ソニーグループ株式会社は、同社が展開している「STAR SPHERE(スタースフィア)」プロジェクトの一環として、超小型人工衛星「EYE」(アイ)による撮影・宇宙感動体験を期間限定で提供している。抽選で選ばれた人は、STAR SPHEREプロジェクトや宇宙撮影体験の説明を受けながら、手元でシミュレーターの「EYEコネクト」を操作して衛星の設定を行い、自分だけの写真を撮影できるというものだ(画像は後日提供される)。

 本連載では2022年ラスベガスCESから、STAR SPHEREについて担当者氏へのインタビューを行ってきた。今回も宇宙撮影について体験取材を実施、ソニーグループ株式会社 事業開発プラットフォーム 新規事業探索部門 宇宙エンタテインメント推進室 室長の中西吉洋さんに詳しいお話をうかがっている。以下でその詳細をお届けしたい。(StereoSound ONLINE編集部)

「STARSPHERE」プロジェクトと超小型人工衛星「EYE」とは

 STAR SPHEREは2022年のCESで発表されたソニー、東京大学、JAXAによる共同プロジェクトだ。2023年1月に、ソニー製カメラを搭載した超小型人工衛星「EYE」を打ち上げ、EYEを通じて宇宙から宇宙や地球を見つめる「宇宙感動体験」の提供を目指したものとなる。公式サイトには、「宇宙視点ギャラリー」として撮影された画像が掲載されている。

――今日はソニーのSTAR SPHEREプロジェクトについて、実際に宇宙撮影体験をお願いしたいと思っています。オンライン会議でソニースタッフと麻倉さん、編集部をつなぎ、シミュレーターのEYEコネクトを共有する形で取材を進めています。

麻倉 いや〜、楽しみですね。STAR SPHEREプロジェクトが2022年のCESで展示されていましたが、私はその時からどんな内容になるのかと興味を持っていました。まずうかがいたいのですが、人工衛星のEYEは無事打ち上げられたんですよね?

中西 いつもご注目いただきありがとうございます。EYEの打上げは無事成功して周回軌道に乗っており、現時点でなんとか宇宙体験を提供できるところまで進んでおります。

 そもそもSTAR SPHEREプロジェクトは、ソニーならではのテクノロジー、エンタテインメントを使って、普段はどうしても心理的な距離を感じてしまう“宇宙”というものについて、親しみを感じてもらおうというものです。

 またEYEのカメラを通じて、自分が宇宙飛行士になって宇宙から地球を眺めたらどんな風に感じるのかを体験をしてもらおうという狙いもあります。そのために、EYEに撮影指示を行うユーザーインターフェイスも分かりやすくしたいと思い、直感的なシミュレーションシステムを構築しました。

麻倉 EYEで宇宙や地球を撮影する環境は、既に構築できているわけですね。

画像1: これはまったく新しい“感動体験”だ。ソニーが提供する「STAR SPHEREプロジェクト」で、宇宙がいっそう身近に感じられた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート111

中西 そこについては、打ち上げが成功した後に、きちんと撮影ができるか確認を行いました。それは無事成功し、日本上空からの撮影にも成功しました。4K動画も数秒ですがきちんと撮影できています。

 ただその後、衛星の姿勢制御装置のリアクションホイールというパーツが故障していることがわかりました。そのため、撮影したい場所に自由に衛星を向けることが難しく、有料サービスとして展開するのは厳しいだろうという判断に至ったのです。

麻倉 ということは、当初予定していた宇宙からの撮影体験サービスができなくなったと。

中西 ただし再起にむけた模索は続けていて、残ったふたつのリアクションホイールと他の機能を使って、どんな姿勢だったら通信ができるのか、望んだ撮影ができるかといったことを検証してきました。そこから、EYEの太陽パネルを太陽側に向け続けると、電源に関しては問題がないことがわかりました。

 この条件であれば月に300枚くらいの写真を撮影し、データを地上に送ることもできます。またカメラのパラメーターをこういう風に調整したら、こんな写真が撮れるんじゃないかといったこともわかってきました。

麻倉 確認ですが、衛星のリアクションホイールは復旧できなかったんですね?

中西 1台は復旧できませんでしたので、ふたつのリアクションホイールと他のセンサーなどを使って、撮りたいところにEYEのカメラを向ける方法を模索しました。

麻倉 太陽にEYEの背中を向けると、決まった箇所の写真しか撮れないような気もしますが、そんなことはないんでしょうか?

中西 基本的には太陽の反対側しか撮影できません。ただ、EYEは太陽同期軌道という南北軌道を通っていて、色々な時刻に地球上空を通過しますので、撮影できる場所にはバリエーションがあります。

画像2: これはまったく新しい“感動体験”だ。ソニーが提供する「STAR SPHEREプロジェクト」で、宇宙がいっそう身近に感じられた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート111

麻倉 静止軌道ではないから、あちこちの撮影は可能ということですね。

中西 続いて、一般向けの取り組みについて説明します。今回は、純粋に宇宙を楽しんでくれるであろう子供たちをターゲットにしました。「こども地球撮影プロジェクト」と呼んでいますが、自分たちが住んでいる地域を、子どもたちが人工衛星を操作して写真に撮るという体験は、本人たちにとっても貴重ではないかと考えたのです。

 具体的には、佐賀県の場合はプラネタリウムの近くに住んでいる小学生40人ぐらいに集まってもらい、宇宙の勉強をして、その後にみんなでボタンを押したら、それがコマンドとしてEYEに送られるというものです。

 他にも日本旅行さんと協業し、望遠鏡を使って地球から月を見ながら、同時にシミュレーション経由で宇宙から地球を見るというプランも考えています。他にもEYEが撮った写真を使ってクロマキー合成も楽しんでもらい、より宇宙や人工衛星が身近になるような体験も検討中です。

 一枚の写真を撮るという行為からインスパイアされて、様々なユーザーやクリエイターの創作活動につながっていくというのが宇宙ならではだと思います。どこまで拡散できるかはわかりませんが、こういった取り組みも続けていきたいと考えています。

麻倉 その宇宙撮影体験ですが、当初予定していた有料サービスから、抽選による応募(無料)に変更されたのですね。

中西 クラウドファンディングで応援いただいた皆さんには、今回の体験は実施できなくなりましたという案内を差し上げて、希望の方には返金手続きを行いました。その際にメールマガジンに登録してくれた方には、体験会などの案内を差し上げています。

麻倉 なるほど、つながりは継続していると。

画像3: これはまったく新しい“感動体験”だ。ソニーが提供する「STAR SPHEREプロジェクト」で、宇宙がいっそう身近に感じられた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート111

中西 人数は限られてしまうのですが、そういった機会は続けていきたいと思います。地球上のどこの写真を撮りたいかを選んでいただき、その方が撮影した画像を多くの人に共有して楽しんでもらうといった展開が望ましいのかなと思っております。

 宇宙がお好きな方は、こんな軌道で衛星が飛んでいるのかといった具合に、EYEコネクトに触るだけでもかなり楽しんでいただけるはずです。EYEの姿勢を忠実に表示していますので、太陽に背を向けるというのはこういうことだとわかっていただけるのではないでしょうか。

麻倉 STAR SPHEREプロジェクトをビジネスとして展開していくには、有料化も必要です。それは次の衛星で考えるのでしょうか?

中西 人工衛星の寿命は2年くらいと考えていますので、現在のEYEでは多くの方にこのプロジェクトを知ってもらい、この体験にどんな価値があるかということを見極めたいと思っています。ビジネス化はその後になるでしょう。

 ではここから実際の撮影体験に移りたいと思います。STAR SPHEREの宇宙感動ナビゲーター 村木祐介がご説明します。

村木 宇宙撮影体験のナビゲートを担当している村木です。弊社ではEYEからの撮影について設定ができるEYEコネクトを開発しました。これを使って実際に宇宙から写真を撮るという体験をしていただきます。

 さらに、単純にEYEコネクトを操作して撮影をしてもらうだけではなく、それとセットで、宇宙について様々なことを知っていただくというガイドツアーを、2種類考えています。

 ひとつは「スペースフォトグラファー養成講座」で、宇宙カメラや人工衛星についての知識を学んでいただきながら、ナビゲーターとどういう写真を撮影するかについて相談しながら、設定を進めるものです。

画像4: これはまったく新しい“感動体験”だ。ソニーが提供する「STAR SPHEREプロジェクト」で、宇宙がいっそう身近に感じられた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート111

麻倉 養成講座まであるということは、撮影自体もそれなりに難しいのでしょうか?

村木 EYEを動かすこと自体は単純ですが、先ほど中西が申し上げた通り、今回は衛星の動きに制約がありますので、こういう写真が撮りたかったらこういう軌道を選べばいいとか、被写体によってカメラはこう設定した方がいいといったことを提案しています。

 もうひとつは、「地球の見どころガイドツアー」で、宇宙から地球を眺めて、色々な見所を巡って、最後に写真を撮るというものです。主に、地球上での色や地形が印象的な場所を巡っていきます。

 体験自体は、このふたつからお好みのコースを選択いただいて、ナビゲーターがコンセプトに応じてお話をさせていただくことになります。

麻倉 それぞれのコースは、どれくらいの時間を想定しているのですか?

村木 それぞれ1時間ほどを予定しています。その後は、カメラの設定に基づいてEYEが撮影したデータのサムネールをお届けしますので、その中から一番好きなものを選んでいただきます。これらの撮影画像は公式サイトの「宇宙視点ギャラリー」に掲載され、皆さんが感じたことや体験記も紹介することで、他の方の写真も一緒に楽しんでいただけるようになっています。設定してからデータをお渡しするまで3週間〜1ヵ月ほどの時間を考えています。

 さて、ここから宇宙撮影体験を始めますが、どちらのコースがよろしいでしょうか?

麻倉 せっかくなら色々な場所を見てみたいので、「地球の見どころガイドツアー」でお願いします。

画像5: これはまったく新しい“感動体験”だ。ソニーが提供する「STAR SPHEREプロジェクト」で、宇宙がいっそう身近に感じられた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート111

村木 かしこまりました。「地球の見どころガイドツアー」では、宇宙から撮影するための基礎知識を20分くらいお話し、その後ご自身で何を撮るかを設定していきます。

 まず宇宙撮影の基礎として、人工衛星についての知識とか、EYEがどこをどう飛んでいるのかという軌道についての情報、そしてEYEコネクトの使い方と撮影する際のコツという形でお話していきます。

麻倉 EYEについては以前お話をうかがいましたが、ソニー製カメラで地球を撮るということでした。

村木 はい。搭載しているカメラはソニー製フルサイズ高画質モデルで、画素数は1200万、28〜135mm/F4の標準ズームレンズを積んでいます。よく自分の家を撮影したいと言われるのですが、そこまでのズームは難しいですね(笑)。

麻倉 実際には、どれくらいの範囲を撮影できるんですか?

村木 EYEは高度500kmの軌道を飛んでいますので、カメラを真下に向けると、それなりに広い範囲の撮影が可能です。さらに地球の縁にカメラを向けると、2500kmくらい先まで見渡せます。

麻倉 画角は真下から縁までの範囲で調整できるんですね。

村木 EYEは太陽に背を向けていますので、若干制約が入ります。緯度と撮影する場所の季節によって画角が変化するとお考えください。画角についても、EYEコネクトで確認できるようになっています。

麻倉 撮影できる範囲に制限はないんですか?

村木 基本的には北半球・南半球のどこでも大丈夫です。これは衛星の軌道にも関連していて、EYEは北極から赤道に、赤道から南極にといった形で1周95分、1日15回ほど地球の周辺を飛んでいます。

 撮影可能な時間は太陽と軌道の角度で決まりますが、EYEの場合だいたい朝の10時から夜の10時になります。日本の朝10時頃は太陽が東南方向にありますので、太陽電池も東南を向いていて、カメラはその反対の北西を向いていることになります。その時間に日本を撮影しようと思ったら、東側から北方向を狙うことになります。

画像6: これはまったく新しい“感動体験”だ。ソニーが提供する「STAR SPHEREプロジェクト」で、宇宙がいっそう身近に感じられた:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート111

麻倉 EYEで、地球の反対側も撮影できるんですか?

村木 カメラが地球の反対を向いている時間もありますので、そこに設定すると星空が撮れますし、夜の境界線側に設定すれば地球と星が一緒に写るようにできます。

麻倉 EYEの軌道なら、星も相当綺麗に見えますよね?

村木 空気がありませんから、かなり綺麗です。EYE自体が1秒間に8km動いているので、シャッタースピードを長めに設定すれば、長時間露光のように星が流れた映像を撮ることもできます。

 なおズームアップすると撮影エリアが狭くなりますので、どれくらいの範囲まで写るかなどアドバイスさせていただいています。

麻倉 リアルタイムの姿勢制御は難しいわけですから、EYEの軌道を計算して、このタイミングだったら欲しい映像が撮れるという判断をしないといけないんですね。

村木 おっしゃるとおりです。さて、ここからはEYEコネクトについて説明します。

 画面の左上にマークが3つ並んでいますが、ここで見え方を切り替えられます。地球のマークは地球全体を俯瞰するモードで、ここでは衛星がどこを飛んでいるかとか、どこを撮りたいかを選びます。日本を東から撮り場合には、日本の東側にピンを立てる、あるいは検索窓に地名や緯度・経度を入力して検索できます。場所を選ぶと、いつこの上空を衛星が通るかという日付が出てきます。

 カメラのマークでは、その時にEYEのカメラでどういう画像が見えているかが確認できます。さらに、下にあるスクロールバーから軌道内での画角を設定できます。アングルが気に入ったら、真ん中のマークを押すとその画面がキャプチャーされ、右側にあるギャラリーエリアに50枚まで保存できます。その中からお気に入りの1枚を選ぶと、その撮影設定がEYEに送られるという流れになります。

画像: PCを55インチ有機ELテレビにつないで、「EYEコネクト」の画面を表示してみた

PCを55インチ有機ELテレビにつないで、「EYEコネクト」の画面を表示してみた

麻倉 なるほど、実際に撮影する前にEYEコネクトで細かく検討できるわけですね。それは楽しい。ところで、放送衛星や通信衛星は高度3万6000kmの静止軌道を回っていますが、EYEはそうじゃないんですね?

村木 地球から遠い方が重力の影響が弱くなるので、遠心力は弱くても大丈夫です。しかしEYEは軌道が低いので秒速8kmで飛ばないと落下してしまいます。

 では、そろそろ麻倉さんに実際の撮影を体験していただきましょう。そういった写真を撮ってみたいですか?

麻倉 海や島を俯瞰した映像がいいと思うので、バハマあたりを見てみましょう。

村木 ではピンをバハマ近傍に立てていただいて、オプションからスケールを選んでいただくと、候補画像が出てきます。その中からよさそうな写真を選んでいただければ大丈夫です。真ん中のボタンを押していただければ撮影の予約が完了します。

麻倉 はい、この映像は綺麗ですので、これでお願いします。

村木 これで設定が完了しました。あとは撮影が無事完了したら、データをお届けできます。

麻倉 今、EYEコネクトの画像を大画面テレビで再生してみましたが、かなりリアリティがありますね。

村木 実際に撮影した画像も、大きな画面で見ていただけると、相当楽しんでもらえるはずです。

麻倉 確かに、EYEから撮影した映像は大画面で見る価値がありますので、大画面での体験セミナーなども実施できるといいですね。

中西 ありがとうございます。先ほどプラネタリウムのイベントを紹介しましたが、皆さんが撮影した写真の上映会も実現したいと考えていました。

麻倉さんと編集部が撮影したEYEからの映像はこちらで御覧ください

 今回の取材では、麻倉さんと編集部・哲もシミュレーターの「EYEコネクト」を操作して、実際の撮影を体験させてもらった。撮影ポイントは麻倉さんがバハマ近辺を、哲はアラスカをチョイス。村木さんのアドバイスでそれぞれにお気に入りの写真を撮影できている。その画像は「宇宙視点ギャラリー」で確認できるので、それぞれのコメントともにお楽しみいただきたい。

麻倉 有機ELテレビは黒の再現性も優れているので、宇宙の映像は映えると思うんです。映像が高画質・大画面になれば、同じ体験でも価値がさらに上がりますので、印象もまったく違ってくるのではないでしょうか。

中西 そうですね。EYEコネクトだけでも大画面で見ていただけたらいいですね。

麻倉 以前の取材で、アーティストの方にこの体験を通じて感じたことを作品にしてもらいたいというお話もされていましたが、個人的には音楽が面白いと思うんですよね。上空から見た雲や地上の様子を五線譜にあてはめたら、これまでにない音楽が誕生しそうな気もしています。

中西 そういったアイデアは大歓迎です。ぜひ色々な方に試していただきたいですね。

麻倉 音楽以外の分野でも、様々なアイデアが出てくるはずですよ。これまでにない経験なんだから、凄く面白いクリエーションにつながるんじゃないでしょうか。新しい楽しみでもありますから、体験者をとにかく増やしたいですね。

中西 ありがとうございます。弊社も頑張りますので、引き続き応援をお願いいたします。

This article is a sponsored article by
''.