オーディオ機器評価のリファレンス音源。SACDらしい繊細な音でホリー・コールの名唱を再現

 ジャズヴォーカルの金字塔、ホリー・コールの『Don't Smoke In Bed』は、私の仕事にはなくてはならないリファレンス音源だ。第1曲『I Can See Clearly Now』の冒頭を30秒ほど再生すれば、そのオーディオ機器の実力が立ちどころに白日の元に露わになるという恐ろしい音源なのだ。これまで数多くのリマスター版が世界のレーベルから発売されているが、このステレオサウンド版はどんなサウンドを聴かせてくれるのか。

Stereo Sound REFERENCE RECORD
SACD/CDハイブリッド盤『ドント・スモーク・イン・ベッド/ホリー・コール』

(ステレオサウンド SSVS-008)¥3,850 税込

[収録曲]
1.I Can See Clearly Now
2.Don't Let The Teardrops Rust Your Shining Heart/涙を止めないで
3.Get Out Of Town
4.So And So
5.The Tennessee Waltz
6.Everyday Will Be Like A Holiday/ホリデイ
7.Blame It On My Youth
8.Ev'rything I've Got
9.Je Ne T'Aime Pas/きらいよ
10.Cry(If You Want To)
11.Que Sera Sera
12.Don't Smoke In Bed

●マスタリングエンジニア:ロバート・ボスジーン
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 本アルバムは、トロントのReaction Studiosで1993年3月に録音。エンジニアはLeanne Ungar。マスタリングはBernie Grundman Studioで、バーニー・グランドマン本人が行なった。1993年6月にカナダのAlert Records、アメリカのManhattan RecordsからCDが初リリース、以降独自のマスタリングが施されたLPからハイレゾファイルまで数多く発売されている。

 本作には2つのジャケット写真がある。Alert版とManhattan版は黒衣装のホリーが上目づかいにこちらを見ているカット。日本の東芝EMI(当時)版は、水色の背景に肌色を飛ばしたホリーが視線を斜め上に投げているカットだ。ステレオサウンド版は後者を採用。マスタリングは米国キャピトル・レコードが保有するアナログマスターからのフラット・トランスファー。つまりもっとも素直に、生成りにオリジナル音調が収録されているわけだ。

 その音はニュアンスが豊かで、SACDらしいしっとりした細やかな質感が美しい。安定した低音の上に、安定したヴォーカルが乗る。声の表情には艶と奥行感が濃く、歌い回しの巧さもリアル。この丁寧で緻密な音調が、ロングセラーにつながっているのだろう。言葉の意味と、音楽的な抑揚が密接に連携するホリー・コールの名唱が、このSACDでは繊細に再現されている。

 スタンダードナンバーのホリー・コール流の解釈も聴き物。『Que Sera Sera』はオリジナルのドリス・デイ版とはまるで違うアンニュイで、ダークな雰囲気。『The Tennessee Waltz』も、感情が濃いスローバラードになった。

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