男の中の男、ベルモンドの魅力を堪能できる8作品が公開中
観ればわかる。「ルパン三世」や「コブラ」のキャラ・デザインのモデルになり、ジャッキー・チェンのアクション・スタントにも多大な影響を与えたフランス男優ジャン=ポール・ベルモンドの主演8作品が、HDリマスターされた美麗なニュープリントでおよそ半世紀ぶりに劇場公開される。
権利の関係でTV放映されることが少なく、大半はDVDソフトにもなっていない幻の作品ばかり。当時劇場に脚を運んだひと、アラン・ドロンと共演したギャング映画『ボルサリーノ』(1970年)などに見とれた貴方はもちろん、ジャン=リュック・ゴダール監督と組んだヌーヴェルヴァーグ時代の快作『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』のイメージしかない若いファンも、ここでの伊達男ぶり、すべてを自身で演じる体当たりの妙技を見たら、稀代のアクションスター、ベルモンドの魅力を「新発見」することだろう。
今回の企画に尽力されたのが、映画配給会社エデンの代表であり、それと並行して映画評論家としても活躍する江戸木 純さん。インド映画のイメージを決定づけ大ヒットした『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995年、日本公開は1998年初夏)の仕掛け人であり、2018年の同作4Kリマスター&5.1ch版の再上映も手がけた。
今回の「先取りシネマ」は、江戸木さんをお招きして「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」に至るその映画人生を訊いた。
波乱万丈、でも映画ファンなら誰もが羨む“映画漬けの人生”
――どうやって映画にはまったのでしょうか?
「両親が映画好きだったこともあって、子どものころから映画館には通っていました。当時は赤塚不二夫の漫画が好きで、ノートにギャグ漫画を描いたりしていたんですけどね。決定的に映画にはまったのは、小学校6年のときに出会ったブルース・リーでした。そこからは映画一直線という感じ。
高校時代には8ミリの自主映画を作ったりしていたんですけど、それもあって、制作側の仕事をしてみたいと大学卒業後は東北新社に入ったんです。映画に詳しいということでビデオの字幕製作の部署に配属されたんですが、これがもう本当に地獄のような日々で(笑)。
当時、東北新社はメジャー作品から未公開映画まで字幕製作を一手に引き受けていて、毎月20本以上の担当作品があったんです。24時間スタジオをフル稼働させていたんですけど、もういくらやっても仕事が終わらない。そのころビデオブームが来て『ゾンビ』や『悪魔のいけにえ』とかもやったんですけど、それでますますたいへんな状況になって、周りで先輩たちとかがバタバタ倒れていくんですよ。このままでは死んじゃうな、と思って」
――オマハ・ビーチ上陸作戦だ。浜辺に死体が累々と積み重なっているという(笑)
「もちろん、いまの東北新社はまっとうな会社なんですけどね(笑)。
1年働いたころにクライアントだった方に“新しい会社を作るから”と声をかけられて行ったのが、いまの映画配給会社ギャガです。最初は3人、社長とぼくとデスクの女性だけでした。ビデオ・ブームの黄金時代で“権利を取った映画はなんでも売れる”という時期だったので、東北新社の頃よりさらに忙しくなっちゃった(笑)」
――狂乱の80年代ビデオ・ブームの幕開けですね
「2社で併せて4年間働いたんですけど、本当に何十年かぶんの仕事をしたような気がします。買付から字幕チェック、商品化、プロモーションまで全部やったので、未公開のやつだと邦題決めてキャッチコピー考えて解説を書いて売り込みもして。
宣伝も自分でやっていました。雑誌に売り込みに行くと、“紹介するから原稿も書いてよ”とか言われて。そのとき『死霊の盆踊り』(最低映画の巨匠エドワード・D・ウッド・Jr.の名を一躍有名にしたZ級ホラー映画)が売れなくてどうしようと頭を抱えていたので、ペンネームをエド・ウッドをモジッた江戸木 純にしたんです。それで怒涛のライター業もスタートしたという。でも、やっぱり映画を作る仕事がしたかったんで……」
――『カブキマン』(1990年)を企画されたんですね(笑)
「ギャガに制作企画部という部署を作ることになって、そこでの企画です。アメリカとの共同制作だったんですけど、最初はロイド・カウフマン(『悪魔の毒々モンスター』などを放った、ニューヨークのインディペンデント製作会社トロマを率いる監督&プロデューサー)と組むはずではなかったんですよ。ところが、日本ネタの刀や下駄、割り箸を武器にするヒーローという話をどこかで聞きつけて、俺にやらせろと割り込んできたんです(笑)。
それで3ヶ月間ずっとニューヨークの現場についていたんですが、低予算映画ってこういうものなのか、と思い知らされました(笑)。おじいさんの役で韓国人の俳優を予定していたんですけど、現場で“こんなバカな役はできない”と怒って帰っちゃって。アジア人がぼくしかいなかったんで、無理やり出されたりして。タイムズスクエアでゲリラ・ロケをしたんですけど、撮影が終わると通報される前にみんなで逃げ出すんですよ。
若くて体力があったからできたんだろうなあ。当時チャイナタウンにゴールデン・ハーベストの映画館があって、そこで香港映画を観るのだけが安堵のときだったという。ああいう経験をしてきたんで、なんでもできるというところもあるんでしょうが」
――そんな経験が伝説の映画の日本公開につながると
「そのあとフリーになってライター兼買付アドバイザーみたいな仕事を各社とやっていたんですけど、たまたま家族でシンガポールへ旅行したとき、リトルインディアで買ったビデオで『ムトゥ 踊るマハラジャ』を観て。もちろん字幕もなく台詞はわからないんですけど、これがメチャクチャに面白かったんで、知り合いの配給会社に“これどこか買わないの?”と訊いてみたんです。
でも“こんな3時間もあって知らない親父が出ていて、突然踊り始める映画、誰が観るんだ”と笑われて。ならば自分でやろう、と知り合いの会社に“自分もお金を出すから買って”と頼みました。アバウトなインド人が相手で、それもそうとうたいへんだったんですが」
ベルモンドは日本で言えば『ゴジラ』! 国民的人気を誇る大スター
『ムトゥ 踊るマハラジャ』は、東京では渋谷のシネマライズ劇場で23週のロングランを記録。そのあと、江戸木さんは1998年に映画配給会社エデンを設立した。
スウェーデン映画『ロッタちゃん はじめてのおつかい』、ハード・アクション映画『処刑人』、日中合作『王様の漢方』のプロデュース、青春ゾンビ映画『コリン LOVE OF THE DEAD』や、第二次大戦前夜にユダヤ人の子どもたちを疎開させる活動を行なった男のドキュメンタリー『ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち』の公開などを、映画評論執筆活動と両輪で行なってきた。そして、いよいよ今回の「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」の上映だ。
「ベルモンドが大好きだったんで、ギャガの時からベルモンド映画の権利をずっと追いかけていたんです。何度もコンタクトして買おうとしたけど、売ってくれなかったんですよ。ベルモンドの映画は向こうで言うと東宝の『ゴジラ』みたいな看板商品なので、値段が下がらないんですよね。
『プロフェッショナル』なんかも、フランスでは大ヒットしたから強気のことを言ってくるし、あのころ(1990年代)から日本での出演作公開が途絶えがちになったのは、配給権が高騰した事情があったんだと思います。DVDの権利が出たときも何度も交渉したんですが、落ちなくて。今回の8本は、日本ではTV放映もほとんどありませんでしたから、ベルモンドの娯楽映画自体が日本では忘れられた存在、ミッシング・リンクになっちゃったんですよね」
――ひさしぶりにベルモンド映画に再会して、どれもこんなに豪華な映画だったのかと驚きました。猛烈に面白かった記憶はあるんですけど、本当に贅沢な体験をしていたんだなあって。江戸木さんにとっても念願の企画だったんですね
「今回、自分もひさしぶりにスクリーンでDCP素材のチェックをしました。もちろんDVDやブルーレイで観ても面白いんですが、何より大きなスクリーンで観ることを前提に作られているアクション映画、スター映画、エンターテインメントばかりですので、ぜひ映画館で鑑賞してもらえたらと思いますね。
スクリーンで観ると、ベルモンドは屋根の上でのアクションも革靴でやっていて、コレ滑るし本当に危ないだろうって(笑)。今回パリ在住のベルモンドにコンタクトが取れたんですけど、この当時こんなに無茶な映画が作れたのは、自分がプロデューサーで文句を言うやつがいなかったからだと言ってましたね。『ミッション:インポッシブル』シリーズで、トム・クルーズがプロデュースを兼ねているからこそ無謀なアクションが出来るのと一緒ですね。
ちなみに『オー!』にね、一瞬アラン・ドロンが出てるんですよ。ベルモンドが脱獄して、空港でジョアンナ・シムカスが車に乗って待っている場面。車が発進したときにひかれそうになる男がいるんですけど、それがたまたま撮影現場に来ていたアラン・ドロンなんです」
それは知らなかった! ベルモンドが乗った車に当て逃げされそうになるアラン・ドロンを観に行こう!
今回の「傑作選」8本は“昔は良かった”というような懐古趣味のものではない。いま観て面白い、ピチピチと跳ねている「活きのいい」映画なのだ。それがスゴい。それがうれしい。
この上映が成功したら、『○○の男』や『○〇〇○○の男』などの鉄板の痛快作の公開にチャレンジするという。そのためにも映画館で逢おう。男の中の男、ジャン=ポール・ベルモンドが待っている!
『大盗賊』(1961年)
悪政の下、庶民が苦しむ18世紀のパリ。泥棒組織を牛耳るマリショ(ダリオ)と揉め事を起こしたカルトゥーシュ(ベルモンド)は一時戦地に身を隠し、パリに舞い戻って義賊として活躍することになる。
このあとベルモンドと組んで『リオの男』『カトマンズの男』『おかしなおかしな大冒険』などの快作を放ったフィリップ・ド・ブロカ監督とのコンビ第1作! 女スリ役で当時23歳のクラウディア・カルディナーレが共演。『汚れなき抱擁』『ブーベの恋人』と同時期の初期出演作であり、そのキュートなチャームが画面に花を添える。
肌つや、コスチュームの風合い、豪華なセットの奥行など、こってりと色が乗り精細感が磨かれた4Kリマスター作品。
お調子者で仲間思い。すぐに女の尻を追いかけてしまうヒーロー。『勝手にしやがれ』『女は女である』などのゴダール作品でヌーヴェルヴァーグの寵児となったベルモンドを、コメディ・アクションスターの座に押し上げた会心のヒット作である。
監督フィリップ・ド・ブロカ/共演クラウディア・カルディナーレ、ジェス・ハーン、ジャン・ロシュフォール、オディール・ヴェルソワ、マルセル・ダリオ/撮影クリスチャン・マトラ/音楽ジョルジュ・ドルリュー/フランス映画/シネスコ/116分
未DVD&ブルーレイ化/4Kリマスター
『オー!』(1968年)
アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ共演の青春映画『冒険者たち』(1967年)の薫風が当時の映画青年たちを虜にしたロベール・アンリコ監督が、そのヒット作と『若草の萌えるころ』につづき、三度ヒロインにジョアンナ・シムカスを起用。原作ジョゼ・ジョヴァンニ、音楽フランソワ・ド・ルーベ、撮影ジョン・ボフェティとスタッフも『冒険者たち』からスライドしている人気作。
もちろん主演はベルモンド。レース中の事故で友人を殺害した嫌疑をかけられ、いまは銀行強盗団のお抱え運転手に落ちぶれて、そこから成り上がろうとする元カーレーサーのフランソワを演じる。シムカスは彼の実像を知らぬ恋人のモデル役。彼女はカスタムモデルのイタリア製オープンカーを愛車にしており、その山吹色のボディがヨーロッパ映画ならではの風と光を運ぶ。
『冒険者たち』とはそうとう肌触りが違い、ジョヴァンニ本来の砂を噛むようなノワール・タッチが前面に押し出された作品。ド・ルーペの哀愁のピアノ曲が聴きものといえる。
監督ロベール・アンリコ/共演ジョアンナ・シムカス、シドニー・チャップリン、ポール・クローシェ、アラン・モッテ/撮影ジャン・ボフェティ/音楽フランソワ・ド・ルーベ/フランス、イタリア合作/ヨーロピアン・ビスタ/107分
未ブルーレイ化/HDリマスター
『大頭脳』(1969年)
演出、脚本はルイド・フュネス主演のドタバタ・コメディ『大進撃』(1966年)や『ニューヨーク←→パリ大冒険』(1973年)を撮ったジェラール・ウーリー。共演は『ナバロンの要塞』のデヴィッド・ニーヴン、『荒野の七人』のイーライ・ウォラック、『史上最大の作戦』のプールヴィル、紅一点のギャングの妹役に『火の森』でレイモンド・ラヴロックと共演したシルヴィア・モンティなど。
パリからブリュッセルへ。列車で運ばれるNATOの秘密軍資金争奪戦を贅沢なオールスターキャストとヨーロッパ各地のロケ撮影で描いた大作アクション・コメディ。
脳みそが重すぎて首がかしいでしまう天才犯罪者を演じるニーヴンの飄々。行き当たりばったりだが、なぜか大金に近づいてゆくコソ泥タクシー運転手に扮するベルモンドの軽快。シネスコ画面に60年代フランス映画の華やかさが躍る。
当時の映画界は007シリーズやTV「0011/ナポレオン・ソロ」、『黄金の七人』シリーズなど、スパイ&泥棒映画の黄金期。この『大頭脳』もその影響下に生まれた1本だといえる。『突然炎のごとく』の名手ドルリューの音楽も、ここではいつもとひと味ちがうポップ・ロック調。これは『ビートルズがやって来る/ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1963年)の軽やかさからの風のはず。
洒落っ気とユーモア、丁々発止の役者の魅力。大きい声じゃ言えないですが、『TENET テネット』の争奪戦より楽しいです、これ(笑)。
監督ジェラール・ウーリー/共演デヴィッド・ニーヴン、イーライ・ウォラック、ブールヴィル、シルヴィア・モンティ/撮影ウラジミール・イワノフ/音楽ジョルジュ・ドルリュー/フランス、イタリア合作/シネスコ/115分
未DVD&ブルーレイ化/HDリマスター
『恐怖に襲われた街』(1975年)
パリの高層マンションからひとりの女性が転落死する。それは、自身をダンテ「神曲」の冥界の裁判官ミノスと名乗るナゾの連続殺人犯の犯行だった。
正体不明の犯人ミノスを追う警部、ルテリエを演じるベルモンドの体当たりアクションが話題になった作品。パリ市中での猛烈なカーチェイスや、アパートの外壁や走る地下鉄の屋根にしがみつく高所アクション。あげくはヘリコプターから身体ひとつでぶら下がり、ビルの窓を蹴破って室内へ飛び込んでゆく!
現在も『ミッション:インポッシブル』シリーズのトム・クルーズなど危険なアクションに挑むスターはいるけれど、70年代はVFXなどなく、身体を固定したワイヤーを撮影後にCG処理で消すこともできない。他人にできないことをやるのがスターの意地。このころのベルモンドに対抗できるのは全盛期のジャッキー・チェンくらいのものだろう。それほど向こう見ずで命知らずだ。
ルテリエ警部の相棒モワサック刑事を演じるシャルル・デネは、『冒険また冒険』『私のように美しい娘』などで古参のフランス映画ファンには馴染みのある名男優。今回もジャガイモみたいな顔で味のある演技を披露する。
監督は『ダンケルク』や『太陽の下の10万ドル』、『華麗なる大泥棒』でベルモンドと組んだ娯楽派のアンリ・ヴェルヌイユ。
監督アンリ・ベルヌイユ/共演シャルル・デネ、レア・マッセリ、アダルベルト・マリア・メルリ、ジャン・マルタン/撮影ジャン・パンゼ/音楽エンリオ・モリコーネ/フランス映画/ヨーロピアン・ビスタ/126分
未DVD&ブルーレイ化/HDリマスター
『危険を買う男』(1976年)
『恐怖に襲われた街』につづき、それまでの持ち味であるユーモアをほぼ封印。政府高官や警察に雇われ、変装しながら凶悪犯を追う一匹狼のバウンティ・ハンターに扮したハード・アクション。スティーヴ・マックィーンの『ブリット』(1968年)やクリント・イーストウッドの『ダーティハリー』(1971年)へのフランスからの返歌といえるかもしれない。コロンビエのジャズ・ロック的なシャープな劇伴も耳に残る。
当時からアクション映画ファンに人気の高かった作品だが、VHSテープやDVDで国内リリースされたことがなく、幻の快作が43年ぶりの劇場公開となった。
輸送車に全力疾走して追いついたり、今回もスタントマン無しの生身アクションが快調。カー・スタントはロジャー・ムーア版からティモシー・ダルトン版までの007シリーズ、『恐怖に襲われた街』、ジャッキー・チェンの『プロジェクト・イーグル』に参加したフランス人スタッフのレミー・ジュリアンが手がけている。
プロダクション・マネージャーのアラン・ベルモンドは実兄。『ボルサリーノ』『薔薇のスタビスキー』『パリ警視J』などのベルモンド主演作のほか、カトリーヌ・ドヌーヴの『インドシナ』を製作した。また妹のミューリエル・ベルモンドがフライトアテンダント役で助演している。
監督フィリップ・ラブロ/共演ブルーノ・クレメル、ヴィクトール・ガリヴィエ、ジャン・ネグローニ/撮影ジャン・パンゼ/音楽ミッシェル・コロンビエ/フランス映画/ヨーロピアン・ビスタ/101分
国内未ソフト化/HDリマスター
『ムッシュとマドモアゼル』(1977年)
日本公開は1981年。当時も楽しい作品だなあと思ったが、40年弱ぶりに観てこんなに贅沢な映画だったのかと腰を抜かした。紛れもない快作であり、傑作だ。
監督は『クレイジー・ボーイ』シリーズ、『ザ・カンニング』シリーズなどフレンチ・コメディの旗手クロード・ジディ。撮影のクロード・ルノワール(『007/私を愛したスパイ』)はジャン・ルノワール監督の甥っ子で、画家のオーギュスト・ルノワールの孫。音楽はジャン=ジャック・ベネックス監督の長篇デビュー作『ディーバ』で鮮烈なオペラ&アバンギャルド・サウンドを披露したウラディミール・コスマ。
役者は揃った! ベルモンドが演じるのは恋人のジェーン(『ミクロの決死圏』のラクエル・ウェルチ)とスタントマン・カップルをつづけているマイク。仕事にあぶれ、ゴリラの着ぐるみで子どもショーをやっている彼のもとに、運命を変えるかもしれない仕事が飛び込んでくる。人気スターのブルーノ(ベルモンド二役)のスタントをする大作出演が決まったのだ。
一種のバックステージ物で、特別出演のクロード・シャブロル監督が『俺たちに明日はない』のパクリ映画をベルモンドとウェルチで撮る場面などが飛び出して楽しい。大スターのブルーノは実は高所恐怖症で運動オンチ。その代役をするマイク(ベルモンド)の生身アクションが危なすぎる。もう止めていいよ、と言いたくなるほど階段落ちを繰り返し、ヘリコプターから縄梯子でぶら下がり、最後にはプロペラ機で……!!
これらがみなユーモアとエンタテインメントに奉仕する。どれも粒ぞろいだが、今回の特集上映ではまずはこの「忘れられた名画」をお薦めしたい。
監督クロード・ジディ/共演ラクエル・ウェルチ、シャルル・ジェラール、ジュリアン・ギオマール、ダニー・サヴァル/ゲスト出演ジェーン・バーキン、ジョニー・アリディ、クロード・シャブロル/撮影クロード・ルノワール/音楽ウラディミール・コスマ/フランス映画/シネスコ/101分
未DVD&ブルーレイ化/HDリマスター
『警部』(1979年)
夜、道路脇で寝袋で寝ようとしているベルモンド。ちんぴら3人組に脅され、財布や靴を奪われる。それも寄こせと言われ上着を脱ぐと、ホルスターには大型拳銃マグナム357が!
白いマフラーと革ジャンで純白のスポーツカーを駆るその男は、鉄拳を武器に街を牛耳るふたつの組織に食い込み、破滅させんとする秘密捜査官だった。
メチャクチャにカッコよく、小説家のロスタン(『太陽がいっぱい』のマリー・ラフォレ)とも会ったとたんにベッド・イン。なのになぜか野宿が趣味で、教官ごと教習所の車を盗んでパトカーに追われ、「これでは免許を取る前から免停ですよ」と言われたりしている奇妙なヒーロー。こういう役はベルモンドしか出来ない。
演出は『女王陛下のダイナマイト』『渚の果てにこの愛を』『プロフェッショナル』、アラン・ドロンの『チェイサー』などのジョルジュ・ロートネル。撮影は『恋人たち』『シベールの日曜日』『サムライ』の名手アンリ・ドカエ! 分割画面を巧みに使うスタイリッシュな手際が鮮やかである。
『テス』のフィリップ・サルドのジャジーな音楽にも注目。トランペットにチェット・ベイカー、ギターにラリー・コリエル、ベースにロン・カーターほかスゴいプレイヤーが参加している。そういう意味でもゴージャスな快作。もちろん代役なしの体当たりアクションに挑んでいる。
監督ジョルジュ・ロートネル/共演マリー・ラフォレ、ジョルジュ・ジェレ、ジャン=フランソワ・バルメ、トニー・ケンドール/撮影アンリ・ドカエ/音楽フィリップ・サルド/フランス映画/ヨーロピアン・ビスタ/108分
未ブルーレイ化/HDリマスター
『プロフェッショナル』(1981年)
アフリカのマガラウィ共和国の独裁者ナジャラ大佐を暗殺するため、現地に潜入したフランス諜報員のボーモント(ベルモンド)。ところが任務決行寸前に状況が変わり、彼は祖国から見捨てられ、共和国で逮捕されて収容所に送られてしまう。
過酷な日々を送るボーモントの心で燃えるのは、自分を裏切った組織上部の教官たちへの復讐と、一度は決めた独裁者暗殺計画の遂行のみ。そんな彼がついに監獄から脱獄し、パリへと戻ってくる!
『警部』につづく監督ロートネル、撮影ドカエの不屈の囚人脱獄モノ。わが国ではBS放送で放映されただけで、これが劇場初公開。この前後に『ジャン=ポール・ベルモンドの道化師/ドロボー・ピエロ』(1980年)というしようもない邦題の同じくロートネル&ドカエ、音楽サルドという劇場未公開の詐欺師コメディがあり(DVD発売のみ)、このころからベルモンド出演作の日本公開は減ってくる。
これも世の趨勢(すうせい)というべきか。替わってアクション映画はシルヴェスタ-・スタローン&アーノルド・シュワルツェネッガーの時代へ。この映画も悪くないんだけどなあ。
元恋人アリス役のシリエル・クレール、妻ドリス役のブルネット美人マリー・クリスティン・デスクアール(同じくロートネル監督の『ソフィー・マルソー/恋にくちづけ』でベルモンドと共演した)など、シリアス系のアクションなのに女優陣が揃っているのがベルモンド作品の楽しみのひとつ。
エンニオ・モリコーネの代表曲となったテーマ曲「CHI MAI」の泣き節が哀切の極みだ。映画音楽ファンは一度は体験するべき一作!
監督ジョルジュ・ロートネル/共演ロベール・オッセン、ミシェル・ボーヌ、ジャン・ドザイー、シリエル・クレール/撮影アンリ・ドカエ/音楽エンニオ・モリコーネ/フランス映画/ヨーロピアン・ビスタ/108分
国内未ソフト化/HDリマスター/日本劇場初公開
「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」
10月30日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国にて順次待望のロードショー
提供:キングレコード
配給・宣伝:エデン