クラシック音楽を手掛ける「アールアンフィニ」は、ソニー・ミュージック出身の武藤敏樹氏が主宰しているクォリティ至上主義の音楽レーベル。日本人アーティストの作品に特化していることも大きな特徴に挙げられる高音質レーベルだ。アールアンフィニとは、フランス語で「永遠の芸術」を意味している。そのアールアンフィニから、これまで以上に音にこだわって制作されるSACDの『アルティメイト・サウンド・シリーズ』の続編が登場するので、ご紹介したい。(季刊ステレオサウンド 238号/2026年春号より転載)

音のクォリティにとことんこだわったアルティメイト・サウンド・シリーズ。
第3弾はオルガン、続く第4弾はチェロとピアノのデュオ作品

 昨年4月からスタートしたアルティメイト・サウンド・シリーズはハイブリッドSACD盤でのリリースで、オーディオファイルの間でも大きな話題を集めている。その第1弾『英哲THE大盈』(MECO1084)は、林英哲による迫力の和太鼓アルバム。続く第2弾の『アルマ』(MECO1085)では、ソプラノ歌手の奥脇泉とクラシックギター奏者の河野智美によるユニット「さくやひめ」が、いにしえの古楽と長く歌い継がれてきた世界の名曲の数々を披露している。このアルバムは、収録曲や演奏テイクは同一ながら、奥脇泉と河野智美それぞれの意見を反映させ、ミキシングの異なるA盤とB盤をセットにした、珍しい2枚組のハイブリッド盤SACDになっている。
 その2作品が好評であることから、アールアンフィニのアルティメイト・サウンド・シリーズは、今年3月4日発売の第3弾『ザ・スペクタクル・オルガン』(MECO1088)と、3月18日発売のチェロ奏者『調べの小箱/増田喜嘉』(MECO1089)をリリース予定。ここでは、ハイレゾ・レコーディングから最終的なマスタリングまでのすべてを行なっている主宰者兼エンジニアの武藤敏樹氏をステレオサウンド試聴室にお招きし、試聴室のリファレンス機器を用いて、マスター音源の数々を聴かせてもらいながら話をうかがった。

ART INFINI ULTIMATE SOUND SERIES

画像1: アールアンフィニ高音質シリーズ、待望の続編が登場

ザ・スペクタクル・オルガン
(アールアンフィニ MECO1088)2枚組
SACD 2ch/CDハイブリッド盤
¥4,950(税込)

32フィート管の低音パイプを備える大規模なパイプオルガンのサウンドを、DSD256録音で捉えた意欲作。演奏・収録曲は同一ながら、ミックスの異なるA盤とB盤をセットにした2枚組だ。収録曲は、リストのバッハの名による前奏曲とフーガ、ヴィエルヌのオルガン交響曲第3番、ブラームスの11のコラール前奏曲からの抜粋4曲、J.S.バッハのトッカータとフーガ BWV565。なお、制作の意向により、演奏者名は伏せられている。

調べの小箱
増田喜嘉
(アールアンフィニ MECO1089)
SACD 2ch/CDハイブリッド盤
¥3,850(税込)

兵庫県神戸市生まれ、アメリカ・ロサンゼルス在住で世界的に活動するチェリストの増田喜嘉(ますだ・よしか)が長年あたためてきた、チェロ名曲集。J.S.バッハのアダージョ(〜マルチェロのオーボエ協奏曲による)、シベリウスのロマンスといった耳馴染みのあるクラシックの名曲から、知られざる秘曲、そして増田のために書かれた世界初録音曲など全17曲を収録。ピアノは数々の受賞歴を誇る黒岩航紀。

画像2: アールアンフィニ高音質シリーズ、待望の続編が登場

            

異なるミックスで仕上げた2枚のディスクをセットにする
『ザ・スペクタクル・オルガン』

画像3: アールアンフィニ高音質シリーズ、待望の続編が登場

試聴とインタビューを実施したのはステレオサウンド試聴室。プリアンプ以降は本誌リファレンス機器であるアキュフェーズのアンプ群とB&Wのスピーカー801D4 Signatureだ。写真左が、アールアンフィニ・レーベルの主宰者であり、プロデューサーの武藤敏樹氏。CBSソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社し、プロデューサーとして活躍した後に独立、2017年から現職を務め、近年は、レコーディング&ミキシング&マスタリングといったエンジニアリングまでも自ら手掛けられている。

三浦 アールアンフィニのアルティメイト・サウンド・シリーズは、かつてソニー・ミュージックが音にこだわって制作していたサウンド・アドベンチャー・シリーズを継承していますね。第1弾の『英哲THE大盈』と第2弾『アルマ』がすでにリリースされていますが、市場の反応はいかがでしょうか。

武藤敏樹(以下、武藤) おかげさまでとても好調です。やはり、オーディオファイルの方々に注目していただいているようです。フィジカル(SACD)だけでなく、デジタル(配信/ダウンロード)で入手するという人も多いようですね。

三浦 両アルバム共に、フィジカルはハイブリッド盤SACDでのリリースで、しかも音質に相当こだわっている。そして、デジタルはSACD以上のスペックでの配信も実施されているという要因が大きいのでしょうね。さて、続く第3弾は、オーディオファイル必聴のパイプオルガンですね。

武藤 オルガンのレコーディングは、個人的にもずっと前からチャレンジしてみたかった案件でした。

三浦 どこのコンサートホールで収録したのでしょうか。

武藤  埼玉県の所沢市にある所沢ミューズホール(所沢市民文化センター ミューズ アークホール)です。日本最大級のパイプオルガンがあり、空間の響きも美しいホールです。

画像: 異なるミックスで仕上げた2枚のディスクをセットにする 『ザ・スペクタクル・オルガン』
画像4: アールアンフィニ高音質シリーズ、待望の続編が登場

『ザ・スペクタクル・オルガン』が録音されたのは、埼玉県所沢市にある埼玉ミューズホールの中のアークホール(大ホール)。最大2,002席というシューボックス型(靴箱型)の大型ホールである。そして、そのアークホールのステージ正面に備え付けられているのが、本盤の主役であるオーストリアのリーガー社によって製作された日本最大級のパイプオルガン。ストップ(音色やピッチをコントロールする音栓スイッチ)の数は75、パイプ数5,563本。録音を手掛けた武藤氏によるとマイクは計8本が使用され、A盤とB盤とではそのミックス(バランス)が異なっている。なお、ライナーノート記載のQRコードによるアンケートに回答いただいた方には、両盤のミックスがどのように異なるのかが明かされるという。

三浦 それは興味深いですね。パイプオルガンのペダルによる超低域は特別ですから、オーディオファイルにとっても再生するのが楽しみな音源だと思います。

武藤 所沢ミューズホールを選んだのには理由がありまして、32フィート管という壮大な超低域を響かせる巨大なパイプが使われているからなんです。32フィート管のパイプを備えたオルガンは、日本国内ではサントリーホールや横浜みなとみらいホールなど、数ヵ所しかありません。

三浦 かなり大きなホールで響きも豊かでしょうから、収録は容易ではなかったのだろうと想像します。具体的にはどのような機材とフォーマットで収録したのでしょうか。

武藤 アールアンフィニの作品はSACDでのリリースが基本ですから、これまでと同様にスイス・マージング社のピラミックスDAWをレコーディングからマスタリングまで使っています。収録フォーマットはDSD 11.2MHz(DSD256)、ポストプロダクション(編集)は384kHz/32ビット・フローティングポイントです。マイクロフォンはDPAやノイマンなど合計8本を使っています。2025年8月に合計3日間を費やしたレコーディングになりました。

三浦 この『ザ・スペクタクル・オルガン』は、アルティメイト・サウンド・シリーズの第2弾と同じように、ミックスが異なるA盤とB盤のハイブリッドSACD2枚組でのリリースなのですね。それも楽しみです。

武藤 最終のオーサリング前ではありますが、ミックスを終えたばかりのデジタルのマスターデータ(384kHz/32ビット・フローティングポイント)とDAWのピラミックスを持ってきましたので、マージング社のオーディオインターフェイスであるAnubisをD/Aコンバーターにして聴いてみましょう。アナログ出力をバランス接続で、アキュフェーズのプリアンプにつなぎます。アルバム冒頭曲のリスト「バッハの名による前奏曲とフーガ」と最後の曲になるバッハ「トッカータとフーガ」の2曲を、それぞれA盤とB盤の音で再生します。

試聴した音源は、ミックスを終えたばかりの正真正銘のマスター音源(384kHz/32ビット・フロート)。再生用のソース機器は、DAWのピラミックスがインストールされたMacBookProと、マージングのオーディオインターフェイス「Anubis Premium SPS」の組合せだ。そのアナログ出力をアキュフェーズのプリアンプC2900とバランス接続した。

A盤とB盤で異なるのは、アンビエンス感?

三浦 まったく同じ演奏であることは判りますが、ホール空間の響きはまったく違うのですね。音場空間の拡がりといいますか、ホール空間いっぱいに響いているアンビエンス感が異なって聴こえます。端的にいえば、直接音と間接音の比率が違うという印象を受けます。どちらが好きか嫌いかというのではないのですが、聴いて感じる雰囲気が大きく異なるのが興味深いです。A盤とB盤ではマイクロフォンの種類や位置関係なども変えているのでしょうか。

武藤 いいえ、収録時のマイクセッティングやマイクロフォンはすべて同じです。各マイクロフォンの音をミックスするときのバランスの違いがすべてなんです。

三浦 アルティメイト・サウンド・シリーズの第2弾『アルマ』の時と同じですね。

武藤 そうですね。『アルマ』で初めてA盤とB盤というミックス違いをセットにして商品化したのですが、それはソプラノ歌手の奥脇泉とクラシックギター奏者の河野智美が、最終的な音の方向性に関して異なる意見があったからです。本来、その意見の違いを理解した上で、最終的にどちらかいっぽうに決めるのがプロデューサーの役割なのですが、双方ともに強い主張があったので、2つのミックスを完成させたのち、本人たちに聴いてもらったところ、そこでも意見が真っ二つに割れました。それなら、いっそのこと両方を出したらリスナーの皆さまにも楽しんでいただけるのではと思い、私も楽しみながら2枚組にしました。この『ザ・スペクタクル・オルガン』では、その時の経験も踏まえて、私自身がミックスの異なる音をつくろうと考えて仕上げました。『アルマ』で購買者からアンケートをとりましたら、昨年末時点の集計では、A盤の音が好きだという意見が47%で、B盤のほうは53%でした。おおむね半々という結果でしたね。もちろん、どちらも好きという方もいらっしゃいました。

三浦 たしかに何度も聴き比べたくなってしまいますね。

武藤 たとえば通常の楽器の収録と違って、オルガンの場合はパイプが設置されている壁面全体が発音源になるイメージですから、収録に最適なマイクのポジションを見つけるのは簡単ではありません。A盤とB盤でどのようにミックスが異なるのかはここではあえて明かしませんが、『アルマ』の時と同じく、アンケートの回答をお寄せいただいた方にはその種明かしをする予定です。音楽を聴いて欲しい気持ちと同時に、私もオーディオファンですから、リスナーには音や制作手法などの違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。

チェロの実在感に注目して欲しい『調べの小箱』

三浦 第3弾『ザ・スペクタクル・オルガン』が発売されるのは3月4日ということですが、その2週間後にはチェロ奏者の増田喜嘉の『調べの小箱』(MECO1089)のリリースが控えています。こちらもアルティメイト・サウンド・シリーズと謳われていますが、1枚のハイブリッド盤SACDということですね。

画像: チェロの実在感に注目して欲しい『調べの小箱』

武藤 そうです。彼はアメリカのロサンゼルスを拠点にワールド・ワイドな活躍をしている気鋭の若手チェロ奏者で、アメリカの音楽大学で助教授もしている逸材です。あまり知られていないながらも心ふるえる究極のチェロの美曲や彼のために作曲された初出の録音も含まれているのがアルバムの特徴になります。こちらもマスタリングを終えていますので、先ほどと同じように再生してみましょう。

画像9: アールアンフィニ高音質シリーズ、待望の続編が登場
画像10: アールアンフィニ高音質シリーズ、待望の続編が登場

『調べの小箱』はチェリストの増田喜嘉とピアニストの黒岩航紀による演奏を収めたアルバム。録音は2025年7月に行なわれており、『ザ・スペクタクル・オルガン』と同じく、DSD256 録音・384kHz/32bit floatポストプロダクションが敢行されている。「とにかくチェロの音色にこだわって、制作しています」という武藤氏は写真のように実にシンプルなマイキングによって、その演奏を捉えている。また、ピアニストとしても活動される武藤氏らしく、当然のことながらピアノの音色にも並々ならぬこだわりがあり、黒岩航紀の微妙なタッチの描き分けを漏らさずに録音することに注意を払われている。

三浦 チェロとピアノ伴奏のシンプルな編成になりますが、チェロの音色に芯があって存在感のしっかりした演奏でした。このアルバムがアルティメイト・サウンド・シリーズとしてリリースされるというのは、どのような背景からなのでしょうか。

武藤 増田さんは自分で演奏するチェロの音色をかなり意識していて、特段に音質を留意したレコーディングになったというのが理由です。彼はチェロの音が薄くなるのを嫌っていて、過去の他レーベルでの録音ではあまり本意ではない音に仕上がっていたことがあるようなんです。そこで本作では、増田さんにマスタリング作業にも参加していただいて、私と増田さんが共に充分納得できる音にまとめあげたのです。

三浦 そうでしたか。デュオ演奏ということでチェロの音色にしっかりとフォーカスした音になっていると感じました。

武藤 ありがとうございます。とても励みになります。

アルティメイト・サウンド・シリーズのこの先の予定

三浦 アールアンフィニからは、アルティメイト・サウンド・シリ—ズと謳われていないものの、クラシックギター奏者の鈴木大介の5作目になるアルバム『海へ』(MECO1087)も発売されたばかりですね。こちらもこだわりのハイブリッド盤SACDです。アルティメイト・サウンド・シリ—ズのさらなるリリース予定はあるのですか?

武藤 少し先になりますが、6月17日に、若手ピアニストの黒岩航紀による『ヴィルトゥオーゾの追憶』を予定しています。類稀なる演奏テクニックを堪能できるヴィルトゥオーゾ名曲集です。フルコンサートグランドのスタインウェイ・モデルDのまさに、その響板や鉄骨を鳴らし切るようなヴィヴィッドな音で収録しています。彼は増田喜嘉のアルバムでもピアノ伴奏をしていますが、当然ながら、そのときと弾き方もマイクポジションも違っていますから、音楽とともにピアノの音自体にも注目していただけると嬉しいです。また、11月にはクラシックギター奏者で、「さくやひめ」でも好演している河野智美による、彼女にとっては初めてとなるギター小品名曲集を予定しています。

三浦 いずれもハイブリッドSACD盤での発売ですね。大いに期待しています。まずはSACDに仕上げられた『ザ・スペクタクル・オルガン』の音を聴いてみたいです。楽しみにしています。本日はありがとうございました。

武藤 ありがとうございました。『ザ・スペクタクル・オルガン』のフィジカル(SACD)はオーディオファン向けに販路を限定する予定ですが、ぜひお聴きいただければと思います。

季刊ステレオサウンド 238号(2026年春号)より転載

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