自宅の離れに設けられた自分だけの趣味の部屋
「実はこの部屋をつくった大きな目的はコレなんです」
そう言いながらKさんが指差すシアタールーム後方の壁面に目を向けると、備え付けられたガラス製の大きなラックのなかに整然と並べられたアイアンマン、アイアンマン、アイアンマン。50体は下らないであろうそのコレクションを細かく見ていくと、映画『アイアンマン』の第1作で囚われの身になった主人公のトニー・スタークが脱出のために急ごしらえした“マーク1”から、『アベンジャーズ/エンドゲーム』に登場する最終モデル“マーク85”までの主要パワードスーツのほか、大型スーツの“ハルクバスター”や歴代ウォーマシン、アイアンパトリオットなども揃っている。これだけたくさんのフィギュアがひとつの場所に置かれているのを見るのは、数年前にうかがった福井晴敏さんの“墨劇”以来だ。
「映画はもともと好きで、ジャンルとしてはSF、ホラー、バイオレンスものをよく観ます。もちろん『アイアンマン』は好きですが、『ロボコップ』シリーズや『スターシップ・トゥルーパーズ』なんかも好きです。いろんな意味で“度を超えたモノ”を好む傾向があります」
映画を観ることは好きだったKさんだが、ホームシアターという世界を知ったのはつい数年前のこと。自宅にシアタールームを設けた友人に影響され、「自分もいつかこういう部屋がほしい」と心に決めたのだとか。
「その友人にすすめられて、インストーラーのGENTENさんのショールームに行ったのが2年ほど前。AV機器のことはよくわからないけれども、とにかくその映像と音のよさに感激しました。それまでの私は、“映画は映画館で観るもの”だと思っていました。実際、自分の好きな作品は、大画面・大音量で観てこそ楽しめるものばかりでしたから。ところがGENTENさんで体験した映像と音は、私の知っている家庭用AV機器のクォリティをはるかに超えていた。これなら自宅でも本当の意味で映画を楽しめると思ったんです」
“度を超えたモノ”を好むというKさんのセンスは、リンKLIMAX SYSTEM HUBを中心としたGENTENのショールームのシステムに即座に反応。熟考ののち、自宅の離れをホームシアターに改築する相談を持ちかけた。
映画とフィギュアに囲まれた、非日常を追求する空間づくり
本題の「リン・サラウンド」の話に入る前に、Kさん宅のホームシアターができるまでの経緯についてもう少し触れておこう。施工と機器の選定を一手に引き受けたGENTENは、この「リン・サラウンド体験記」の第2回にご登場いただいた三重県の永合さん宅も手がけた名古屋のインストーラーショップ。代表の栗本規光さんは、Kさんの来店後すぐに施工予定の現場へ足を運んだものの、そこで頭を抱えることになる。
「ご自宅の敷地内に使っていない離れがあり、そこにシアターシステムをインストールしたいとのことで現場を見てみると、立地的に水が溜まりやすい場所で居室に使えるレベルではなく、入念な湿気対策、防水対策を行なう必要がありました。加えて、天井高が1.9mと低かったため、サラウンドを楽しむにはもう少しエアボリュウムが必要であると判断、30cmほど床面を掘り下げる提案をしました」
床鳴り、壁鳴りを抑える目的もあり、最終的には縦5.5m×横4.5m×高さ2.2mのコンクリートの箱を1階スペースにビルトインする形でスペースを確保。空間を少しでも広くするため、建設会社に梁の移設を依頼するなど、通常のインストーラーショップではなかなか手の及ばない領域まで踏み込み、施工を取り仕切った。先に触れたフィギュア収納用のガラス製ラックも、栗本さんが図面を引き、職人に細部まで具体的な指示を出して完成させたものだ。
「フィギュアを飾る場所をつくることがホームシアター建設の大きな目的だと言われてしまったら、そのための場所もこだわってつくるしかありません(笑)。自室の様子をInstagramにポストしているコレクターの写真などを一緒に見ながら、Kさんの要望を具体化していきました。パーツが点灯するフィギュアやジオラマに関しては、電源供給を電池からアダプターに仕様変更し、iPadの操作で照明を点灯・調光できるようにしました」
アイアンマンの胸に取り付けられた半永久発電機関の“アーク・リアクター”が薄暗いシアター内で青白く光る様子を見れば、Kさんがこの空間に何を求めているかが自ずとわかってくる。それはつまり、非日常の追求。映画を自宅で、映画館並みのクォリティで観られることを知ったいま、その気分を最大限に高める演出として、大好きなフィギュアたちを最高に際立たせることがKさんにとって必要だったに違いない。
KLIMAX SYSTEM HUBを核に4.1chリン・サラウンドを構築
さて、リンKLIMAX SYSTEM HUBを司令塔とするAV機器について触れていこう。Kさん宅にインストールされた機器は、基本的にGENTENのショールームをベースとしたラインナップだ。フロントスピーカーはブラックアッシュ仕上げのEXAKT AKUBARIK/1、サラウンドスピーカーはイクリプスTD510MK2、サブウーファーは同じくイクリプスのTD725SWMK2。それらをドライブするヘッドユニットのKLIMAX SYSTEM HUBと8ch DAC/パワーアンプ内蔵のAKURATE EXAKTBOX-I、そしてUHDブルーレイプレーヤーのパナソニックDP-UB9000の3コンポーネントが、梁を移設したスペースにカスタムメイドされたシステムラックにぴったり収まっている。
フィギュアラックの上部に設置されたビクターDLA-V90Rの映像は、わずかに右にオフセットした位置からスチュワートのST13G(120インチ)に投写される。操作系はiPadにインストールされたクレストロンのコントロールアプリに集約。AV機器のハンドリングには不慣れなKさんだが、「使っていて迷うことはまったくない」という。映画に集中できるよう、室内はダークトーンを中心とし、AVコンポーネントはブラックで統一。スクリーン右横にあるエアコンと空気清浄機までブラックで上塗りする念の入れようだ。
「Kさんのリクエストは抽象的な場合が多く、真意を知るために何度もヒアリングを重ねましたが、ひとつだけ最初からはっきりしていたことがあって、それは『可能な限りシンプルですっきりとした空間にしたい』ということでした。KLIMAX SYSTEM HUBを中心としたリンのサラウンドシステムに反応していただいたのは、音質だけでなくシステムとしてのシンプルさも大きかったと思います。一般的なAVアンプを中心に据えて考えると、物量的にも景観的にもすっきり見せることが難しくなってしまいますから」
左からリンKLIMAX SYSTEM HUB、パナソニックDP-UB9000、リンAKURATE EXAKTBOX-Iを収納するために設計された、オーダーメイドのラック。上に置かれているのはクレストロンのコントロールアプリがインストールされたiPad。右下に置かれたボックスもオーダーメイドで、ネットワーク系の機器やハブが収納されている。また、KLIMAX SYSTEM HUBの上には主にDisney+を観るために使用しているというApple TV 4Kが置かれている
Kさん宅ホームシアターの司令塔であり、EXAKTシステムのヘッドユニットであるリンKLIMAX SYSTEM HUB。2021年に、筐体構造から内部回路までフルモデルチェンジを遂げたラックは、梁を移設したことで空いたスペースを利用して設置されている
フロントスピーカーは、リンEXAKT AKUBARIK/1。EXAKTエンジン、5基のDAC、5基のパワーアンプを内蔵したデジタル伝送スピーカー。その他のチャンネルは、AKURATE EXAKTBOX-Iが担当する
ビクター DLA-V90Rはフィギュアが並ぶラックの上部、約200cmの高さから投写されている。もともと天井高が190cmと低めだったため床面を30cm掘り下げ、余裕を持って120インチのスクリーンが張り込める壁面を確保したとか
シアターの後方の全景。イクリプスTD510MK2(Ls/Rs)は220cmの高さの天井から吊り下げられている。目下、フィギュア用のラックを左側にも増設する計画が進行中とのこと
K邸の主な使用機器
●プロジェクター:ビクター DLA-V90R
●スクリーン:スチュワート ST13G4(120インチ/16:9)
●ネットワークプレーヤー/コントロールアンプ:リン KLIMAX SYSTEM HUB
●DAC/パワーアンプ:リン AKURATE EXAKTBOX-I
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニック DP-UB9000(Japan Limited)
●ストリーミングプレーヤー:Apple TV 4K
●スピーカーシステム:リン EXAKT AKUBARIK/1(L/R)、イクリプス TD510MK2(Ls/Rs)
●サブウーファー:イクリプス TD725SWMK2
幅広いユーザー層を魅了するリンの革新性と懐の深さ
Kさんのご家庭の事情や新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で工期が遅れたものの、この夏にシアタールームはひとまず完成。多忙を極める日々の合間にこの部屋にこもることが、Kさんにとってかけがえのない“自分時間”になっているという。
「どれも高価な製品ですから、もちろん導入は迷いました。でも、自宅で映画館のような大画面・大音量を楽しめるわけですから、思いきってよかったです。いまは自分の好きな映画のUHDブルーレイをネットで物色したり、フィギュアのレイアウトをいじったりして毎日楽しんでいます」
実はKさん、いまのところ2chの音楽コンテンツはまったく聴いていないという。「それはもったいない」ということで、栗本さんは今後、EXAKTシステムで音楽を聴くことの魅力をKさんにじっくりプレゼンテーションするつもりだとか。
「EXAKTシステムによる2ch再生の鮮度の高さを感じてほしいですね。ロスレス/ハイレゾストリーミングサービスで音楽を自在に楽しめる時代で、それを最高品質で楽しめる環境が整っているわけですから、試さない手はないと思います」
HiVi2022年4月号の藤原陽祐さんによるスペシャルリポート「ハイエンド流儀の立体音場再生:LINN SURROUND」に始まり、2022年5月号/7月号の山本浩司さんによるヘビーユーザー宅訪問、そして2022年秋号/今号の筆者によるカジュアルユーザー宅訪問と「リン・サラウンド」に様々な角度からスポットを当ててきたが、これらを通して見えてくるのは、リンというブランドの革新性と懐の深さ。DSによってオーディオにネットワーク再生という概念を持ち込み、EXAKTによって高度なデジタル信号伝送技術を展開。その技術はサラウンド再生にも適用され、ヘビーユーザーとカジュアルユーザーの両方を魅了している。
2023年に創業50周年を迎えるリン。DSやEXAKTに続く何かしらのイノベーションが起こるのではないかと期待しながら、「リン・サラウンド体験記」では今後もいろいろなユーザーさんの声に耳を傾けていく。
取材にご協力いただいたインストーラー
●GENTEN:TEL. 052(768)6840
本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』