完全ワイヤレスイヤホンから本格アクティブスピーカー、有機ELテレビまで幅広いラインナップを展開するデンマークのBang & Olufsen(B&O)。1925年の創業以来95年にわたって、美しいサウンドとデザインを備えた高品位なライフスタイル製品を送り出してきた。今回は山本浩司さんと一緒に、B&Oの最新モデルを体験できるBang & Olufsen 銀座店にお邪魔して、同社のフラッグシップスピーカー「Beolab 90」と有機ELテレビ「Beovision Harmony」を核にしたシステムで映画や音楽を体験させてもらった。さらにB&O音響責任者のGeoff Martin(ジェフ・マーティン)氏にリモートインタビューも実施している。(編集部)

――今日は中央区銀座にあるBang & Olufsen 銀座にお邪魔して、同社最新フラッグシップ・システムの実力を検証しました。

 ディスプレイは有機ELテレビBeovision Harmonyの77インチです。このモデルは映像を見ない時は横配置のスピーカーが縦方向に移動し、画面がその後に隠れて小さくなるという機構を備えています。これにより映像を映していない時に黒い物体になってしまうという大画面テレビの問題点を解消しています。

 今回は、このBeovision HarmonyにBeolab 90、Beolab 50、Beolab 18といったスピーカーを組み合わせて7.0chのサラウンド再生も体験しました(詳しい再生システムはコラムを参照)。またBeolab 90で2ch再生の音も聴いています。

 ここからは、B&Oの音響責任者であるジェフさんに、最近の音づくりのポイントについてうかがいたいと思います。ジェフさんはデンマークのオフィスからリモートで参加してくれます。

画像: 銀座・並木通りにある「Bang & Olufsen 銀座店」。有機ELテレビBeovision Harmonyからハイエンドスピーカー、ワイヤレスイヤホンまで体験可能だ。●住所:東京都中央区銀座6丁目7-18

銀座・並木通りにある「Bang & Olufsen 銀座店」。有機ELテレビBeovision Harmonyからハイエンドスピーカー、ワイヤレスイヤホンまで体験可能だ。●住所:東京都中央区銀座6丁目7-18

山本 初めまして、山本浩司です。今日はよろしくお願いいたします。ぼくは2003年、Beolab 5が発表されたときにデンマーク本社にうかがったことがあるんですよ。

ジェフ そうでしたか。私は2002年にB&Oに入社したのですが、ちょうどオートモーティブ関連の仕事を担当していた頃ですね。

山本 そうだったんですね。まずはジェフさんの、今のお立場を教えて下さい。

ジェフ トーンマイスター(音響責任者)という役職で、サウンドデザインのシニア・スペシャリストです。ほぼ一日中試聴室にこもって、開発の最終段階を担当しています。

山本 2003年にそちらにうかがった時に、思い出深い出来事がふたつありました。ひとつは欧州最大級といわれる無響室で、キャンドルを灯してパーティを開いてもらい、調子に乗ってワインを5杯くらい飲んでしまったんですよ。完全に酔っぱらいました(笑)。

ジェフ その部屋は今でも毎日開発に使っています(笑)。

山本 もうひとつは、創業者のお屋敷にお招きいただいたのですが、ディナーの際に隣を見たら、なんとB&Oデザインのレジェンド、デビッド・ルイスさんが座っていたんです。憧れのヒトだったので感激しました。

 そのとき彼に、今まで自分でデザインした製品でもっとも気に入っている物は何かを尋ねたら、1970年代にデザインしたB&Oのブラウン管テレビだと。こういう場合、新製品(このときはBeolab5ですが)を挙げるのがふつうの企業人だと思うのですが(笑)。

ジェフ それはとても彼らしい答ですね。いつも正直な人なんです。

画像: 「Beovision Harmony」は、使わない時や音楽を楽しみたい場合はスピーカーを縦方向にし、その後ろに画面が収納される仕組み。映像を見る場合はスピーカーが横配置になり、画面が上にせり出してくる。写真は電源を入れてスピーカーが開き始めたところ。メカニカルな動作音などもなく、スムーズに形態が変化する

「Beovision Harmony」は、使わない時や音楽を楽しみたい場合はスピーカーを縦方向にし、その後ろに画面が収納される仕組み。映像を見る場合はスピーカーが横配置になり、画面が上にせり出してくる。写真は電源を入れてスピーカーが開き始めたところ。メカニカルな動作音などもなく、スムーズに形態が変化する

山本 さて、今日はBeovision Harmonyを中心にした7.0chホームシアターの音を聴かせてもらいました。先に感想を申しあげると、システム・インテグレーションがとてもよくできているせいか音がうまく溶け合っていて、たいへん素晴らしい体験ができました。

ジェフ ありがとうございます。われわれは開発プロセスで、B&Oの各スピーカーを共通化させる点を留意しています。特に時間特性と空間特性の音響レスポンスに重きを置いており、結果としてマルチチャンネル再生用に複数接続した際にも、優れた調和性・同調性が発揮できていると思います。

山本 特にセンターチャンネルの処理がうまいですね。マルチチャンネル再生でセンタースピーカーをどう処理するかはたいへん難しいのですが、低音再生能力の高いL/RスピーカーのBeolab90にセンターチャンネルの低音を振り分けて、Beovision Harmonyの内蔵スピーカーを活かすなど、上手に処理していると感じました。

ジェフ われわれはテレビ、プロセッサー、スピーカーなどの機器をすべて自社で内製してラインナップさせています。ですので、システムを構築した場合にプロセッサー側はスピーカーの特性がすべてわかっています。それもあって、Beolab 90やBeolab 50に最適に低音を振り分けて、パワフルな音を楽しんでいただけるのです。

山本 それに関連してひとつ要望があります。今日はテレビから2mほど離れたソファに座って視聴しましたが、この距離だとセンターチャンネルから出てくるセリフが下から聴こえて来て、ちょっと違和感がありました。

 もう少し視聴距離を取れればいいのでしょうが、日本の一般的な住宅環境ではそうもいきません。これを解決する手段として、DSP処理で音像を持ち上げるようなやり方もあると思うのですが、そういった手法についてはどうお考えですか。

ジェフ おっしゃる通り、Beovision Harmonyをお使いの場合、2mの視聴距離では下から声が聞こえてくる可能性はあります。理想としては3m以上離れた方がいいでしょう。もちろんDSPで音像を持ち上げることはできますが、その場合は処理内容によって低音に対して中〜高音のバランスが崩れてしまう可能性があります。ここが難しいポイントです。

 今回のBeovision Harmonyは、ひとつのサウンドチューニングですべての使い方に対応しようという点がポイントでしたので、その点についてはある程度割り切っているのも事実です。今後は視聴距離に関してもカスタマイズしていく方法も考えていきます。

画像: 55インチ4K有機ELテレビの「Beovision Eclipse」やペンシル型のアクティブスピーカー「Beolab 18」なども展示され、その映像や音を体験できる

55インチ4K有機ELテレビの「Beovision Eclipse」やペンシル型のアクティブスピーカー「Beolab 18」なども展示され、その映像や音を体験できる

山本 一方で、Beovision Harmonyの、メカニカルなスピーカーとテレビの動きには感動しました。リモコンのボタンひとつでスピーカーとテレビの位置が変化しますが、その動作が完全無音でとてもスムーズ。しかも人間工学的に考え抜かれたゆっくりとした動きがとても心地いい。このセンスこそがB&O、工業製品において世界唯一の美学の発現だと思います。

ジェフ ありがとうございます。私は入社当時から音響担当で、色々なスピーカーのチューニングを担当してきましたが、最近はメカニカルな動作についての最終的な評価にも関わっています。ギアがどういう風に動いて、音を立てないためにはどうしたらいいかなどを検証しているのです。もともと私は音楽家なので、こういった仕事をするとは思っていませんでしたが。

山本 先ほどBeolab 90で2ch音楽を聴かせてもらいましたが、とても素晴らしい音でした。中でも興味深かったのが、ミッドレンジと高域について指向性のコントロールが切り替えられることです。また低音については部屋の音響条件に合わせてDSPで補正する「Active Room Compensation」も搭載しています。このあたりの技術はB&Oはひじょうに進んでいますね。

ジェフ 指向性をコントロールするには、ドライバーユニット同士がある程度離れて配置されている必要があります。特に周波数が低くなるほどドライバーを離さなくてはなりません。

 Beolab 90では、40〜50Hzまではコントロールできていますが、それ以下は物理的な制約があって難しいのです。ですので、低域に関してはフィルターを使って調整しています。

 あらゆるユーザーの住宅環境において、最大の難点は部屋の環境条件と設置位置、リンスニングポジションです。部屋の環境とは、壁による初期反射音、部屋ごとに異なる音響特性、残響を指します。

 初期反射音についてはスピーカーの直接音や指向範囲でコントロールできます。それでは解決できない壁や室内音響特性の影響はデジタルフィルターによって補正可能です。

 ここでの課題は、室内の音響特性を分析してそれを補正する適正なフィルターをどうするかです。特定の音響的特性をきちんと補正できる手段を用意する必要があります。

 ですので、マイクロフォンで視聴位置の音響特性を測定する際には特性要素に分けて行う必要があります。それは、時間特性、周波数特性であり、それによって適正な補正を行うフィルターを設定できるのです。

画像: デンマークのオフィスとつないで、リモートインタビューを実施。画面はBeovision Harmonyに写し、音の再生&マイクにはBluetoothスピーカーの「Beosound A1」を使うという贅沢な構成だった

デンマークのオフィスとつないで、リモートインタビューを実施。画面はBeovision Harmonyに写し、音の再生&マイクにはBluetoothスピーカーの「Beosound A1」を使うという贅沢な構成だった

山本 波長の長い低音は、部屋の幅、高さ、奥行といった空間プロポーションと相関性があります。その音響特性を測定してDSPで補正するというやり方は、とても重要だと思います。B&Oのスピーカーでは、それを統合的にコントロールしているということですね。

ジェフ その通りです。もうひとつ重要なのは、音場補正の際に時間軸も補正していることです。この機能はBeolab 90とBeolab 50に搭載しています。

山本 中高域の指向性コントロールとして「ナロー」「ワイド」といった音場モードがありますが、これらを採用した狙いを教えて下さい。

ジェフ 「ナロー」モードは、音楽と真摯に向かい合うためのモードです。これはひとりで音楽を聴くことを想定しており、映画を見る時とか、家族や友人と一緒に音楽を楽しむといった使い方には適さない場合もあります。

 ひとりで音楽を聴く場合と大人数で音楽を聴く場合では使い方も異なります。でも、ひとつの製品でその両方をかなえることは難しい。そこで場面に合わせた使い方ができるように「ワイド」モードも搭載しました。

 もうひとつ「オムニ」モードもありますが、これはBGMとして音楽を楽しむためのモードです。「ナロー」と「オムニ」の間にあるのが「ワイド」モードと考えて下さい(注:『オムニ』モードはBeolab 90のみ)。

山本 これはB&Oらしい素晴らしいアイデアだと思います。先ほど「ワイド」モードで鳴らしながら色々な場所で聴き比べてみましたが、室内のどこで聴いても低音から高音までのエネルギーバランスがあまり変わらない、見事なサウンドが提供されていることが確認できました。

ジェフ ありがとうございます。この機能は時間をかけて開発しました。

山本 「ナロー」と「ワイド」を聴き比べると音作りも異なっていたように感じましたが、そのあたりはどんな工夫をされたのでしょう?

ジェフ われわれは、レコーディング時の音を忠実に再現したいと思っています。その意味では、コンサートホールでのオーケストラの演奏や教会のパイプオルガンの演奏は「ワイド」モードが適しているでしょう。

 「ナロー」モードではイメージングがもっと細かくなって、どの楽器がどこに並んでいるか、左右や奥行の情報まで分かるようになります。「ワイド」モードでは、パイプオルガンのどこパイプが鳴っているかといったことまで知る必要がないので、全体的にぼかしているのです。

画像: 11月に発売されたGolden Collection。右がワイヤレススピーカーの「Beoplay A9」で、左の棚に並んでいるのがBluetoothスピーカー「Beosound A1 第2世代」と「Beosound 2」、完全ワイヤレスイヤフォン「Beoplay E8 第3世代」、フラッグシップヘッドフォン「Beoplay H95」

11月に発売されたGolden Collection。右がワイヤレススピーカーの「Beoplay A9」で、左の棚に並んでいるのがBluetoothスピーカー「Beosound A1 第2世代」と「Beosound 2」、完全ワイヤレスイヤフォン「Beoplay E8 第3世代」、フラッグシップヘッドフォン「Beoplay H95」

山本 今日はジェフさんの推薦曲として、オスカー・ピーターソン・トリオの「You Look Good To Me」を聴きました。これは日本のオーディオファンも50年間聴き続けているオーディオの名曲です。それが世界共通なのだと分かって面白かったです。ここではピアニスト、ベーシスト、ドラマー3人のインタープレイが息をのむようなスリルを伴って再現され、おおいに楽しみました。それぞれの楽器の音色が生々しく再現されることにも感心しましたね。

 それからジェイムス・ブレイクの「Limit To Your Love」も聴きましたが、これは僕も一時自宅でよく聴いた曲です。凄い低音のフェクトが入った曲ですが、Beolab 90はさすがのパフォーマンスでした。充分な量感を感じさせながら低音が尾を引かず、クリアーに再現されました。

ジェフ 私も自宅でBeolab 90を使っていますが、音の聴き方をよく知っている人は、低音の制御がしっかりしていることが大切だといわれます。そのポイントを的確に指摘してくださってうれしく思います。

山本 今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

      *

 カナダ出身のジェフ・マーティン氏は大学で音楽と音響工学を学び、B&O入社前はプロのオルガン奏者として活動していたこともあるという。なるほど教会に鳴り響くオルガンを弾いていたのだから、正しい低音はどうあるべきかをよくご存知なのも当然だろう。物腰がとても柔らかく、音楽とオーディオが大好きだという彼の話はとても興味深かった。コロナ禍が収束した暁にはデンマークか東京で実際にお会いして、この話の続きをしたいナと思う。

画像: ジェフさんと山本さんは共通の愛聴曲も多く、インタビューも楽しく盛り上がっていた

ジェフさんと山本さんは共通の愛聴曲も多く、インタビューも楽しく盛り上がっていた

Bang & Olufsen銀座に設置された7.0chシステムで、心地いいサウンドを体験

 取材でお邪魔したBang & Olufsen銀座は、銀座並木通りにある同ブランドの旗艦店だ。敷地面積約50坪の店内にはイヤホンからBluetoothスピーカーなど、同ブランドの製品が綺麗にディスプレイされている。

 入り口正面奥には、日本の障子を模したディスプレイがあり、その前には有機ELテレビを核にした5.0chシステムまで設置されている。取材時は11月に発売されたばかりのGolden Collectionシリーズが並んでいた。

 今回は77インチ有機ELテレビとBeolabシリーズによる7.0ch(センタースピーカーは
Beovision Harmonyの内蔵スピーカーを使用)で様々なソースを体験している。SACDはプレーヤーのアナログ出力を、UHDブルーレイはプレーヤーでデコードしたリニアPCM信号をHDMIケーブルでBeovision Harmonyに入力し、ここから各スピーカーにアナログ信号で送っている。

画像: スタイリッシュなだけじゃない。最先端ルームチューン機能も搭載したBang & Olufsenの最新シアターシステムで、2chからサラウンドまで、唯一無二の魅力を堪能する

<主な視聴システム>
●有機ELテレビ:Beovision Harmony 77
●スピーカーシステム:Beolab 90 (フロントL/R)、Beolab 50 (サラウンドL/R)、Beolab 18(サラウンドバックL/R)

<主な視聴ソース>
●ディスクメディア:『THE DARK SIDE OF THE MOON/ピンク・フロイド』(SACD/5.1chを7.0chで再生)、『WE GET REQUESTS/オスカー・ピーターソン トリオ』(CD/2.0ch)
●Amazon Music HD:『 Limit To Your Love/ジェイムス・ブレイク』『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番、グリーグ:ホルベルク組曲、他/マルタ・アルゲリッチ、小澤征爾』(AirPlayでBeovision Harmonyに伝送)
●UHDブルーレイ:『ボヘミアン ラプソディ』

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