
AV Center
デノン AVR-X580BT
¥58,300 税込
● 搭載アンプ数:5
● 定格出力:70W+70W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD0.08%、2ch駆動)
● 接続端子:HDMI入力4系統、HDMI出力1系統(eARC/ARC対応)、アナログ音声入力2系統、デジタル音声入力2系統(光)、サブウーファープリ出力2系統、ほか
● 寸法/質量:W434×H151×D330mm/7.6kg
● 問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談 センター TEL.0570(666)112
https://www.denon.com/ja-jp/product/av-receivers/avr-x580bt/AVRX580BTJP.html
ロスレス圧縮でサラウンド音源を収録したUHDブルーレイでお気に入りのアニメ作品を楽しむとなると、やはりテレビ内蔵のスピーカーシステムでは物足りない。最近は音質重視のテレビも登場してはいるが、UHDブルーレイの上質なサウンドの潜在能力を引き出すには、まだまだ力不足といわざるを得ない。
テレビとの快適な連携を約束するeARC/ARC HDMI入力を備えたプリメインアンプとスピーカーの組合せも悪くはないが、当然ながらこの場合の再生は、2chステレオ再生どまり。作品の制作意図に少しでも近づきたいと考えるのなら、快適な操作性を確保しつつ、サラウンド再生まで発展できるAVセンターがベストだろう。
そこで今回、用意したのが5ch仕様パワーアンプを内蔵した、デノンAVセンターAVR-X580BTと、ダリの2ウェイブックシェルフスピーカーOBERON 1の組合せだ。
デノンAVR-X580BTだが、数あるデノンのAVセンターラインナップの中で、8K映像の入出力対応HDMI端子、eARCなど最新の機能をサポートしたエントリーモデル。ドルビーアトモスやDTS:Xなど三次元立体音響については非対応ながら、ドルビートゥルーHDやDTS-HDMAのロスレスサラウンド規格はサポートしている。型番の「BT」はBluetooth対応を意味している。


AVR-X580BTは、シンプルな5.1ch再生対応のAVセンター。ドルビーアトモスやDTS:Xなどには対応していないが、「天井スピーカーを設置できない」環境では十二分な機能を備えているだけでなく、かえって使いやすいかもしれない。サブウーファー出力端子は2系統備わるが、同一信号の出力となる
AVR-X580BTは、まさに「ザ・エントリー」とも言えるお手軽なモデルに思えるが、本体内部を検証していくと、AVセンターとしての本質、つまりクォリティに関わる部分については、相当なこだわりが確認できる。たとえばパワーアンプ回路だが、上級機譲りの全5ch同一のディスクリート構成。信号ライン、電源供給ラインと、基板の低インピーダンス化を図り、同時に部品配置の最適化によりノイズの影響を最小限に抑えている。電源回路についても、大型EIコアトランスと大容量6,800uF電解コンデンサーのカスタム品を搭載するという本格派なのである。
OBERON 1は童話の国デンマークに本拠を構える老舗スピーカーメーカー・ダリの人気モデル。同社のラインナップの中でも最も手頃な小型2ウェイシステムで、ドライバーユニットも他社から供給を受けるのではなく、自社設計、製造として、音づくりの自由度を高めている。
ウーファーには5.25インチ(130㎜)径のウッドファイバーコーン振動板を採用。磁気回路に高価なハイテク素材であるSMC(ソフト・マグネティック・コンパウンド)を奢り、三次高調波歪みを低減、周波数特性のリニアリティ向上を図っている。トゥイーターはシルクファブリック素材をベースとしたソフトドーム型タイプを採用。29mm径の大口径タイプとして、ウーファーとの無理のない繋がりを約束しているという。

Speaker System
ダリ OBERON 1
¥74,800 (ペア)税込
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:86dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:2.8kHz
●インピーダンス:6Ω
●寸法/質量:W162×H274×D234mm/4.2kg
●備考:2025年7月1日より¥82,500(ペア)税込に価格改定
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL.0570(666)112
シンプルな2ch再生をまず確認。モノーラル音声を力強く描く
早速、そのサウンドを確認していこう。今回はOBERON 1によるステレオ2.0ch構成をまず試し、さらにサラウンド側に同スピーカーを2本追加した4.0chサラウンド構成の2パターンでパフォーマンスを検証している。
ちなみにAVR-X580BTは2台のサブウーファー接続が可能だが、今回は狭小空間での設置性を考慮、あえてサブウーファーを使わない構成で、その再現性を確認することにした。

今回の取材では、最小構成で最大の効果を目指し、まずシンプルな2ch再生を試した。デノンとダリ以外の使用機材は、パナソニックDMR-ZR1(4Kレコーダー)、レグザ48X9400S(4K有機ELディスプレイ)を用いている
まずシステムとしての素姓を把握するために、ステレオセッティングで聴き慣れたCDから女性ヴォーカル、クラシックと、2、3曲再生してみたが、適度な湿り気を感じさせる落ち着きのある質感がなかなか心地いい。明るく、開放的に聴かせるというタイプではなく、スムーズな空間の拡がりと明確な定位が特徴的で、リズム感がいい。オーケストラは楽器の響きが繊細で、OBERON 1から、歪み感の少ない生きのいいサウンドがスッと立ち上がり、目の前の空間に解き放たれる。きらびやかというよりも、やや艶消しというべき、独特の色彩感を持って展開されるアンサンブルは、聴き応えがある。
UHDブルーレイ『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』を再生してみよう。1974年に放映されたテレビアニメシリーズ『宇宙戦艦ヤマト』を2時間余りにギュッと濃縮し、さらに4Kリマスター化された話題作だ。
UHDブルーレイ
『宇宙戦艦ヤマト 劇場版 4Kリマスター』
(バンダイナムコフィルムワークス BCQA-0017)¥11,000 税込
音声は1977年の初公開時と同じモノーラルのままだが、新たに発見された磁気録音のマスター素材を採用されている。収録形態としては48kHz/24ビットリニアPCMのステレオ音声で、AVR-X580BTのダイレクトモードでは、フロント左右のスピーカーから同一音声が出力され、モノーラル再生となる。
実際に再生すると、浸透力を備えたセリフといい、ブレない定位、厚みのある空間といい、モノーラル音声らしい安定感のあるサウンドが実感できる。冒頭、黒画面のまま主題歌が流れるが、ささきいさお の声は若々しく、清々しい力感を感じさせる。
このシステムで感心したのは、モノーラル音声の再生にも関わらず、メリハリの効いた奥行感のあるムービーサウンドが楽しめたことだ。セリフを中心に、その外側に多彩な効果音が配置され、さらに雰囲気のあるコーラス(音楽)が包み込むように拡がるといった具合に、声/効果音/音楽の、映画音響を構成する3種類の音源が混濁することなく、重層的に描き出される。
中央から前に張り出す明瞭度の高いナレーションが音の主役であることは間違いないが、広大な宇宙に空間を思わせる複雑な効果音と、刻々と変化する状況に相応する音楽が重なり、臨場感を盛り上げていく。テレビ内蔵スピーカーではここまで豊かな表現を期待するのは難しいだろう。
スピーカー2本を加えた4.0ch再生の絶大なサラウンド効果
続いてサラウンド側にOBERON 1を2本追加し、4.0chシステムに発展させてみよう。今回は狭小空間での再生を前提にしつつも、同一スピーカー2組4本を、リスニングポイントに対して等距離に設置したため、音量や距離設定など、特別な調整は必要ない。とはいえ、念のため、AVR-X580BTに備わる付属マイクによる自動音場測定機能である「オートスピーカーセットアップ」を行ない、パラメーターをチェック。目論見どおりの4.0chシステムとして自動調整されたことを確認した。

サラウンド再生は、最小構成となる4.0chを試した。フロントL/Rスピーカーに、サラウンドL/Rスピーカー2本を追加した格好だが、圧倒的な効果を実感できた。ここからサブウーファーを足して低音増強も可能だ
『宇宙戦艦ヤマト 劇場版』の場合、ダイレクトモードでは、前述したフロントスピーカー2本での2ch再生となるため、試しにドルビーサラウンドモードを試してみたが、音に変化なし。追加したサラウンド側のスピーカーから音が出ている様子はない。ドルビーサラウンドモードの場合、ステレオ左右チャンネルでの音の違いを利用して、サラウンド側の情報を作り出すため、同一信号を再生するモノーラル音声での音の変化がないのは当然のこと。センタースピーカーを追加すれば、ナレーション、セリフはハードセンターとして再現されるのだが……。これはDTS Neo:6モードでの再生でも変わらなかった。
ここで再生コンテンツをUHDブルーレイ『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』に変更。人気作品だけあって、これまでLD、DVDビデオ、BDと、各種パッケージソフトが様々な形態で商品化されているが、UHDブルーレイについても、国内盤と米国盤の2種がリリースされている(詳細は46ページ参照)。今回は2018年発売の国内盤UHDブルーレイで、そのサウンドを確認していく。音声は48kHz/24ビット収録のリニアPCM規格によるステレオ仕様(日本語/英語共通)。元々、マトリックスエンコード処理により、フロントL/R+センター+モノーラルサラウンドの4ch情報を収録したオリジナル音源となる。
UHDブルーレイ
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 4Kリマスターセット』
(バンダイナムコフィルムワークス BCQA-0007)¥10,780 税込
この2ch音声をまずステレオ2ch信号としてダイレクト再生してみた。冒頭シーン直後のタイトルバックで川井憲次作詞・作曲「謡Ⅰ-Making of Cyborg」がバックで流れる草薙素子のボディ製造シーンから再生してみよう。バックには民謡グループ西田和枝社中が織りなす幻想的な歌声が拡がり、これから始まるストーリーへの期待が高まる。
その深いエコーのかかった声に歩調を合わせるように、重くて深い太鼓の音が響き、その奥には水の動きと電飾のノイズなどの効果音が散りばめられ、独特の世界観を感じさせる。シンプルでしかも手頃な2chスピーカーを用いたステレオ再生でここまで緻密に、生々しい空間が描き出せるとは、ちょっと驚きだ。
チャプター3。香港をモチーフにした雑多な町並みが映し出される。2人の男が雑談しながらゴミ回収作業と公衆電話でのハッキングを終え、ゴミ回収車で走り去るが、その途中、公安9課のバトーとイシカワが乗る、アルファ・ロメオSZを思わせるスポーツカーとすれ違い、あわや接触事故かと思わせる危険に遭遇するシーン。
クルマの走行音、ゴミ袋の擦れ音、ドアの開閉音、エンジン音、そして高く響くカラスの泣き声と、実に多彩な効果音が広い空間にキレイに放出される。細部まで緻密に書込まれた映像と比べても、勝るとも劣らない精巧な音づくりで、その場、その場のリアリティを盛り上げていく。
ドルビーサラウンド規格でエンコードされた音源ということもあって、前方2本のスピーカー再生でも、空間の拡がりは豊かで、一定の移動感、包囲感が得られる。具体的には、車の走行音の軌跡には、方向感やスピード感が備わっているし、カラスの泣き声も高く、頭上から後方へ消えていく様子も生々しい。思わず後ろのスピーカーが鳴っているのではと、錯覚するようなサラウンド感が得られた。
では続いてサラウンドスピーカーを加えた4.0chシステムで、AVR-X580BTによるドルビーサラウンドモードでの再生を試してみよう。なお、ややこしいが、ここでいう「ドルビーサラウンド」とは、音声再生モードの名称となり、劇場用サラウンド音声フォーマットとしての技術名称とは異なる。
ステレオ再生と比較して、音の聴こえ方が大きく変わる印象はないが、空間の拡がりがひとまわり、いや、ひとまわり半ほど大きくなり、2.0ch再生時に時折感じられた逆相感もほとんど気にならなくなった。
音像がサラウンド側に明確に定位するような再現ではない、車の走行音やスリップ音、あるいは銃声などの様々な効果音の方向性がより明確になり、同時に足音や息づかい、かすれ音など、細かなノイズが空間に馴染み、その場の気配、雰囲気まで感じとりやすい。制作者が意図する本来の音に大きく1歩近づいた感じだった。
モノーラル、ステレオと音源を問わず、表現力豊かな外部スピーカーとAVセンターを加えることの恩恵は絶大だった。この組合せはリアルスピーカーを用いたサラウンド再生としては、最もシンプルなシステム構成かつ取材時点の定価ベースで約20万円で入手できる。だがセリフを中心に、その外側に多彩な効果音、音楽が拡がり、特にドルビーエンコードされたステレオ音源については、ドルビーサラウンド再生でより鮮烈な空間描写が可能になり、劇場さながらのムービーサウンドが体験できる本格派のシステムだ。アニメの音の重要性を再認識できた取材となった。

今回は非常に狭い空間をイメージした取材を行なった。4畳半から6畳あれば十分に実現できる状態だ
>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』