チャン・チェンが『新聞記者』の藤井道人監督とタッグを組む

 『青春18×2 君へと続く道』は、台湾のスター俳優チャン・チェンが初めてエグゼクティブ・プロデューサーを務め、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『新聞記者』(19年)や大ヒット作『余命10年』(21年)で知られる藤井道人監督が自ら脚本も担当した、日本・台湾合作映画。藤井監督にとっても、これが初めての国際プロジェクトとなる。

 聞けば、台湾出身の祖父を持つ藤井監督は、「いつか台湾で撮りたい」と願い、台湾の映画人にも働きかけていたのだとか。その思いが、当時ジミー・ライの紀行エッセイ『青春18×2 日本慢車流浪記』の映画化に奔走していたチェンに届き、この魅力的なプロジェクトが走り出したそうだ。

 物語は、自ら立ち上げたゲーム会社から解任された36歳のジミーが、故郷・台南に帰るところから始まる。そこで18年前に出会った日本人旅行者・アミからの絵葉書を手にし、彼女への淡い恋心を蘇らせる。そして、あの日に交わした約束を果たすため、アミの故郷・日本へと旅立つのだが……。

 東京→鎌倉→長野→新潟→福島。桜並木や雪景色の美しい日本を旅するジミーと、彼の胸に去来する“真夏の台南の思い出”=バイクの二人乗りやランタン祭りなどの映像が交錯する構成は、18歳から36歳の大人になった“時の流れ”を映し出し、甘酸っぱくもせつない。ジミーを演じたシュー・グァンハンの寡黙でエモーショナルな演技にも心奪われるし、アミ役の清原果耶が漂わせる儚さとミステリアスな空気感も絶妙だ。

画像: 清原果耶とシュー・グァンハンがダブル主演を務める『青春18×2 君へと続く道』。台湾での瑞々しい青春の日々と、抒情的な日本の風景が交互に織りなす良作となっている

清原果耶とシュー・グァンハンがダブル主演を務める『青春18×2 君へと続く道』。台湾での瑞々しい青春の日々と、抒情的な日本の風景が交互に織りなす良作となっている

エグゼクティブ・プロデューサーを務めたチャン・チェン。40代後半になっても、眼差しは10代の頃の面影を残す

藤井道人監督(左)とチャン・チェン(右)

『牯嶺街少年殺人事件』の衝撃デビューから30年余り、今やアジア映画を牽引する存在に

 とりわけ感激したのは、ホウ・シャオシェン監督の『恋恋風塵(れんれんふうじん)』(87年)、イー・ツーイェン監督の『藍色夏恋』(18年)など、私が愛してやまない“台湾青春映画の息吹”が流れていることだ。さすがエドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91年)でデビューを飾ったチャン・チェンのプロデュース作である。

画像: 『恋恋風塵』に登場する自転車の二人乗りを思い出す、『青春18×2 君へと続く道』のバイクシーン

『恋恋風塵』に登場する自転車の二人乗りを思い出す、『青春18×2 君へと続く道』のバイクシーン

 15歳で俳優デビューをしたチャンは、一時期学業に専念していたが、同じエドワード・ヤン監督の『カップルズ』(96年)で復帰。翌年の『ブエノスアイレス』(97年)の撮影終了後、兵役についている。

 初めて会ったのは、その兵役についてまもなく。1996年9月に開催された東京国際映画祭で上映された『カップルズ』を携えて、共演のクー・ユールンと来日したときだ。当時、チャン=20歳、クー=19歳。

 まず気になったのは、兵役中なのに来日できたこと。なんでも、映画や音楽などのエンターテインメント事業を宣伝する部隊があるそうで、そこの所属になったということだ。通訳さんは北京語があまり得意ではないらしく、その部隊を“喜び組”とかって訳したのを聞いて、2人が突っつきあって大爆笑。まるで、修学旅行に来た中学生みたいで、可愛かったなぁ。

 再会したのは、2007年。『呉清源 極みの棋譜』(06年)で、14歳のとき中国から日本に渡り、やがて日本囲碁界の頂点に君臨した呉清源の半生を描いた作品だ。囲碁の天才の苦悩を演じたチャンは、このとき31歳。「実在の人物であり出来事を演じること、そして柄本明さんを始めとする日本映画の俳優さんたちと共演したことは、私にとって大きなチャレンジであり、勉強にもなりました」と真摯なまなざしで語っていて、大物俳優の予感たっぷりだった。

 そして予感通り、後に香港映画の『レッドクリフ PartI&II』(08・09年)や、近年では『DUNE/砂の惑星』(20年)などにも出演する国際的なスターに。また、47歳のいま、俳優業だけでなくプロデューサー業にも進出し、まさに台湾映画界ばかりかアジア映画界を牽引するパワフルな映画人に……。

 いやはや、時の流れは速い! そう、このコラムのスタートは2012年3月。12年間も書かせていただいきましたが、それも今回で終了です。

 これまで、今回登場のチャン・チェンをはじめ、レオナルド・ディカプリオやブラッド・ピットなど、スターや監督たちのデビュー当時、もしくはブレイク前夜からお会いしてきた数々のエピソードを、極私的な感想を交えて紹介してきました。なにしろ、私が映画ライターの仕事を始めた1980年代から2010年前後までの間は、ハリウッドも日本の洋画市場も元気で、スターの来日も海外でのインタビューも目白押し。その頃の“幸せな体験”をみなさんと共有し、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

 もちろん、これからも新しいスター誕生と多種多様の傑作・秀作映画にもお目にかかれることを期待して、お仕事を続けます。ありがとうございました!

『青春18×2 君へと続く道』

2024年5月3日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショーほか全国順次ロードショー

監督:藤井道人
脚本:藤井道人/林田浩川
出演:シュー・グァンハン/清原果耶/ジョセフ・チャン/道枝駿佑/黒木華/松重豊/黒木瞳
原作:ジミー・ライ『青春18×2 日本慢車流浪記』
2024年/日本=台湾/123分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
(c) 2024「青春18×2」Film Partners

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