2018年12月にBS4K8K放送がスタートして既に4年以上が経過した。A-PAB(一般社団法人 放送サービス高度化推進協会)によると、2023年3月末で4K8K放送が視聴可能な機器の台数は累計1,595万台に達したという(4K8Kチューナー内蔵録画機、STB含む)。だがその多くは4K対応で、8K放送が視聴できるテレビの台数はまだ少ないし、レコーダーについては外付けHDDでの録画しかできないのが現状だ。

 放送スタート直後から自宅に8Kテレビを導入し、日々チェックを続けてきた麻倉さんは、先般8KテレビをMini LEDバックライトモデルにリニューアル、8K解像度に相応しいハイコントラストな映像で毎日幸せな映像生活を送っているという。今回はそんな8Kライフの魅力を再確認していただくとともに、最近の8K放送で気になっていることについても語っていただいた。(StereoSound ONLINE編集部)

8K液晶テレビ
シャープ 8T-C85DX1 オープン価格(市場想定価格¥1,760,000前後)

画像: DX1シリーズは、Mini LEDバックライトを搭載した8K液晶テレビ。同社従来モデル比(2021年発売のT-C65DP1と4T-C65DN1)で72倍もの密度で小型サイズのLEDを敷き詰め、同時にこれまで以上に細かいブロックで分割駆動している。これにより約3倍の輝度を実現した。また量子ドットフィルターを搭載することで、広色域かつ高い色再現も可能にしているという。

DX1シリーズは、Mini LEDバックライトを搭載した8K液晶テレビ。同社従来モデル比(2021年発売のT-C65DP1と4T-C65DN1)で72倍もの密度で小型サイズのLEDを敷き詰め、同時にこれまで以上に細かいブロックで分割駆動している。これにより約3倍の輝度を実現した。また量子ドットフィルターを搭載することで、広色域かつ高い色再現も可能にしているという。

●画面サイズ:85V型
●解像度:水平7,680×垂直4,320画素
●内蔵チューナー:BS 8K×1、BS 4K/110度CS 4K×2、地上デジタル(CATVパススルー対応)×3、BS/110度CSデジタル×3
●HDR対応:HDR10、Dolby Vision、HLG
●内蔵スピーカー:トゥイーター×2、ミッドレンジ×2、サブウーファー×2、ハイトミッドレンジ×2
●接続端子:HDMI×4(入力3、4のみ8K対応)、光デジタル音声出力×1、USB×2(USBメモリー用、USBハードディスク用)、LAN×1
●消費電力:約602W(待機時0.5W)
●寸法/質量:W1877×H1132×D343mm(スタンド幅401mm)/約60kg

 私は2018年のBS4K8K放送開始直後から、自宅の執筆室にシャープの8Kテレビ「8T-C80AX1」と8K録画用USBHDD「8R-C80A1」を導入し、8Kの高品位映像を楽しんできました。以前この連載でも紹介しましたが、NHKによる8Kコンテンツはその映像の美しさ、制作のていねいさなどたいへん魅力的です。

 しかし昨年末から8T-C80AX1の電源の調子が悪くなりました。ちょうどある取材で、Mini LEDバックライトを搭載したシャープのXLEDモデル「8T-C85DX1」の絵を見て3年の画質の大幅なる進歩を確認、8Kテレビを入れ替えることに決めました。

 8T-C80AX1と同じラックに乗せて壁からワイヤーで固定したところ、視聴距離はこれまでと同じままで、画面サイズが5インチ大きくなりました。特に8T-C85DX1は狭ベゼル化が進んでいますので、視野いっぱいに8K映像だけが広がるという体験は圧倒的ですね。

 それ以上に、Mini LEDバックライトの効果が素晴らしい。8T-C80AX1は直下型LEDバックライトで部分駆動を行っていましたが、処理内容としては3年前のものでした。8T-C85DX1はMiniLEDバックライトになることで、コントラスト再現、黒の締まりが格段に向上しています。

 例えば8K番組の『[THE 陰翳礼讃] 谷崎潤一郎が愛した美』では、室内の陰影表現が肝になるわけですが、以前はどうしても黒が浮いた感じで、肝心の陰影表現が甘くなる印象もあったんです。しかし、8T-C85DX1で見ると、そもそも黒の表現が違い、階調もしっかり再現されて、見違えました。

画像: 転倒防止用に、壁掛け金具用のネジ穴にアイボルト(ボルトの付いた丸い金具)を取り付け、後ろの壁にワイヤーで固定した

転倒防止用に、壁掛け金具用のネジ穴にアイボルト(ボルトの付いた丸い金具)を取り付け、後ろの壁にワイヤーで固定した

 これは『[THE 陰翳礼讃]〜』という黒にこだわった番組に限ったことではなく、『日本エコー遺産 ゴスペラーズの響歌』シリーズのような画面の平均輝度が高い映像でも、光の輝きのあるシーンでの黒の沈み具合が異なっているのです。それが臨場感、リアリティの再現性にも大きく影響している。

 これは私の持論ですが、画質を左右するのは解像度よりもコントラストの方が影響力は大きいと思っています。いくら画素数が多くても、コンテストが不充分で黒が浮いていると、映像にありがたみがあまりない。

 今回8T-C85DX1に入れ替えて、黒がどれくらいきちんと再現できているかで、8K映像の持っている情報量や画素の細やかさについての印象がもの凄く変化することがよくわかりました。特に情報量については、黒が安定しているほどその差が際立ってくると感じました。

 当然これまでも8K放送を楽しんでいたのですが、8T-C85DX1の映像再現力を手に入れたことによって、被写体の質感がものすごく良くなっています。出演者の衣装の光沢や仏像の立体感などがとてもリアルに再現できて、8Kならではのありがたみ、物質の美しさ、自然美、立体感が際立ってきなと日々感じています。

 8T-C80AX1と8T-C85DX1は、バックライト自体は直下型LED部分駆動でどちらも同じですが、従来サイズのLEDなのか、Mini LEDなのかというところで、出てくる映像は変わります。これは4Kでも同様ですが、8Kになるとそのありがたみがぐっと増してくるなという感じがしました。また今回画面サイズが5インチ大きくなったことで、8Kの恩恵が一層リアルに感じ取れるようになりました。

画像: 搬入と設置は、シャープのスタッフの力を借りている。作業・調整にかかったのは約3時間。お疲れ様でした

搬入と設置は、シャープのスタッフの力を借りている。作業・調整にかかったのは約3時間。お疲れ様でした

 具体的な8Kのお気に入り番組についても紹介しましょう。先ほど話に出た、『日本エコー遺産 ゴスペラーズの響歌』シリーズでは、彼らが美しい音の響きを求めて東京、横浜、京都、広島などを巡っています。元々は22.2chの魅力を訴求する番組ですが、その映像も屋外や室内の光の当たり方、琵琶湖疏水のトンネルの中の階調再現など、色々な光のバリエーションに対してとても生々しく再現してくれます。

 また、『8K鉄路紀行 神奈川 湘南モノレール』も何気に素晴らしいんですよ(笑)。作品としては湘南モノレールの運転手席からの車窓風景を写しただけというプリミティブな作品ですが、85 型画面で見ると本当に目の前にその風景があるかのように感じるし、時折挿入されるモノレールのボディの金属感や青空のヌケのよさが見事に再現されています。

 こうした番組は2Kや4Kでもよく見かけますが、やはり8Kが持っているものすごい描写力、緻密な映像ならではの圧倒的な臨場感、その場の雰囲気の再現性がより感じられて、なおかつ85型という画面サイズなら(今日は1.7Hほどの距離で見ていますが)、まさにそこに自分がいるかのようで、とても快適です。これもMini LEDバックライトで、高いコントラストが獲得できているからこそ、でしょう。

 コンサートの中継番組も注目です。『いまよみがえる伝説の名演奏』シリーズは、2020年に二子玉川でイベントのMCをしましたが、85インチというサイズで自宅で見直すと、当時のフィルム撮りの奥深い魅力が味わえます。

 例えば『〜カラヤン ブラームス交響曲全集(1)』などは、解像度的にはそれほどは高くはないのですが、フィルムが持っているファンタジー感というか、幻想的な雰囲気が横溢しています。先ほどの『〜湘南モノレール』は “生々しさ” が際立っていましたが、こちらはフィルムが持っている質感とか人間味豊かな感じ、柔らかさといったものが、8K映像の中に凝縮されています。

 8Kというフォーマットは、フィルムの味わいをきちんと残してくれます。しかもフィルムの味わいといっても、昔のフィルムをそのまま出しているんじゃなくて、一度スキャンを行なって、修復をしてという過程を経ているので、ノイズもすごく少ない、でもフィルムの雰囲気は残っているというところが素晴らしいのです。

 映像自体も楽器のエッジがきらりと輝いていて、でも楽団員の燕尾服は黒がしっかり沈んでいる、いわゆるハイコントラストなものです。さらにカラヤンらしいのは、自分だけインフォーカスなんですよね(笑)。この時代のカラヤンの絵作りはこうだった、みたいなところまでよくわかりました。

画像: 録画用HDDも接続し、早速リモコンの操作方法を確認する麻倉さん

録画用HDDも接続し、早速リモコンの操作方法を確認する麻倉さん

 一方でコンサート作品には画質が今ひとつといったコンテンツもあります。『フィルハーモニア管弦楽団演奏会 エラ・ペッカ・サロネン指揮』は2020年1月に8K収録されていますが、どういうわけか輝度が低い。推測するにハイブリッド・ログ・ガンマの輝度設定がずれているようにも感じます。ところが、2022年の『N響演奏会 6月公演』ではたいへん綺麗です。こんな撮影時の設定の違いまで識別できるようになったのは、やはりMini LEDならではと言っていいでしょう。

 これらの番組は4Kでも放送されることが多く、8T-C85DX1ではそれをアップコンバートして見ることも出来ます。でもやはり元が4Kだとディテイルの再現性や人物の表情、髪の毛の再現などがちょっと荒い感じになんですよ。ピント送りもわずかに違いがある。やはりこれは8Kならではの音楽コンテンツだなと感じます。

 『ヨーロッパ大横断 リバークルーズ』シリーズもよく見ています。これは実に8Kらしい番組で、何が8Kらしいかというと、リバークルーズなので、ドナウ川やライン川などを、時間をかけてゆっくり旅をするのです。だから景色の移動がゆっくりで、風景のディテイルまでよくわかる。ゆったりとした撮影で、じっくりと8K映像の魅力が楽しめます。あくせくした日常とはかけ離れた世界で、こういう旅ができたらいいなぁと羨ましくなります。

 とにかくゆっくり、ゆっくりがキーワードで、旅のスタイルも画質も素晴らしい。8Kの紀行番組はたくさんありますが、ヨーロッパのラインクルーズは色々な意味で8Kの魅力が感じられ、旅の醍醐味も味わえ、大画面における臨場感、没入感も得られます。8Kで旅の過程を堪能できるという意味で、私のお気に入り番組です。

画像: 麻倉さんが気にしていた4K/8Kの番組表。8Kチャンネルで再放送が増えていることが気になっているとか

麻倉さんが気にしていた4K/8Kの番組表。8Kチャンネルで再放送が増えていることが気になっているとか

 今回テレビの買い替えに伴って、外付けUSB HDDのデータが消えてしまったので、8T-C80AX1で録画した番組が見られなくなってしまいました。『マイ・フェア・レディ』『2001年宇宙の旅』と言った貴重な番組もあったので、ここはとても残念です。『2001年宇宙の旅』などはSDR放送ですが、Mini LEDバックライトになったことで映像の品位が一層際立ってきただろうと思うと、本当にもったいない(でももうすぐ再放送がありますね)。8K放送でもぜひSeeQ Vaultへの対応を期待したいところです。もちろんレコーダーでディスクに焼ければもっといい!

 最後に、8Kについて気になっていることがあります。NHKでは今年の12月にBS放送の改編を予定しており、「新BS2K」と「新BS4K」」そして「BS8K」の3チャンネル体制になります。その中で4Kには力が入っていることがよくわかるのですが、その分8Kは再放送が増え、手抜きになっているように感じています。また、基本的に12時間放送というのも少ない。

 NHKが自分でつくっておいて、8Kに力を入れないのは間違っている。実際、昨年のNHK技研公開で地デジの高画質化も提案されていましたが、次世代放送が4Kになっていたのです。それまでは次世代放送は8Kだと言っていたのに、これはおかしい。

 8Kの素晴らしさ、8Kが持っているメディアとしての凄さを考えると、ここで力を抜いてどうするんだと。私自身もせっかく新しい8Kテレビを導入したのだから、もっと色々な番組を見たい。同じように感じている人もたくさんいるはずです。

 8Kの高画質と22.2チャンネルの臨場感は本当に素晴らしいので、NHKとしてもぜひ再度、高い志を掲げてこのふたつに取り組んで欲しいと思います。8Kラバーとして、強く、希望しておきます。

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