ヤマハから2年ぶりとなるサウンドバー「SR-X90A」が発売された。同ブランドとしてのハイエンドモデルで、新たに開発された独自技術を多数搭載、イマーシブオーディオはドルビーアトモス、DTS:Xに加えて、サウンドバーとして世界で初めてAURO-3Dの再生にも対応するなど、ひじょうに力の入ったモデルになっている。この注目サウンドバーにはヤマハのどんな思いが込められているのか、麻倉怜士さんが開発者にインタビューした。(StereoSound ONLINE)

サウンドバー:ヤマハ SR-X90A (市場想定価格39万円前後、税込)

画像: サウンドバーは1.6mm厚の高剛性メタルフレームを採用。正面は落ち着いた仕上げのファブリックで覆われている

サウンドバーは1.6mm厚の高剛性メタルフレームを採用。正面は落ち着いた仕上げのファブリックで覆われている

画像: 専用サブウーファーは横幅241mmとコンパクトサイズを実現。サウンドバーとはワイヤレス接続なので、置き場所の自由度も高い

専用サブウーファーは横幅241mmとコンパクトサイズを実現。サウンドバーとはワイヤレス接続なので、置き場所の自由度も高い

●使用スピーカー:【フロントL/R】110×53mmコーン型フルレンジ✕2、25mmドーム型ツイーター✕2、【センター】110×53mmコーン型フルレンジ✕2、25mmドーム型ツイーター【ハイト】28mmコーン型フルレンジ✕12、【サブウーファー】170mmコーン型ウーファー
●主なデコーダー機能:PCM(7.1chまで)、Dolby TrueHD、Dolby Atmos、DTS-HD Master Audio、DTS:X、AURO-3D、MPEG-4AAC(5.1chまで)、他
●接続端子:HDMI入力、HDMI出力(eARC/ARC/CEC)、光デジタル入力、LAN、USB(アップデート専用)
●Bluetooth対応コーデック(受信):SBC、MPEG4-AAC
●消費電力:サウンドバー54W、サブウーファー24W
●寸法/質量:センターユニットW1180×H85×D143mm/11kg、サブウーファーW241×H348×D414mm/12.7kg

画像: 付属リモコンでは4種類のサウンドモードのダイレクト切り換えやボリューム調整、各種設定が行える

付属リモコンでは4種類のサウンドモードのダイレクト切り換えやボリューム調整、各種設定が行える

麻倉 今日はよろしくお願いします。ヤマハから久々にホームシアターコンポーネントが発売されたと聞いてたいへん気になっていました。しかもその「SR-X90A」は本格サウンドバーとのことで、どんな製品に仕上がっているのか詳しくうかがいたいと思っています。

北澤 ありがとうございます。ヤマハミュージックジャパン 音響事業戦略部 HA事業企画課の北澤です。今日は浜松のオフィスとリモートでつないで、SR-X90Aの開発担当者から直接お答えさせていただきます。

藤森 ヤマハ株式会社 クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 商品開発部 音響機構グループの藤森と申します。SR-X90Aでは音響とスピーカーユニットの設計を担当しました。

澤米 同じくヤマハ株式会社 商品開発部 ソフトグループの澤米(たくまい)です。私はDSP周りのアルゴリズムなどを担当しています。

坂本 ヤマハ株式会社 商品開発部 ソフトグループの坂本です。SR-X90Aでは、DSPや信号処理を担当しました。

画像: 取材は横浜にあるヤマハ視聴室で行っている。インタビューは浜松のオフィスとリモートでつないで実施した

取材は横浜にあるヤマハ視聴室で行っている。インタビューは浜松のオフィスとリモートでつないで実施した

北澤 最初に、なぜこのタイミングでヤマハがサウンドバーを作ったのかについてお話しします。現在、ホームシアターを取り巻く環境は大きく変化しています。ドルビーアトモスなどのイマーシブオーディオや、ハイレゾストリーミングなども登場し、それらがリビングでも楽しまれています。

 そこで、新たなサウンドバーでは顧客満足度の高い製品を作る必要があると考え、これまでのヤマハサウンドバー史上もっとも良い音のサウンドバーを作ることをコンセプトにSR-X90Aを開発いたしました。

麻倉 サウンドバーは多くの人にサラウンドやストリーミングの音を体験してもらえるアイテムですから、ヤマハとしてもその音をもっと良くしようと考えたわけですね。でも、私もこれまでのヤマハの歴代サウンドバーを取材してきましたが、サウンドバーとしての品質は高かったと思っています。

北澤 ありがとうございます。では、SR-X90Aの詳細をご説明いたします。サウンドバーとサブウーファーは別筐体で、サウンドバー部にフロントL/C/Rの3チャンネルとL/Rのハイトスピーカーアレイを内蔵し、サブウーファーと合わせた3.1.2システムを構築しました。

 L/Rは、110✕53mmコーン型フルレンジスピーカーに25mmドーム型ツイーターを加えた2ウェイで、センターはフルレンジ2基+ツイーターという構成です。ハイトピーカーにはYSP(ヤマハ・デジタル・サウンド・プロジェクター)技術を採用し、28mmスピーカーユニットをL/Rそれぞれに6基使っています。リアチャンネルはバーチャル再生です。

 サラウンド音声はドルビーアトモスとDTS:X、そしてサウンドバーとして世界で初めてAURO-3Dに対応しています。サウンドモードは、「SURROUND:AI」「3D MUSIC」「STEREO」「STRAIGHT」の4種類です。「SURROUND:AI」はAVアンプのAVENTAGEシリーズにのみ搭載されていた機能で、サウンドバーに採用するのは初めてです。

画像: SR-X90A天面左右には各6基のスピーカーが配置されている。これらひとつひとつを独立駆動して音のビームを生成、天井反射を使って立体音場を作り出している

SR-X90A天面左右には各6基のスピーカーが配置されている。これらひとつひとつを独立駆動して音のビームを生成、天井反射を使って立体音場を作り出している

画像: デジタル・サウンド・プロジェクター技術では、隣接した複数のスピーカーをタイミングをずらして再生することでビーム状の音に角度をつけることが可能になる

デジタル・サウンド・プロジェクター技術では、隣接した複数のスピーカーをタイミングをずらして再生することでビーム状の音に角度をつけることが可能になる

麻倉 最初に、SR-X90Aについて皆さんがどんなサウンドバーを目指したのか、どのような努力・開発をしてきたのかからお話しいただけますか?

藤森 ヤマハのサウンドバーは「YSPシリーズ」を代表として、それを引き継いだラインナップというイメージでした。しかし最近はデジタル・サウンド・プロジェクター(ビームフォーミング)技術が搭載されていないサウンドバーのみで、以前から社内でもこの技術を復活させたいねと話していたんです。

麻倉 ということは、SR-X90Aは “YSP復活プロジェクト” でもあったんですね。

藤森 おっしゃる通りです。さらにデジタル・サウンド・プロジェクター技術のメリット/デメリットを勘案した時に、ハイトスピーカーに使うのが一番効果的だろうという結論にたどり着きました。イマーシブオーディオで天井から音が降り注ぐような体験をしてもらうには、デジタル・サウンド・プロジェクター技術があるかないかでは段違いです。

 フロント3チャンネルに関しては、ツイーターとフルレンジを採用し、進化したバーチャルサラウンド技術と組み合わせることで、クォリティの高いイマーシブオーディオを目指しました。

北澤 ハイトスピーカーはL/R合わせて12基を上向きに搭載し、隣接した複数のスピーカーでタイミングをずらして再生することで、音のビームに角度をつけて指向性をコントロールし、あたかも天井にスピーカーが実在しているような定位を実現しています。

麻倉 盛り沢山の内容ですね。特に「SURROUND:AI」を搭載したのがいい。サウンドバーのような製品にこそ、こういった機能を使うべきです。

北澤 「SURROUND:AI」の技術はAVアンプで使っているものを最適化しています。これまでの多くのサウンドバーではコンテンツに応じてモードを切り替える必要がありましたが、「SURROUND:AI」にセットしていただければ、常に最適な音場で楽しんでいただけます。

画像: サウンドバー本体には110✕53mmフルレンジと25mmツイーターの2種類のスピーカーが搭載されている。L/Rチャンネルはこれらのスピーカーを各1基使った2ウェイで、センター用は2基のフルレンジでツイーターを挟んだ構成を採用している

サウンドバー本体には110✕53mmフルレンジと25mmツイーターの2種類のスピーカーが搭載されている。L/Rチャンネルはこれらのスピーカーを各1基使った2ウェイで、センター用は2基のフルレンジでツイーターを挟んだ構成を採用している

画像: 新開発されたアイシェイプド・オーバル・スピーカー。従来の楕円型よりも高い音圧を備えながら、忠実な音を再現することを目指して開発された

新開発されたアイシェイプド・オーバル・スピーカー。従来の楕円型よりも高い音圧を備えながら、忠実な音を再現することを目指して開発された

麻倉 スピーカーユニットも新開発したそうですね。

北澤 フロント3チャンネル用に、アイシェイプド・オーバル・スピーカーを開発しています。

麻倉 人の目の形ですね。その狙いは?

藤森 今回のサウンドバーは薄型のため、その中に収まるスピーカーとなると、小口径スピーカーを複数入れるか、楕円スピーカーで音圧を稼ぎ数を減らすかといったアプローチになります。

 ただ、小口径スピーカーは低域再生と音圧面において不利になり、かつ複数のスピーカーを入れると線音源になってしまうため、サラウンド再生の定位などで不利な部分が出てくるんです。それもあって、スピーカーの数はなるべく絞りたいと思い、楕円スピーカーを選択しました。

 しかし一般的な楕円スピーカーは、振動板の強度バランスが不均一なため中高域の音の表現が難しいのです。そこで形状から改善し、アイシェイプド・オーバル・スピーカーの開発に至りました。

北澤 実際の測定でも、1kHz以上の帯域でアイシェイプド・オーバル・スピーカーの方が楕円型よりも素直な特性を再現できています。

藤森 スピーカーを横方向に延ばしていくと、長軸側の強度が弱くなって、音圧は取れますが、高域が減衰してピークディップが出てくることが多い傾向にあります。音圧が取れ、広域まで伸びる振動板の形を検討した結果、このデザインに至りました。

画像: シンメトリカル フレア ポートのイメージ図。両端に朝顔の花のような開口部を備えたバスレフポートを縦向きに配置、さらにその上下に板を取り付けることで空気の流れを制御している

シンメトリカル フレア ポートのイメージ図。両端に朝顔の花のような開口部を備えたバスレフポートを縦向きに配置、さらにその上下に板を取り付けることで空気の流れを制御している

北澤 もうひとつの新技術として、サブウーファーにシンメトリカル フレア ポートを搭載しました。内部のバスレフポートは縦向きに設置していますが、そのポートの手前に2枚の板を設置することで、ノイズの原因となる空気の渦を抑制しています。

 従来の構造では、ポートの端で空気の渦が発生してノイズにつながっていました。これに対しシンメトリカル フレア ポートでは、空気の流れが一定になりますので、ノイズも発生しにくくなっています。

藤森 これまでスリムタイプのサブウーファーでは、最低域まで表現しようとすると、バスレフポートから発生する風切り音等の影響で、コンテンツなどで声がこもってしまったりすることがありました。しかしシンメトリカル フレア ポートはタイトでクリアーな低域を実現しているため、そういった悪影響を音に与えません。

 エンクロージャー内のポートの設置場所や整流板の距離、ポートの口径などを含め空気の流れのシミュレーションを行い最適化しました。さらに実際の音を確認しながら詰めていった結果、この形になりました。

北澤 今回はサブウーファーにマルチバンドリミッターも採用しています。これにより、大音量でも破綻のない自然な低域を再現できています。

麻倉 SR-X90Aではハイトスピーカーにデジタル・サウンド・プロジェクター技術が使われているわけですが、イマーシブサラウンドで密度の高い空間を作ろうとした時に、すべてのスピーカーをビーム制御するのと、ハイトだけに採用するのとでは、どちらが効果的なのでしょう?

藤森 何を目指すかで変わりますが、YSPはどうしてもその原理上小口径スピーカーを使用するので、中低域の質感に限界がありました。そこでSR-X90Aでは、フロントにはハイファイクォリティを実現するためにあえてビーム技術を使わず、一方でハイトは音の明瞭な定位と豊かな空間表現を実現するビーム技術を使う事で、優れた音質とイマーシブな空間表現を両立させました。ただ当初は、再生方式の違いによりフロント側と天井側の音が極端に分離して聞こえ、その間をどう埋めるか試行錯誤がありました。

麻倉 音のビームをコントロールして、もう少し広い空間に音が来るようにしたんですか?

藤森 はい、ハイトチャンネルの位相を調整したり、広がり感に影響する中高域のEQ(イコライザー)の特定のポイントを調整しました。またセンターとL/Rスピーカー、さらにハイトスピーカーの音量バランスを調整することで、高さ方向の空間が埋まってきました。

麻倉 といっても、コンテンツのジャンルによっては空間再現がうまくいくものや、難しい場合もありそうです。

藤森 そこはとても難しかったです。SR-X90Aでは、「STEREO」はどちらかと言えば音楽を重視した音作りで、「SURROUND:AI」「STRAIGHT」に関しては映画寄りの音作りを行っています。このあたりは好みに応じて使い分けていただければと思います。

画像: SR-X90AはHDMI入出力と光デジタル入力、LAN端子を備えている。HDMI出力はeARC対応なので、対応テレビとつなげばドルビーアトモスなどの信号も伝送できる

SR-X90AはHDMI入出力と光デジタル入力、LAN端子を備えている。HDMI出力はeARC対応なので、対応テレビとつなげばドルビーアトモスなどの信号も伝送できる

麻倉 とても面白い話をありがとうございました。その他に、ここは頑張ったぞという点はありましたか?

藤森 今回はEQ調整に明け暮れました(笑)。「STEREO」「SURROUND:AI」といったモードごとにも別々のEQを組み込んでいます。

澤米 ヤマハが考えるサウンドバーは、いかにサウンドデザイナーが狙った音を実現するかが重要ですので、そのための信号処理について藤森から色々な要求があるんです。それに応えるために、EQやフィルターの追加や、調整パラメーターの拡張、処理フロー見直し等、都度、サウンドデザイナーの藤森と相談、効果を確認しながら開発を進めました。

麻倉 “サウンドデザイナーが狙った音” というのは、コンテンツ製作者が考えた音の配置や元々の音質を再現するということですか?

澤米 そうですね。コンテンツ制作者の意図を尊重しつつ、サウンドデザイナーが狙った音を忠実に再現出来るように調整しています。

麻倉 藤森さんから厳しい要求が来て、澤米さんが苦労されたわけですね(笑)。

澤米 幸いSR-X90Aには、「RX-A8A」「RX-A6A」などと同じ高性能のSoC(System-on-a-chip)を搭載しましたので、惜しみなく処理能力を投入することができました。

麻倉 贅沢なSoCを使ったから、実現できたことがいっぱいあったと。

澤米 そうですね。ただでさえ処理負荷の大きいデジタル・サウンドプロジェクター処理と「SURROUND:AI」を掛け合わせて、その上でサウンドデザイナーに制約のない調整を行ってもうらことができたのはそのおかげです。

画像: サウンドバー部分は重さ11kgとなかなかの重量級。その本体を支えて、安定したスピーカーの駆動を実現するために大型のフットを搭載している

サウンドバー部分は重さ11kgとなかなかの重量級。その本体を支えて、安定したスピーカーの駆動を実現するために大型のフットを搭載している

麻倉 続いて、「SURROUND:AI」についてうかがいます。この機能をサウンドバーに入れる際に苦労した点は?

坂本 「SURROUND:AI」はAVアンプで高い評価をいただいている技術で、処理内容に関しては不安はありませんでした。しかし当初、SR-X90Aに「SURROUND:AI」をそのまま移植しただけでは、期待した効果が得られませんでした。

 というのも、AVアンプと比べてサウンドバーは、フロントスピーカーのL/R間の見開き角が狭く広がり感が出にくい構造であったため、通常のスピーカーと同じような効果にならなかったのです。また、ハイトチャンネルに採用しているビーム技術と「SURROUND:AI」を掛け合わせることは今回が初めての試みだったため、SR-X90Aではどう適応させ、調整するかに苦心しました。

 そのひとつとして、バーチャライザーを新たに開発しました。SR-X90Aではリアチャンネルの音をフロントにミックスする必要がありますが、今までのバーチャライザーをそのまま持ってきただけでは藤森が納得するような音にならず、こちらも工夫する必要がありました。

 アップミキサーも重要でした。ビームスピーカーの効果がわかりやすいのは、ドルビーアトモスなどのハイトチャンネルが入っているコンテンツです。しかし地デジやYouTubeなどは2チャンネル音源なのでハイトチャンネルは入っていません。

 そこで、今回搭載したビーム技術を最大限生かした空間表現を実現するためには、2チャンネル音声をハイトまで含めたサラウンド信号に変換するアップミックス技術が必要です。ただ、従来のアップミキサーでは、ビームスピーカー用としては相性が良くなかったので、チューニングを施しています。

藤森 何も調整していないと、声などがぼやけてしまい、明瞭度がなくなってしまったんです。そこで、人の声はくっきりと聞かせつつ、背景音にはサラウンド効果が付与されるといった本来の効果を目指して、坂本と一緒に試行錯誤しながら進めていきました。

坂本 バーチャライザーに関しては、従来は後方に広げる効果を重視して作られていたんですが、今回は音の質感を保ちつつ正面の空間を広げるように変更しました。さらに、ボーカルや楽器などの定位やクリアーさを残しつつ、「SURROUND:AI」をオンにした時には広がり感も出せるようなバランスを探していきました。

画像: 「MusicCast CONTROLLER」アプリでも、サラウンドモードの選択やサブウーファーの音量調整等が行える(左)。ハイトスピーカーのレベル調整もアプリから可能(右)

「MusicCast CONTROLLER」アプリでも、サラウンドモードの選択やサブウーファーの音量調整等が行える(左)。ハイトスピーカーのレベル調整もアプリから可能(右)

麻倉 アップミキサーのチューニングとは、具体的に何をしたんでしょうか?

坂本 従来のアップミキサーをかけると、SR-X90Aでは中低域がちょっと弱くなってしまうような印象がありました。それを改善するためにEQを追加し、音源を分離するアルゴリズムも工夫して、なるべく中低域が弱まらないようにしています。

麻倉 ところで、SR-X90AはAURO-3Dの再生にも対応しました。これはどういう狙いだったのでしょう?

坂本 今回搭載したデジタル・サウンド・プロジェクター技術は、天井定位がひじょうに優れていますので、ハイトチャンネルを豊富に生成することで、お客様がより高さ方向の広がりを感じていただけるアップミキサーを採用したいという思いがありました。

 そこでAVアンプのAVENTARGEシリーズを使って、様々なアップミキサーを比較試聴してみたんです。その時に、AURO-3Dが音質や空間表現がSR-X90Aの商品性とマッチしていると考えたので、搭載しようということになりました。具体的には「3D MUSIC」モードでAURO-3Dのアップミックス効果を体験いただけます。

麻倉 そういう苦労を経てSR-X90Aが完成したわけですが、実際に音を聴いた感想はいかがでしたか? また皆さんがこれからやってみたいことについてもコメントをお願いします。

藤森 SR-X90Aでは、ハイエンドモデルの名に恥じない音を作ることに苦労しました。これは、すごいプレッシャーでしたね。ヤマハが作るとなると、音楽再生とか楽器の音の再現は避けては通れません。ここについてはメンバー全員がこだわっているというか、原音を聴いているので妥協はできません。SR-X90Aは、そういったところもしっかり再現できてきていると思っています。

 次のテーマとしては、YSP技術をさらにブラッシュアップした製品を作ってみたいですね。デジタル・サウンド・プロジェクター技術は、本当に色々な使い方ができるんじゃないかと思っています。

澤米 SR-X90Aでは、サウンドデザイナーが思った通りの音質や空間表現を可能にする信号処理を実現できたところがよかったと思っています。製品の音を聴いた時には、今までとは全然違うものができたなと感じました。特に低域は、まさに欲しかったパンチ感が実現できた、今までと次元が違うんじゃないかと思いました。

 やってみたいこととしては、色々議論があるかもしれませんが、現在のようにサウンドバーが一般に広く浸透したきっかけを作ったのは、約20年前に初代YSPモデル「YSP-1」を開発、発売したヤマハだと自負しています。それを踏まえて、今度はサウンドバーに変わる “何か” を作ってみたいと思っています。

坂本 音楽も映画も最高に楽しめるサウンドバーというコンセプトに見合う「SURROUND:AI」を作り上げることに苦労しました。SR-X90Aの音質は、弊社のサウンドバーとして過去最高のクォリティになっているんじゃないかと感じています。ライブとか音楽がここまで楽しめるというのは予想してなかったので、そこがすごく驚いた点でした。

 今回の開発に携わって、信号処理によって、コンパクトなシステムであっても、素晴らしい音質を楽しんでもらえるオーディオ製品が作れるのではないかという可能性を感じています。

画像: インタビューに対応いただいたヤマハ株式会社の方々。写真左から、クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 商品開発部 ソフトグループ 澤米 進さん、同 音響機構グループ 藤森弘喜さん、同 ソフトグループ 坂本浩央さん

インタビューに対応いただいたヤマハ株式会社の方々。写真左から、クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 商品開発部 ソフトグループ 澤米 進さん、同 音響機構グループ 藤森弘喜さん、同 ソフトグループ 坂本浩央さん

麻倉 最後にひとつうかがいます。今回久しぶりのホームシアターコンポーネントということで、サウンドバーというジャンルから新製品を出したのには何か理由があったのでしょうか?

北澤 ヤマハのホームオーディオは、サウンドバーだけではなく、AVアンプとかハイファイ機器など様々な商品を提案できるところがブランドとしての強みだと思っています。

 今回サウンドバーのハイエンドモデルとしてSR-X90Aをご用意させていただきましたので、ヤマハのこだわりを詰め込んだSR-X90Aをぜひご堪能いただき、ヤマハにはエンジニアの熱い思いがあるんだ、それが製品に込められているんだということを、評論家の皆さんはもちろん、読者の方々にもお伝えしていきたいと思っています。

麻倉 よくわかりました。今後のヤマハの新展開を期待しています。
(9月24日、ヤマハ視聴室にて)

この音には “驚いた!” 「SR-X90A」は、ヤマハの技術者が
熱いこだわり心でつくった傑作サウンドバーである …… 麻倉怜士

 “驚いた!” が、ファースト・インプレッションです。これまで、サウンドバーはテレビの音の劣悪さを是正するものという立ち位置であり、オーディオ的、そして音楽的な観点から評価するようなものではないーーが常識でした。過度な迫力感と擬似的なサラウンド感が横溢していました。

 ところがSR-X90Aは、まったく違う。目をつぶれば、ハイファイのブックシェルフスピーカーとサブウーファーが鳴っているのではと錯覚すると言っても過言ではありません。

 まずひじょうに明瞭度が高い。これは映画、音楽などすべての音源に関して言えることで、スピードがちゃんと確保されています。特に難しい低域もそうです。エッジがしっかりしている。この明瞭度の高さ、スピードの速さ、エッジの輪郭の再現は、普通のサウンドバーでは、夢のまた夢でした。音の中身というか音の粒子感がしっかりし、安定感があるというところが、すべての音源に関して言えます。

画像: 麻倉さんは、QobuzやUHDブルーレイのサウンドを視聴。SR-X90Aの “サウンドバー離れした音” に驚いた様子でした

麻倉さんは、QobuzやUHDブルーレイのサウンドを視聴。SR-X90Aの “サウンドバー離れした音” に驚いた様子でした

 感心したのはやっぱり映画ですね。今回は100インチのスクリーンで見ました。その大きさと迫力に合わせるには、音にもその存在感に対する量感や質感がなくてはなりません。その意味から、SR-X90Aはかなり映像の情報量と拮抗する音だと感じました。

 映画『アリー/スター誕生』のチャプター7「シャロウ」。冒頭のギターがしっかりとしていて、生々しい。広がり感も豊かでした。男性歌手の声のボディが豊潤で、すっきりと伸びる。レディー・ガガの声は輪郭が明確、リッチにしてエネルギッシュな音像がハイスピードで前に飛び出します。映画音響のDMS(ダイアローグ、ミュージック、サウンドエフェクト)のそれぞれで、優れた再現性を聴かせてくれました。

 その意味では 一般的な概念でいうサウンドバーとはまったく違う音ですね。さすがは、ヤマハの一流の技術者が熱いこだわり心でつくっただけのクォリティです。傑作です。

(まとめ:泉哲也、撮影:嶋津彰夫)

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