イイ奴! 大好き! 関係者たちが嬉しそうに語る素顔のタランティーノ

 「長編映画を10作撮ったら、映画監督を引退する」と公言しているクエンティン・タランティーノ。そんな彼の映画人生をたどるドキュメンタリー『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』が制作されたのは、デビュー作『レザボア・ドッグス』(92年)から数えて9作目にあたる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と同じ2019年。そして待望の公開は、10作目『The Movie Critic』の撮影準備が始まった今年2023年だ。

 このドキュメンタリーを見たら、長年のファンはもとより、例えば黄色いジャージ姿で暴れる『キル・ビル』(03年)、『キル・ビル Vol2』(04年)のユマ・サーマンは記憶にあっても作品をちゃんと観たことのない人たちも、全9作品を一気見したくなる。そして、最後になるかもしれない10作目に、大きな期待を寄せるに違いない。

 はじめに断っておくが、タランテーノ自身のインタビューはない(アーカイブ映像のみ)。代わりに登場するのは、『レザボア・ドッグス』(91年)から8作目の『ヘイトフル・エイト』(15年)まで、キャリアをともにしてきたティム・ロスやマイケル・マドセンなどの俳優たちや、女優でスタントウーマンのゾーイ・ベルなど、“タランティーノ・ファミリー”の面々だ。

 『レザボア~』の有名な耳切シーン誕生の秘話、『パルプ・フィクション』(94年)にジョン・トラボルタがキャスティングされた理由(わけ)、『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)でレオナルド・ディカプリオがどうしても言えなかったセリフは? などなど、各シーンを折り込みながら、撮影裏話だけではなく、数々のタランティーノ語録を披露して、彼がいかに映画を愛しているか、いかに真剣勝負をしているか、いかにイイ奴なのか……etc.を、いや~語る、語る。みんな、タランティーノが大好き! 一緒に仕事をするのが大好き! だって、本当に面白い映画を作っている実感があるんだもん! 現場がサイコーに楽しんだもん! ……と、まるでファンミの熱気さながらだ。

『レザボア・ドッグス』について、マイケル・マドセンから散々な言われようのティム・ロス。こんな毒舌が許されるのも友情のなせる業?

画像: 強面のようで、話に人のよさがにじみ出てしまうマイケル・マドセン

強面のようで、話に人のよさがにじみ出てしまうマイケル・マドセン

画像: 『デス・プルーフ in グラインドハウス』でのエピソードが胸熱なゾーイ・ベル

『デス・プルーフ in グラインドハウス』でのエピソードが胸熱なゾーイ・ベル

画像: 『ジャンゴ 繋がれざる者』の撮影時、サミュエル・L・ジャクソンがレオナルド・ディカプリオを罵った理由とは?

『ジャンゴ 繋がれざる者』の撮影時、サミュエル・L・ジャクソンがレオナルド・ディカプリオを罵った理由とは?

 そして、そんな熱い光景を繰り広げながら、タランティーノ公認ではあるものの「ご本人のコメントなし」という方法は、時として陥りがちな自画自賛を回避して、タランティーノの素顔と映画への思いを浮き彫りにすることに成功していると納得してしまった。

 そうなのよ。知っての通り、タラちゃんはマシンガントークだもの。本人に喋らせたら何日間だって話し続けるだろう。しかもその内容は、映画への愛に満ちていて、造詣が深く、超・面白いからどこをどうカットしていいやら……。きっと収集がつかなくなっていただろう。

画像: タランティーノと切っても切れないハーヴェイ・ワインスタイン(性的虐待の罪で現在服役中)との関係も、アニメーションを用いて語られる

タランティーノと切っても切れないハーヴェイ・ワインスタイン(性的虐待の罪で現在服役中)との関係も、アニメーションを用いて語られる

画像: みんな若い! ご存じの通り、右から2番目がタランティーノ

みんな若い! ご存じの通り、右から2番目がタランティーノ

タランティーノ本人はインタビュアー泣かせ! なぜなら?

 ちなみに、この予想は私の経験から。“ハリウッドの寵児”ともてはやされた脚本・監督デビュー作『レザボア・ドッグス』を携えた1993年の初会見以来、『パルプ~』、脚本担当の『トゥルー・ロマンス』(93年)、『キル・ビル』の1&2、『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07年)と、数年おきにインタビューしている。そして、そのどれもが質問はちょっぴり、コメントは山程!

 「このシーンはあの映画のあのシーンを思い出して撮った。あの作品は初めてできたガールフレンドと土曜の夜のオールナイトで見て、ものすごく興奮した。カメラの動きが右から来て、即、切り替えして。あの監督は、以前にも『××』という作品を撮っていて、その時のスタントが……」と、延々続く。

 彼の言う“あの映画”が、勝新太郎主演の『座頭市』だったり、梶芽衣子主演の『修羅雪姫』だったり、リチャード・C・サラフィアン監督の『バニシング・ポイント』だったり、国籍・ジャンル問わずだから興味は尽きないけど、時間はどんどん過ぎていく。決めの質問をしておきたいインタビュアーとしては、いつも大焦りだった。

 最後の個別インタビューとなった『デス・プルーフ~』のときも、少年時代に映画の洗礼を受けたグラインドハウス(アメリカの大都市周辺にあったB級映画の映画館)の説明と、そこで見た数々の映画の思い出を語る。

 「俺が人生で最もシビれたカーチェイスは、あそこで見た70年代のもの。スタントマンが実際に危険なスタントをこなしているからね。そういう映画に敬意を払うために絶対にCGは使いたくなかった。演じたのはスタントウーマンのゾーイ・ベル。俺が考え出すワイルドなことをカメラの前で実際にできる女優がいること自体、スーパー・クールなことだよ」

 ここでやっと決めの質問。キャリア15年、44歳になった今のポジションは?

 「すごく幸運なポジションにいる。なぜかというと、アーティストとして認識されているから。雇われ監督でもないし、離婚の慰謝料やプール付きの豪邸を維持するための仕事もしていない。俺にとっての映画作りは、真っ白なページから始まる。そこにアーティストの誇りと尊厳があるんだ」

 では、今の経済事情は?

 「二度と働かなくてもいいくらいの金を『パルプ・フィクション』で稼いだ。だからこそ、探求主義の作品を自由に作れている。思うに、あの成功は正しいかどうかわからないけど、“神に報われた!”という感じ。だからこそ、金で転ぶような作品を作ったら、幸運につばするようなもんだと、肝に命じているよ」

 あれから16年。60歳になった“ハリウッドの寵児”が、監督最後の映画を作ろうとしている。なぜだろう?

 本作に「自分に問う。全力でやっているか? 人生を捧げているか? そのためにここにいる」というタランティーノの語録があるが、もう映画には人生を捧げられなくなったのだろうか? その答えを、ぜひともご本人から聞きたいと願っている。

『レザボア・ドッグス』のインタビューで、筆者の金子裕子さんがタランティーノからもらったサイン。『レザボア~』と言えばの黒スーツ・黒ネクタイのイラストが可愛らしい

『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』

8月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国公開

監督・脚本:タラ・ウッド
出演:ゾーイ・ベル/ブルース・ダーン/ロバート・フォスター/ジェイミー・フォックス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェニファー・ジェイソン・リー/ダイアン・クルーガー/ルーシー・リュー/マイケル・マドセン/イーライ・ロス/ティム・ロス/カート・ラッセル/クリストフ・ヴァルツ
原題:QT8: THE FIRST EIGHT
2019年/アメリカ/101分
配給:ショウゲート
(c) 2019 Wood Entertainment

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