ベルリン・フィルが手がける映像配信サービス、デジタル・コンサートホールが、イマーシブオーディオのドルビーアトモス音声による配信をスタートした。今回から過去4シーズンの2chコンテンツを新たにドルビーアトモスにアップミックスしたとのことで、カラヤンやアバドといった名指揮者の演奏のアーカイブ素材も含まれている。

 今回は、麻倉さんのホームシアターにApple TV 4Kを持ち込み、140インチスクリーン&7.1.6システムで様々なコンテンツを楽しんでもらった。世界最高峰のオーケストラが届けてくれるイマーシブサウンドはどれほどの満足を与えてくれるのだろうか。(StereoSound ONLINE編集部)

StereoSound ONLINE読者のために、7日無料クーポンコードを提供いただきました!
最高のクラシック・イマーシブイーディオをぜひ体験してください

 今回、ベルリン・フィルハーモニーのご厚意で、StereoSoundONLINE読者のために7日間無料でデジタルコンサートホールが楽しめるクーポンコードを提供していただきました。

 使い方は関連リンクからログイン(新規登録は無料)し、クーポンコード「DAJSS22」を入力すればOK。お一人様1回のみで、2022年11月30日まで有効です。麻倉さんが体験したコンテンツをご自宅でお楽しみいただける貴重なチャンスですので、ぜひトライしてください。

 今回、ベルリン・フィルハーモニーのデジタル・コンサートホールが、イマーシブオーディオのドルビーアトモス音声に対応したということで、わが家で体験してみました。本格的なクラシックコンテンツがイマーシブオーディオで楽しめるということで、たいへん興味深い試みです。

 このサービスでは、今回から過去4シーズンの公演をイマーシブオーディオで提供するとのことです。ベルリン・フィルは毎年約40回の公演を行っているそうですから、単純に考えても160本近いイマーシブオーディオコンテンツが提供されているわけです。

 といっても、これらの過去の素材はドルビーアトモス用に収録したものではありません。マルチチャンネルで録音して、2chステレオミックスしたものを、今回ドルビーアトモス用にアップミックスしたそうです。詳しくはコラムを参照いただきたいと思いますが、そこではベルリン・フィル独自のアルゴリズムを使って、ホールの響きを体感できるように仕上げているということです。

 音声は、「3D音声(ドルビーアトモス)」「ステレオ(ハイレゾ)」「ステレオ(通常モード)」の3種類から選択できます。ステレオの通常モードはおそらく48kHz/24ビットクォリティで、ハイレゾは96kHz/24ビットだと思われます。ドルビーアトモスは48kHz/24ビットでしょう。

 今回はApple TV 4KをマランツのAVプリアンプ「AV8805A」につないでドルビーアトモスを再生しています。映像はJVCの4Kプロジェクター「DLA-Z1」から140インチスクリーンに投写します。

 最初にステレオでハイレゾの音を確認しましたが、これが素晴らしいのです。音の容積が大きいというか、低音がしっかりして、中域が艶っぽいし、高域も伸びています。ハイレゾ、ハイファイの魅力が感じ取れます。

画像: 麻倉邸では、Apple TV 4KのHDMI出力をマランツ「AV8805A」に入力し、4K映像とイマーシブサラウンドを再生している

麻倉邸では、Apple TV 4KのHDMI出力をマランツ「AV8805A」に入力し、4K映像とイマーシブサラウンドを再生している

 2ch再生として、音の定位をきちんと考えて編集しているなぁという印象です。今日は140インチに投写していますが、写っている楽器がほぼリアルサイズで、ちゃんとそこから音が流れてくるというイリュージョンが楽しめます。その意味では、2chとしての再現、音質の素晴らしさと音場濃度の濃さが印象に残りました。

 次にドルビーアトモス音声に切り替えました。最初に実験として、フロントL/C/Rスピーカーのパワーアンプを切ってみたところ、ひじょうに多くの音がサラウンドやトップから再生されていました。アップミックスとのことでしたが、これほどの情報がサラウンドやトップスピーカーに割り振られているとは予想以上でした。

 音場的な違いとしては、2chはスクリーン映像のどの位置にも音がある、ひじょうに濃密な音場として聴こえていました。さらにひとつひとつの音がクリアーで、奥行とか手前とかでなく、2chの中でフラットに聴こえるような再現でした。

 ドルビーアトモスではアンビエントがより深くなって、例えば拍手などは2chでは前から聴こえてくるのですが、ドルビーアトモスでは包まれる感じで、後ろにお客さんがいることが感じ取れます。

 もうひとつの違いが空気感、空気の厚みです。2chの場合はダイレクトにその楽器から音が出ている。ステージ上の指揮者の位置で聴いているような、ダイレクトな、音を浴びるような聴こえ方です。

 これに対し、ドルビーアトモスでは空気の距離がある。ある程度離れたところでオケを聴いているという感じで、ホールの響きがちゃんと聴き取れるのが面白かったですね。ベルリン・フィルハーモニーのホールはそんなに響きがある空間ではないんだけど、それでも綺麗でクリアーなホールトーン、間接音が再現されます。まさにその場で聴いているという印象が強く、目の前にオーケストラが居るような気分にさせてくれました。

画像: ドルビーアトモスで配信されているコンテンツでは、メニューの音質設定から上記の3種類が選択できる

ドルビーアトモスで配信されているコンテンツでは、メニューの音質設定から上記の3種類が選択できる

 コンサート作品をイマーシブオーディオで聴く場合、自分が聴いている音がどの席で録られたのかも気になります。この点についてベルリン・フィルのトーンマイスターであるクリストフ・フランケさんに質問したことがあります。すると、現実のどの席でもなく、制作者が考える理想の場所だとおっしゃっていました。

 そんな理想の席で聴いているような雰囲気、オーケストラからある程度の距離があって、間接音も直接音もそれぞれが現実感を持って聴こえてくる音場をシミュレーションしているのでしょう。実際のサウンドも、ホールの中にいて、演奏風景を楽しみつつ、直接音と間接音が合体したいい音を聴いている、そんなイリュージョンがものすごくあって、これは新しい体験だなと嬉しくなりました。

 ひとつ残念なのは、ドルビーアトモスの場合は48kHz/24ビット音源ということで、音の密度がちょっと薄く感じられたことです。96kHz/24ビットの2chではひじょうに密度が高く、楽器が一斉に鳴った時の合奏音がクリアーだったのですが、ドルビーアトモスはそこが少し寂しい。

 また、低音をベースに中音、高音が乗って音の大伽藍を描いているのがベルリン・フィルの特性なのですが、ドルビーアトモスではそれがちょっと物足りなかったですね。今後はこのあたりが改善されることを期待します。

 今回のドルビーアトモスは、ホール感をすごく意識しているようで、響きの中に入って楽しんで下さいという演出になっているんですが、もうちょっと音の明瞭さ、低音のパワー感、ヌケ感といったオーディオ的な要素が出てくると、まさに鬼に金棒です。

 ベルリン・フィルが過去の資産をドルビーアトモスで配信し始めたということは、今後は最初からドルビーアトモスで収録したコンサートも配信してくれるんじゃないかと期待しています。

 その意味では、今回は第一段階です。とはいえカラヤン、アバド、ラトルといった貴重な演奏もドルビーアトモス化されていますから、これが楽しめるという価値は本当に大きいですね。

画像: 対応コンテンツでは、右側のアーティスト名の下に「Dolby ATMOS」マークが表示されている

対応コンテンツでは、右側のアーティスト名の下に「Dolby ATMOS」マークが表示されている

 さてここからは、わが家で試聴したコンテンツのインプレッションを紹介しましょう。

 「ラトル指揮による『レイト・ナイト』」(2022年5月21日)は、2chハイレゾでは、個々の楽器の質感がすごくよく出ていました。ドルビーアトモスでは、小編成ながらリッチなホールトーンがあって、テノール、ソプラノの独唱が綺麗に会場の中に消えていくというクリアーさがよく出ていたと思います。

 また、「ペトレンコ指揮によるカラヤン・アカデミー50周年記念公演」(2022年5月7日)では、沖澤のどかさんが指揮をしたモーツァルトの《リンツ》交響曲もよかったですね。日本の女性指揮者が、ベルリン・フィルのヤングオーケストラを振っているなんて、映像を見るだけでもワクワクします。

 この2chハイレゾの音も、ハキハキして明瞭でくっきりしたものです。ドルビーアトモスでは、広がりというよりは、凝縮感があって、センターから上に立ち上る音場展開が感じられたのも面白かった。

 同じくこのコンテンツでは、ペトレンコが指揮をした《運命》も2chの剛性感、力強さ、密度感が素晴らしい。ドルビーアトモスでは、奥行方向の再現性がしっかりしていて、会場で聴いているような臨場感に結びついているところがよかったですね。

 最後にイゴール・レヴィットがピアノを演奏した「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートヴェン ピアノ協奏曲第5番変ホ長調op.73《皇帝》」(2021年3月6日)を観ました。

 面白いのは、2chハイレゾで聴いても響きが豊かなんです。ライブの場合はお客さんが入ると音が吸われてしまいますが、このコンテンツでは無観客ならではの魅力があって、明瞭度、直接音だけでなく、間接音までしっかり聴き取れました。

画像: マランツ「AV8805A」で入力信号の内容を確認した。音声がドルビーアトモスで伝送されていることがわかる

マランツ「AV8805A」で入力信号の内容を確認した。音声がドルビーアトモスで伝送されていることがわかる

 4K映像もやっぱり凄いと思いました。この楽曲では、最初のアルペジオで結構早いパートがあるんですが、レヴィットは小指がすごく強いんですね。弱さを感じさせないタッチ感があり、かつ滑らかに演奏している様子がよく分かりました。

 音声をドルビーアトモスに切り替えると、そういった緻密さがちょっと引いた感じに変化します。アップミックスのせいかもしれませんが、ピアノソロでは、アタックから音が聴こえるまでに時間かかるというか、響きの距離感みたいなものを感じました。一方で、それが臨場感再現につながっているのかもしれませんね。

 今回のベルリン・フィルの取組みは、音楽ファンにとって価値のあることだと思います。配信の流れとしては、絵も音も低品質から始まって、次に音が少しよくなって、絵が2Kから4Kになって、音もハイレゾになった。そしてようやくイマーシブサウンドが登場したわけで、ひとつひとつの要素が積み重なって進化してきたと思っています。

 そんな中にあってベルリン・フィルは、もっとも先進的に配信に取り組んでいます。特に、ユーザーニーズをよく捉えていると思うんです。これは、配信の理想的なスタイルでしょう。その意味でもベルリン・フィルにはもっと頑張ってもらいたい。

 例えば映像のマルチ画面化にも取り組んで欲しい。コンサートではピアノの手元だけ見たいとか、コンサートマスターだけ見たいといった希望はあるはずで、基本的な画質・音質が整ってきたら、次はそういったユーザーの願いもかなえてもらいたいですね。またサウンドについても、例えばCブロックのセンター席とか、5階席の音が体験できるといった具合に、好みの席の音を選べると面白い。

 そこでは、 “コンサートに行くより面白い” といった体験が実現できます。従来のパッケージ再生ように自宅でコンサートを追体験するというだけではなく、会場でもできない新しい価値を配信が届けてくれる、そんな可能性を強く感じました。

画像: ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホールがイマーシブオーディオに対応。 “コンサートに行くより面白い” 体験をわが家で試す:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート83

なぜ今、イマーシブオーディオで配信するのか? ベルリン・フィルの担当者に直撃!
●回答者:ベルリン・フィル トーンマイスター クリストフ・フランケ(Christoph Franke)さん

Q:なぜデジタル・コンサートホールにイマーシブオーディオを導入することになったのでしょうか。

A:1990年代後半から、オーディオシーンではステレオよりも空間的な音響が革新的と思われていました。その意味で、ベルリン・フィルハーモニーは、音を2次元で捉えるだけにとどまらず、立体的な音響を獲得するのは、当然の方向ですね。

 デジタル・コンサートホールのスタート当初からお客様からの要望が多かったこともあり、5.1chサラウンドへの拡張はわれわれの課題でした。しかし、フロアー面にスピーカーを配置した5.1chフォーマットでは、3次元の複雑な音は再現できないという意識が常にありました。

 さらに、パソコンやテレビ、あるいはタブレット端末に接続した従来のサラウンド再生システムのセットアップは、お客様にとってあまりにも複雑なものでした。そこで今回のイマーシブオーディオの導入によって、フィルハーモニーの複雑かつ透明な音響を、多くのリスナーの方々にお届けすることが可能になったのです。

Q:配信フォーマットにドルビーアトモスを選んだ理由を教えて下さい。

A:ドルビーアトモスを伝送フォーマットに選んだのは、世界標準が確立されているからです。このフォーマットは、音楽業界だけでなくデバイスメーカーからも広く支持されています。音の可能性が大きく、ストリーミングが可能なフォーマットであることが、われわれにとっての前提条件です。

 確かにAuro-3DやDTS:Xは優れたサウンドフォーマットですが、今のところストリーミング対応が複雑で、ごく一部のデバイスでしか利用できません。われわれとしては、一人でも多くのお客様に3Dサラウンドを体験していただきたいと願っています。いずれはライブ中継でも可能になる予定です。

Q:イマーシブオーディオ配信のために取り組んだポイントを教えて下さい。

A:デジタル・コンサートホールでは、近年の録音はステレオ音声で提供されています。そのため、過去のステレオ録音をベースに、フィルハーモニー特有の空間のインパルス応答を付加して3D音場を作り出すアルゴリズムを開発する必要がありました。

 そこでは、マスター音源から直接音成分を抽出し、作品にふさわしい形で新たなミックスに組み込むための技術的なアプローチも必要でした。ステレオ録音の音質や音場は、楽器編成や作品によって大きな違いがあるため、作品のミックスごとに空間性や臨場感を個別に扱っています。

 フィルハーモニー固有のインパルス応答値を用いて、ステレオ音源から3Dサウンドを作り出し、7.1.4ミックス(サラウンドスピーカー4台、センタースピーカー1台、天井スピーカー4台、サブウーファー1台)に対応させます。このアップミックス処理によって、ドルビーアトモスに対応したスピーカーシステム、サウンドバー、ヘッドフォンなどでイマーシブオーディオとして楽しんでいただけます。2人のサウンドエンジニアが、過去10ヵ月間、この作業に取り組んできました。

Q:マイクの配置はどうなっているのでしょう。

A:ここまではアップミックスのお話しですが、最近は、当初からイマーシブのマイキングで収録しています。ステレオミックスに使用する25〜40本のマイクに加え、3Dサラウンド専用に配置された高音マイクやルームマイクから、直接イマーシブオーディオのミックスを作成します。

 フィルハーモニー内のマイクは、ステージ端から約4.5mの位置にメインマイクを2本(球体、底辺1.2m)、左右にアウトリガー2本、指揮者の上方3.4mにデッカツリーを1本(球体3本のマイクを内蔵)、弦楽器用マイクは楽器編成により5〜10本です。作品により木管、金管、ホルン、打楽器、ティンパニ、ハープ、ピアノ等には、それぞれ近接(約1m)に追加マイクを設置しています。

Q:イマーシブオーディオでどのような体験ができるとお考えですか?

A:イマーシブオーディオでは、空間の中で聴いているような感覚を初めて味わうことができます。ホールの反射音が聴こえるようになり、音が扇状に広がることで音像が透明になります。ホールで聴くのと同じように、個々の楽器やセクションの音を、より簡単に耳で感じ取ることができるのです。

 響きはより現実に即しており、あらゆる方向から音がやってくるので、脳内の処理はさほどの負担になりません。理想的なヘッドホンでの再生では、音が頭の外にまで出てきて、自分を包んでくれるかのようです。

 聴き手が(フィルハーモニーの)Bブロックに座っているか、AブロックやCブロックに座っているかはさほど重要ではなく、オーケストラが理想的なバランスで、空間の中で自由に鳴らせる位置に座っている体験が可能になります。

Q:デジタル・コンサートホールの音声の種類とスペックを教えて下さい。

A:デジタル・コンサートホールのアーカイブでは、コンサートの音声を以下のようにご提供しています。

・データ圧縮されたステレオ(320kbps)
・ハイレゾ(最大96kHz/24ビット)
・イマーシブオーディオ(ドルビーアトモス)

 イマーシブオーディオは、ハイレゾで転送するにはデータ量が大きすぎます。ステレオの6倍のデータレートになるので、イマーシブ・ハイレゾンはまだご提供しておりません。

This article is a sponsored article by
''.