スコセッシとディカプリオが出会うきっかけを作ったのはデ・ニーロだった

 公開されるやいなや、“アカデミー賞最有力候補”の呼び声も高い『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。そりゃそうでしょ! マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ&ロバート・デ・ニーロという黄金トリオだもの、ハズレのわけがない。

画像: 白人が先住民族に対して犯した大罪をテーマにした『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。人間の狡猾さと肥大する欲、そして人種差別を描いた実話だ

白人が先住民族に対して犯した大罪をテーマにした『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』。人間の狡猾さと肥大する欲、そして人種差別を描いた実話だ

画像: 左より、レオナルド・ディカプリオ、先住民族“オセージ族”の女性を演じたリリー・グラッドストーン、マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ

左より、レオナルド・ディカプリオ、先住民族“オセージ族”の女性を演じたリリー・グラッドストーン、マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ

 そう、3人の強い絆は知っての通り。デ・ニーロが『ボーイズ・ライフ』(93年)で初共演したディカプリオ(当時、18 or 19歳ごろ)を気に入って、朋友スコセッシに紹介してから関係が始まり、なんと30年! 『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02年)を皮切りに、スコセッシは何度もディカプリオを起用している。しかも『キラーズ~』は、ディカプリオにとっては敬愛するデ・ニーロと『マイ・ルーム』(96年)以来27年ぶり3回目の共演だったから、喜びもヒトシオだろう。

 ディカプリオは、油田の発見で超金持ちになった先住民族・オセージ族の女性モリーとの間に淡い恋心が芽生えたのをチャンスとして、デ・ニーロ演じる叔父の“悪魔の囁き”に従い、財産目当てで彼女と結婚するアーネスト役を熱演。口を“への字”に歪めた役作りに、汚れ役へのこだわりが出ているかも? 前半の狡猾なロクデナシぶりもなかなかだけど、罪と正義と愛の狭間で揺れる後半の演技が絶妙だった。

 『キラーズ~』を語るスコセッシ監督のインタビューによれば「レオは最初、事件を捜査する捜査官役を想定していた。だけど、“それでは白人がヒーローになってしまう”というレオの提案で、汚れ役アーネストを演じることになった」とか。なるほどね。

 ディカプリオと超・演技派デ・ニーロの共演を最大限に活かしているのが、当然のごとく巨匠マーティン・スコセッシ監督だ。まさに“手練の技”で、アメリカの黒歴史のひとつである、実際にあった先住民迫害事件を克明に暴き出していく。いわば”贖罪“の意味を込めた内容だけに、監督自身の強靭な意志がみなぎっていて、圧倒される。陰惨で辛辣だけど、事件の後日談を語るエピローグも心に響く。

 さらに、2023年8月に亡くなったロビー・ロバートソンを筆頭に、音楽の使い方もセンス抜群。これが御年81歳の監督の作品だなんて、ある意味衝撃だ。後輩監督たち、奮起せよ!

画像: 製作準備は、新型コロナウイルス感染症の影響で一時中断に追い込まれた。撮影が行われたのは、2021年4月15日~9月15日の99日間だったという

製作準備は、新型コロナウイルス感染症の影響で一時中断に追い込まれた。撮影が行われたのは、2021年4月15日~9月15日の99日間だったという

画像: 撮影現場で笑顔を見せるスコセッシ

撮影現場で笑顔を見せるスコセッシ

画像: LAプレミアにて

LAプレミアにて

あのアカデミー賞受賞はスコセッシにとって不本意だった

 スコセッシ監督への個別のインタビューは1回だけ。『ヒューゴの不思議な発明』(11年)公開直前、2012年2月に来日したときだ。濃紺のスーツにネクタイをきちんと締めて、いかにもニューヨーカーらしいお姿が素敵だった。

 そして、通訳さんも汗だくになるほどの早口に笑ったのも覚えている。ブライアン・セルズニックの小説を原作とする『ヒューゴ~』は、パリ・モンパルナス駅の時計台に隠れて暮らす孤児ヒューゴが主人公。スコセッシ監督にしては珍しいファンタジー・アドベンチャーだ。

 「“娘が楽しめるような作品をぜんぜん作ってない”と妻に言ったら、彼女がちょうど読み終わった原作を手に“これを映画にしたら”って。だから、この映画は12歳の娘フランチェスカのために作ったんだ」

 ちなみに、この作品で初めて3D撮影を経験した巨匠は、「3D撮影の常識なんて知らないから、タブーとされていることもたくさん試した。それで失敗もあったけど、成功したこともたくさんあって楽しかったよ。これからも新しい技術を学びたいとは思うけど、テクノロジーに頼りきるのは嫌だね。僕なりのリアルな表現を大切にしたいんだ」

 確かに! 最新作『キラーズ~』でも、実在するオセージ族の居留地で撮影したリアリティと迫力は、言わずもがなだ。

 『ヒューゴ~』はアカデミー賞の監督賞をはじめ最多11部門の候補になっていて、日本から帰国した数日後にその結果がわかるタイミング。そこで、「『ディパーテッド』(06年)で念願のアカデミー賞作品賞・監督賞など4部門を受賞しましたが、今度も欲しいですか?」と尋ねると……

 ちょっと語気を荒らげて「オスカーを受賞したことは、光栄だとは思う。でも僕は怒っている。ある事情で撮らざるを得なかったけど、不本意な思いは今もある。だいたい香港映画のリメイクだということも後から知ったのだから。もちろんあの巧みなプロットには感服したし、オリジナルに称賛は惜しまないけれど……」

 それを聞いて、私は絶句。日本はもとより、アジアでも有名な『インファナル・アフェア』(02年)を知らなかったなんて……びっくりだよ(笑)。

 ということで、渾身作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で、今度こそ納得してアカデミー賞を受賞することを、切に願っております!

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

公開中

監督:マーティン・スコセッシ
脚本:エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
出演:レオナルド・ディカプリオ/ロバート・デ・ニーロ/ジェシー・プレモンス
原題:KILLERS OF THE FLOWER MOON
2023年/アメリカ/206分
配給:東和ピクチャーズ
画像提供 Apple

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