CES2022では、ディスプレイデバイスの革新があった。サムスンディスプレイとLGディスプレイが、次世代有機ELパネルを発表したのである。ここではサムスンディスプレイの新有機ELパネル「QD-OLED」(サムスンはこの言い方はしていない。QD-Displayと称す)が正式にデビューした話をしよう。LGディスプレイの「OLED.EX」は別記事で。
これまで全世界のテレビメーカーの有機ELテレビには、韓国LGディスプレイ製の白色有機ELが搭載されてきたが、今後は事態が変わりそうだ。サムスンディスプレイが、新有機ELパネルQD-OLEDをデビューさせたからだ。すでに親会社のサムスンエレクトロニクスとソニーが採用に踏み切った。私の取材では、複数のテレビメーカーが、ぜひトライしたいと、言った。
サムスンディスプレイにとって、大型有機ELパネルは2度目の挑戦だ。2012年に色再現に優れるRGB発光で55型のフルHDの製品をリリースしたが、製造に失敗。問題は、微小な穴をたくさん空けた金属板、ファインメタルマスクにあった。
有機ELパネルの製造は、蒸着工程でこの微細孔を通してRGBを塗り分ける(色ごとにずらして、孔をからサブピクセルにRGBを塗り分ける)のだが、大面積になると中央部が重さでたるみ、使用不可になってしまう。55インチが限界だった。これではダメ。かといって、LGディスプレイが展開している白色パネルに乗るわけにもいかない。
その後、サムスンは大型有機ELパネルからは手を引き、LGエレクトロニクスが有機ELテレビを成長させているのを横目に見ながら、有機ELテレビには手を付けず、液晶パネルでカラーフィルターを量子ドットに替えた「QLED」液晶テレビをもっぱら推進してきた。
その構造は、青のLEDバックライトにQDシートを被せたものだ。ネーミングに工夫した。LCDという言葉を使わず、「LEDテレビ」としたのである。LCDではイメージが古く、LEDで新しいイメージを求めた。その最新バージョンは、ミニLEDバックライトを搭載した「Neo QLED」。そうなるとQLEDだ、QD-OLEDだと名前が紛らわしい。確認すると、QLEDは液晶だが、今回のQD-OLEDは有機ELなのだ。
QLEDの「Q」は量子ドット=Quantum dotの「Q」。量子ドット材料とは、入射色を波長変化させて別色で出力する機能を持つ粒子状の小さな半導体の結晶。コアのサイズによって発光色が変わり、サイズが大きいと赤、小さくなると緑、青となる。各社のほとんどのミニLED液晶テレビは同時に量子ドットフィルターを採用している(ソニーが発表したミニLEDバックライト液晶テレビは例外)。この量子ドットフィルターを有機ELバネルに採用したのがQD-OLEDだ。
構造的にはQLED液晶テレビと共通する。液晶テレビでは「青LEDバックライト+QDシート」だが、QD-OLEDは「青有機EL+QDシート」だ。青の有機ELパネルを発光させ、青はそのまま通し、量子ドットフィルターにより青光から緑と赤を生成し、サブピクセル単位ではRGB発光となる。
構造的には液晶とRGB有機ELの合体のようなものだ。色の自発光部分は青だけで、赤と緑はいわばバックライト発光だ。とはいえ、有機ELのバックライトなのだから、画素単位でローカルディミンング(?)するわけで、液晶のようなコントラストの問題はないだろう。
画質では輝度、色域、視野角にメリットがある。詳しくは、近日公開のソニーインタビュー記事を参照願いたい。サムスンディスプレイが明らかにしたところによると、以下の通り。
(1)色域。カラーボリュウムはDCI-P3比で120%、色域はDCI-P3比で99%、BT.2020比で90%
(2)平均輝度は1000 nits、ピーク輝度は1500nit、黒輝度は0.0005nit
(3)視野角。65インチディスプレイを60度の角度で見た場合、正面輝度の80%確保。この角度では液晶は35度しかない
なかなか刮目のスペックだ。サムスンのテレビは日本では販売していないので接することはできないが、ソニーは「A95K」シリーズでQD-OLEDを搭載している。チェックが楽しみだ。今後は日本メーカーでも採用が増えると思われる。
※CES期間にサムスンエレクトロニクスからは「QD-OLED」の発表はなかったが、サムスンディスプレイはアンコアホテルのスウィートで、関係者に披露した(写真はサムスンディスプレイのニュースリリースから)