ファン垂涎! ウォン・カーウァイ5作品を4Kで堪能しよう

 香港の名匠ウォン・カーウァイ監督が、急進する映像技術を反映し、過去作を自身の手によって4Kレストアで鮮明に蘇らせた『恋する惑星』(94年)、『天使の涙』(95年)、『ブエノスアイレス』(97年)、『花様年華』(00年)、『2046』(04年)の5作品が、全国で順次公開されている。

 いま観ても心躍る珠玉作の数々だが、とりわけ製作20周年を記念して、このプロジェクトのきっかけとなった『花様年華』の美しさには、見惚れるばかり。そして、その究極の“耽美”を体現しているマギー・チャンの素晴らしさに、あらためて感動した。

香港映画ファン、ウォン・カーウァイファン、それぞれの役者のファン、みんなが泣いて喜ぶラインナップが4Kで蘇った! ポスターは左上より、『恋する惑星』、『天使の涙』、『ブエノスアイレス』、『2046』。右のメインは「花様年華』

アイドル女優だったマギー・チャン、頭角を現し押しも押されぬ演技派へ

 マギー・チャンという女優を知ったのは、ジャッキー・チェンが監督・脚本・主演を務めたアクション・シリーズ『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(85年)が日本公開された頃だ。ジャッキー演じる型破り刑事の恋人に扮したマギーは、モデル出身のアイドル女優だったにもかかわらず、ずっこけギャグもこなしてキュートなコメディエンヌぶりを発揮していた。

 そう、時には「アイドル女優がここまでやる!?」とびっくりするような、たとえば水をぶっかけられるとか、顔面にケーキをぶっつけられるとか……。とにかく、お笑い芸人さながらのシーンも平気でこなす“女優魂”に感心したことを覚えている。

 そして、その“感心”が“納得”に変わったのが、ウォン・カーウァイ監督とのコラボをスタートさせた『いますぐ抱きしめたい』(88年)であり、『欲望の翼』(90年)だった。その間にも、『フルムーン・イン・ニューヨーク』(89年)で台湾金馬奨・主演女優賞を受賞、さらにアン・ホイ監督の『客途秋恨』(90年)でも好評を博し、演技派への転身に成功した。やっぱり、単なるアイドル女優ではなかったのだ!

 その後は娯楽系のアクションなどにも出演しつつ、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した『ロアン・リンユィ/阮玲玉』(91年)や、香港電影金像奨&台湾金馬奨で最優秀主演女優賞を受賞した『ラヴソング』(96年)などアート系作品もきっちり押さえ、国際的な注目を集めていったのは、知っての通り。

監督とのロマンスが話題になるも、作品は気に入らなかった?

 私が、初めて個別インタビューしたのは、そんな快進撃の真っ只中。1997年5月公開の『イルマ・ヴェップ』(96年)を携えての来日だった。

 ちょうど監督のオリヴィエ・アサイヤスとの恋が話題になっていた頃で、ご本人はかなりナーヴァスな雰囲気。フランス人監督との初のコラボについて質問するんだが、「アジア映画にも詳しくて、香港映画の撮影のやり方も知っている。とにかく知識の豊富な監督だから、とてもやりやすかった」といった感じの、模範解答だった。

 マギーが演じるのは、パリで撮影中の香港女優イルマ・ヴェップ役ということで、正直、抽象的な演出が多くて(私には)ちょっと理解できないところもあったけど、同じシチュエーションに置かれた“イルマ・ヴェップ”と“マギー・チャン”の同化が話題になった。

 しかし、その点についても「確かにシチェーション的には同じだったけれど、同化してはいなかった。私としてはピチピチの怪盗イルマ・ヴェップの衣装を着て動くほうが大変だったわ」とそっけない。もしかして、作品の出来も気に入らなかった? なんて思ってしまうほど。だから、翌1998年にアサイヤス監督と結婚したのは意外だった。ま、案の定、3年で別れたけどね。

『花様年華』の撮影期間は15ヶ月! その間、体型の崩れは許されず……

 その次のインタビューは、『花様年華』を携え、ウォン・カーウァイ監督、共演のトニー・レオンと一緒に来日。3人並んだ記者会見では、朋友カーウァイ監督について、こう語っていた。

 「監督にと久しぶりにご一緒して、お互いに成熟したなぁと思いました。最初に出会ったのは監督が映画学校を卒業したばかりの頃で、当時の監督は実験映画を撮りまくっていました。とにかく“撮りたい”と思ったら即、製作に取り掛かり、即、撮影する。そんな感じだったのですが、いまでは映画を作ることに、より慎重になったのではないでしょうか。題材の選択、撮影の方向性など、練りに練った結果がこの作品になったと思います」

画像: 60年代の香港を舞台にした『花様年華』は、お互いに配偶者を持つ身でありながら、惹かれていく心を抑えられない男女の揺れる心を、トニ・レオン&マギー・チャンの繊細な演技と、気怠く美しい映像や音楽で描き出した至極の一品。ぜひ4Kでその世界観に酔いしれたい

60年代の香港を舞台にした『花様年華』は、お互いに配偶者を持つ身でありながら、惹かれていく心を抑えられない男女の揺れる心を、トニ・レオン&マギー・チャンの繊細な演技と、気怠く美しい映像や音楽で描き出した至極の一品。ぜひ4Kでその世界観に酔いしれたい

数々の名作を生みだしてきたウォン・カーウァイ。『グランド・マスター』(13年)以降、監督作の話を聞かないのは寂しい限りだが、現在公開中の『プアン/友だちと呼ばせて』(21年)では製作を務めていて、作中にはカーウァイの影響が随所に感じられる

 そのあとの個別のインタビューで、マギーは20着以上も身につける旗袍(チーパオ=チャイナドレス)について熱心に語ってくれた。

 「まず、襟の高さが10センチ以上だから、いつも首を長く伸ばしていなきゃいけない。しかもハイヒールを履いていながら、背筋を真っ直ぐにしていないと美しく見えない。これって、すごく肩が凝る姿勢なの。もちろん体にフィットしたデザインだから、体型キープは必須。ミリ単位で採寸して作っているから。

 とにかく監督も衣装デザイナーも、60年代の香港の装いを再現するために、デザインはもちろん、素材探しから始めている。しかも、背景との色の調和も大切だから、何着も作って、何度も着替えて。あるドレスは、偶然見つけたカーテン地で作ったりして。

 そんなスタッフの熱い思いを身にまとっていると感じれば、演技にもいっそう力が入るでしょ。それでも最初は辛かったけれど、途中からはあの衣装を着てハイヒールを履くと自然に役に入れて。今思えば、本当に素晴らしい体験でした」

 撮影期間は15ヶ月。この努力と映画への献身があればこそ、冒頭にも書いたように究極の“耽美”を体現できたのだと思うのだ。

 現在のマギーは、カンヌ国際映画祭女優賞を受賞した、元夫アサイヤス監督の『クリーン』(08年)以来、女優業をお休みしている。「子供の頃からの夢を追いかける」と宣言し、歌手活動を開始。いまだ女優復帰のニュースはないが、マギーが幸せなら、それでいいさ。だって、こんなに素晴らしい作品を残してくれたのだから。

絵画のように美しい『花様年華』4Kのポスター。マギーのチャイナドレス姿は眼福もの

WKW 4K

シネマート新宿にて公開中 ほか、全国順次公開
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『花様年華 4K』

監督・脚本・製作:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン/マギー・チャン
撮影:クリストファー・ドイル/リー・ピンビン
原題:花樣年華
2000年/香港/98分
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