フェーズメーションほど、豊富なフォノイコライザー関連のラインナップを用意しているブランドはないのでは? ここで紹介するEA320は、厳選された半導体素子によるディスクリート回路構成が特徴の新製品。同じく半導体増幅で好評を博しているEA350の下位機種にあたる、やや小振りの筐体の注目機だ。いっぽう、T320はEA320にもマッチする単体の昇圧トランスフォーマー。最近の製品では非常に珍しく、トランス回路をバイパスできるスイッチが用意されている。
真空管増幅と半導体増幅の両方を手掛けるフェーズメーションは、無帰還増幅にこだわっている。それはTIM歪み、いわゆるトランジェント歪みから回避できる施策であり、自然な雰囲気の音を獲得するための必須の手法なのだろう。新製品のEA320はCR型のフォノイコライザー回路を採用し、モノーラル盤への再生対応として英デッカと米コロムビアに適合したイコライザーカーブも用意されている。入力をショート状態にした再生でMC型フォノカートリッジの帯磁を緩和する、デガウスのポジションも便利な装備といえる。
テクニクスSL1000Rアナログプレーヤーに、グランツ製MH1000Sトーンアームとフェーズメーション製PP2000カートリッジ(MC型)を組み合わせたフロントエンドに、EA320を組み合わせて音を聴いた。リファレンスに使用のプリアンプとパワーアンプは、ウエスギのU·BROS280RとU·BROS120R。スピーカーはB&Wの800D3である。
ステレオサウンド社がリリースした中森明菜「歌姫」(Vol.3)からの「ダンスはうまく踊れない」は、管球式とは趣が異なり、音の輪郭を意識させるシャープな音質を基調にしており、ヴォーカル音像を優雅に描き上げる。アンセルメ指揮「三角帽子」は音場空間の深みが感じられる積極的な音で、個人的に好感を抱ける臨場感が得られた。同じディスクをテクニクスの標準トーアンアームに装着したオーディオテクニカVM760SLC(MM型)では、しなやかさが感じられる饒舌な音という印象。アルミ製カンチレバーの特徴も反映されたかと思うが、S/N感の良さはMC型も負けてはいない。デイヴ・グルーシンのダイレクト盤は低音域が不用意に膨らむこともなく、躍動的で切れ込みの鋭い音が楽しめた。上級機のEA350に肉迫する音質が得られているのではと思った次第である。
昇圧トランスのT320は、ニューモデルのウエスギU·BROS220Rフォノイコライザーと組み合わせて聴いた。特殊分割巻きという自社製トランスによる昇圧は、音調バランスも整っておりレンジ感も広い。「三角帽子」の鮮明さは特筆できる見事さ。さすがはMC型フォノカートリッジを多くラインナップするブランドらしい手堅さが感じられる。バイパスのスイッチを便利に思うユーザーも少なくないだろう。