『フレンチ・ディスパッチ』は“顔なじみ”から“初参戦”までスターが大渋滞

 世界中に熱狂的なファンを保持するウェス・アンダーソン監督の新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』。20世紀、フランスの架空の街アンニュイ=シュール=ブラゼに編集部を置く雑誌「フレンチ・ディスパッチ」は、急死した編集長の遺言によって廃刊が決定した。映画は、その追悼号となる最終号に掲載する記事を描いたもの。まずは、アンニュイ=シュール=ブラゼという名前の、編集長が愛してやまなかった街のレポートから始まり、<美術><世相><食>に関するコラムが3つ続く。

 大ヒットした『グランド・ブダペスト・ホテル』(14年)を例に出すまでもなく、どのエピソードも精巧なミニチュア世界に紛れ込んだかと思うほど、隅々までアンダーソン監督の知的でオシャレで可愛い趣味が反映されている。しかも、オムニバス風に綴られる物語も愉快で濃厚とくれば、目も耳も脳ミソもフル回転。う~ん、正直、この膨大な情報量を味わい尽くすには、2~3回のリピートでは間に合わないかも。

 第一、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイを始めとする<ウェス・ファミリー>が総出演しているほか、ティモシー・シャラメなど初コラボのスターも加わり、総勢数10人が出演。うっかりすると、見逃しそう(冷汗)。

画像: 今回もファンが歓喜するヴィンテージ感とミニチュア感にあふれた世界が展開される『フレンチ・ディスパッチ』

今回もファンが歓喜するヴィンテージ感とミニチュア感にあふれた世界が展開される『フレンチ・ディスパッチ』

画像: ウェス・アンダーソンのデビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』から出演しているオーウェン・ウィルソン(奥・左)や、『ムーンライズ・キングダム』からウェス組に加わったティルダ・スウィントン(その隣)など、常連組が集合

ウェス・アンダーソンのデビュー作『アンソニーのハッピー・モーテル』から出演しているオーウェン・ウィルソン(奥・左)や、『ムーンライズ・キングダム』からウェス組に加わったティルダ・スウィントン(その隣)など、常連組が集合

画像: さらに若手スターの筆頭、ティモシー・シャラメ(右)らも加わり、若い世代の取り込みもバッチリ

さらに若手スターの筆頭、ティモシー・シャラメ(右)らも加わり、若い世代の取り込みもバッチリ

ついにベニチオ・デル・トロも<ウェス・ワールド>に!

 そんな中で、強烈な印象を放つのが、アンダーソン監督と初コラボのベニチオ・デル・トロだ。演じるのは、服役中の凶悪犯にして天才画家のモーゼス。その作品は天文学的な価格で取引されるという設定だ。彼の絵のモデルとなり、才能を開花させた看守シモーヌにはレア・セドゥ。度肝を抜かれる登場シーンなど、さすが美貌と演技力を誇るフランス女優。あっぱれだ。

 そして、彼女にメロメロのモーゼスことデル・トロはといえば、でっぷりと太った体で酒をあおりながら絵の具まみれ。獰猛な動物みたいな唸り声をあげ、眼差しも凶暴なんだが……どこか可愛げでロマンチックな雰囲気。サディスティックなシモーヌにちょっと優しくされると「キャイ~ん☆」みたいな心の声が聞こえてきそうなくらい。アンダーソン監督、わかってらっしゃる!

 そうなのだ。デル・トロは、トム・クルーズやブラッド・ピットのように眉目秀麗ではないけれど、若かりし頃はアクの強さと鋭さのある個性派イケメン風だった。だけど、28歳で俳優として脚光を浴びた『ユージュアル・サスペクツ』(95年)では、すでに悪そうなチンピラ風味。そこから年令を重ねるにつれて渋さも演技力も磨かれ、ラテン系のフェロモンと相まって、いまやハリウッドを代表する<イケおじ>になったのだ。

画像: 年を重ねてすっかり渋くなったベニチオ・デル・トロ(中央)は、ずんぐりした体形で登場。看守役のレア・セドゥ(右)との掛け合いをお楽しみに!

年を重ねてすっかり渋くなったベニチオ・デル・トロ(中央)は、ずんぐりした体形で登場。看守役のレア・セドゥ(右)との掛け合いをお楽しみに!

画像: 撮影中のデル・トロ(左)とウェス・アンダーソン(右)。奥の制服姿はレア・セドゥ

撮影中のデル・トロ(左)とウェス・アンダーソン(右)。奥の制服姿はレア・セドゥ

デル・トロは女性記者も仕事を忘れて見惚れるフェロモンの持ち主

 初めてデル・トロに会ったのは、『ハンテッド』(03年)のニューヨーク・ジャケットだったのだが……トホホッな告白をすると、その時のことを全く覚えていない。たぶん主人公の退役軍人を演じたトミー・リー・ジョーンズにも会ったはずだけど、それも欠落。年は取りたくない(苦笑)。

 そんなわけで、なぜ“初会見”を知ったかと言えば、前回のニコラス・ツェー同様、過去のインタビュー・テープ&MDの捜索によって、2004年4月に彼が『21グラム』を携えて来日した時にインタビューしたMDを発見したからだ。

 そして、聞き直すと「先日、『ハンテッド』のNYジャケットで会った時は、次回作は決まっていないと言ったのに、じつは『21グラム』を撮っていたのね」と、迫っている。ふ~ん、そうなんだ?? である。ちなみに、“失礼な迫り”への反応は「ご、ごめん。いろんな話が急に来て出演を決める場合もあるし……決まっていても話せないことも多いし……。ほら、契約上の問題で」。そのしどろもどろな感じが、小さな嘘がバレたときの子供のようで、愛らしい。

 当時37歳。スティーブン・ソダーバーグ監督の『トラフィック』(00年)で、アカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞の助演男優賞を獲得。また、長編デビュー作『ロック・ストック&トゥ・スモーキング・バレルズ』(98年)で彗星の如く現れた新鋭ガイ・リッチー監督の待望の2作目『スナッチ』(00年)でブラッド・ピットと共演し、前述の“ラテン系フェロモン”で世界中の女性を悩殺しまくっていた頃だ。『21グラム』での来日記者会見でも多くの女性記者がザワついていたし、宿泊先のホテルのラウンジやその周辺にも、たくさんの女性ファンが“トロ様待ち”をしていたなぁ。

素顔は公私ともに深く悩む“熟考タイプ”

 で、肝心のインタビューはといえば、例によって私の“若気の至り系”。記者会見で同席したアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督によると、デル・トロは「とにかく悩んで、悩みまくって演じるタイプ。演技するまでの質問が多いんだ」ということだった。だから、プライベートでも疑問や悩みの多い性格? と尋ねると「う~ん、自問自答が多いかもしれない。普段の生活でも、ふと気づくと自問自答していことがけっこうあるから」。では、いちばん多い自問自答は? と聞くと、少し間があって「To be or not to be(生きるべきか、死ぬべきか)」。

 つい口に出ちゃったようで、その後に爆笑。そして、「それはとっても大きなクエスチョンで、僕がどうしてそこにこだわるかというと……なんかわかんないなぁ。でも、生きていく上で、いろんなことがわからなすぎて、迷いが多すぎて、自問自答してしまうんだろうなぁ」と付け加えてくれた。

 その後は、ソダーバーグ監督と再度タッグを組んで製作にも名を連ねた、デル・トロの代表作とも言える『チェ 28歳の革命/39歳 別れの手紙』(08年)や、『ウルフマン』(10年)などで来日している。その存在感たっぷりの演技はもちろん、チャーミングな人柄にも、女性ばかりか男性までもが魅了されるばかりだ。

 そして、54歳にしてますます脂の乗り切ったデル・トロが主演するサスペンス映画『Reptile (爬虫類)』は、製作総指揮も務める肝いり作だけに、完成が待ち遠しいではありませんか。

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

公開中

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ベニチオ・デル・トロ/エイドリアン・ブロディ/ティルダ・スウィントン/レア・セドゥ/フランシス・マクドーマンド/ティモシー・シャラメ/リナ・クードリ/ジェフリー・ライト/マチュー・アマルリック/スティーヴン・パーク/ビル・マーレイ/オーウェン・ウィルソン/クリストフ・ヴァルツ/エドワード・ノートン/ジェイソン・シュワルツマン/アンジェリカ・ヒューストン
原題:THE FRENCH DISPATCH
2021年/アメリカ /108分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c) 2021 20th Century Studios. All rights reserved.

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