往年のオーディオ・コンポーネントの考え方は、自分の気に入ったコンポを買い揃える“組合せの妙”にあった。すなわちプレーヤー/アンプ/スピーカーは個別に用意するのが当たり前だったが、現代のオーディオは少し様子が異なるようだ。というのも、デスクトップオーディオが市民権を得始め、省スペースでいい音が実現できる土壌が整いつつあるのだ。そこで主役になるのは、コンパクトなサイズのネットワーク機能付きDAC内蔵プリアンプとか、パワーアンプ内蔵アクティブスピーカーである。

 オーディオ機器のサイズは、一般に横幅430mm前後の、いわゆるフルサイズコンポが今も主流である。また、かつて日本の家庭用オーディオ市場ではアクティブ型スピーカーは不人気だったが(業務用市場とは少々異なる)、前記の理由から近年は需要が高まりつつある。それはデジタルファイルオーディオ再生の拡大とその認知の広がりと決して無縁ではない。

 そんなわけで、ここではその最先端というか、最小限のコンポでシンプルかつスマートにオーディオを組み、それでもサウンドクォリティ面で妥協はしないというシステムプランを試してみたい。イヤーメンのエレクトロニクスとエアパルスのアクティブ型スピーカーの組合せを聴いてみよう。

小型でありながら本格の音を訴求するふたつの注目ブランドでの組合せ

 イヤーメンは米国シカゴにヘッドクォーターを置き、セルビアのAuris Audioの協力の元、設計・製造は欧州で行なわれている。ヘッドホン対応プリアンプTR-AMPで日本に上陸し、次いでUSB入力対応D/AコンバーターのTraduttoが登場した。今回紹介するCH-AMPとともに回路設計上のセールスポイントは、完全バランス設計という点。アルミブロックからの削り出しによる堅牢な筐体を採用し、15cm×15cmの占有面積という省スペースにまとめられている。

 CH-AMPは電源部別筐体の2ピース構成で、Tradutto等に電源供給が可能な接続端子も用意されており、その活用で音質のグレードアップが図れるのが魅力だ。

 TraduttoはESSテクノロジーのES9038Q2Mを搭載。対応ファイルフォーマットは、768kHz/32ビットとDSD512、さらにMQA、Bluetooth対応と、現代の要求に見合うスペックを備えている。回路基板はスイスで製作される表面実装の4層金メッキ仕様という点も見逃せない。

画像1: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

 

Active Speaker System
AIRPULSE
SM200
オープン価格(実勢価格24万2,000円ペア前後)

●型式:アンプ内蔵バスレフ型2ウェイ2スピーカー
●使用ユニット:リボン型トゥイーター+ホーン、135mmコーン型ウーファー
●接続端子:アナログ音声入力3系統(RCA、XLR、TRSフォーンバランス)
●アンプ出力:トゥイーター用15W+ウーファー用65W
●クロスオーバー周波数:2.5kHz
●寸法/質量:W185×H319×D318mm/8.4kg

 

EARMEN
D/A Converter
Tradutto
オープン価格(実勢価格13万2,000円前後)

●型式:D/Aコンバーター
●接続端子:デジタル音声入力3系統(同軸、光、USB Type B)、アナログ音声出力2系統(RCA、4.4mmバランス)、ほか
●対応サンプリング周波数/量子化ビット数:PCM〜最高768kHz/32ビット、DSD〜22.5MHz
●Bluetooth対応コーデック:AAC、SBC、aptX、aptX HD、aptX LL
●寸法/質量:W150×H30×D150mm/550g
●備考:MQAデコード対応

 

Headphone Amplifier
Control Amplifier
CH-AMP
オープン価格(実勢価格27万5,000円前後)

●型式:ヘッドホンアンプ、コントロールアンプ
●接続端子:アナログ音声入力3系統(RCA×2、4.4mmバランス×1)、ヘッドホン出力端子2系統(6.3mmアンバランス、4.4mmバランス)、アナログプリ出力2系統(RCA、4.4mmバランス)
●寸法/質量:本体・W150×H30×D150mm/550g、電源部・W150×H60×D150mm/1.59kg

 

 

 一方のエアパルスは、スピーカー設計の奇才フィル・ジョーンズを擁する専業メーカーで、SM200はDAC等を搭載せず、豊富なアナログ入力端子を備えるニアフィールド用モニタースピーカー。すなわち本機は、プログラムソース源のコントロールは他のコンポーネントに委ね、電気信号を空気振動に変換するスピーカー本来(+パワーアンプ)の役割に徹底させたモデルである。それ故、組み合わせる相手の仕様に関わらず、マルチパーパスにて使用可能という内容だ。

 ドライバーユニットはロングストローク設計の13.5cmアルミコーン型ウーファー+ホーン搭載リボン型トゥイーターの組合せ。それぞれDクラス増幅の65W+15Wのバイアンプドライブ方式となっている。クロスオーバーネットワークはDSP制御で、ハイパスフィルター(20Hz~100Hz)とそのスロープカーブ(オクターブあたり6dB/12dB/18dB/24dB)の調整機能も備わっており、設置環境に応じたサウンドコントロールにも対応している。

 

ホーンローディングのリボン型トゥイーターと、アルミニウム製コーンウーファーを、強力なアンプで独立駆動するという、同社スピーカーでもはやおなじみの手法ともいえる構成を採用するSM200。同社のアクティブスピーカーはUSB入力やBluetoothなどのソース音源再生機能もスピーカーに内蔵することで利便性と高音質を両立してきたが、SM200ではソース音源をあえて除外。よりシンプルな構成を取りながら、好みのD/Aコンバーターやプリアンプなどとの連携を志向しているのが新しい

 

画像3: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

入力端子はRCAアンバランスとXLRバランスのほか、TRSフォーン端子よるバランス入力端子も搭載している。シェルヴィングフィルター(4.5kHz以上の高域と250Hz以下の低域を調整できるフィルター)および低域調整用ローカットフィルター(周波数と遮断スロープが調整可)による、部屋の音響特性にフィットさせる機能も搭載されている。ボリュウムは背面にあるが、付属リモコンでも調整できる。今回はCH-AMPで音量調整を行なうシステムであるため「0」ポジションで視聴している

 

 

CDからUHDブルーレイまでくっきりとした質感で鳴らす

 まず始めにデノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 LIMITEDのアナログ出力をCH-AMPに接続して試聴した(接続①/具体的な接続は別掲の図を参照)。

 くっきりとした質感再現で、音像フォルムを克明に描写するタイプ。ローエンドの厚みと骨格の確かさは、ベーシストの肩書きも持つフィル・ジョーンズ設計ならではの面目躍如というところ。また、リボン型トゥイーターとコーン型ウーファーという異なるドライバー形式ながら(振動板は同じアルミ?)、2ウェイのつながりがよく、音調が見事に揃っている点にも感心させられた。近接試聴でも、まるでフルレンジドライバーが鳴っているような違和感のなさなのだ。

 ヴォーカルは瑞々しく、音像には厚みがある。歌声と伴奏との分離もナチュラルだ。ジャズのピアノトリオでは、スタジオのアンビエンスが立体的に広がり、ピアノのオーバートーンが美しく響く。クラシックでは、ラトル指揮ロンドン響で『ストラヴィンスキー:春の祭典』SACDを再生したが、小さなオーケストラをやや俯瞰気味に見下ろして聴いているようなリアリティを感じた。ステージの奥行再現もなかなかだ。

 

画像4: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

本文にある通り、視聴はいくつかのパターンで行なっている。接続① はデノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 LIMITEDをCH-AMPにアンバランス接続し、CD、SACDを再生した。接続② はハイレゾファイルの再生のチェックとして、DELAのミュージックサーバーからUSBケーブルでTraduttoにつなぎ、CH-AMPに4.4mmバランスケーブルでつないだパターン。接続③ はAV再生で、パナソニックの4Kレコーダーの同軸デジタル出力をPCM変換設定にしたうえで、Traduttoに送りアナログ変換、CH-AMPに送った。いずれもCH-AMPで音量調整を行ない、4.4mmバランス端子からXLR変換ケーブルを使ってSM200にアナログ信号を送っている。4.4mm/XLR変換ケーブルは輸入元提供のケーブルを使った。なおディスプレイはソニーの4K液晶テレビXRJ-55X90Kを用いた

 

 

 続いてTradutto経由で音楽データのファイル再生を試した。DELAのNASに入っているデータをUSB接続にてTraduttoに接続し、CH-AMPに接続した。CH-AMPには4.4mmバランス・アナログ入力が備わっており、Traduttoとの連携では両端4.4mm端子のバランスケーブルで接続している(接続②)。

 情家みえのヴォーカルは、実にしなやかで艶っぽい再現。伴奏のピアノのナチュラルなリヴァーブ感もいい。ベースのピッチも、やや後ろ側の定位ながらも克明に聴き取れる。収録されたスタジオの良好なアンビエントが実感できる素晴らしい録音であることが再生音からよくわかるのだ。

 一方で、50年以上の前の録音であるマイルス・デイヴィスの「ブルー・イン・グリーン」では、ミュート・トランペットの鋭い響きやテナーサックスの分厚い音像などが感じ取れた。ビル・エヴァンスの弾くピアノも、リリカルな旋律がくっきりと浮かび上がる。それぞれの楽器の距離感が近接試聴のステレオイメージの中にしっかりと表現されている。

 『ドヴォルザーク:交響曲第9番<新世界より>』を、ドゥダメル指揮L.A.フィルで聴いた。たいそうリッチで豊かなハーモニーである。スケール感も豊かで、ティンパニのリズムも力強く、13.5cmウーファーユニットがまったく怯むことなく、その連打に追従している。

 最後に映画を見た。パナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1の音声出力設定をPCMに切替え、同軸デジタル出力でTraduttoにつなぐ(接続③)。

 『THE BATMAN-ザ・バットマンー』チャプター7、バリバリと音を立てて疾走するバットモービルの大排気量エンジンのエキゾーストノートがすこぶる野太く轟いた。一方、敵であるペンギンが乗るマセラッティのクーペは、それよりもいくぶん甲高い排気音(おそらくV8ツインターボエンジン)で鳴り、雨中のカーチェイスなので雨の音も細かく再現されているし、機関銃の音、タイヤのブレーキ音とスキール音の違いも克明に描き分けている。大型トレーラーの横転や爆発・炎上も迫力の不足を感じることはなく、重量感もまったく問題なし。今回はソニーの55インチ4K液晶テレビと組み合わせたが、没入感の高い“高密度お一人さまシアター”が完成した印象だ。

 

画像5: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

幅15cmのコンパクトボディながら高度なオーディオ回路を満載、「ハイエンド・ミニマリズムの最先端」を目指したCH-AMP。本体と電源の2筐体構造がその象徴といえるだろう

 

画像6: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

CH-AMPはアナログ入力をRCAアンバランス2系統、4.4mmバランス1系統、プリ出力もRCAアンバランスと4.4mmバランスの2系統を装備。コンパクトな背面端子部ながら、端子の間隔も十分に確保され、ハイエンド的な発想で作られていることがわかる。4.4mmバランスケーブルはやや入手が難しいかもしれないが、本機はフルバランス回路構成ということもあり、本機で高音質を狙うのであればぜひ試したい

 

画像7: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

DELAのミュージックサーバーN1A/3のUSBデジタル出力機能を活用してTraduttoと連携。DSD音源を含む各種ハイレゾ音源が再生できる

 

画像8: 自分だけの高密度劇場!省スペースを実現しながら音は妥協しないスマートな組合せ。エアパルス「SM200」+イヤーメン「Tradutto」「CH-AMP」

4KレコーダーDMR-ZR1とは同軸デジタルケーブルで連携。サラウンド音声はZR1側で2ch音声にダウンミックスしての再生となる

 

 

現実的な構成でありながら非常に満足度の高いシステム

 近年グローバルな視点から見たオーディオは、折りからの材料費高騰や輸送コストの問題もあってインフレ状態が続いている。世界市場には、数百万円から数千万円、中には億超えの製品もあったりして、もはや天井知らずだ。それらを夢のある製品として捉える向きもあるが、いささか行き過ぎと私は見ている。そうしたことから、今回試聴したような規模とプライスレンジの製品のクォリティやパフォーマンスというのが大いに気になるところだし、一般にもっと注目されていい。

 そんな観点からジャッジしても、このイヤーメンとエアパルスの組合せはかなり満足度が高いと感じた。少なくとも私がオーディオを始めた70年代半ばと比べれば、クォリティもグレードも遥かに上がっていることは確かであり、ここから本格的なオーディオが始められたならば、現実的な線で夢をもってこの趣味を楽しむことができるのは間違いない。

●AIRPULSEとEARMENの問合せ先:(株)ユキム TEL. 03(5743)6202

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年春号』

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