今週末の3月7日に、ソニーの8Kブラビア「KJ-85Z9H」が発売される。同社初の8Kチューナー内蔵液晶テレビであり、去る2月7日のリリース以来、オーディオビジュアルファンの注目を集めている製品だ。今回はそんなKJ-85Z9Hの実力を、山本浩司さんに確認してもらった。山本さんには以前、日本未発売のチューナーレス8K液晶テレビ「Z9G」シリーズを取材していただいたこともあり、そこからの進化を含めて、厳しいチェックをお願いしている。(編集部)。
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昨年8月、StereoSound ONLINEに海外(欧・米・中)で発売されたソニー製8K液晶ディスプレイ「Z9G」(98型と85型。北米と中国での型番)シリーズ98型機の画質インプレッションを記した。
そこで「8Kチューナーを積んだ日本向けモデルは年内に発売されるのでは?」と書いたが、その予想はみごとにはずれ、発表日は2月7日(発売日は3月7日)。98型の発売はなく、85型機の「KJ-85Z9H」のみ1機種の発表だった。
8K液晶ディスプレイ
SONY KJ-85Z9H オープン価格(市場想定価格200万円前後、3月7日発売)
●画面解像度:水平7,680×垂直4,320画素(8K)
●パネル方式:液晶パネル(85型、トリルミナスディスプレイ、X-Wide Angle)
●バックライト:直下型LED部分駆動(バックライトマスタードライブ)
●HDR方式:HDR10、HLG、ドルビービジョン
●搭載スピーカー:2.2ch(トゥイーター×4、ミッドレンジ×8、サブウーファー×4)
●実量最大出力:80W(10W×8)
●無線LAN機能:IEE802.11ac/a/b/g/n
●接続端子:HDMI入力4系統、ビデオ入力1系統、光デジタル音声出力1系統、センタースピーカー入力1系統、ヘッドホン出力1系統、USB端子3系統、LAN端子1系統、他
●寸法/質量:W1913×H1141×D120mm/73kg(本体)、W1913×H1226×D432mm/75.8kg(スタンド含む)
●消費電力:945W(待機時0.5W)
「CES2020」では価格を下げた弟機となる8Kモデルがソニーから発表されたが、本機KJ-85Z9Hは、旗艦モデルZ9Gに8Kチューナーを内蔵し、画質にシビアな日本市場向けに性能をもう一段ブラッシュアップしたモデルという位置付けになる。
価格はオープンで、市場想定価格は200万円前後とのこと。米国での85型Z9Gの販売価格が約13,000ドル、と聞いていたので予想よりも高い印象だが、2月下旬、ソニーのラボ(東京・大崎)で実際に本機の画質・音質を精査、そのすばらしさを目の当たりにし「なるほど200万円の価値はあるナ」との思いを強くした。ちなみに、発売当初はソニーストアのほか全国40店舗で店頭展示されるという。
BS8Kエアチェック映像をはじめとして映画UHDブルーレイ(4K)、地デジエアチェック映像(2K)、など様々なコンテンツを見せてもらったが、85型大画面で観てもアップコンバート画質に大きな不満はなく、8Kオリジナル解像度の画質は、もう絶品と言うしかないすばらしさだった。
85インチ大画面の迫力を生々しく実感させながら、充分な明るさとコントラスト感、そして8Kの3,300万画素(水平7,680×垂直4,320画素)ならではの、目の覚めるような超高精細映像を訴求するのである。
昨年8月にチェックしたZ9Gの98型機よりも画面サイズが小さいせいもあり、映像の緻密さやノイズの少なさは明らかにKJ-85Z9Hのほうが上。既発売のシャープ製8Kテレビを大きく凌駕する超絶画質が実現されていることは間違いない。
とくに感激させられたのが、BS8K放送の『紅白歌合戦2019』と『ルーブル 永遠の美』の録画映像だった。部屋の照明を落とし、映像モードをもっともモニター的な「カスタム」に設定し、画面ににじり寄って(約1.5Hで視聴)観ているうちに、映し出される歌手や西欧美術品の数々がふっと立体的に浮かび上がってきて、なんともいえない無我の境地に誘われるのである。脳内快楽物質がとめどなく分泌されていくこの感じは、まさにハイエンドオーディオと対峙している瞬間を彷彿させる。
ちなみにBS8K放送の録画は、外付けUSB HDDとKJ-85Z9HをUSB接続することで可能になる。3月の発売時点ではソニー製8Kレコーダーの発売はなく、8K/60p、4K/120p伝送可能なHDMI2.1規格への対応は、時期は未定だがいずれファームウェア・アップデートで果たされることになる(HDMI4入力が対応予定)。
さて、昨年8月のZ9Gのリポートでも触れたが、本機の画質を精査して特筆大書したいのは、これまで液晶テレビの弱点として指摘されてきた3つのポイント「黒浮き」「動画応答の遅さ」「視野角の狭さ」がほとんど気にならないことだった。
本シリーズには「HiViグランプリ2016」で<GOLD AWARD>を獲得したZ9Dシリーズ以来、久々に「バックライトマスタードライブ」が採用されている。
これは液晶パネル直下に置かれたLEDバックライトの明るさを一つ一つ個別に制御する技術。数個のLEDをまとめて明るさをエリア制御する通常のローカルディミングに比べて、きめ細かな明るさのコントロールでコントラストを飛躍的に向上させることが可能だ。LEDの数(密度)はZ9Dよりも少ない(低い)ようだが、明るさの制御技術はその後のノウハウの蓄積で大きく進化しているという。
またZ9Dで採用されたものよりもLEDの発光効率は上がっていて、現行の高画質4K有機ELテレビを大幅に上回る(約3倍)明るさを実現しているという。3,000nit相当と思える本機の白ピークの伸びに、現行の有機ELテレビはとても太刀打ちできないだろう。
もっとも白ピークの鋭さは、8K放送のHLG(ハイブリッドログガンマ)コンテンツによっては違和感を抱かせる場合もある。たとえば8K相撲中継など電光掲示板がまぶしく感じられ、白の突き上げ加減を制御する<X-tended Dynamic Range>を、デフォルトの「強」から「弱」に変更することで、ほどよいコントラスト感が得られた。照度環境とコンテンツに合わせて、ここは積極的に調整すべきと思う。
本機の色の再現範囲は、DCI色域(デジタルシネマの基準)の約98%と現状の高級4K液晶テレビの水準に留まるが、明るさとコントラストが従来の液晶テレビよりも大幅に向上しているため、見かけ上いっそうヴィヴィッドな色彩感が得られる印象だ。とくに『ルーブル 永遠の美』に登場する宗教画の金色の生々しさは特筆に値する。ただし、真夏の南国の島特有の抜けるような青空の表現などシアン系をやや単調に感じさせるのは、現状の4K液晶テレビ同様である。
それから、現行8K液晶テレビを大きく凌駕するのが「視野角の広さ」。従来のVAパネルを搭載した大画面液晶テレビは、これまで首を少し左右に振るだけで、色相とコントラストが変化し、その違和感に悩まされることになったが、本機は違う。左右に大きく動いても、著しい画調の変化が認知できないのである。
これは2018年の4Kモデル「Z9F」から導入された同社独自の「X-Wide Angle」技術の賜物。液晶の開き角設定とバックライトの制御、それにフィルター技術の合わせ技で視野角改善を果たしているわけだが、横並びに何人かで大画面テレビを観るというリビングユースにおいて、これはきわめて重要なソリューションと思う。
それから様々なコンテンツを観て感心させられたのは、階調表現の精妙さと4K→8Kアップコンバート画質の秀逸さだった。
本機にはZ9Fで初採用された映像信号処理回路「X1 Ultimate」が載せられているが、8K解像度を得て、この高画質エンジンの魅力がいっそう際立ってきた印象だ。
とくに見事なのは暗部階調の表現。シャドウがすとんと落ちることなく、微妙な暗部情報を粘り強く表現するのである。その正確さはソニー製有機ELマスターモニター「BVM-X300」を上回るほど。また先述のように本機は圧倒的な輝度の伸びを持つので、HDRコンテンツのハイライト側の表現も余裕綽々だ。
4K UHDブルーレイの映画コンテンツのアップコンバート画質にも感心させられた。8Kオリジナルソフトの高精細映像を観たあとでは物足りなさは当然あるが、動きボケも少なく、無用なエンハンス感のないナチュラルな風合いの画調で、ストレスなく楽しませてくれる印象だ。8Kにアップコンしているだけに、フィルムグレインも細かく、とても繊細な映像に感じられる(暗室環境で『カスタム』モードで視聴)。
次回はKJ-85Z9Hのサウンドについて紹介する。
※後編に続く(3月5日公開予定)