「より多くの人に、手軽に良質なサウンドを楽しんで欲しい」。そんな思いを抱いて発足したオーディオブランドEARMEN(イヤーメン)。ヘッドオフィスは北米・シカゴ市の北郊ウィネトカ。セルビアの高級オーディオメーカー、Auris Audioのサポートを受けつつ、品質管理を徹底させるため、設計、製造は基本、欧州で行なっているという。

 同社の製品の特徴は、シンプルに、いい音を追求していること。すでに高い評価を得ているDACシステム、TRADUTTO(トラデュット)を見ても、横幅15cmの小さな筐体はフルブロック・アルミの削り出しで、実際に手にとっても精密機器に通じる凝縮感がなんとも頼もしい。

 

画像1: 電源が強力なプリアンプ。アクティブスピーカーとの接続も魅力だ EARMEN「CH-AMP」

D/A Converter

EARMEN
Tradutto
オープン価格(実勢価格13万2,000円前後)

●接続端子:デジタル音声 入力端子3系統(USBタイプB、光、同軸)、アナログ音声出力端子2系統(RCA、4.4mmバランス)
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:〜768kHz/32ビット(PCM)、〜11.2Mhz(DSD)
●寸法/質量:W150×H30×D150mm/550g

 

 

トラデュットの能力を最大に引き上げるCH-AMP

 スイスで製造されるという4層の回路基板は、本体天板側に固定されるという凝ったフローティング構造。その表面にはWIMAフィルムコンデンサーや、MELF型低ノイズ抵抗など、音質的に評価の高いパーツがひしめく。正攻法のモノづくりにブレはない。

 このトラデュットの潜在能力を最大限に引き出すべく開発されたのが、アナログ入力専用の本格派ヘッドホンアンプ兼プリアンプCH-AMPだ。回路構成は完全バランス設計。バランス入力はそのまま増幅されるが、RCA入力についても位相差なくバランス変換され、プラスとマイナスの信号は完全に同位相として処理されるという。

 入力はRCA2系統、4.4mmバランスの計3系統。ヘッドホン出力については、High/Lowのゲイン切替えが可能だ。

画像2: 電源が強力なプリアンプ。アクティブスピーカーとの接続も魅力だ EARMEN「CH-AMP」

Control Amplifier / Headphone Amplifier

EARMEN
CH-AMP
オープン価格(実勢価格27万5,000円前後)

●接続端子:本体・アナログ音声入力端子3系統(RCA×2、4.4mmバランス×1)、アナログ音声出力端子2系統(RCA×1、4.4mmバランス×1)、ヘッドホン出力2系統(6.3mm、4.4mmバランス)、電源部・DC出力×4(2芯×3、4ピン×1)
●寸法/質量:本体・W150×H30×D150mm/550g、電源部・W150×H60×D150mm/1.59kg

 

●問合せ先:(株)ユキムTEL. 03(5743)6202

画像4: 電源が強力なプリアンプ。アクティブスピーカーとの接続も魅力だ EARMEN「CH-AMP」

CH-AMPの背面。本体部はRCA端子に加えて4.4mmバランス入出力端子を備えているのが特徴的。電源部は2芯のDCケーブル端子が3つあり、トラデュットの電源強化も図れる 

 

 

 写真でもお分かりのように、本体と電源部の2筐体のシステムで、いずれもトラデュットと同様のアルミ削り出しの強固な仕上がり。ここで見逃せないのが、電源部にトラデュットへの電源供給が可能な接続端子が用意されていることだ。トラデュットの潜在能力からして、低ノイズ、かつ安定した電源供給を行なえるリニア電源が使えるようになるメリットは極めて大きく、おのずとオールインワンの上質なシステムへの期待が高まる。

 早速、HiVi視聴室のリファレンスシステムとの組合せで、トラデュットを付属のACアダプターとの供電とCH-AMPの電源部からの供電を聴き比べてみたが、その差は歴然。ACアダプター供電で聴かせるストレスを感じさせない、しなやかなサウンドは充分魅力的だが、CH-AMPからの供電に切り換えると、ノイズフロアーはグッと下がり、音の粒子まで感じさせるような繊細な感触が得られる。

 音像の定位、音場の拡がりともにフォーカスが鋭く、曖昧さを感じさせない。ピアノは立ち上がりの素早さ、確実なリズム感と、過渡応答の良さが実感できる。この軽やかに躍動するサウンドを一度体験してしまうと、もはや後戻りするのは難しい。

 

画像5: 電源が強力なプリアンプ。アクティブスピーカーとの接続も魅力だ EARMEN「CH-AMP」

CH-AMPはプリアンプとヘッドホンアンプの2つの機能を核とし、イヤーメン製品に低ノイズで安定した電圧供給ができる特徴を持つ。そこでCH-AMPを中心に据えて、①トラデュットと同時に使用した際のプリアンプ機能や強化電源の効果、②プリアンプ-アクティブスピーカーの連携のよさと音質、③ヘッドホンアンプの実力、この3点を軸に視聴を行ない、それぞれのクォリティを浮き彫りにした

 

 

プリアンプとしての実力をチェック。音の気配を濃密かつ鮮明に描く

 ではここにプリアンプとしてCH-AMPが加わると、どうなるのか。CH-AMPからデノンのプリメインアンプPMA-SX1 LIMITEDの「EXT.PRE」端子に接続し、同機をパワーアンプとして活用してCH-AMPの実力を検証した。その変化は予想していた以上に大きい。

 もちろんPMA-SX1 LIMITEDをプリメインアンプとして使用したときのエネルギー感に満ちた熱気のあるサウンドも悪くない。ただそこにCH-AMPが加わると、音の勢い、鮮度の高さを引き継ぎながら、微小信号がフワッと浮き上がり、その場の空気感、気配までも鮮明に描き出すのだ。

 ギターの弾き語りで歌うエミルー・ハリスの声は、ほんのりと温かく、手を伸ばせば届きそうなほど生々しい。アコースティックギターの響きが実に繊細で、空間にしみこむように拡がる。空気のグラデーションをきめ細かく、しかも色濃く描き上げていく様子は、なかなか聴き応えがある。

 ではムービーサウンドのパフォーマンスやいかに。『トップガン マーヴェリック』の冒頭、マーヴェリック(トム・クルーズ)がダークスターでマッハ10に挑戦するシーンを再生。ここでまず、ジェット機の音像の高さと、そのスピード感に度肝を抜かれた。ステレオ再生に関わらず、位相情報が正確に再現されているためか、目の前に拡がる空間が大きく、しかもケイン少将の頭上をダークスターが駆け抜けていく様子が鮮明だ。抑えの効いた色濃いサウンドで、音そのものの鮮度が高く、勢いがある。

 この情報量の余裕はチャプター4、マーヴェリックが初めてペニー(ジェニファー・コネリー)の店を訪ねるシーンでも、しっかりと感じとれる。驚きを隠しきれず、昔話に花が咲く2人だが、それぞれの声の明瞭度が高く、ニュアンスが豊かだ。

 周辺から伝わる客の声、物音などもから店の大きさ、天井高まで感じさせ、この店の雰囲気、居心地の良さのようなものまで連想できる。その場の気配、空気感をここまで感じさせてくれるとは。正直、驚かされた。

 

[視聴機器]
●ディスプレイ:レグザ 48X9400S
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニック DP-UB9000(Japan Limited)
●スピーカーシステム: モニターオーディオ PL300II
●CDプレーヤー: デノン DCD-SX1 LIMITED
●プリメインアンプ: デノン PMA-SX1 LIMITED

[視聴ソフト]
●CD:『How She Could Sing the Wildwood Flower/エミルー・ハリス』『Famous Blue Raincoat/Jennifer Warns』
●UHDブルーレイ:『トップガン マーヴェリック』

 

画像6: 電源が強力なプリアンプ。アクティブスピーカーとの接続も魅力だ EARMEN「CH-AMP」

視聴にはレグザの有機ELディスプレイ48X9400Sを使用。緻密な映像をCH-AMP+A100 HD MONITORの実体感の強い音が盛り上げる。書斎やリビングでの利用にぴったりフィットしそうだ

 

 

アクティブスピーカーのプリアンプとしてもベストマッチ

 ここでひとつ思いついたのが、人気急上昇中のアクティブスピーカー、エアパルスのA100 HD MONITORとの組合せだ。このモデル、洗練されたデザインと鳴りっぷりの良さで人気を集めたA100 BT5.0の音質強化版。サイズ、ユニット構成は変わらないが、25mm厚MDFバッフル(ベースモデルは18mm厚)を採用、それにあわせて音質チューニングも全面的に見直されたという。

 実際、そのサウンドを確認してみると、エンクロージャーの剛性が上がったためか、音の芯が明確になり、響きの鮮度が飛躍的に向上している。思い切ってパワーを入れても低音が甘くならず、リズム感がいい。

 A100はUSB Type B/光接続によるデジタル入力が可能だが、CH-AMPとの連携はRCAアナログ接続で行なう。さてそのサウンドだが、実に堂々とした聴かせ方で、中低域の分解能の高さが際立つ。

 『トップガン~』の冒頭からチャプター2を大音量で再生してみたが、響きは重厚で、セリフは明瞭、輪郭がにじまない。

 マッハ10に挑むダークスターの大音量再生でも、歪まず、冷静に描き分けて、しかも単調にならない。そしてマーヴェリックが乗るダークスターがレーダーから消えた瞬間の管制室の静寂感。動と静のコントラストの描き分け、見事だった。

画像7: 電源が強力なプリアンプ。アクティブスピーカーとの接続も魅力だ EARMEN「CH-AMP」

Active Speaker System

AIRPULSE
A100 HD MONITOR

オープン価格(実勢価格12万1,000円前後、ペア)
●型式:アンプ内蔵 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:リボン型トゥイーター、12.7cmコーン型ウーファー
●出力:10W×2(トィーター)、40W×2(ウーファー)
●接続端子:デジタル音声 入力端子2系統(USBタイプB、光)、アナログ音声入力端子2系統(RCA×2)、サブウーファープリアウト×1
●寸法/質量:W160×D283×H255mm/5.5kg

 

A100 HD MONITORはA100 BT5.0のシンプルフィニッシュ版。接続端子やブルートゥース機能は従来通りで、デジタル/アナログ入力が豊富

 

 

2系統のヘッドホン出力を検証 非常に実直な音が好印象だ

 最後にヘッドホンアンプとしての実力を確認しておこう。6.3mmヘッドホン端子にノイマンのNDH30を接続。クセの少ないニュートラルな音調のヘッドホンだが、その持ち味を素直に引き出す印象だ。激しさを感じさせるサウンドではないため、思い切って音量をあげてもうるさくならず、あるがままを穏やかに描き出す。エミルー・ハリスの声も解像感、レンジを無理に欲張らない穏やかな表現で、耳ざわりなエッジの強調もない。目の前でささやくように歌う様子が、実に心地よかった。

 CH-AMPはバランス接続も可能。そこでファーオーディオのイヤホン、Neon 4と4.4mmバランス接続の音を確認したが、力むことなく、穏やかに聴かせるという基本的な音調は変わらない。アンバランス接続に比べると、わずかに音の線が太くなり、ベース、バスドラの躍動感が増す印象だが、帯域バランスは崩れず、不自然なブースト感はない。人工的な演出は皆無だ。

 

結論

アクティブスピーカーとの連携は特に素晴らしい!

本格的なオーディオシステムとの組合せでも充分、通用するプリアンプであり、同時に高品質のヘッドホンアンプでもある。さらに単体DACトラデュットの電源供給が可能になり、そのクォリティをしっかりと押し上げてみせた。今回の取材で私がもっとも心ひかれたのは、トラデュットとCH-AMPに、A100 HD MONITORを組み合わせたシステム。そのスマートさに加え、クォリティは間違いなく一級品。さらに好みのヘッドホンの持ち味を積極的に引き出してくれるのも大きな魅力だ。

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』

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