CES2019では、シャープが4年ぶりにブースを出展、事業ビジョンの「8KとAIoTで世界を変える」を掲げ、「8K」「AIoT」「Smart Home」「Business」の4つのエリアで様々な展示を行なった。そんなシャープの取締役 副社長執行役員AIoT戦略推進室長 石田佳久氏を、麻倉さんがインタビューした。以下でその詳細を報告しよう。(編集部)
アメリカの皆さんにシャープの取組を知ってもらいたい
麻倉 「SHARP is Back」ですね。まずは、今回CESに出展した狙いからお聞かせください。
石田 CESには4年ぶりのブース出展になります。去年は別会場のプライベートブースで展示をしましたが、今回はいよいよ機が熟したといいますか、「8KとAIoTで世界を変える」という弊社のビジョンを、現実的に皆様に体験いただけるという状況になってきましたので戻ってきました。
弊社はアメリカのビジネスではB to Bが中心で、B to Cのコンシューマー向けは小規模にしか手がけていなかったのですが、その後商品も揃ってきましたので、このあたりできちんとアメリカの皆様にもシャープがどんなことをやっているかを訴求しようと思いました。
麻倉 なるほど、アメリカではB to Bがメインなのですね。
石田 そうですね。欧州ではテレビ製造販売を行なうUMC社の持株会社であるSUMC社を子会社化して買収してブランドコントロールが自社で出来るようになりましたし、白物家電についてもベステルという会社とブランドライセンスを大々的にやっていましたので、B to Cへの展開も比較的取り組みやすかったのですが、アメリカではB to Bが中心です。
麻倉 北米ではハイセンスとブランド提携していたと思いますが、今回発表された8Kテレビについては、どうなるのでしょう?
石田 ブランドライセンス事業としては、ハイセンスが製品を作りシャープのブランドで販売していいということになっています。その意味では、弊社が開発した8Kテレビをハイセンスが販売することはありません。
麻倉 では、シャープ自身が8Kテレビをアメリカマーケットで売ることは出来るんですか?
石田 現状では、できません。
麻倉 ということは、シャープが北米で8Kビジネスを手がけることは当分ないのですね。
石田 いえ、そうとも限りません。8KはB to Bでの需要もありますので、そちらでは弊社でも販売可能です。例えばホテルのテレビなどは業務用としてB to Bルートで出荷できます。
麻倉 しかし、他社がコンシューマーマーケットで8Kテレビを販売するタイミングで一緒に取り扱えないのは、チャンス・ロスになりますね。
石田 出来るだけ早い時期に何らかの展開ができればと考えています。
8Kのエコシステムとしてカメラも展示
麻倉 さて日本では8K放送がスタートして、私も8T-C80AX1の映像を自宅で満喫しています。日本ユーザーの反響はいかがでしょうか?
石田 日本では、年末商戦の時期に各地で8Kを体験してもらえるキャラバンを実施しました。これが好評で、昨年12月半ばの段階では予定していた台数を販売させていただきました。
麻倉 サイズとしてはどれが人気でしょうか?
石田 今回は70インチが一番人気で、次が60インチでした。
麻倉 それはやはり、大画面の迫力を求めたいという声が大きかったのでしょうか?
石田 画面サイズもそうですが、70インチと80インチでは価格が2倍になりますので、70インチは値頃感があったのでしょう。
麻倉 なるほど。ところで日本では8Kが放送されていますので8Kテレビも存在意義がありますが、他の国では8K放送はありません。そのために、8Kのエコシステムが必要だと以前おっしゃっていましたね。そのあたりの展開はどうなっているのでしょう?
石田 8Kエコシステムのひとつとして、プロシューマー用の8Kビデオカメラを参考出品しています。値段は未定ですが、普及に向けて本体で3,000ドル、レンズを付けると4,000ドルほどをターゲットにしています。こういった製品を出していくことで、8Kの裾野が広がっていくことを期待しています。
麻倉 一昨年発売した業務用8Kカムコーダーは880万円でしたが、今回は一眼レフ的なフォルムですね。この製品のターゲットはどのあたりに置いているのでしょう?
石田 もちろんプロユースを想定していますが、一般のユーザーさんにもお求めいただける価格帯を狙っています。
麻倉 今まで8Kというと雲の上の存在でしたが、こういったカメラが出てくると、一般ユーザーでも身近に扱うことができそうですね。
石田 そうなって欲しいですね。またスマホのカメラもそれほど遠くない将来、8K撮影が可能になると思います。そうなってくると、パーソナルコンテンツも8Kになっていくでしょう。また配信も5Gになると、8Kストリーミングも実現できるでしょう。そのあたりから普及していってくれるといいと思います。
麻倉 映像フォーマットの変化は、4Kの時代から放送主体ではなく、むしろユーザーファーストで進んできましたからね。それと同じようなストーリーが8Kでも展開していく可能性は大きい。シャープさんはそれに最先端で取り組んでいるわけで、スマートフォンAQUOSに8Kカメラが入る日も遠くないでしょう。
石田 そう期待したいですね(笑)。
「5G」と「8K」をどう連携していくか?
麻倉 今回のCES2019では、5Gにおける8Kの展開も提案されていますが、シャープさんとしてはどのように取り組まれるのですか?
石田 シャープとしての、具体的な方針まではまとまっていません。各キャリアさんも、これから5Gで何をしていくか考えている段階だと思います。
5Gのネットワークインフラはできるけれど、そこにどんなサービスがついてくるかは見えていないのです。そのあたりについては、われわれも一緒になって取り組んでいきます。シャープとして映像技術をどう活かすかも重要です。
麻倉 8K機器をクリエイターに貸し出すなどしてエコシステムを作るという計画もあったと思いますが、それは進んでいるのでしょうか?
石田 8Kの用途を広げる狙いで、「8Kラボ」という取り組みを始めました。これはクリエイターさんに機材を貸し出したり、映像製作のお手伝いをするベースです。この活動を通して、8K映像を作りたいという方に様々なサポートが出来れば、8Kの裾野も広がっていくだろうと考えています。
麻倉 それは楽しみです。ところで話は変わりますが、現時点で先ほどのカメラ以外に具体的な製品の予定はありますか?
石田 残念ながら、現時点でお話できるものはありません。ただ、8Kカメラであれば、病院や工場などの監視カメラはとても有効だと思います。ズームインすることで、細かい部分までしっかり見えますので。もちろんデータが膨大なので、どうやって保存するかを考えなくてはなりませんが。
麻倉 そういった用途については8Kは目的がクリアーですから、ビジネス展開はしやすいでしょう。5Gの話に戻りますが、あれだけのデータ量が扱えるとなると、8Kのライブストリーミングもありえますね。
石田 5Gが活躍するのは映像配信だと思います。AIoTやビッグデータと言ってもそこまで大きなデータをやりとりしているわけではありませんし、大きな帯域が必要になるコンテンツはやはり映像です。
ただ問題は、8Kで撮影した素材をサービスプロバイダーや放送局といったコンテンツ制作者がどう扱ってくれるかです。その点がまだはっきりしていないのが、残念です。その意味で8Kラボがうまく機能してくれるといいなぁと考えているのです。
麻倉 さてAIoTですが、こちらの最新動向は?
石田 今回展示しているペット関係でしょうか。日本国内でもペットにマイクロチップを埋め込むという動きがあり、すでに数百万頭が登録されているといいます。それらとAIoT機器を関連させていけば、もっと色々なことができるのではないかと考えています。
麻倉 チップと機器が通信して、常に状況を把握してペットの居場所を特定したり、健康管理に使うということですね。それは飼い主に喜ばれるでしょう。AIoTとしては、今後はそのような新しい機能、アプリケーションが必要になりますね。
石田 アプリケーションについては、あれもこれもになりやすいので、もう少し整理して提案していきたいと考えています。
麻倉 AIoTと8Kはどのように関連していくのでしょうか?
石田 映像を加工したりということになると、いわゆるデジタル処理ではAIの要素が入ってきますので、そのあたりでうまく協調できるといいですね。
麻倉 今回の展示では白物家電関係も充実しています。
石田 そちらについてもアメリカでは種類が限られていますが、本腰を入れて拡大していきたいと思っています。今回のCESではビルトインタイプのシステムキッチンを展示しました。プラズマクラスターも日本では人気ですが、アメリカではほとんど認知されていませんので……。
麻倉 IFAではピニン・ファリーナなどのオーディオ機器も話題になりました。
石田 実は、あの商品は欧州専用ではありません。私は、デザインやブランドは国ごとに分けられるものではないと思っています。いいものができれば全世界に展開していきたいと考えています。
ダイナブックはどう展開していくか?
麻倉 もうひとつ、ダイナブック株式会社も本格スタートしました。
石田 PCは、それだけでひとつのビジネスになっています。もちろん事業規模は一時期に比べて縮小していますが、B to Bを中心にPCとしてのビジネスはきちんと拡大していこうと思っています。
一方でB to Cは、ダイナブックとしては北米も欧州もほとんど撤退状態です。そういう状況の中で、もう一度B to Cをなんとか復活できないかと。特にソリューションをきちんとやりたいと思っています。
具体的には、PCはオープンプラットフォームなので、サードパーティが色々なアプリケーションを作ってくれる。思いがけないアイデアもありそうですので、こういった点をもっと活用していけないかと考えています。
麻倉 アプリ開発者も興味深いだろうし、メーカーとしても得る所がありそうです。今AIoTを標榜されていますが、そこで使うソフトも同じようなことができますね。
石田 そうだと思います。ダイナブックを担当していたメンバーもB to Bが中心なので、どうしても発想が限られてしまうのです。その幅を広げるようにしたいと考えています。
麻倉 今後のPCハードウェアとしての方向はどちらに進んでいくのでしょうか?
石田 B to B用のPCはもっと薄く、軽くなっていくと思いますし、今回もそういった製品を参考出品しています。それだけではなく、デザイン性、使いやすさはもっともっと追求できる要素もあるだろうと考えています。
麻倉 シャープさんは総合家電メーカーとして色々な提案をしていますが、自社製品同士の横のつながりなどはもっと押し出していかないのでしょうか?
石田 これまでの例を見ても、囲い込み的なことは上手くいかないでしょうね。シャープの商品同士がつながって、便利な使い方ができるということは提案していきますが、全部を囲い込もうと言ったことはあまり考えていません。
それよりもわれわれと他社が同じプラットフォームでつながるような展開ができないかと考えています。例えば他社さんの体重計で得たデータを、シャープの機器が仲立ちして、湯沸かし器に渡して給湯温度を自動的に調整するとか、そういった仕組を作っていけるといいですね。
麻倉 これまで単独で機能していた製品が、横のつながりを持ってより快適を提供する。これぞAIoTですね。
石田 単に便利になるだけでは駄目で、そこに付加価値がある、そんな展開を考えていきたいですね。
麻倉 今後も面白いアイデアを楽しみにしています。ありがとうございました。