連載企画『リン・サラウンド体験記』も9回目。今回訪ねたのは、大型の商業施設、オフィス、そして瀟洒な飲食店が集まる神戸の中心地、三宮にある高層マンションの一室。広々としたエントランスで美人のコンシェルジュが笑顔で出迎えてくれるという何とも羨ましい、そんな素敵なマンションにお住まいなのが、今回の主役である、竹内浩一さんだ。

 竹内さんがこのマンションの新築時に入居したのが2006年のこと。もともとリビング&ダイニングと独立した2部屋という2LDKのファミリー向けの間取りで、スペース的に余裕のあるリビングで大画面シアターやオーディオを楽しんでいたのだという。

 「実は数年前からリタイアするタイミングで全面的な改装、リノベーション(以降、リノベ)を考えていたのですが、新型コロナウイルスの影響で思惑が変わってしまいました。2020年3月から2年間くらい、ほとんど在宅勤務になり、時間的にも少し余裕ができました。そこで実際に部屋の寸法を計って、部屋の間取り作成ソフトを使い、リノベのイメージを膨らませていたわけです。だんだんと気持ちが盛り上がってしまい、当初予定よりも早かったのですが、やるなら今でしょう! ということになったのです」(竹内さん)

兵庫県神戸市 竹内浩一さん

 本格的なリノベとなると、部屋全体を解体して、水回りも含めた工事となるため、住みながらの改装は不可能。いったん引っ越して、4ヵ月ほど仮住まいの生活を強いられ、これが予想していた以上にきつかったのだそう。

 とはいえ、自由かつ快適に大画面といい音が楽しめる、現在の生活は本格リノベの賜物。喉元過ぎればなんとやら、ではないが、いまとなっては「あの決断は正しかったと」(竹内さん)とつくづく思うという。

 仕事環境とホームシアター、オーディオに融合した大胆な間取りといい、随所でセンスのよさを感じさせるインテリアといい、あるいは見た目とメンテナンス性を両立したケーブル類の処理といい、いかにもシアター/オーディオに精通した敏腕デザイナーの仕事を思わせるが、実は竹内さんご自身で施工業者に細かな指示で、完成に至ったのだという。

 「基本的なデザイン/間取りと、可能な限り自分で調べ、パソコンソフトを駆使しながら、業者さんにイメージを伝えて、仕上げてもらいました。使用する部材についても、床材、壁紙、水回り、家具など、大阪・梅田のショールームに出向いて、実際にサンプルを確認しつつ、選定していきました。防音については迷ったのですが、マンション自体の防音性能が比較的高いこともあって、隣との間だけ、高密度グラスウールを詰めて、1枚壁を追加した程度で済ませています」(竹内さん)

 天井材については、音の響きを拡散させて、自然な聴こえ方に寄与するというDAIKENのクリアトーンという部材を指定。お仕事がソフトウェアエンジニアということもあって、自分の希望することは可能な限りパソコンソフトを使い、図面に落としこみ施工業者に伝えたという。担当者曰く「お客さんからここまで細かく、しかも的確に指示してもらったのは初めて」とのこと。まさに玄人はだしの仕事、さすが、です。

 

竹内邸の主な使用機器

●有機ELディスプレイ : ソニーXRJ-83A90J
●プロジェクター : ソニーVPL-VW245
●スクリーン : キクチ ホワイト(120インチ/16:9)
●UHDブルーレイプレーヤー : パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-4T302
●ネットワークプレーヤー+コントロールアンプ+サラウンドプロセッサー : リンAKURATE DSM(サラウンド・プロセッシング・モジュール内蔵仕様)
●デジタルクロスオーバー+パワーアンプ : リンAKURATE EXAKTBOX-I
●デジタルクロスオーバー : EXAKTBOX SUB
●スピーカーシステム : リンEXAKT AKUDORIK/1(L/R)+ピエガPS101(L/R低域増強用)、Custom2K 104C×4(LS/RS、パラレル駆動)

画像1: 【リン・サラウンド体験記】部屋全体を埋め尽くす濁りなき豊かな響き

※1:テレビ放送は「お部屋ジャンプリンク」機能で再生
※2:サラウンド・プロセッシング・モジュール内蔵仕様。PS5やPCなどのソース機器もあり

 

 

クォリティ指向の立体音響として非常に満足しています

 さて竹内さんとリンとの関わりだが、いまから20年以上前、コンパクトでスタイリッシュな本体にDVDビデオプレーヤー+5chパワーアンプ、ドルビーデジタル&DTS音声用サラウンドデコーダーまで組み込んだ1台完結型のシステム、CLASSIK MOVIEまで遡る。

 「そのシンプルさと、先進的な機能性が気に入って、CLASSIK MOVIEを使っていましたが、ここに引っ越してからは、国産のAVセンターでサラウンドを楽しんでいました。ただ音場の補正機能を使うと、定位やサラウンドのつながりは良くなるのですが、音の抜け、鮮度感が悪くなってしまって、面白くないんですよね」(竹内さん)

 そんな状況下、HDMI入出力端子を備えたDSMシリーズが登場し、にわかにリンのことが気になり始めた。以前からつき合いのあった東京・銀座のオーディオショップ・サウンドクリエイトを訪ね、まずはAKURATE DSMを導入。AVセンターのプリアウトLR信号をAKURATE DSMに入力しユニティゲイン設定として、2chオーディオ再生はAKURATE DSM単独で、サラウンド再生についてはAVセンター+AKURATE DSMでの再生といった具合に、オーディオとサラウンドを無理なく両立させていた。

 

メインL/Rスピーカーはリンのアンプ内蔵モデルEXAKT AKUDORIK/1。左右それぞれにピエガのアンプ内蔵サブウーファーPS101を低域増強用に併用している。こちらはデジタルクロスオーバーEXAKTBOX SUB経由で連携している。PS101の少々無骨なカラリング/デザインを和らげるため壁紙と同じ色調のクロスをあわせている

 

画像3: 【リン・サラウンド体験記】部屋全体を埋め尽くす濁りなき豊かな響き

竹内邸の心臓部となるのがAKURATE DSM(写真上)。シンプルかつコンパクトな佇まいだが、リンの最新技術が満載されたハイテクモデルだ。ネットワークプレーヤー+コントロールアンプの基本機能に加えて、オプションのサラウンドデコード基板を追加した仕様で、ビデオプレーヤーのHDMIビットストリーム信号をデコード(解凍)する機能も担う。写真下は、サラウンドスピーカー駆動用のAKURATE EXAKTBOX-I。8ch分のDAC入りデジタル回路+パワーアンプを内蔵しているが、取材時は6ch分を使用していた

 

 

 「ある日、AKURATE DSMのDACをカタリスト仕様にするというアップグレードの相談でサウンドクリエイトさんに出向いたときに、DSMシリーズだけでサラウンドに対応できることを知って驚きました。当時、コンサートやライヴに出かけることが多くなり、音楽を映像付きで楽しむ機会も増えていたのですが、この際のAVアンプを通した音質に不満を感じていたので、イグザクトサラウンドについて詳しく教えていただきました」(竹内さん)

 イグザクト対応スピーカーへの買い替えが必要になるので少し迷ったというが、最終的にはサラウンド再生時の音質向上が決め手になってEXAKT AKUDORIK/1(DACはカタリスト仕様)の購入を選択。この時、大きく重いAVセンターが必要なくなることも、その判断に少なからず影響があったという。

 リノベーション後の現在のシステムは別掲の図の通り、前々から望んでいたイグザクトによるサラウンド化を果たしている。司令塔となるAKURATE DSM(サラウンド・プロセッシング・モジュール装着済)を核に、スピーカーはメインL/RにEXAKT AKUDORIK/1、サラウンド用として天井埋め込み型Custom2K104C×4(AKURATE EXAKTBOX-Iを用いたパラレル接続)を配置。さらにEXAKTBOX SUBを使用し、2台のサブウーファー、ピエガPS101でメインL/R信号の低域成分を補強する4.0chシステムだ(LFE成分はメインL/R信号にダウンミックスして再生される)。

 ちなみに今回の天井、壁の補強、電源の配置、イグザクト・サラウンドへの対応、プロジェクターの設置、クレストロン(iPadによるシステムの一括制御)の導入など、ホームシアターの造作、機器のインストールに関わる部分は、名古屋のシアターショップGENTENの栗本規光さんに依頼している。

 「個人的にはサラウンドの移動感とか包囲感というよりは、クォリティ志向なので、仕上がったシステムには非常に満足しています。主にNHK BS4Kチャンネルを中心に音楽ライヴや大河ドラマ、映画など興味のある番組については、パナソニックの4Kレコーダー、DMR-4T302で録画して見ていますが、音が良くなったこともあって、イグザクト・サラウンドシステムで楽しむことが多くなりました」(竹内さん)

 

画像4: 【リン・サラウンド体験記】部屋全体を埋め尽くす濁りなき豊かな響き

プロジェクターはソニーの4KモデルVPL-VW245。本文の通り、竹内邸はリノベーション工事されているが、間取りの設計から内装部材の選定まで竹内オーナー自身が積極的に関わっている。シアタールームではあるが、明るく美しい仕上がりが氏のセンスを感じさせる

 

画像5: 【リン・サラウンド体験記】部屋全体を埋め尽くす濁りなき豊かな響き

サラウンドスピーカーに、天井埋め込み型のリンCustom2K 104Cを左右2基ずつパラレル接続で用いている。なお、104Cはマルチアンプ駆動対応で、ここではトライアンプドライブされている

 

 

 テレビ放送を録画した番組は「お部屋ジャンプリンク」機能を利用してDMR-4T302からAKURATE DSMとHDMI接続しているパナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000(Japan Limited)にLAN経由で再生している。

 「お部屋ジャンプリンク機能は、早送り/戻しがスムーズにできない点など、やや不満が残りますが、クォリティは決して悪くはありません。特にこのイクザクト・サラウンドシステムにしてから放送の音がすごく良くなって、AAC音声のイメージがすっかり変わったほどです。スタジオ収録の音楽番組など、気に入ったコンテンツについては、編集して、残すことも多くなりました」(竹内さん)

 今回はUHDブルーレイの映画『グレイテスト・ショーマン』、『パシフィック・リム』やNHK BS4K放送エアチェック『The Covers』など、竹内さんお勧めのコンテンツをいくつか鑑賞させてもらったが、音像のフォーカスが明確で、音そのものの鮮度の高さ、雑味のなさが新鮮だ。

 部屋全体が聴き心地のいい音楽で埋めつくされる感じで、濁りのない豊かな響きがフワッと拡がる。それも単に響きが多いというわけではなく、グラデーションをきめ細かく描き分け、奥行方向への拡がりも豊かだ。

 竹内さんイチ推しの平原綾香さんの歌声は、ザラつかず、息づかいが温かい。定位とその背後に拡がる空間の関係性も違和感がなく、イグザクト・サラウンドの恩恵をしっかりと感じさせてくれるクォリティだった。

 

画像6: 【リン・サラウンド体験記】部屋全体を埋め尽くす濁りなき豊かな響き

天井付近にキクチの電動式スクリーン、スタイリストが収納されており、大画面再生を楽しむ際に、幕面が現れる仕組み。照明を含むシステムの制御にはクレストロンを用いている

 

 

さらなる発展も見据え夢が広がるイグザクト・サラウンド

 竹内さんの表情を見る限り、現在のシステムに十分満足している様子だが、これで完成形ではないという。

 「メインスピーカーのEXAKT AKUDORIKのDACをORGANIC DAC(編註:リンの最高峰DAC回路)にしたいのですが、アップグレードは対応していません。ですので、いま考えているのはまずはパナソニックの最新4KレコーダーDMR-ZR1を導入しての放送録画関連の機能&品位強化と、AKURATE EXAKTBOX-Iをもう1台追加して2組のサラウンドスピーカーを独立した3chマルチアンプ駆動を実現することの2点です。もちろんリンが昨年リリースした話題のフラッグシップスピーカー360の存在も気になってはいますが……」(竹内さん)

 デザイン性、使い勝手、クォリティと、非の打ち所のないようなホームシアターだが、どうやらこれで完成ということではなさそうだ。より大きな感動を求めて、竹内さんの挑戦は続くことになるが、ここでもイグザクトシステムの進化が鍵を握ることになりそうだ。

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2024年春号』

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