リビングシアターの満足度をワンランクアップさせるアイテムとして、サウンドバーが人気を集めている。最近はドルビーアトモスなどのデコード機能を備え、そこに独自の技術を加えることで優れた包囲感、臨場感を再現する製品も少なくない。
その代表格がソニーの“サウンドバー3兄弟”だ。昨年発売された「HT-A7000」が長男格で、7.1.2スピーカーを内蔵し、サウンドバーだけで豊かなサラウンド再生が可能。さらに別売のワイヤレスリアスピーカーやワイヤレスサブウーファーを加えることで、独自の立体音響技術「360 Spatial Sound Mapping」の効果も楽しめる。
そして今回、弟機となる「HT-A5000」「HT-A3000」が登場した。どちらもサウンドバー単体としてはもちろん、HT-A7000同様にリアスピーカーやサブウーファーを追加することで360Spatial Sound Mappingの再生に対応する。今回はそんな注目2モデルの特長や長男モデルとの違い、実際のサウンドについて、詳しい取材を行った。(StereoSound ONLINE編集部)
●サウンドバー:ソニー
HT-A5000 想定市場価格¥121,000前後
●スピーカー構成:5.1.2●使用ユニット:46×54mmフルレンジ×3、45×108mmウーファー×2、ビームトゥイーター×2、46×54mmイネーブルドスピーカー×2●接続端子:HDMI入力×1、HDMI出力×1(eARC対応)、光デジタル入力×1、USB端子×1、他●対応サラウンドフォーマット:ドルビーアトモス、DTS:X、MPEG-4 AAC、他●対応ハイレゾフォーマット:リニアPCM最大192kHz/24ビット、DSD5.6MHz、他●対応Bluetoothコーデック:LDAC、AAC、SBC●消費電力:86W(待機時0.5W以下)●寸法/質量:W1210×H67×D140mm/6.1kg
HT-A3000 想定市場価格¥88,000前後
●スピーカー構成:3.1●使用ユニット:46×93mmフルレンジ×3、45×93mmウーファー●接続端子:HDMI出力×1(eARC対応)、光デジタル入力×1、USB端子×1、他●対応サラウンドフォーマット:ドルビーアトモス(ドルビーデジタル・プラス)、DTS、MPEG-4 AAC、他●対応ハイレゾフォーマット:リニアPCM最大48kHz/24ビット、DSD5.6MHz、他●対応Bluetoothコーデック:LDAC、AAC、SBC●消費電力:50W(待機時0.5W以下)●寸法/質量:W950×H64×D128mm/4.6kg
麻倉 今日はソニーの視聴室にお邪魔して、サウンドバーの新製品を体験させてもらいます。以前取材した「HT-A9」「HT-A7000」の弟機にあたるラインナップということです。
漆原 商品企画の漆原(うるしばら)です。今日はよろしくお願いいたします。弊社では昨年、「360 Spatial Sound Mapping」という技術をホームシアターシステムに新しく導入しました。搭載したのは、今おっしゃったHT-A9とHT-A7000の2モデルになります。その後、両機とも市場で高い評価をいただいております。
弊社では360 Spatial Sound Mappingを多くのお客様に提供していきたいと考えており、同技術に対応したサウンドバーとして「HT-A3000」を9月10日に発売しました。さらに、上位機の「HT-A5000」を10月22日に導入します。また昨年発売したHT-A7000も今年春のファームウェアアップデートで360 Spatial SoundMappingに対応しています。
この3兄弟は、別売のワイヤレスリアスピーカー「SA-RS3S」「SA-RS5」と組み合わせていただくことで、360 Spatial Sound Mappingの再現を実現できるようになりました。
麻倉 リアスピーカーを追加することで360 Spatial SoundMappingが楽しめるようになるのは、いい提案ですね。しかも3モデルもラインナップしているのはユーザーの選択肢も広がるから、喜ばれるでしょう。
漆原 ではここから、各モデルの詳細を説明します。今回の上位機となるHT-A5000はサウンドバー3兄弟の真ん中に位置するモデルで、5.1.2システムを搭載しました。
L/C/Rスピーカーに加えて、高さを再現するイネーブルドスピーカーと音を左右に反射させて包囲感を生み出すビームトゥイーターを各1ペア搭載しています。また低域再生用のサブウーファーも2基内蔵しました。ドライバーはX-Balanced Speaker Unitです。
麻倉 ということは、HT-A5000は本体だけでドルビーアトモスが再生できるんですね。
漆原 はい、ドルビーアトモスのデコーダーも内蔵しています。HT-A5000を単体でお使いの場合、イネーブスドスピーカーと独自のバーチャルサラウンド技術「Vertical Surround Engine」で高さ方向の表現を、ビームトゥイーターで横方向の広がりを再現します。これにフロントサラウンド技術の「S-Force PRO」を加えて豊かなサラウンド音場を生成しているのも特徴です。
麻倉 サウンドバーだけの場合と、360 Spatial SoundMappingではサラウンドの再現性はかなり違うんでしょうか?
漆原 サウンドバー単体でも充分なサラウンド効果をお楽しみいただけると考えています。ただ、我々としては 360 Spatial Sound Mappingによる臨場感溢れる体験をより多くのお客様に体験していただければと思っていますので、リアスピーカーを組み合わせていただくことをお薦めしています。
麻倉 まずサウンドバー単体で使って、物足りなくなってきたらリアスピーカーを買い足して下さいということですね。
漆原 弊社では拡張用にリアスピーカーだけではなく、低域増強用にサブウーファーのオプション製品も用意しておりますので、必要に応じて追加していただければと思います。
鷲川 HT-A5000の開発を担当した鷲川と申します。私から技術的な部分についてご説明します。
HT-A5000は、L/C/Rスピーカーとイネーブルドスピーカーのそれぞれのユニットを独立したエンクロージャーに収める構造にして、他チャンネルの音の影響を受けないようにしました。そして残った内部容積全部をサブウーファーに使っています。
麻倉 ユニットと電気回路が小さな筐体に入っていますから、内部設計も苦労したことでしょう。
鷲川 スピーカーエンクロージャーの周辺にメイン基板を配置していますが、電子パーツは発熱量が大きいので、冷却用の空気の流れも考えて内部構造を工夫しました。
アンプ部も物理的な配置にこだわって、シンメトリー構造を採用しています。電源はマイコンなどのロジック用とアンプなどの音質関係で分け、電気的な雑音を極力排除するという設計思想を徹底しました。コンデンサーなども低インピーダンスの部品を使っています。
簗 音響設計を担当した、簗(やな)と申します。HT-A5000の5.1.2chスピーカーシステム構成について説明します。本体正面にはL/C/Rスピーカーと、2つの内臓サブウーファーを配置し、両サイドには音を横方向に飛ばし壁の反射を用いるビームトゥイーターを配置しています。また、天井の反射を用いる、イネーブルドスピーカーを、天面の左右に配置し、斜め前方に向けて少し角度をつけて取り付けています。
今回採用したX-Balanced Speaker Unitとは、限られたセットサイズをキープしながら、振動板の面積を拡大させ、かつ、歪レベルを低減するソニー独自の技術を搭載したスピーカーです。一般的な丸型のユニットで、音圧を上げる場合は直径を長くするのですが、スペースが限られたサウンドバーではそう簡単にはいきません。限られた筐体サイズで少しでも音圧を稼ぐ狙いから、振動板面積を最大化する工夫として、ユニットを矩形にしています。
ただしユニットを矩形にすると、駆動点からエッジまでの距離がそれぞれ変わります。そのため特定の周波数で振幅の非対称性が生じやすくなり、結果、音の歪みが増えます。この歪を低減するためにエッジの形状やスリットの入れかたの工夫により、振幅の対称性を極力保つ仕様としています。HT-A5000、HT-A3000それぞれに最適化するユニットのシミュレーションを活用して開発し、採用しています。
麻倉 ということは、円形ユニットと変わらない特性が得られているということですか?
簗 我々が目指す立体音響体験を充分に満たす特性を得られています。
左右両サイドに配置したビームトゥイーターは、音の発生源(ユニット)と音響管によって、音をビーム状に出す特長があります。ビーム効果を高めるため、音響管の穴の形状や長さは試作を繰り返して最適化しました。このビーム状にでる音の特長を横の壁反射にもちいることで、音場の拡大効果を出しています。
イネーブルドスピーカーは先ほど申し上げたように、天井から反射した音がリスニング位置に届くようにするために、斜め前方に向けて傾斜をつけ、高さ感を演出する工夫しています。
麻倉 ユニットの取り付け方や音道など、かなりアコースティックな部分での工夫が盛り込まれていますね
漆原 HT-A5000のその他の特長としては、360 Reality Audioにも対応しており、ハイレゾ認証も受けています。
簗 続いて弟機のHT-A3000の3.1chスピーカーシステム構成についてについてご説明します。こちらは3.1ch構成で、フロントL/C/Rスピーカーとサブウーファーを内蔵しています。すべてのユニットでX-Balanced Speakerを採用しているところはHT-A5000と共通です。
麻倉 3.1ch構成とは、かなり割り切った仕様ですね。
簗 はい、コンパクトさを重視しながら、音質にも配慮した仕様となります。サラウンド再生については、Vertical Surround EngineとS-Force PROを活用し、高さ、横共に広がりのある音場を作っています。
鷲川 もちろんHT-A5000同様に、別売のリアスピーカーやサブウーファーをつないでいただくことで、360 Spatial Sound Mappingもお楽しみいただけます。
なおハイレゾ信号については、内部的な処理はできていますが、ユニットはハイレゾ帯域の再生に対応していません。
中村 設計を担当した中村から、HT-A3000での取り組みについて説明させていただきます。
まず内部構造は、基本的にHT-A5000のコンセプトを踏襲しています。ユニットは、L/C/Rスピーカーは独立したエンクロージャー構造で、他のチャンネルの音の影響を受けないクリアーな音を実現しています。
サブウーファーもデュアル構成で、筐体全体をエンクロージャーに活かして容量を確保することで、小さな筐体ながら迫力のある低音感を再生できるようになりました。
麻倉 そのあたりの発想はHT-A5000と同じということですね。
中村 HT-A5000とはアンプのチャンネル数が異なりますが、HT-A3000ではL/C/Rの3チャンネルに、デュアル構成のサブウーファーを独立駆動させた、合計5チャンネルアンプを内蔵しています。パワーアンプICはHT-A5000と同じ部品を採用しています。
麻倉 パワーアンプはS-MASTERですか?
中村 HT-A5000、HT-A3000ともS-MASERを搭載しています。デジタルアンプを採用していますが、HT-A3000は本体が小さいので、放熱構造にはひじょうに苦労しました。アンプのヒートシンクのフィンを長くすることで放熱効率を上げているのですが、フィンが長くなると振動しやすくなってしまいます。そこで、ソニーのAVセンターの音質チューンナップ方法であるテフロンテープの貼り付けにより、振動を抑えるとともに音質改善の効果も得ています。
簗 先ほど申し上げた通り、X-Balanced Speaker Unitも、HT-A5000とHT-A3000では仕様が異なっています。ユニットのサイズ自体はHT-A5000のフロントL/C/Rスピーカーの方が小さくなっています。
というのも、HT-A5000では高い駆動力を得るためにネオジウムマグネットを採用していますが、HT-A3000はコストの関係もあってフェライトマグネットを採用しています。ネオジウムマグネットとフェライトマグネットの駆動力に差はありますが、HT-A3000は振動板を大きくする事によってHT-A5000と同等の音圧感が出る様設計しました。
ここから音をお聴きいただきたいと思います。まずHT-A3000単体でドルビーアトモスコンテンツを再生します。
麻倉 音色がうまくまとまっていますね。本体が小さいので、雄大さとか力強さといった点はもうひと息という感じもするけれど、同一ユニットで再生しているので、まとまりがよく、音に包まれる感じが自然です。その意味ではひとつの世界観を持っている。サウンドバーではこれは大切なことです。
簗 次にワイヤレスリアスピーカーのSA-RS3SとワイヤレスサブウーファーのSA-SW3を加えて、360 Spatial Sound Mappingで再生します。
麻倉 360 Spatial Sound Mappingは、仮想スピーカーを創出して、何もない場所から音を鳴らそうという提案ですね。
簗 はい。実際のスピーカーよりも外側に仮想スピーカーを配置して、そこから出てくるような音を創り出す技術になります。
麻倉 ドルビーアトモスのトレーラーから『AMAZE』を聴かせてもらいました。頭上からの雨音と大地が揺らぐような低音がこのクリップの聴き所ですが、このまとまり感はとても気持ちよかった。
私が持参した映画UHDブルーレイの『グレイテスト・ショーマン』はサウンドデザインがこっている作品で、さりげないところにも効果的に低音が配置されています。そういった細かい情報までちゃんと識別できました
一方でセリフもキャラクターの個性に合わせて音作りされていますが、そこがやや単調になっていた気もします。バーナムのペテン師っぽいニュアンスがもうちょっと出てくるとよかったですね。
簗 続いてHT-A5000をお聴き下さい。先ほどと同様に、まずサウンドバー単体で再生し、その後にワイヤレスリアスピーカーSA-SR5とワイヤレスサブウーファーSA-SW5を加えます。
麻倉 サウンドバー単体でも、『AMAZE』の情報量が増えていました。中低域の情報がしっかり出てくると音場のバランスが整ってくるので、いっそう迫力が感じられます。またイネーブルドスピーカーの効果で高さ情報も再現されていたので、いかにも頭上から雨が降っているようでした。
リアスピーカーとサブウーファーを加えた360Spatial Sound Mappingを使ったサラウンドはさらに素晴らしかった。『グレイテスト・ショーマン』冒頭の、足踏みによる低音もずしんと響いてきたし、そこからの歌唱シーンの盛り上がり、高揚感がしっかり再現できています。
バーナムとジェニー・リンドの会話でも、バーナムのうさん臭さ、ジェニー・リンドが警戒している様がセリフから伝わってきたのです。こういった要素がしっかり再現できれば、映画の楽しさが一層感じられるようになるのではないでしょうか。
本作に限らず、最近の映画作品は音にもの凄い情報がこめられているんですよね。中でも中高域の情報量はとても重要です。HT-A5000はそれがしっかり再現できている点がよかったですね。360 SpatialSound Mappingの音場感、音像もとてもしっかりしていました。
強いて言えば、仮想スピーカーの音質をもう一歩高めたい。仮想スピーカーといっても、音自体はリアルのスピーカーで鳴らしているわけで、リアルスピーカーの質がよくなくては意味がない。基本となるクォリティが上がることで、360 Spatial Sound Mappingの効果もさらに際立つことでしょう。
また仮想スピーカーの効果をさらに引き出す手段として、以前ソニー製AVセンターに搭載されていた「デジタル・シネマ・サウンド」機能をサウンドバーに搭載するのはどうでしょう? 映画館やダビングステージの響きを家庭で再現しようという機能で、仮想スピーカーを活用するいいソリューションになると思います。HT-A5000にデジタル・シネマ・サウンドを組み合わせたら、すごい効果が生まれるだろうと思いました。
360 Spatial Sound Mappingというベースの技術はしっかりしているのだから、そこに色々な価値を加えて楽しめたら、ユーザーもさらに幸せになるんじゃないでしょうか。ソニーのサウンドバー3兄弟は、そんな発展性も備えた興味深いラインナップでした。