家庭のローカルネットワーク経由で、同一ネットワーク上にあるサーバーなどに収録された音楽ファイルを呼び出し、再生できるネットワークプレーヤー。本格的なオーディオ機器として開発された音質志向の強いモデルから、日常の生活のなかで、手軽に楽しめるエントリーモデルまで、国産品、海外品を問わず、数多くの製品が登場している。
その多くはスマホ/タブレットのアプリによるリモート操作ができ、パソコンを立ち上げることなくスムーズに音楽再生が可能。それも選曲、再生、送り/戻しなどの基本操作だけでなく、アルバムをまたがったプレイリストの作成など、ディスクメディアの再生の常識を超えた優れた機能性を備えている。
そこにロスレス/ハイレゾ対応の音楽配信サービスQobuzが加われば、まさに鬼に金棒。ローカルの音楽ファイルとして保存している自分のライブラリーに、楽曲数が日々増加する音楽配信サービスが加わることで、新譜、旧譜、邦楽、洋楽を問わず、再生可能な作品は飛躍的に充実し、音楽再生、オーディオ再生の楽しみは大きく拡がることになる。
本特集では、様々なスタイルでQobuz再生の方法を紹介しているが、既存のオーディオ再生システムにQobuzを組み込むという考え方をするならば、インターネット回線と操作用スマホ/タブレット、そしてネットワークプレーヤーを加えるだけで成立するこの再生パターンは、王道的なQobuz再生メソッドともいえよう。
多数の製品が高音質を追求。ハイレゾの魅力が十分に味わえる

ここではオーレンダーの話題作A1000ネットワークプレーヤーを用意して、実際にQobuzの高音質サービスを体験してみることにしよう。
A1000は横幅350mmの小型ボディが特徴的だが、高剛性を追求した仕上がりは高級機譲りで、ネットワークトランスポート、USB DACとしての機能も備える。またHDMI ARC端子を装備しており、テレビとの連携も可能だ。DAC部は高品質な旭化成エレクトロニクスAK4490REQチップを左右独立構成で配置。再生サンプリングレートはPCMで最大768kHz/32ビット、DSDでは22.4MHzまでサポートしている。
再生キャッシュ用ストレージとして120GバイトM.2 NVMeを装備。さらに2.5インチストレージベイを備え、内蔵ストレージ(最大8Tバイトまで対応)に自前のライブラリーの格納が可能だ。Qobuzのサービスともども専用アプリ「Aurender Conductor」でストレスフリーに楽しめるというわけだ。
設定画面から「ストリーミング」を開き、Qobuzを選び、そのままユーザーアカウントとパスワードを入力してログイン。あとはストリーミングの品質(192kHz/24ビット)を選択すれば、Qobuz再生画面に切り替わる。
「My Heart Will Go On/セリーヌ・ディオン」、「デスペラード/イーグルス」などハイレゾ音源を中心に聴いたが、解像度の高い、精緻なサウンドが特徴的。空間の拡がりに余裕を感じさせ、響きは繊細でしなやかだ。押し出しの強い、骨太の音で聴かせるというタイプではないが、音の粒子をギュッと凝縮し、広い空間に放出、浸透していく様子が実に清々しい。
「花束を君に/宇多田ヒカル」(96kHz/24ビット)は、汚れや歪みを感じさせないきめ細やかな聴かせ方で、品位感が高い。特に微小音の描き分けが意欲的で、ピアノとストリングスの響きが繊細。彼女のヴォーカルのささやき、ヴィブラートまでも、余すことなく描き出していく。ここまでの情報量を確保しながら、質感が粗っぽくならないのは立派だ。
なお本機では再生に関係しないリソース消費を無効化する「クリティカルリスニングモード」が搭載されており、このモードを選ぶことで、音質的に硬質なテイストが和らぎ、中低域の躍動感が増す印象だった。

多くのネットワークプレーヤーは、その操作/設定用アプリが用意されている。QobuzはAPI(Application Programming Interface)が提供され、各メーカーが作るアプリの中にQobuz再生機能が組み込まれていることが多い。オーレンダーも「Aurender Conductor」というアプリの中にQobuz再生機能が実装されている
Qobuz高音質再生の肝はネットワーク環境の整備
ところで、現在、我が山中湖ラボではネットワークプレーヤーとして、リンKLIMAX RENEW DSを使用中だが、ここで気づいたのは、ネットワークプレーヤーによるQobuz再生は、ネット環境および接続ケーブルによる音質への影響が予想していた以上に大きいということだ。具体的には、ルーターとハブの接続関係を変更したり、ラインケーブルの引き回しを見直したり、あるいはハブとKLIMAX RENEW DS間、あるいはルーターとハブ間のLANケーブルを交換したり、ちょっとしたひと手間で、音がコロコロと変わっていく。
Qobuzの持てる力を引き出すには、ハブ、各種ケーブルなど周辺環境を整えていくことが必要不可欠と考えるべきだろう。

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>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』