映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第81回をお送りします。今回取り上げるのは、人それぞれにある生き方を描いた『C.R.A.Z.Y.』。幾分ダサくても、かつての青春を思い出す心に強い印象を残す一作に仕上がったという。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『C.R.A.Z.Y.』
7月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他にてロードショー

画像1: 【コレミヨ映画館vol.81】『C.R.A.Z.Y.』「僕には僕の人生がある。父には父の。母には母の。名曲と共に描かれる家族の姿」

 20キロ以上の減量をしてエイズ患者を熱演。マシュー・マコノヒーとジャレット・レトーがアカデミー主演、助演男優賞を獲得した『ダラス・バイヤーズクラブ』。アメリカ西海岸を縦断した実在の女性の冒険記『わたしに会うまでの1600キロ』など数々の名作を世に送ったジャン=マルク・ヴァレ監督。

 (監督は)昨年のクリスマス当日に、カナダのケベック市郊外の山小屋で死亡しているところを発見された。病死。58歳。週末にゲストを迎える準備をしていたときに倒れたらしい。

 まだ若かったのにな、残念。でも、これも運命だろう。

 本作は2005年に発表され、いまも多くのファンに愛される青春映画。わが国では初公開となる。やさしい母と厳格な父。男ばかり5人兄弟の4男として生まれたザック(マルク=アンドレ・グロンダン)のさまよいの日々を描いている。

 成長するにつれ、男性に惹かれることが多い自らの性癖に戸惑うザックと、それを許せぬ父親のジェルヴェ(ミシェル・コテ)。息子をそのままに愛そうとする母親ロリアンヌ(ダニエル・プルール)。家族はさまざまな風に吹かれながらそれぞれに成長してゆく。

 おもしろいのは、父と息子がぶつかりながらも互いに音楽ファンで、好みは違えどどこか似た者同士であるところだろう。

 シャルル・アズナヴールの〝世界の果てに〟などが父の車で流れ、ザックが成長し色気づくと、ピンク・フロイドの〝シャイン・オン・ユー・・クレイジー・ダイアモンド〟やデイヴィッド・ボウイの〝スペース・オディティ〟、ジョルジオ・モロダーのダンス・ナンバー〝永遠の誓い〟などが流れ、教会のミサではローリング・ストーンズの〝悪魔を憐れむ歌〟が響くなか、ザックの夢想=空中浮遊が描かれる。

 セリフにもならず劇中に雑誌の切り抜きが貼ってあるだけだが、ブルース・リーの雄姿がチラチラし、これはたぶんマルク・ヴァレ自身の十代の思い出だろう。

「ぼくは幸せを掴もうともがいている人間にいつも惹かれるんだ。人生を始めるための旅路はいつも美しいものなんだよ」

 そんなことを語っていたマルク・ヴァレはもうこの世にはいない。でもいくぶんダサく、心に残る映画を残してくれた。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.81】『C.R.A.Z.Y.』「僕には僕の人生がある。父には父の。母には母の。名曲と共に描かれる家族の姿」

 終盤のザックはシド・ビシャスみたいなツンツン・ヘアだ。イギリスからはずいぶん離れたカナダの青春。日本のそれのように愛おしく輝いている。

映画『C.R.A.Z.Y.』

7月29日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他にてロードショー

出演:ミシェル・コテ、マルク=アンドレ・グロンタン、ダニエル・プルール、ピエール=リュック・ブリアン、マクシム・トランブレ、アレックス・グラヴェル、フェリックス・アントワーヌ・デパティ、エミール・ヴァレ

監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ
原題:C.R.A.Z.Y.
配給:ファインフィルムズ
後援:カナダ大使館、ケベック州政府在日事務所
2005年/カナダ、モロッコ/シネマスコープ/129分/映倫:PG12
(C)2005 PRODUCTIONS ZAC INC.

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