映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第72回をお送りします。今回取り上げるのは、ケネス・ブラナー版ポアロの第2弾『ナイル殺人事件』。ミステリーの女王が紡いだ物語を21世紀の今、どのような映像で仕上げているのか、とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『ナイル殺人事件』

画像1: 【コレミヨ映画館vol.72】『ナイル殺人事件』ミステリーの女王、アガサ・クリスティの人気小説「ナイルに死す」の映画化

 『スパルタカス』『トプカピ』のピーター・ユスティノフが“灰色の脳細胞”名探偵エルキュール・ポアロを演じた1978年版も悪くなかったが、本作は『ベルファスト』で今年のアカデミー賞で作品、監督、脚本賞など7部門のノミネートを果したケネス・ブラナーの演出・主演作だ。2017年の『オリエント急行殺人事件』につづくブラナー版ポアロの第2作である。

 親友のジャクリーン(エマ・マッキー)から失業中の婚約者ドイル(アーミー・ハマー)を紹介され、たちまち恋に落ちてしまう美貌の資産家リネット(ガル・ガドット)。新婚旅行でエジプトを訪れたふたりは、友人たちを招いて豪華船カルナック号を貸し切ったクルーズ旅行に出発する。

 ポアロ(ケネス・ブラナー)も招待客のひとりだったのだが、ある日、クルーズ船の客室でリネットが何者かに射殺される凶行が起こる。客の全員に動機があると思われる密室殺人。名探偵ポアロの推理が始まる。

 話の大筋は78年版と変わっていないが、いくつか最新版ならではの美点がある。

 いちばんはナイル川をさかのぼる豪華客船というロケーションが存分に活かされていることだろう。実際に建造されたのはイギリスだったが、全長70メートルを越える客船カルナック号は細部まで入念に作られ、そこでクリスティーお得意の奇想に満ちたミステリー劇が展開する。

 当時『テネット』に参加していたブラナーはクリストファー・ノーラン監督に相談を持ちかけ、そこで使われていたパナヴィジョン・パナフレックス65ミリ・カメラの使用を決めたという。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.72】『ナイル殺人事件』ミステリーの女王、アガサ・クリスティの人気小説「ナイルに死す」の映画化

 撮影は『マイティ・ソー』『オリエント急行殺人事件』、そして新作の『ベルファスト』などでも組んだハリス・ザンバーラウコス。流麗なクルーズ旅行の様子や、『イーオン・フラックス』のソフィー・オコネドーがジャズ・シンガーに扮した披露パーティーの華やかさなどが深みのある色合いで捉えられており、それが単なるミステリー・ドラマ以上の面白味と景観を与えている。

 脚本は『LOGAN/ローガン』『ブレードランナー2049』のマイケル・グリーン。1930年代の衣装デザインは『レ・ミゼラブル』『リリーのすべて』のパコ・デルガド、と案外役者は揃っているのだ。

 探偵役が板についてきたケネス・ブラナーの演技もいい。目をギョロっとさせながら謎に迫り、今回はポアロの素性もほどよく明かされる。持ち味のユーモアもあるのだ。

 もう一本くらい観たいな、ブラナー版ポアロ。「ABC殺人事件」なんてどうでしょうか。

映画『ナイル殺人事件』

2月25日(金)全国ロードショー

監督:ケネス・ブラナー
出演:ケネス・ブラナー、ガル・ガドット、アーミー・ハマー、エマ・マッキー、トム・ベイトマン、アネット・ベニング、レティーシャ・ライト
原題:DEATH ON THE NILE
配給;ウォルト・ディズニー・ジャパン
2022年/アメリカ/シネスコ/ドルビー・アトモス/2時間7分
(C)2022 20th Century Studios. All rights reserved

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