《ネット動画の絶品再生ー実践的再生プラン》

反応の良さと空間表現が絶品。動画との抜群の相性に感嘆した!

 テレビであってもプロジェクター環境であっても、上質なスピーカーを組み合わせると、そこで見る映画や音楽番組は極上の体験を視聴者に与えてくれるものになる。

 と、語ってみたが、今回はちょっと変化球的な記事で、飛び切りの体験を読者の皆さんと共有したい。それは何かというと、日本のオーディオメーカー・スタックスのヘッドホン「SR-L500 MK2」を使い、ネット動画を楽しむ、という提案だ。

 編集部と相談し、企画を試そうと決めたとき、僕には1つの勝算があった。1938年に創立されたスタックスは、静電型ヘッドホンを探求してきたヘッドホンマニアにはお馴染みのメーカーだ。静電型は振動板の左右に配置された固定電極に電圧をかけ静電気を起こし、振動板を動作させる。つまり一般的なヘッドホンとは根本的に仕組みが異なる。スタックスはそのヘッドホンシステムをイヤースピーカーと呼称しているが、実際にまるでスピーカーで聴くような圧迫感のない空間と、極小レベルの信号を表現できるのである。そんな静電型ヘッドホンは、定評のある音楽再生だけではなく、映画やライヴ番組などの動画コンテンツの視聴にも相性が良いはず、そんな勝算があったのだ。

 今回レビューで使うSR-L500 MK2は、ロングセラーとなった同社のSR-L500のマイナーチェンジモデルで、スタックス製品の中ではエントリーから2番目に位置している。長方形のオープン型ハウジングを採用し、高品質極薄フィルムのダイアフラムを強靭かつ平面性の高いステンレス製電極で駆動する構成だ。

 静電型ヘッドホンは専用ヘッドホンアンプ(同社ではドライバーユニットと呼称)を用いるのだが、ここではエントリーラインに位置するSRM-400Sを組み合わせた。本機は上位モデルSRM-700Sの設計と製造ノウハウが詰め込まれたコストパフォーマンスの高い半導体式アンプで、アンプ回路の初段にはDUAL FET素子を、増幅段にFET素子を採用。さらに従来モデルで採用していた高電圧回路に加え、低電圧回路用に新設計の電源トランスを搭載しており、省電力化と音質向上を両立させている。

 

画像1: 静電型ヘッドホンを動画再生に活用、大きな感動を引き出す。スタックス『SR-L500 MK2』

Ear Speaker System
STAX SR-L500 MK2
¥88,000 税込 写真右

● 型式 : 開放型エレクトロスタティック方式イヤースピーカー
● 使用ユニット : 極薄フィルム+ステンレス製電極
● インピーダンス : 145kΩ(10kHz/付属ケーブルを含む)
● 付属ケーブル : HiFC導体、平行6芯、2.5m長
● イヤーパッド : 人工皮革
● 質量 : 約351g(本体のみ)、479g(付属ケーブル含)

 

Driver Unit
SRM-400S
¥132,000 税込 写真左

● 型式 : STAXイヤースピーカー専用ドライブアンプ
● 増幅回路 : オールFET採用DCアンプ構成
● ゲイン : 60dB
● バイアス電圧 : DC580V
● 接続端子 : アナログ音声入力2系統(RCA×1、XLR×1、排他使用)、アナログ音声出力1系統(RCA)
● 寸法/質量 : W195×H102×D376mm/3.4㎏

● 問合せ先 : (有)スタックス

 

 ここからはいよいよ試聴となるが、1つ考慮しなくてはいけない点がある。SRM-400Sに対しどのように音声を入力するのか? である。SRM-400Sの入力端子はアナログのアンバランスとバランス端子のみを装備、HDMIや光TOS入力は備わらない。テレビのイヤホン端子と接続する、もしくはAVセンターのプリアウトを利用するという方法も考えたのだが、音質と利便性を両立するため、今回はサンワサプライのHDMI信号オーディオ分離機「VGA-CVHD5」を使用した。このアダプターはHDMI入力信号から音声信号を分離して、光デジタル信号とアナログ音声信号に変換出力が可能だ。試聴前にこの3方式での音質を比較したところ、AVアンプのプリ出力に続く音質を確認できた。

 

画像2: 静電型ヘッドホンを動画再生に活用、大きな感動を引き出す。スタックス『SR-L500 MK2』
画像3: 静電型ヘッドホンを動画再生に活用、大きな感動を引き出す。スタックス『SR-L500 MK2』

スタックスのイヤースピーカーは専用のヘッドホンアンプ(ドライバーユニット)が必要だ。そのアンプの音声入力はアナログ音声専用となっているので、ネット動画再生の場合はなんらかの方法でアナログ音声出力を得ることが必要。今回はApple TV 4KのHDMI出力をサンワサプライ製HDMI音声分岐アクセサリー(VGA-CVHD5/写真。アマゾンで¥6,864で購入)に入力、そこからアナログ音声出力を得ている。なお、今回の取材ではこの方法以外に、テレビのイヤホン出力をRCA変換ケーブルでアンプに入力する方法、②Apple TV 4KをデノンのAVセンターAVC-X8500HAに接続、そのプリアウトをアンプに入力する方法も試した。音質的には②が良かったが、システム構成が過度に大きくなるため、シンプルな方法での再生を意識して、HDMI音声分岐アクセサリーを使う方法を採用した

 

 

嬉しくなるような表現力の高さ!この素晴らしさをぜひ体験してほしい

 それでは、実力の検証といこう。まず手始めにApple TVで『フォードvsフェラーリ』を視聴したが、空間表現と質感の両面で音が実に自然。サーキットを走るレーシングカーの左右の移動感とセンター定位するダイアローグの質感もかなり良質だ。低域の絶対量こそ控えめだがエグゾーストノートのリアリティは特筆できる。

 ドイツ・グラモフォンが始めた映像/音楽配信サービスのSTAGE+で再生した『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ベルリン』は小レベルの音の反応が素晴らしく、トライアングルなど細かく鋭い音が耳にダイレクトに聴こえてくるし、ホルンなどフワっとした質感が求められる音の表現力の高さも素晴らしく、思わず嬉しくなる。再生周波数帯域が7Hz~41kHzというスペック通り、聴感上はワイドレンジだし、演奏後の熱狂的な拍手の分解能も高い。人工皮革イヤーパッドと10段階クリック機構を持つヘッドバンドにより、着け心地も良質で長時間のリスニングも無理がないのがポイントだ。

 今まで体験したことのあるネット動画のヘッドホン再生とは、「別種のサウンド」を実感できた。閉塞感がなく本当にスピーカーで聴くような空間表現も圧巻で、「SR-L500 MK2とSRM-400Sの組合せは映像ソースとここまで相性が良いのか!」と感嘆した次第である。ぜひ読者の皆さんにも僕が感じた素晴らしい体験を共有していただきたい。

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年夏号』

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