ジャズとボサノバで鍛え上げた独特のグルーブ感。非演歌・八代亜紀のジャジーな魅力に溢れた1枚

 「なみだ恋」、「雨の慕情」、「舟唄」と、日本の歌謡史に残るようなビックヒット曲が多いだけに、八代亜紀と言うと、どうしても大御所、演歌歌手のイメージがつきまとうが、彼女独特のビブラート、グルーブ感は意外なほどジャジーだ。

 八代亜紀の歌手としての生い立ちを遡っていくと、なるほど、と合点がいく。15歳から地元のキャバレー、クラブで歌い始めているが、そのほとんどがジャズとボサノバ。その後、東京・銀座のクラブに活躍の場を変えるが、得意の楽曲は変わっていない。

Stereo Sound REFERENCE RECORD
SACD/CDハイブリッド盤『哀歌-aiuta-/八代亜紀』

(日本コロムビア/ステレオサウンド SSMS-072)¥4,950 税込

[収録曲]
1.St.Louis Blues
2.The Thrill Is Gone
3.別れのブルース
4.フランチェスカの鐘
5.Give You What You Want
(THE BAWDIES 提供楽曲)
6.ネオンテトラ
(横山 剣 提供楽曲)
7.命のブルース
(中村 中 提供楽曲)
8.The House of the Rising Sun
9.夢は夜ひらく
10.Bensonhurst Blues
11.あなたのブルース
12.Sweet Home Kumamoto

●マスタリング・エンジニア:田村正弘(日本コロムビア株式会社)
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 『哀歌-aiuta-』は彼女がこよなく愛し続けたジャズと、その後、歌い続けてきた歌謡ブルースの世界を融合させ、完成させたアルバムだ。CDの発売は2015年。ここで取り上げるSACD/CDハイブリッド盤は、LPレコード用に作成された5.6MHz/DSDマスターを用い、日本コロムビアスタジオのチーフ・エンジニア、田林正弘氏の手で仕上げられた力作だ。

 本作のマスタリングは「バックの演奏と八代のヴォーカルが対等に聴こえるよう仕上げた」(ライナーノーツから)としているが、実際に聴いて見ると、曲毎に、楽器単位で彼女の声とのバランスを細かく調整しているのが分かる。

 例えば9曲目「夢は夜ひらく」。優しく話かけるように歌い始めるが、柔らかなギターの響きと、チャーミングな歌声のヴォリュウム感は見事なまでに整えられている。以降、ピアノ、ベース、ドラムスと、アップテンポにリズムを刻んでいくが、ここでも声と演奏のバランスは崩れず、安定感がある。

 声はピンポイントの定位ではなく、等身大の八代亜紀を感じさせるスケール感で、各楽器の響きは混濁することなく、左右、奥行方向に自然に拡がる。イメージとしては、50~60人収容のライブハウスの最前席で聴いている感じで、素直に楽しい。

 優しく、ある時は激しく、わずかにこぶしを感じさせて、独特のビブラートをつないでいく彼女の歌声は、とにかく聴き応えがある。そして聴き終わると、なんとなく幸せな気分にさせてくれる後味の良さ。SACDという器の大きさを素直に感じさせる作品でもあり、このサウンドをぜひ1度、体験していただきたい。

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