ソニーの2022年ブラビアシリーズは、4K有機ELテレビ3シリーズ7モデル、4K液晶テレビ5シリーズ21モデルをラインナップしている。このうち4K有機ELの「A95K」「A90K」「A80K」と4K液晶「X95K」「X90J」の5シリーズには独自の認知プロセッサー「XR」の第二世代が搭載されているのがポイントだ。

 さらにA95Kには新しい有機ELパネルのQD-OLEDが、X95KにはMini LEDバックライトが採用されるなど、表示パネルそれぞれについても最新技術が導入されているのも注目される。これらの最新パネルと認知特性プロセッサー「XR」の組み合わせではどんな映像・サウンドが実現できるのか。麻倉さんと一緒にソニー本社で最新モデルをチェックした。(StereoSound ONLINE編集部)

今回視聴したブラビア2022年ラインナップ注目モデル

画像1: 認知特性プロセッサー「XR」を搭載した2022年ブラビアのトップモデルを吟味した。QD-OLEDからMini LEDまで、新型デバイスの魅力が引き出されている:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート80

●A95Kシリーズ
XRJ-65A95K 市場想定価格¥660,000前後
XRJ-55A95K 市場想定価格¥473,000前後

画像2: 認知特性プロセッサー「XR」を搭載した2022年ブラビアのトップモデルを吟味した。QD-OLEDからMini LEDまで、新型デバイスの魅力が引き出されている:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート80

●X95Kシリーズ
XRJ-85X95K 市場想定価格¥935,000前後(8月発売)
XRJ-75X95K 市場想定価格¥792,000前後(9月発売)
XRJ-65X95K 市場想定価格¥528,000前後(9月発売)

 今回は、ソニーの2022年ブラビア新ラインナップを体験させてもらいました。まず注目だったのが、QD-OLED(量子ドット有機EL)パネルを搭載したA95Kシリーズです。

 そのQD-OLEDは、青色発光の有機ELパネル表面に量子ドットフィルターを組み合わせることで光を変調させ、RGBの光を得ています。これにより純度の高い色再現が可能で、実際にこれまでの白色有機ELパネルと比べても、かなり新鮮というか、注目に値するポイントがありました。

 有機ELパネルの歴史としては、サムソンディスプレイが2012年頃にファインマスクを使ったRGB塗り分け方式の55インチパネルにトライしましたが、それが失敗して大型有機ELパネル自体から撤退してしまいました。それと時を同じくして、LGディスプレイが白色有機ELパネルを発表し、これが現在の家庭用大型有機ELテレビのスタンダードになっています。

 そんな中で、今回ソニーはサムスンが再度、有機ELにチャレンジしたQD-OLEDという新しい有機ELパネルを使ったのです。そのポイントは、ずばりRGBで発光していることでしょう。量子ドットフィルターを介していると言っても、映像表示の仕組はRGBのサブピクセル発光なわけですから、そのメリットはかなりあるはずです。

 まず、明るいシーンでも色がしっかり再現され、カラーボリュウムがキープされます。白色有機ELパネル+カラーフィルダーの場合、高輝度部分では彩度が下がってしまうことがありますが、QD-OLEDならその心配もない。

 また白色有機ELパネルでは、斜め45度から見た場合に色が薄くなることがありました。しかしQD-OLEDではこの問題も大丈夫ということですので、視野角という意味でもアドバンテージがあるはずです。

 今回の取材時にカラーチャートを見せてもらいました。P3の色域で書かれた赤い丸印の中にBT.2020の赤い文字が記されています。P3用のマスターモニターでは文字が読めませんが、A95Kシリーズでは文字がちゃんと判別できました。高彩度から低彩度までの赤色の違い、再現性はQD-OLEDが頭ひとつ抜けているような印象がありました。

 この違いはCGコンテンツ、たとえばゲーム映像などでわかりやすいかもしれません。最近のゲームはシミュレーションを駆使してとても精密に作られています。QD-OLEDならゲームクリエイターがイメージした映像が再現できるのではないでしょうか。普通の映像は、色域がそこまで広くないので、ゲームやCGの時にメリットが発揮されると見ました。

 この連載でも採り上げましたが、SID会長・辻村隆俊氏(コニカミノルタ)にインタビューした時、実際の映像は色範囲が狭いとおっしゃっていました。「コダックの写真ライブラリー13,000枚の画像について、個個の画素がどんな色度にあるか統計をとると、出現頻度は白が飛び抜けて高かったのです。実際に身の回りの色にはと、飽和した色、派手な色はたいへん少ない。ほとんどの画像が白黒に若干の色づけをすることで表現できるのです」と、辻村氏は、言っていましたね。その意味でこのQD-OLEDは、ゲームやCGでの広色域が得意技といえるでしょう。

 気になったのは黒が少し浮くこと。特に周りが明るい環境で感じます。霞のような粉っぽさです。真っ暗な部屋では有機ELらしい正しい沈みなので、これはパネルの外光反射特性の影響でしょう。サムスンのQD-OLEDテレビも別の機会にチェックしましたが、まったく同じ現象でした。これはパネルマターですね。

 絵づくりは、さすがに成熟しています。第二世代の認知特性プロセッサー「XR」が搭載されていますが、特に奥行表現が見事でした。昨年の第一世代でも、人間の視点に合わせた映像を再現すると言われていましたが、正直そこまでのメリットは実感できませんでした。

 しかしA95Kでは、超解像の使い分けが見事です。背景などの元々ボケているような部分は効果を抑えるなど、メリハリをつけたノンリニアな処理を行ったことで、立体感やフォーカス感がかなりしっかりしてきました。

 処理内容としては入力映像をAIで解析して、プロセッサー内部で奥行マップを生成しているそうです。単純に手前と奥に分けるのではなく、中間のどれくらいの位置にあるかという情報も踏まえ、前景と判別された領域に関しては超解像をしっかり加え、背景と判別された領域は奥行を生み出すような処理を行っているということです。

 その結果、フォーカスが当たっている被写体は手前に立体的に見え、背景は奥行を持って再現されます。確かに、映像自体に深みが出て、没入可能のある映像が再現できていました。

 そこでは独自に学習させたAIを使い、人間の目や脳が自然に奥行を感じられる映像を解析しているそうです。人間はこういう構図では奥行を感じるとか、パンフォーカスの映像ではクリエイターは奥行を出したくないだろうから無理に強調をしない、といった判断も加えているのですね。

画像: 左がA95Kシリーズに搭載された新しいアクチュエーター。従来モデル(右)に比べ、内径部分(中央の円)の直径が11.5mmから16mmに大型化されている。これにより中高域〜高域の再現性が改善されたという

左がA95Kシリーズに搭載された新しいアクチュエーター。従来モデル(右)に比べ、内径部分(中央の円)の直径が11.5mmから16mmに大型化されている。これにより中高域〜高域の再現性が改善されたという

 サウンド面では、ソニーの有機ELテレビはアクチュエーターを使って画面から音を出すAcoustic Surface Audio+が特長です。今回はQD-OLEDパネルのガラスが厚く、重くなっているので、それに合わせてアクチュエーターの仕様を変更したそうです。

 また昨年のA90Jでは、エンクロージャーテープというパーツをパネルの裏に貼って音像を調整していましたが、A95Kではそれを一部削除しています。これによりパネルの端まで振動できるようになり、広がり感が改善されています。同時に背圧を逃がしやすくなるので、クリアーな音が再現できたといいます。

 UHDブルーレイでは、明瞭度が改善されて、くっきり、解像感のあるサウンドが実現できていると思います。ヴォーカルも実体感があって、テレビとしての音が着実によくなっている。ドルビーアトモス対応ということで「シネマ」モードも聴かせてもらいましたが、広がり感が改善されて、音に包まれる感じを楽しめました。

 A95Kシリーズは、設置方法が選べるのもユニークです。付属スタンドの取り付け方が2種類あり、フロントポジションでは、正面からスタンドが見えないデザインになります。通常のテレビ台などに置く場合を想定したものです。

 もうひとつのバックポジションは、スタンドを反対向きに取り付けます。この場合スタンドが手前に出てきますが、テレビ本体は壁寄せ風に設置できる。デュアルスタイルと呼んでいるそうですが、ユーザーの趣向に合わせて使い分けられるのは好ましい配慮でしょう。

画像3: 認知特性プロセッサー「XR」を搭載した2022年ブラビアのトップモデルを吟味した。QD-OLEDからMini LEDまで、新型デバイスの魅力が引き出されている:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート80

 また今回は、Mini LEDバックライトを搭載した液晶の新フラッグシップ「X95K」シリーズも視聴しました。ブラビア初のMini LEDバックライト搭載モデルで、従来の直下型に比べて縦横それぞれ約1/10、面積としては約1/100のサイズのLEDを使っています。

 Mini LEDバックライトですから、これまでの液晶テレビでは難しかった局所的な明るさを表現できます。さらに独自のXRバックライトマスタードライブも搭載しています。これは2016年発売の4K液晶テレビ「Z9D」シリーズに搭載されたバックライトマスタードライブの進化版で、認知特性プロセッサー「XR」で多くのMini LEDを的確に駆動しているといいます。

 液晶テレビでは漏れ光(フレア)対策も重要です。X95Kシリーズでは光をバックライトからパネル前面にどうやって持ってくるかという光学設計にも配慮し、画面内の明るい部分にどう光を集約するか、その周辺に光が漏れないようにLEDのバランスをどう取るかまで調整して、フレアを抑えているといいます。

 実際に視聴した印象でも、漏れ光はあまり気になりませんでした。絵づくりとしては、極端に黒を沈めようとしていない方向で、明るさを残した状態でどう絵のバランスを取っていくかを考えたものといえるでしょう。

 Mini LEDの搭載数や分割エリア数は非公開ですが、バックライト分割はこれまでのモデルに比べてかなり細分化されているそうで、黒の安定感にはその恩恵も大きいと観ました。次のステップとしては、映像に応じて分割エリアの形を適応的に切り替えていくことです。それが実現されれば、有機ELに迫るコントラスト再現も夢ではない。認知特性プロセッサー「XR」を活かした展開を期待します。

画像: 奥行感再現の違いも確認している。石の通路による構図的な奥行再現に加え、X95KやA95Kでは、認知特性プロセッサー「XR」の処理によって、モデルと奥の木々との間に距離を感じることができるようになっている

奥行感再現の違いも確認している。石の通路による構図的な奥行再現に加え、X95KやA95Kでは、認知特性プロセッサー「XR」の処理によって、モデルと奥の木々との間に距離を感じることができるようになっている

 X95Kで、画面中央に赤い服を着た女性モデルがブーケを持って立っているデモ映像をチェックしました。認知特性プロセッサー「XR」では、女性と背景などの被写体を別々に認識して奥行を演出しているそうで、ブーケのアップでは中央の白い花が際立って、より手前にあるように感じます。隣のピンクの花びらの濃淡、明暗の描き分けも自然ですね。中央の女性と、バックの木々の距離感もしっかり出ていて、さらに背景の木々の葉っぱの描き分けも細かい。

 開発者によると、XRバックライトマスタードライブでMini LEDを緻密に制御することで、明るい中での輝度の違い、ピークを描き分けることができたそうです。また液晶テレビとしては視野角の制約を受けにくいのも特長で、これも光学設計とバックライトマスタードライブの恩恵といいます。

 サウンド面では、Acoustic Multi-Audio対応で、画面下側にミッドレンジとサブウーファーを、さらに上側両サイドにトゥイーターを搭載しています。

 今回はトゥイーターが大型化され、振動板面積で1.3倍、スリット幅は1.5倍になっているそうです。マグネットはネオジウムで、こちらも従来モデルから倍以上に大型化しています。サブウーファーも昨年モデルはモノーラルだったけど、今回はL/R用にステレオ化され、音圧もアップしたとのことでした。

 ライブや映画コンテンツを聴きましたが、X95Kは低音の量感がアップしています。「スタンダード」モードでは全体的にヴォーカル、セリフ重視のバランスです。ドルビーアトモス対応でもあるので、映画ソフトではもう少しサラウンド感を演出してもいいかなと感じました。

 新パネル搭載の注目機は、さまざまな部分で確かに注目部分が多いモデルでした。さらに詳しくチェックできる機会を作りたいと思います。

●インタビューにご対応いただいた方々

画像: 左端が、絵づくりを担当したソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 TV事業部 商品設計第1部門 商品設計1部 映像技術課 高橋慎一郎さん。麻倉さんの右側は、ソニーマーケティング株式会社 プロダクツビジネス本部 ホームエンタテインメントプロダクツビジネス部ディスプレイMK課 渡邊康右さんと齋藤 圭介さん

左端が、絵づくりを担当したソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 TV事業部 商品設計第1部門 商品設計1部 映像技術課 高橋慎一郎さん。麻倉さんの右側は、ソニーマーケティング株式会社 プロダクツビジネス本部 ホームエンタテインメントプロダクツビジネス部ディスプレイMK課 渡邊康右さんと齋藤 圭介さん

画像: 音質について説明いただいたソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 音響設計部門 設計1部6課の皆さん。左端が増田 浩さんでその右隣が榎本 力さん、右端は松崎恵与さん

音質について説明いただいたソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 音響設計部門 設計1部6課の皆さん。左端が増田 浩さんでその右隣が榎本 力さん、右端は松崎恵与さん

画像: 同じく音質を担当した、ソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 音響設計部門 設計1部6課の方々。左端が増田稔彦さんで、その右隣が駒澤佳彦さん、右端は松尾魁士さん

同じく音質を担当した、ソニー株式会社 ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 音響設計部門 設計1部6課の方々。左端が増田稔彦さんで、その右隣が駒澤佳彦さん、右端は松尾魁士さん

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