新日本フィルが先進的なのは、映像も4K、できれば8Kでやりたかったという志の高さです。今回も単に4Kで配信するのではなく、4Kの情報量を活かして2Kを4画面送るという発想も面白い。

 さらにオーケストラの本質はやはり音楽、音質ということで、コルグのLive Extremeシステムを使ってハイレゾを実現している点も立派です。またそれが何の滞りもなく配信できていることも確認できました。

 今日は私のホームシアターで、MacBook PROで配信を再生し、映像はアダプターのHDMI出力からプロジェクターに直結、音声はUSB Type-C出力から、USBケーブルでメリディアンの「ULTRA DAC」とコルグ「Nu:I」に交互につないで再生しました。

 最初にULTRA DACでD/A変換した音を聴きましたが、これが実に素晴らしかった。コンサート当日の会場の雰囲気、空気感が見事に再現されていました。オーケストラの直接音も粒立ちがいいし、加えてMCや指揮者の声も生々しく、細かなニュアンスまで再現されていました。特にメリディアンならではと感じたのは、音の質感、艶やかさが空気に乗って漂って来るような気配まで体験できたことです。

 今回の配信でも深田 晃さんがマイキングやミキシングを担当されていますが、今回は色々な楽器が登場して、オーケストラの編成も通常のコンサートとは違います。そんな中で深田さんは、複雑な音模様を解像度高く、しっかり出していくことを狙っているようです。楽器の直接音、ステージ上の音をしっかり録っていこうという姿勢が感じられました。

画像: 麻倉さんのホームシアターで配信コンテンツをチェック。まずはメリディアンのULTRA DACを使って192kHz/24ビット音声を再生した

麻倉さんのホームシアターで配信コンテンツをチェック。まずはメリディアンのULTRA DACを使って192kHz/24ビット音声を再生した

 前回の配信では、ホールトーンをたっぷり入れようという狙いが感じられ、ホールの響きが綺麗にでて来て、その中にオーケストラが居るという音場展開でした。しかし今回は、より直接的に楽器に寄って行って、セッションをきちんと録っていこうという狙いを感じました。それがULTRA DACではよく分かったのです。

 ここでD/AコンバーターをNu:Iに変えてみました。すると、ホールでの演奏という感じが弱まって、やや素っ気ないというか、スタジオ録音のような印象に変化しました。誠実で真面目な音で、メリディアンのような味付け、個性は控え目になります。その分、今回の深田録音の特長である明瞭さ、高解像度はよく再現できていました。

 配信コンテンツでも、D/Aコンバーターによってこれだけの違いが出てくるというのは、趣味の世界としてとても重要なことです。それが確認できたのも、今回の大きな収穫でした。

 映像については、シャープの8Kカメラを会場の一番奥に設置してフィックスで撮影していました。そこからアストロデザインの映像切り出しシステムを使って2K映像を抽出したわけです。8Kカメラの情報量を活かしたこのような映像制作は、音楽芸術でのこれからのひとつのスタイルになりそうです。

画像: 麻倉邸にはコルグのNu:Iも常設されている。MacBook PROのUSB出力をこちらにもつなぎ替えて音の違いを確認した

麻倉邸にはコルグのNu:Iも常設されている。MacBook PROのUSB出力をこちらにもつなぎ替えて音の違いを確認した

 ただ、映像のどこをどのように切り出すかは、経験や検討が必要でしょう。特に演奏会の映像は、音楽に従ってスイッチングをする、音を映像で見せるといった意識が必要です。今回は固定画面なのでそういった面白さが弱かった。有料配信なのですから、今後はそういった姿勢、エンタテインメント性も求められます。

 今回の演奏会でもヴァイオリニストの服部百音さんの独奏がありましたが、ここでは彼女をアップにして、指使いまで見せて欲しかった。そう思った視聴者は少なくないでしょう。

 また今回は4K映像の中に4つの2K画角を入れ込んで、ユーザーがどの画面を見るかを選べるようになっていましたが、今後は8K映像をそのまま伝送し、ユーザーが任意にエリアを選んで切り出し、拡大ができるといった使い方も考えられます。カメラマンが決めた画角ではなく、自分が観たいカットを選べるというところまで可能になれば、配信の新しい楽しみにつながっていくと思います。

 視聴方法も工夫して欲しいですね。今回はブラウザ経由で再生しましたが、これでは音質面でOSの制約を受けることになります。Macなら「Audio MIDI設定」をちゃんと合わせておかないと、オリジナルのクォリティで再生できない可能性もあるわけです。

 それを避けるためにも、ダイレクトにハイレゾ音源やDSDを出力できる、高音質再生用のアプリを考えて欲しいですね。もちろんブラウザ経由ならインストールなどの手間がないというメリットはありますが、こだわるユーザーは手間をかけてでもいい音で聴きたいのです。有料配信だからこそ、最高の状態で楽しみたいわけで、そういった声にも応えてもらいたいと思います。

This article is a sponsored article by
''.