近頃、「AVセンターの音を追い込みたいのですが、ベストな設定方法を教えてほしい」といった相談を立て続けに受けている。
AVセンターは、ブルーレイによる映像ソフトやApple Musicなどの音楽サラウンド、特に空間オーディオなどによるマルチチャンネル再生において、中核を担う存在だ。現在では、多くのモデルに搭載されている自動音場補正(オートセットアップ)機能によって、導入直後の調整が容易になってはいるものの、それだけで理想的な音質が得られるわけではない。そうした質問に対して、私は「自動音場補正だけでは満点の音にはなりません」と答えるようにしている。
このように言い切れる理由は、自身の経験にある。昨年、イクリプスのTD508MK4とサブウーファーTD316SWMK2を導入し、マランツのコントロールAVセンターAV8805と組み合わせた7.2.6ch構成のシステムを構築した。その際、自動音場補正のうえAVセンターの各設定を丁寧に追い込んでいくことで、確実に音質が向上していくことを実感したからだ。
そこで、これからAVセンターの導入を検討している方、あるいは現在使用中のシステムの音質を改めて見直したい方に向けて、本連載では、その知見を共有していきたい。

土方さんは昨年、イクリプスTD508MK4スピーカーとTD316SWMK2サブウーファーによる7.2.6構成のサラウンドシステムを導入。今回の取材で使ったデノンAVC-A10Hが内蔵する13chパワーアンプ構成とぴったりだ
土方さんは部屋の長手方向を3等分し、前方から3分の2の地点の、左右中央をリスニングポイントにしている。部屋のシェイプが起因となる、定在波による低音再生のディップ(谷)の原因を最小限にするためのものだ。フロントL⁄Rはリスニングポイントとセンタースピーカーを結ぶ線を基準にしてそれぞれ30度、サラウンドスピーカーは110度の角度となり、サラウンド音楽再生の基準となるITU-R配置に準じている
※リスニングポイントは、部屋の長手方向は、スクリーンに向かってちょうど3分の1の位置。スピーカーはそこを中心に円周上に配置する。サラウンドとサラウンドバックは、ディレイを併用し、部屋を有効活用している
自動音場補正の基本の3ステップは絶対に手を抜かないことが肝要
今回採り上げるのは、13chパワーアンプを内蔵し、15.4ch対応のプリアウトを備えたデノンのセカンド・フラッグシップモデルAVC-A10H。本機を筆者宅のスピーカーシステムに組み込み、各種設定を詳細に追い込んでいく。
まずはAVC-A10Hをラックに設置し、ソース機器およびスピーカー、サブウーファーと接続を行なう。サブウーファーはLFE入力を選ぶ。製品にそうした入力やローパスオフ/ダイレクトなどのモードがついておらず、ローパスフィルターをパスすることができない場合は、フィルター設定は最高値としておこう。
準備が整ったら、AVC-A10Hに備わる自動音場補正機能「Audyssey(オーディシー)」を用い、マイクとテストトーンによるオートセットアップを開始する。
測定の流れはおおまかに、①マイクの設置、②測定、③測定結果の確認と手動調整の、3ステップとなる。
ステップ①「マイクの設置」のコツはいくつかあるが、できるだけしっかりとした三脚に取り付けること。また三脚の脚の位置は、何度も測る前提でマーキングも忘れずに行なおう。なおAVC-A10Hにはペーパースタンドが付属するが、あくまでもテンポラリーのものだと理解しておこう。この段階で最も重要なのは、マイクの位置をリスニングポイントにできるだけ正確に合わせることだ。最初にレーザー距離計やメジャーなどを使って部屋の縦横の寸法を確認しておくと作業がスムーズになる。
筆者は、部屋の横方向の中央、縦方向については前方から3分の2の位置に視聴ポジションを設定し、数ミリの精度の厳密さでマイクを固定している。
これは音響工学的に低域のピークやディップの影響を受けにくい、いわゆる「低域に癖のないリスニングポイント」を狙ってのもの。部屋の縦方向を三等分したときの、前方から3分の1、または3分の2の位置が、定在波の関係からいうと、最も低域が伸びる位置にあたるとされているからだ(ただし、壁材や室内の構造によって多少の変動はあるが)。
プロジェクター環境の場合、スクリーンとリスニングポイントの距離関係も考慮する必要があるが、あらかじめこの位置に基準ポジションを設定しておけば、後の低音域の調整が比較的スムーズに進むはずだ。なお、マイクの水平/垂直が確保されているかも要注意ポイントだ。
またリスニングポイントや三脚の正確なマーキングも大切だ。自動測定の後に行なうマニュアルでの微調整やスピーカー位置の最適化において重要な基準となるため、丁寧に決定しておきたい。たとえば、100円ショップなどで入手できる直径1cm程度の丸いシールを用いて、マーキングしておくと、再調整時に役立つだろう。
リスニングポイントの設定は極めて重要。写真ではわかりづらいが、レーザーを使った墨出し器(ネット通販で1万円程度で購入できる)を使って、厳密にポイントを決めている
自動音場補正機能は、AVセンター付属のマイクをリニスニングポイントにセットしたのち、測定を行なうが、安定した三脚を使うこと、さらに測定結果を踏まえて調整、再び測定することを踏まえて、三脚にマーキングをしておくこともコツだ
オーディシーの測定は1人の視聴なら3箇所でOK
マイクを正しい測定位置に設置したら、次のステップは②「測定」である。リモコンのセットアップボタンを押し、「セットアップ」→「スピーカー」→「Audysseyセットアップ」と進み、スピーカーレイアウトを選択する。今回は7.2.6ch構成で設定を行なった。
Audysseyによる自動測定では、最低3箇所、最大で8箇所のマイク位置を変えて測定する仕組みとなっている。今回は1人での視聴を前提としており、センターのベストポジションを基準に、3箇所で十分と判断した。テスト信号が数分間流れ、1回目の測定が完了すると、画面に従って「次へ」を選び、マイクの位置を変えながら同様に測定を進めていく。こうして3箇所での測定を終えた。
多くのユーザーがこの自動音場補正を済ませたら、すぐに音楽や映像を楽しみ始めるだろう。しかし、ここからが本番だ。ステップ③「測定結果の確認と手動調整」に進む。
左右スピーカーの距離測定の結果がズレていたら位置そのものを見直そう
まずはAudysseyの測定結果を確認してみよう。前述の通り、私のシステムは全てイクリプスのTD508MK4で統一されており、フロント、センター、サラウンド、オーバーヘッドスピーカーが全て「小」として認識された。
次に距離測定の結果を確認する。Audysseyではリスニングポイントから各スピーカーまでの距離が、1cm単位で測定した結果が表示される。
ここで特に注目すべきは、左右でペアとなるチャンネル(つまりフロントLとR、サラウンドLとRなど)間で、測定結果に差がないかどうかである。部屋の都合であえて、左右位置を変えて設置しているケースはあろうが、本来は左右ペアのスピーカーは等距離に配置することが大前提だ。等距離に設置している「つもり」であっても、測定結果に大きな差があった場合は、スピーカーの物理的な設置配置を見直し、再度測定を行なおう。
今回は事前にレーザー距離計を用いて、各スピーカーの設置距離を1〜2mm単位で揃えていたため、表示された距離も左右の偏差はぴたり1cm以内に収まっており、Audysseyの測定精度の高さを改めて実感した。
続いて、各スピーカーの音量レベルの測定結果を確認する。これは距離だけでなく、部屋の反射特性やスピーカー設置位置の影響を受けやすく、数値にバラつきが出る場合がある。特に重要なのは、フロントスピーカーの音量(と距離)が左右で一致しているかどうかであり、これはステレオ再生はもちろん、サラウンド再生でのパフォーマンスに大きな影響を与える。
今回は、測定結果を参考にして左右バランスを意識しつつ、全てのスピーカーの音量が聴感上で均一になるよう、マニュアルセットアップで微調整を行なった。
合わせて、小音量時の音質低下を補正する「Dynamic EQ」や、音のダイナミックレンジを圧縮する「Dynamic Volume」などの機能は、オフしておこう。

マイクを使って3箇所で測定。測定結果を確認してみると、L/C/Rは全て198cmに。それ以外のスピーカーも、左右マッチングが正確に取れていることが確認できた。取材前に土方さんはメジャー、レーザー距離計を使って、入念に距離を詰めており、それがそのまま反映されたカタチだ

同一スピーカーを使った7.2.6サラウンドシステムだが、(左右マッチングは揃っていても)、物理的な距離が異なり、部屋の中のラックなどの影響もあって、音量レベルは微妙にオフセットされた状態で測定された。そのままの状態で使う考え方もあるが、左右マッチングを優先して、手動でペアとなるスピーカーで音量レベルを揃えた
さすがデノンの最新モデル、基本調整だけでも非常に良いが……
こうして初期調整を終えた状態で、音を聴いてみた。まず、Apple TV 4Kを用いてドルビーアトモスフォーマットによるApple Musicの空間オーディオを再生。試聴曲はセリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」。今年新たにイマーシブフォーマットでリミックスされたこの楽曲では、ヴォーカルの質感や立体的な定位、楽曲後半に広がるリバーブ、そして天井方向まで展開するサウンドステージまで、空間表現の豊かさをしっかりと感じ取ることができた。
マグネターのユニバーサルプレーヤーUDP900で、『クワイエット・プレイス DAY1』のUHDブルーレイを再生。ダイアローグの明瞭度が高く、S/N感も良好。静寂と緊張が交錯する中、頭上を飛び交うヘリコプターや戦闘機の音も自然に定位し、没入感を高めてくれる。UHDブルーレイ『エイリアン:ロムルス』では、サブウーファーを含む全体の低域表現に迫力があり、アクションシーンの臨場感も十分だった。
AVC-A10Hは、各チャンネルに個別のパワーアンプ基板を採用したモノリス・コンストラクションや、強力な電源部などが惜しみなく投入された最新モデルである。その音は初期設定の段階でもすでに高水準で、完成度の高さを感じさせた。さすがデノンの高級AVセンターといったところだ。
「これ以上、調整する必要があるのか?」と思えるほどの音であったが、AVC-A10Hに備わる様々なスピーカーおよびサブウーファーの設定をさらに追い込み、先のコンテンツを聴いた私は、その差に思わず息を呑むことになる……。続きは次回にて。
https://www.denon.com/ja-jp/product/av-receivers/avc-a10h/AVCA10HJP.html
>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』





