日本のテレビメーカーは世界でどのようにテレビを売っているのだろうか。ソニーを例に取り、検証する。まず昨年のIFAでソニー・ヨーロッパでテレビマーケティングを担当する上杉孝仁VP(バイス・プレジデント)に、ヨーロッパでの売り方を解説してもらった。今回のCESでは、中国、アメリカ、そして日本での売り方を、川村 基氏(かわむら もとい、ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社 TV事業本部 マーケティング部門 マーケティング企画部 担当部長)に訊いた。(編集部)
麻倉 まず、中国です。
川村 市場の特徴としてはオンラインでの販売の比率が高く、中国ブランドが大勢います。ただし、攻める市場のセグメントはされています。一部、ハイセンスなどの中国でも頭ひとつ抜けているブランドが伸びてきていて、われわれが商売をしているハイエンドな領域に少し入ってきているという状態です。
麻倉 というと、中国のテレビ市場でもハイセンスが今伸びてきているのですか?
川村 ハイセンス、TCLといった中国ブランドが伸びていますね。
麻倉 確かにそれらの名前はよく聞きますし、大手ですよね。ハイセンスの発表会でも、「われわれはNo.1だ」と言っていました。
川村 後は、最近の動向ではHUAWEI、シャオミなどの携帯電話ブランドから参入してきています。ただし、まだ目立った動きにはなっていません。
麻倉 確かに私の経験でも携帯で伸びてきたブランドがテレビに参入するというのが、最近のひとつのトレンドになっているようにも思います。テレビが携帯化しつつあって、プラットフォームになって、コンテンツも配信経由で届くようになっていますからね。特に中国では盛んです。
川村 違いは画面サイズくらいですね。
麻倉 ソニーのテレビ造りですが、基本的な考えとして、製品の仕様は世界共通ですね? 地域専用モデルという発想は、ない?
川村 コアとなる部分は同じですが、一部で地域向けのモデルも作っています。たとえば中国では昨年7月頃にオンライン販売専用の液晶テレビを立ち上げました。違いはデザインです。中国では中国人のテイストに合わせたデザインが求められていて、色も違います。ベースモデルは「X8500G」で、中国専用モデルは「U8G」です。ピンクゴールドとシャンパンゴールドの中間のような仕上げにしました。
麻倉 それは、現地からのリクエストなのでしょうか?
川村 はい。われわれとしても通販を攻めていかなくてはならないですし、知見を積み重ねるためにも中国サイドの声を聞いたのです。
麻倉 ソニー製品は世界共通というイメージだったので、地域向けモデルがあるとは思いませんでした。
川村 開発に手間のかかる部分については世界で共通化しています。ただ、中国は市場が大きいことと、われわれのブランドが浸透していて好調ですので、攻めたのです。
麻倉 実際の店舗ではソニーブランドが強いので、新興勢力であるオンライン通販をどうやって攻めるかが、直近の課題ということですね。ちなみに地域向けモデルを発売しているのは中国だけなのでしょうか?
川村 今回のようなモデルは中国くらいです。ただ他の国でも、量販店向けの限定モデルを作ることはあります。
麻倉 話は変わりますが、アメリカでのテレビの動きはいかがでしょう?
川村 アメリカはここ2〜3年はシェアが伸び悩んでいて、ちょっと苦労していました。そこで販路戦略などを強化していこうという取り組みを始めて、徐々によくなってきています。はっきりとはお話しできないのですが、バランスのいい販路を設定しなおしたというイメージでお考え下さい。
麻倉 テレビを販売する場合、画面サイズが大きい方がいいとか、画質がいいとか、価格が安いなど様々な条件がありますが、アメリカではどれが重視されるのでしょうか?
川村 ひと言でいうと“大型”です。超大型の80インチ以上が人気で、次が70インチ以上です。大きなサイズが伸びています。映画、スポーツなどです。特にアメリカでは、アメフト、野球などが人気ですね。今回はそのサイズに対してラインナップを増やしたことも奏功しているのではないでしょうか。
麻倉 そうなのですね、具体的には?
川村 85インチはこれまでトップモデルだけでしたが、今回はミドルクラスにも投入しています。結果として3ラインで85インチモデルを揃えています。
麻倉 ユーザー的には安い価格帯で大きいサイズがあるのは嬉しいですからね。パネルデバイスは液晶ですか?
川村 ミドルクラスはマーケットが大きいので、こういった戦略も必要です。パネルデバイスは、液晶を使っています。われわれとしては、大型画面の方が没入感なども最大限提供できると考えていますので、大きいサイズを選んでいるのです。
麻倉 有機ELと液晶の画質の違いといった部分はアメリカではあまり重視されないのでしょうか?
川村 他の地域と比べると、少ないかもしれません。とはいっても65インチや77インチの有機ELテレビも発売しておりますし、77インチの有機ELテレビは、すごく伸びてきています。
麻倉 欧州市場では有機ELテレビが好調のようです。
川村 ヨーロッパは有機ELの画面サイズがぴったりくる市場でもあり、65〜55インチが人気です。さらに画質などの付加価値を求める層もいらっしゃいますので、そこで有機ELが選ばれているようです。とはいえ、ドイツなどでは77インチ有機ELテレビも人気で、大型化も進んでいます。
麻倉 日本での有機ELはいかがでしょう?
川村 日本はとても好調です。
麻倉 その要因は何でしょう? やはり「アコースティック サーフェス オーディオプラス」のサウンドですか?
川村 この数年間、有機ELテレビについても画質と音についての独自の取り組みを進めてきました。それが支持されているということもあると思います。またアンドロイドTVの認知も進んできたので、その魅力をわかってもらえてきたのかもしれません。
麻倉 今回のCESでは8K液晶テレビ「ブラビアZ8Hシリーズ」が発表されましたが、現行機のZ9G(日本未発売)は、地域的にはどこで発売されていますか?
川村 まずはヨーロッパ、アメリカ、中国からスタートします。シンガポール、マレーシア、タイ、日本などは未定です。
麻倉 これまでのZ9Gは実際のアメリカ市場での製品の動きはどうでしょう?
川村 85インチで約13,000ドル(取材当時)と高価ですが、われわれの想定よりは上回っています。決して台数がたくさん出ているわけではありません。8Kテレビの市場としてはまだまだこれからだと思います。
麻倉 そもそも8Kのコンテンツがないということも問題です。
川村 それも大きいですね。4Kをアップコンバートして綺麗に見るための回路はかなりよくできていると自負していますが、やはり8Kコンテンツは欲しいですね。
麻倉 そういった環境でも8Kテレビを出したというのは、やはりソニーは新しい提案をしています。
川村 弊社としては、ユーザーの視聴体験をいかによくするかを重視しています。画面サイズが大型化していくなら、情報量を増やしていかないとたとえ4Kでも限界が来るだろうと感じています。そこで早めに8Kにも取り組まないといけないと考えました。
麻倉 最後に、日本でも8Kテレビがいよいよ出るという噂です。
川村 今年8Kテレビを出さないわけにはいきませんよね(笑)。夏前には発売できるよう準備中です。
麻倉 やっと噂のソニー8Kが市場に出るのですね。とても楽しみにしています。