ソニー8Kブラビア「KJ-85Z9H」徹底チェックの後編をお届けする。前回は8Kの画質について山本浩司さんにご紹介いただいたが、今回は音質について。KJ-85Z9Hは85インチの8K映像にふさわしい音質を求めて、様々な工夫も施されているのだ。月刊HiVi誌上でも、昨今の薄型テレビの音質に苦言を呈してきた山本さんは、Z9Hの音をどうジャッジしたのだろうか。(編集部)。
※前編はこちら → https://stereosound.platisher.jp/_ct/17345615/
8K超絶画質と並んで、KJ-85Z9Hで注目すべきは独自構成のスピーカーシステム「アコースティック マルチオーディオ」だろう。
上下のフレームにL/Rそれぞれ2基合計4基の2ウェイ・システムをビルトイン、それらを同相駆動することで画面内にファントム音像を定位させるデュアルL/Rシステムが採用されているのである(加えて背面に6cmドライバー×2のサブウーファーユニットをL/Rチャンネルにそれぞれ1基ずつ配置。クロスオーバー周波数は150Hz)。
現行のソニー製有機ELテレビは、アクチュエーターでパネル前面のガラス板を振動させて発音する「アコースティック サーフェス オーディオ(プラス)」技術を採用しているが、ソニーは液晶テレビにおいても有機ELテレビ同様<画音一致>にこだわっていることが、この「アコースティック マルチオーディオ」の採用でわかる。
オーディオビジュアル再生においてまず優先されるべきは、「画面に映っている人物がほんとうにしゃべっている、歌っているという実感が得られるかどうか」だと考える筆者は、ソニーのこの方針を断然支持したい。
エリック・クラプトンのライヴや、映画『アリー/スター誕生』などのブルーレイ/UHDブルーレイを見せてもらったが、テレビ内蔵スピーカーとは思えない本格的なエネルギーバランスで、テレビ内蔵スピーカーでいつも気になる「音痩せ」と「ノイズっぽさ」がないのだ。クラプトン、ガガちゃんのヴォーカルにもしっかりと肉がつき、しかも画面に映し出される口から歌が発せられる強固なイメージが得られるのである。
本機の音声モードには「ドルビーオーディオ」が用意されている。ドルビーアトモス収録作品の映画コンテンツ『ジュマンジ』等を観たが、音場が立体的に広がり、とてもテレビ内蔵スピーカーの音とは思えないサウンドだった。
独自構成のスピーカーシステム「アコースティック マルチオーディオ」
また、このテレビ内蔵スピーカーをサラウンドシステムのセンタースピーカーとして活用できるのも本機の興味深いところ。AVセンターのセンターチャンネル用スピーカー出力端子を本機背面のスピーカー入力端子につなぎ、AVセンターに内蔵されたテストトーンを用いて他チャンネルとレベル合わせを行なうことで、この「センタースピーカー」モードが活用できる。
ソニーのラボには同社製AVセンター「STR-DN1080」(¥77,800、税別)と同社製スピーカー「SS-CS3」(¥32,000、ペア、税別、L/RとサラウンドL/R)、サブウーファー「SA-CS9」(¥21,000、1本、税別)が用意され、本機内蔵スピーカーをセンター用にした場合と、本機の真下に置いた同社製センタースピーカー「SS-CS8」(¥11,000、1本、税別)を鳴らした場合の比較視聴を行なった。
聴いてすぐわかるのは、本機内蔵スピーカーがSS-CS8に負けない「音質」を備えていること。しかも画面に映し出された人物の口から声が発せられる強固なイメージが得られるのだから、SS-CS8再生よりもはるかに好ましい。SS-CS8はKJ-85Z9H真下の床近くに置かれていたため、映像と音像位置の乖離が甚だしく、違和感が大きいのである。
また、同一スピーカー4本をL/RとサラウンドL/Rに用いたシステムのチューニングが見事で、改めてSTR-DN1080の魅力を実感させられた。ソニー製AVセンターのニューモデルにしばらくお目にかかれていないが、もう製品開発は行なわないのだろうか。もしそうならほんとうに残念だ。
王者ソニーが渾身の力を振り絞って開発した最高峰8K液晶テレビKJ-85Z9H。間違いなく今年前半のオーディオビジュアル界最大の目玉だろう。8K放送受信のハードルは高いが「8Kテレビを今買うなら絶対コレ!」の思いは高まるばかり。ぜひ店頭に足を運んで、本機の実力の一端を実感していただきたいと思う。